色を無くしたこの世界で
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ハジマリ編
第25話 VSザ・デッド――攻撃
『さぁ、テンマーズに先制点を奪われてしまい後の無くなってしまったザ・デッド! 追いつく事は出来るのでしょうか!? ザ・デッドのキックオフで試合再開です!!』
試合再開を告げる笛の音が響き渡る。
直後、フェイはスライディングでボールを奪うと体制を立て直し前線へと駆けあがって行く。
『フェイ選手、マッドネス選手からボールを奪い一気に駆け込んで行く! このままシュートなるか!?』
一人、また一人とブロックに入ったザ・デッドメンバーを交わし、ゴールを目掛け一人猛進していくフェイ。
その最中、フェイの神経は自身の後ろで棒立ちを続けるスキアに向いていた。
――なぜだ、なぜ動かない
スキア以外のメンバーは全員、自分からボールを奪おうと何らかのアクションを見せている。
それなのに、チームのキャプテンである彼だけは一切動こうとしない。
ただ静かに、周囲の状態を見つめ微笑んでいるだけ。
――何を企んでいるんだ……
答えの出ない考えを一人巡らせながら、それでもフェイはゴールを目指した。
「これ以上は行かせない!」
「フェイ!」
「! アステリ!」
背後から迫ってくるザ・デッドDFに追いつかれる前に、フェイは左サイドから走り込んで来ていたアステリにパスを繰り出す。
先制点を決めた事からか、マークされていたフェイとは対照的に、アステリには誰一人として相手選手がついていなかった。
フェイの繰り出したパスはすんなりと通り、今度はアステリがキーパーと一対一の状況になる。
『あぁーと!! アステリ選手、キーパーと一対一! ザ・デッド、5対5と言う少ない人数の影響で他選手への注意が上手く払えていなかったかぁ!? これはテンマーズ、大チャンスだぁぁ!!』
「時間が無い……これで決めるよ!!」
そう、ゴールキーパーを睨み付けるとボールを宙高く蹴り上げ、自身も天高く飛び上がる。
蹴り上げたボールは銀色の光を吸収しながら強く輝く一つの星へと変化した。
「スターダスト!!」
銀色に輝く星はアステリの蹴りにより破裂すると数百の粒子の光線となってゴールへ向かう。
『銀色の光線と化したシュートがアグリィ選手を襲う!! テンマーズ、勝ち越し点なるかぁ!?』
そうアルが声を張り上げた、刹那。
「なるほど、これがアナタ様のシュートですか。綺麗な物ですねぇ」
フェイとアステリはゴール前に突如として現れたモノに、目を見開き、凍り付いた。
嫌に丁寧で落ち着いた声。
先程まで自分達の後ろにいたと思っていたその男は、ゴール目掛け突き進むシュートの先に音も無く姿を現していた。
「ですが……まだ荒い!」
目を見開き、歯を剥き出しにして、スキアは叫ぶ。
先程の冷静さ等無かったかの様なその歪んだ笑みに、アステリとフェイは言い表し様の無い恐怖に足がすくんだ。
瞬間、スキアはゴール目掛け突き進むアステリのシュートを右足で受け止めると、難なくシュートを止めてしまった。
「なっ……」
目を丸くしたまま、アステリは信じられないとでも言いたげに声を漏らす。
スキアは受け止めたボールを地面に下ろすと、片足で踏み目の前のアステリ達へと視線を戻した。
「おや、何を驚いた表情をしているんですか? まさか、あんなシュートで点を取ろうだなんて考えていた訳じゃ無いですよね?」
「ッ……スキア……!」
スキアの言葉にアステリは歯を食いしばり、眉をひそめる。
「いけませんよ、アステリさん。必殺シュートと言う物は、こうやって撃つモノです」
そう薄く笑みを浮かべた直後、スキアは空高くボールを蹴りあげ、自身も天高くジャンプした。
テンマーズを圧倒する程の跳躍力を前に、アステリとフェイも急いで自陣ゴール前目指し走っていく。
『スキア選手! 凄まじいジャンプ力でテンマーズを圧倒! これはまさか、シュート体勢か!?』
スキアは両足に黒い闘気を纏わせると、ボールに向かい何度も強力な蹴りを食らわす。
「ビーストラッシュ!!」
スキアの力を得、蹴り落とされたボールは黒い猛獣の咆哮にも似た轟音と共にテンマーズゴールに向かって飛んでいく。
