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魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~

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Epica3-Aマリアージュ事件~Encounter~

†††Side????†††

今日と明日とで非番な私と幼馴染のアンジェリエは、ミッドの中央区画・首都クラナガンまで足を運んで、久しぶりの休暇を満喫していた。ウィンドウショッピングを堪能して、ちょうど昼時になったことでカフェテラスに入店した。夏真っ盛りだけど今日はさほど暑くはなく、風も気持ち良くてテラス席でおすすめだというサンドイッチセットを注文。

「次はどこへ行こうか、アンジェ」

「そうですね~。今度は購入すると決めてキープしていた物を購入するために、改めてそのお店を回りましょう」

「時間的に始めても問題ないか」

ということで、ウィンドウショッピング巡りしていた際に気に入った服や小物を、今度は見て楽しむのじゃなくて購入するためにもう一度店を回ることに。サンドイッチを美味しく頂きながら、お互いに気に入った服などの話をしていると・・・

「トリシュ、どうしましょう」

アンジェが、私の背後を見ながらそう訊ねてきた。よほど混乱しているみたいで、サンドイッチを口に咥えたままという、少々お行儀の悪いことをしてしまってる。学生の頃からマナーには人一倍気を使っていたアンジェがそうなる事態。一体どれほどの衝撃が私の背後にあるのか、ドキドキしながら振り向いてみる。

「?・・・っ!!」

最初は行き交いしている家族やカップルなどで判らなかったけれど、その中で見知った髪型の女性を視界に捉えることが出来て、ビクッと肩を跳ねさせさせてしまう。外に向かって少し跳ねている緋色の長い髪。服装はいつも見慣れている修道服ではなくて、ブラウスにスキニーパンツという私服姿。私たちが所属する教会騎士団の少数精鋭の最強騎士隊、銀薔薇騎士隊ズィルバーン・ローゼの隊長で、剣騎士の頂点に立つシュベーアトパラディン・・・。

「「シスター・プラダマンテ・・・!」」

そのお人が、若い男性と2人で歩いていた。とても綺麗なブロンドのアシンメトリーヘア、チラリと見えた金色の瞳。その男性の身体的特徴を見て、ふと何年か前に、シスターに恋人がいる説という恋話を聞かされたのを思い出した。

・―・―・回想なのです・―・―・

自分たちで手作りした料理を持ち寄って、教会本部の庭園で私、イリス、クラリス、アンジェの4人で、各隊の隊長就任のお祝いパーティをささやかながら開いていた。イリスとアンジェは普通に美味しいんだけど、私とクラリスは子供でも作れる簡単なサンドイッチやハンバーガーを持参。

――トリシュお嬢さま。ルシリオン様を射止めるには、まずは胃袋を掴みましょう。殿方はやはり、女性の手料理を食べたいものなのです――

ウチのメイド、ディナスがそう言っていたけど、ルシル様と結婚したとしても共働きで忙しいだろうし、何よりディナスという料理人も居てくれるし。ルシル様も美味しくない私の料理よりは、ディナスの料理の方が好きだって言うだろうし。

(イリスも仲間だと思っていたのに・・・)

重箱なる何段重ねのお弁当箱に、いろんな種類の料理が収められていた。クラリスも種類豊富な手作りクッキーを持って来てくれた。イリスの家にもプロにも負けないメイドが何人も居るし、彼女がここまでの料理を作れるなんて・・・。さらに言えば、クラリスすらにも料理の腕で負けていることに、少なからずショックを隠せないでいる。

「やっぱり私も、何かしらの料理を覚えた方がいいのかな・・・?」

エビマヨというイリスの料理を一口いただいて、真っ先に抱いた思いがそれだった。ただエビをマヨネーズで和えただけなのに、こんなにも美味しい。

「そりゃそうでしょうよ。いつか結婚して、子供を産んで、夫と子供に美味しい料理を食べさせてあげる。ルシルの料理の腕も超絶だし、一緒にキッチンになって共同調理とかも~❤」

イリスが両手を赤く染まった頬に添えて、ウネウネと体をくねらせた。私もイメージとして、エプロン姿の私とルシル様がキッチンに立ち、ルシル様との間に出来た幼い男の子と女の子の兄妹がニコニコしながらご飯を待ってる姿を思い浮かべる。

「・・・いい。うん、いい!」

もっと早くに思い至りそうな未来予想図。でもこれでやる気は出た。帰ったら早速ディナスに教えてもらおう。

「イリスは想い人の為に料理の腕を上げたのは判ったけど、クラリスはどうしてこんなにお菓子作りが上手なの? も、もしかしてクラリスも・・・好きな男性が居たり・・・するの?」

