誘拐篇
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5 人生には、知りたくないことだらけ
前書き
(本人の不本意だが、)鬼兵隊に属することになったアンナは、上司となった来島また子のもとへ
行こうとするも、いつの間にか部屋の中にいた高杉に捕まって、部屋から出られなくなっていた。
そんな中、アンナの思い出した記憶とは…
血にまみれた服…
敵か味方か分からない、死体の山…
今、目の前で死にゆく兵士…
血なまぐさい戦場…
かつての「獣」の私。
全ては私がしでかした所業の数々…
忘れがたい、血の記憶…
どこかで聞いたような科白が、よみがえる。
_「人は死ぬとき、それはとてもキレイな光を出すらしい…
それが、『魂』ってやつなのかねぇ…」
もしかすると、そうなのかもしれない。
人が死ぬとき、そこには何か、美しい色をした何かを放つ。
獣は、それを目当てに 人を殺すのだろうか…
不意に誰かが私の名前を呼んだ。
_アンナ・イェラノヴァ…
_死神…
_零…
_白夜叉…
そう、囁くように。
なぜ、死神や零、白夜叉 という名が出てきたのかは、分からない。
もしそれらが全部、私の名前だったとしても、なぜそう呼ばれていたのかも…
今はまだ、分からないままだ。
そしてまたその声は、私に語り掛ける。
_「自分を解放すれば、おのずと道は開ける
自分の、心の声に耳を傾けるのです…
お前は、人を殺して初めて、生きられる。」
誰がそんなことを言うのだろう…
私の中の獣(私)か…?
それにしては、とても穏やかだ…。
そういえば、一昨日まで一緒にいたボスも同じようなことを言っていた。
だが不思議なことに、そのボスは、いつも頭に傘をかぶっていた。
禍々しい、金色の杖のようなものも一緒に。
私も同じような衣装を持っていたが、一度も着ないままだった。
それにしてもあれは、なんだったのだろう…
制服のようなものなのか…
模様はまるで…どこかのメーカーの缶コーヒーに引っ付いていそうな、
鷲が翼を広げたような…
確か、そんな感じだった。
はっ として目覚めると、隣で高杉が眠っている…ように見える。
本当に眠っているのかどうかは、分からないが。
空を見ると、どうやら朝にはなっているらしいが、気持ちのいいものではない。
曇天の空だった。今にも雨が降ってきそうな。
_…さてと。また子のところにでも挨拶に行くか…
一応、上司になる人だから、愛想ぐらい ふりまいておくか…
そう思い立って、布団から起き上がって、窓のそばへ行った。
そして、軽く伸びをした時、
_「ようやくお目覚めかィ…?」
高杉が、体を起こして身なりを整えた。
_痛っ!
心臓を何かで突かれたような痛みが走る。
何だ!? 今、何が…!?
体が痺れて、思うように動かない…
体から力が抜けて、床に崩れ落ちた。
…まるで自分の体が、自分のものではないような感覚に襲われる。
_「おい、しっかりしろ。」
私のもとに駆け寄ってくる。
そして彼は、私の肩を抱いて、揺さぶった。
_「顔色が悪いぜ…」
意識が朦朧としてきた。
_「お前は、人を殺して初めて、生きられる。」
何かが私の耳元で囁く。
_やめてくれ…もう、うんざりだ…
薄れていく意識の中で、高杉の腕から、体温が伝わってくる。
高杉の心配そうな顔が、こちらをのぞき込んでいるのが見えた。
_あいつでも、あんな顔、するんだな…
攘夷志士の中でも最も危険な男だと謳われる…高杉でさえ
_「高…杉……私は大…丈夫だ…から、また子…先輩に伝えて…くれ…
これから…いろいろ宜しくな…って…」
_「…わかった。何があったのかは知らんが、とりあえずお前を救急室に連れていく。」
_もう返事をするほどの気力もない…
私には、頷くことしか、できなかった。
それから、どのくらいの時間がたったのだろう…
ピ、ピ、ピ、ピ…
不気味な音がする…
だがそれは、「私」がちゃんと生きている証拠だった。
目を覚ます。
あたりを見回そうと首をひねると、離れたところに、また子が座っていた。
また子は、私の目が覚めたことに気づいたのか、私のところに駆け寄ってきた。
_「目が覚めたッスか…。よかった。
私が誰か、分かるッスか?」
だいぶ、私の体力も、回復したらしい。
_「…へそ出し…女?」
_「ったく…まだ言ってんスか?
また子って、言ってんじゃないスか」
_「あぁ、そうだった…また子…でしたね。」
_「おいィィィ!『先輩』も、付けろっつってんだろーが!」
_「あ、すいやせん、先輩ィ。
先輩、仕事の方、大丈夫なんですか?
しかも、私のように、ちゃんとした味方かどうかも分からない奴にかまってて。」
_「…まぁ、確かにそうだが、一応これでも、お前の上司だからな。
部下の心配くらいするッスよ。」
あ、そうだ。衣装のお礼も言っておかないと。
_「あと…先輩ィ…
素敵な衣装を、ありがとうございました。」
_「あぁ…あれか。ま、礼なら 晋助様に言うッス。
チョイスは、晋助様なんで。」
…意外と優しい人なんだな、また子って。
_「体調が落ち着いたら、こんどこそ、私の部屋に来るッスよ、アンナ。」
_「…はい。」
…さっきのアレは、なんだったのだろう…
…「獣篇」に続く
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