真田十勇士
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巻ノ百 後藤又兵衛その十
「後藤殿のお相手ではありませぬな」
「それは殿も承知、わしの動きが気になっておられるのだ」
「だからですか」
「こうして隙あらばと告げられてな」
そのうえでというのだ。
「見張りを命じられておられるのじゃ」
「雇った者達に」
「そうじゃ、まあ何処におるかはわかっておるが」
見れば彼等が今いる道に連なっている店と店の間から覗き見をしている浪人がいる、その者を見て言うのだった。
「あの程度ならな」
「特に、ですな」
「放っておいてもよい、むしろな」
こうも言った後藤だった。
「あの者にの糧になるかそれが縁で召し抱えることになればな」
「あの浪人にとってよいこと」
「だからな」
「このまま放っておかれますか」
「うむ、わしに隙はない」
後藤はこのことには絶対の自信があった、言葉にそれが出ていた。
「並大抵の者達では襲い掛かれぬわ」
「ではあの浪人の稼ぎにもなるから」
「別によい、放っておくわ」
後藤は清海に話した。
「気にすることもない」
「ううむ、そうお考えですか」
「わしの首を取ろうと思えばそれこそ天下の豪傑か数多の兵達でなければな」
それこそというのだ。
「取れぬわ」
「ですな、後藤殿ならば」
幸村も後藤に言った。
「一騎当千の者かです」
「多くの兵で鉄砲で撃つなりせねばな」
「討ち取れませぬな」
「この首安くはないわ」
後藤は笑って言った、もうその浪人を見ておらず幸村そして清海と共に連れ立ってそのうえである店に向かっていた。
「値千金、いや万金やもな」
「そう言われますか」
「戦の場でわしを討ち取れば大名じゃ」
そこまでの武勲になるというのだ。
「まあそう言うと大袈裟か」
「いえいえ、大袈裟ではないかと」
「それだけの価値があるか」
「実際に」
「だといいがな」
「しかしですな」
「わしの首は安くはない」
後藤はまたこう言った。
「だから滅多なことではやらぬわ」
「討ち取られるおつもりはないですか」
「決してな」
「では若しもですが」
幸村は大柄な後藤を見上げて彼に申し出た。
「それがしと共に轡を並べる時があれば」
「その時はか」
「はい、共に武士の道を歩み」
「そうしてじゃな」
「最後まで生き抜いてみせませぬか」
「ふむ」
幸村の申し出を受けてだった、後藤はまずは考える顔になった。それから幸村に対して答えたがその言葉はというと。
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