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歌集「春雪花」

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 夕影に

  想いて嘆く

    君ぞなき

 里そ陰らむ

    声のなき道



 夕焼けにも…秋の寂しさが滲み始めた…。

 町並みの影を長くし、遠い過去にさえ手が届くのではと錯覚してしまう…。

 そんな夕陽に見えた彼の影…いや、見えた気がしただけだ…。
 寂しい…侘しい…そう心は私を責める…。

 夕影に思い出す故郷の…彼の姿のない田舎道…。
 虚しさに記憶は陰る…もう彼の声を聞くことさえない…記憶の中の道…。


 悲しみは…今に追い付けるようだ…。



 逢ふことの

  なかりき現の

   夜半の月

 夢にうつせよ

    恋しかの君



 もう会えないと知りつつ…捨てがたい彼への想い…。

 移ろう月は何事もなく…ただ今と言う時にがんじがらめになった世界を照らしている…。

 そんなささやかな月明かりが…窓から射し込む…。

 私を哀れと思うならば、その光で…ほんの一時でいいから…夢の中に映し出してほしい…。


 恋しい彼の姿を…。



 
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