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実は丸わかり

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第一章

                       実は丸わかり
 誰もがだ。彼を見てくすくすとしている。
「今日も来たよ」
「本当に毎日毎日」
「何でもないふりしてね」
「また見に来てるよ」
 他のクラスの彼、井上徹を見ている。背が高くはっきりとした目に癖のある黒髪の少年だ。何処か日本人とは違う感じのラテン系を思わせる雰囲気である。彼等と同じ高校一年だ。
 彼は違うクラスだが朝からだ。彼等のクラスに来てだ。
 きょろきょろとして何もないといった態度を装ってそのうえでだ。一人の小柄な少女を見ていた。
 垂れた二重の目で白くやや丸めの顔をしている。髪は脱色していて伸ばしている。
 小柄で百五十程の背だ。自分の席に座ってクラスメイト達と話す彼女をじっと見ている。何でもないといった顔で。
 だがその少女、村中理絵の周りにいる少女達はだ。徹のことに最初から気付いていた。
 そして彼女達だけで顔を見合わせてだ。くすりと笑ったうえで。
 そっと彼と理絵の間を空けてみせた。これで理絵は徹から丸見えだった。徹は理絵をまじまじと見る。
 だが何ともないといった顔で、だが視線は理絵から離さずにだ。こう言うのだった。
「あのさ、僕さ」
「僕さって?」
「今日何かあったか?」
「いや、誰か生物の教科書貸してくれるかな」
 目だけで理絵を見ながらの言葉だった。
「実は忘れたんだよね」
「いや、今日御前のクラス生物の授業ないだろ」
「確かそうだよ」
 彼等はわかっていた。このことも。
 それでだ。こう彼に言ったのだった。
「ちょっと勘違いしてないか?」
「それ明日だろ」
「あっ、そうだったかな」
 理絵を横目で見ながらだ。徹は言う。
「明日だったんだ」
「そうだよ。っていうか御前のクラスなのに何で知らないんだよ」
「それは幾ら何でもおかしいだろ」
「そうだよね。いや、うっかりしてたよ」
 理絵を見続けている。彼等の呆れた声に応える間も。
「そうだったんだ」
「ああ。それでだけれどな」
「今からそっちのクラス戻るんだよな」
「そうするよ」
 かなり残念な、それがありありとわかる顔でだ。徹は理絵を見ながらだ。
 そのうえで自分のクラスに帰った。その彼を見送ってからだ。彼等はくすくすと言い合う。
「はい、今日の朝の姿見終わりっと」
「全く。毎朝毎朝絶対に来るわね」
「見ないとはじまらない」
「もうそんな感じね」
「っていうかねえ」
 理絵も見ながらだ。彼等はくすくすとしたまま話していく。
「本人ばれてないつもり?」
「じゃないの?顔見たらそんな感じだよ」
「いつも見に来てるからわかるのに」
「全くねえ。オーラが違うから」
「好きオーラ全開でいつも来るから」
「あれでわからない奴いないって」
「そうよね」
 彼等もこうだった。そしてだ。
 職員室でもだ。二人のクラスの担任の先生達がだ。やれやれといった顔で話していた。
「井上君って絶対にですよね」
「うん、うちのクラスの村中にね」
「べた惚れですよね」
「伊倉先生も気付いてますよね」
「はい、わかります」
 年配の女の先生だ。徹のクラスの担任である。
 その伊倉先生がだ。理絵のクラスの担任の白髪の男の先生である桶谷先生にだ。苦笑いでお茶を飲みながら言うのだった。
「毎日そちらのクラスに言ってるの見ますし」
「うちの学校は不純異性交遊は駄目だけれどね」
「普通の健全な恋愛はいいですからね」
「だから普通にやっていいんだけれどね」
「彼は普通じゃないですよね」
「ある意味で」
 見てるだけというのもだ。普通ではないというのだ。
 それで桶谷先生は自分の席、先生のそれらしく教科書やファイルや教育指導綱領等が置かれているその机の上でだ。こう言うのだった。 
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