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純血

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第七章

「増えるには。血脈を残すには」
「兄妹、若しくは姉弟の間で」
「通婚を重ねていったんだ。それが僕の村なんだ」
「それじゃあ血が途絶えてしまうって聞いたけれど」
 生物学的にそんな話を聞いたことがある。だから僕はこのことを言った。
「それは大丈夫だったのかな」
「そのことだね」
 彼もだ。それはわかっている返事だった。
「そう言われているね。近親婚は危険だって」
「俗説かも知れないけれどね」
 欧州の貴族、ハプスブルク家がその例らしい。近い血縁間での婚姻を続け狂気、これが遺伝するとしたらだがこれが伝わり遺伝病も濃くなっていったという。
 それがスペイン王家にとりわけ出てカルロス二世は虚弱で精神的にも異様な人物になったという。大学の講義で教授に言われたことだ。
 それではないかと思った。彼の話から。
「それかな」
「うん。だからね」
「そうならなかった理由は」
「そうした人もいただろうね」
 やはりだ。何かがあったらしい。
「詳しくは知らないけれどそうでなくても」
「顔かな」
「僕達は同じ顔だよね」
 彼の両親も許婚でもあるお姉さんも。そして村の人達も。
「それに出たと思うよ」
「そうなんだ」
「遺伝として残ったんだ。僕の両親もね」
 彼は自分で彼の両親のことも話してきた。
「実は兄妹だったんだ」
「成程ね。君の両親も」
「そして僕も。既に姉さんと」
 あの夜のことを思い出した。彼が最初に入り次に彼の姉さんが部屋に入ったあの夜のことを。
 そのことを思い出しながらハーブティーを飲む。そして彼の話を聞いた。
「子供はまだだけれどね」
「代々そうしてきているのと同じで」
「うん、そうするんだ」
「大学は卒業したから」
「今から村に帰るけれどね」
 そしてだ。村に帰ればだというのだ。
「すぐに正式に結婚するよ」
「そしてもう村からは」
「出ないよ」
 そうするというのだった。
「絶対にね。そうするよ」
「わかったよ。じゃあもうこれで」
「さようなら」
 淡々と。彼は僕に言ってきた。
「僕は僕の世界に戻るよ」
「君の世界。あの世界に」
「そうするよ」
 彼はハーブティーを飲み終えるとそのまま僕の前から消えた。そうして。
 彼の世界に戻った。これが彼との別れだった。
 それから彼の話は聞いていない。同窓会でも会ったことはない。ずっと彼の村で暮らしているそうだ。しかし彼との四年間は今でも覚えている。
 あの村はまだ残っている。そして彼もおそらくそこにいるだろう。だが彼がどうしているのかは詳しくは知らない。おそらく彼の姉さんと共に暮らしているだろう。そして子供が生まれているだろう。そのことを思うのだった。時折。


純血   完


                     2012・6・3 
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