「!! 速いっ!」
天空から繰り出された超絶シュートは凄まじいスピードで突き進む。
それは、FWポジションから守備へと走り戻ろうとしたフェイとアステリを無情にも置き去りにし、ゴールキーパーマッチョスの身体ごとゴールネットへと突き刺さった。
『ゴォォォル!! スキア選手の繰り出した超絶シュートがゴールに突き刺さったぁぁ!! 両チーム、これで同点です!!』
「……なんて威力だ……」
「……っ」
今まで全く動こうとしなかったスキアが繰り出した凄まじい威力のシュートに、フェイは呟いた。
スコアボードを見て、苦虫を噛み潰した様に顔を顰めるアステリにスキアが笑いかける。
「いかがでしたか、アステリさん。……アナタもイレギュラーなら……これ位のプレーはして頂かないと…………クロト様の子供として、失格ですよ」
「っ! ボクはあんな奴の子供じゃないっ!!」
「! ……アステリ……?」
『クロトの子供』と言うワードに強く反発するアステリ。
いつもの穏やかな様子とは違う強く大きな彼の言葉に、ポジションに戻ろうと離れた場所にいたフェイが反応した。
「ずいぶんな言われですねぇ…………まぁ、反抗するのは勝手ですが……アナタ様も、少し自分の立場をわきまえるべきですね」
「……どう言う意味だ……」
荒げた声を元に戻しながら、アステリは問いかける。
「アナタには、彼等の仲間として一緒に行動する資格が無い……と言う意味ですよ」
「……資……格……?」
スキアの口から発せられた言葉にアステリの思考は一瞬停止したが、すぐさま動き出し、スキアの言葉の真理を探った。
――突然、何を言い出すんだ……コイツは……
確かに、自分は彼等と知り合って日が浅いし、種族も違えば生きてきた世界すら違う。
齢十三程の幼い彼等に世界の危機をどうにかしてほしいと頼むのも、お門違いな事を薄々気付いてはいた。
世界を護る……そんな大義名分を彼等に背負わせた、そう言う身勝手な部分では確かに自分は彼等の"仲間"としてはふさわしく無いのかもしれない。
「確かに……」
「……!」
「キミが言う様に……ボクは彼等の大切なモノに対する思いを利用している…………かも知れない……」
――だけど……
「けど、どんなに言われようとボクはこの……色のついた世界を護りたい……この世界はボクにとって夢であり大切な宝物なんだ。……だから、ボクはお前達なんかには絶対に負けない…………あの世界にも、帰るつもりはない」
「…………」
そう強く言い放つとアステリは踵を返し、スキアを追いて自らのポジションへ向かい駆けていった。
「……何かあった……?」
ポジションに戻って来たアステリに対し、訝しげな態度で尋ねるフェイ。
そんな彼に「なんでも無いよ」と一言返し笑いかけると、アステリはすぐさま視線を目の前のフィールドへ向けた。
「…………スキア、どうした」
視点は少し変わり、ザ・デッド陣内。
ポジションへ戻ってきたスキアの態度に、ザ・デッドFWのマッドネスが声をかけた。
全体白塗りの仮面そのモノの様な彼の顔を一瞥すると、「いえ」と組んでいた腕を解き囁いた。
「なんでもありませんよ」
そう、感情のこもって無さそうな営業スマイルにマッドネスは呆れた様な溜め息を吐くと、影の世界をぐるりと見渡し、フェイ達に聞こえぬ様、小さく囁いた。
「…………そろそろ、危ねぇみてーだけど……」
「大丈夫ですよ、時間にはちゃんと間に合わせますから……」
「チッ……」
少しイラ立った様なマッドネスの舌打ちにスキアは一瞬ムッと眉を顰めたが、すぐさま冷静さを取り戻しいつもの様な穏やかな口調で言葉を発する。
「楽しい試合をしたいのなら…………私の言った様に……お願いしますよ」
「あぁ…………分かってるよ」
甲高い、試合再開の音が鳴り響いた。
後書き
《ビーストラッシュ》
スキアの必殺技。
両足に黒い闘気を纏わせ、蹴りあげたボールを空中で何度も蹴り込む。
力が加わり黒く変化したボールを蹴り落とし、黒い獣の演出と共にゴールに突き進むシュート技。
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