グミがトッピングされたクッキーを1つ手にとって、はむっ、と一口齧る。お店に出しても十分通用する美味しさ。これは趣味だけで到達できるレベルではない。ならイリスのように、そしてこれからの私のように、誰かの為にって・・・。

「好きな人はいる」

「「「いるの!?」」」

私やイリス、これまで黙って食してたアンジェまでもが椅子から立ち上がって訊き返した。いや本当に驚いた。クラリスって特に異性関係の話も噂も聞かないし・・・。

「驚きました。クラリスにも好きな殿方がいるのですね。差し支えなければ、どなたか教えて下さいません?」

アンジェが目をキラキラさせながらクラリスに訊ねる。何気に恋話が好きなアンジェだけど、特に仲の良い私たちの想い人がルシル様だと知っているから、そんなに食いついてはこないの。

「私はここに居るみんなが好き。イリス、トリシュ、アンジェ。今は居ないけどルミナも。昔から一緒に居た、このみんなが好き」

「「「クラリス・・・!」」」

まさかクラリスに感動させられるなんて思いもしなかった(何気に失礼だけれど)から、私たちはクラリスを抱きしめた。それからクラリスの抱き心地を堪能した後、お菓子作りは自分が食べるためだと聞かされて、やっぱり、と苦笑して元の席に座る。

「逆に訊くけど、アンジェはいないの? 好きな人・・・?」

今度はクラリスがアンジェにそう訊ねた。アンジェの恋の噂もそう言えば聞いたことが無い。私たちの視線を一手に引き受けたアンジェは「残念ながら。生まれてこの方、初恋すらまだです」って嘆息した。

「まぁアンジェってわたし達の中で、特に高嶺の花っぽいもんね~」

「確かに。一応、私たちみんな、ザンクト・オルフェンを統べるフライハイト家と六家のお嬢様なのに、一番のお嬢様っぽいのはアンジェだから」

イリスとクラリスの話し方からすると「私も2人と同じガサツだと?」と言われているような気がしたからジトっと2人を見ると、「アンジェよりはまぁ・・・」と目を逸らしながらもそう答えた。確かにアンジェに比べれば立ち居振る舞い、女性らしさは負けてはいると思うけど・・・。

「イリスとクラリスと同格というのは、かなりショックかもしれない・・・」

「トリシュ、それどういう意味?」

「仕方ないよ、イリス。実際にガサツだから、私たち」

ガックリ肩を落とすイリスとクラリスに「ごめんなさい」と思わず謝ってしまった。まぁこんな暗い雰囲気だったけど、すぐに明るく楽しく談笑を始める。それが幼馴染というものでしょう。

「――あ、さっきの恋話で思い出したんだけど。シスター・プラダマンテに恋人がいるみたいだよ」

「「「え゛ッ!!?」」」

イリスの突拍子もない話に私たちは目を丸くした。シスター・プラダマンテ。とても壮麗で強くて格好いい女性であるにも拘らず男性の影は一切見えず。何故シスターが結婚出来ないのか、教会騎士団の七不思議の1つとして数えられているけど・・・。

「まっさか~」

「ありえない」

「夢を見たのでは?」

クラリス、私、アンジェとそう返すと、イリスが「割と酷い事を言ってるってこと、自覚した方がいいよ、あなた達・・・」と言って嘆息した。

・―・―・終わりです・―・―・

あの時に聞いていた特徴と一致する男性とシスターは、肩が引っ付きそうな程に寄り添って歩いていた。あの話を聞いた日からシスターに確認する勇気も無かった私たちは、今日という日に実際に目で見るまで忘れていた。

「恋人・・・なのでしょうか?」

「仲慎ましいという様子でもなかったような気がする・・・」

恋人というよりは仕事仲間と言った方がしっくりくる。以前ルシル様に教えていただいた話を想いfsづ。心理学におけるパーソナルスペースというものでは、距離が0cmから45cm以内の男女は、恋人であることが多いとのこと。シスターと件の男性の距離は、目測だったけど10cm以内。前者の距離。でも恋人とは思えない雰囲気だった。

「挨拶に行った方がよろしいでしょうか?」

「あ、それはやめておいた方が。恋人にしろ仕事仲間にしろ、お邪魔するのは邪推だと思う」

もし本当に恋人同士でデート中だとすれば、それを妨害されることがどれだけ恨めしい事か。というわけで何も見なかったとして、シスターのデート?のお邪魔はしないことに。

「「ごちそうさまでした」」

昼食を終え、食事中に立てた予定通りに狙っていた商品を購入するべく、これまで回って来ていた店頭巡りを開始。夏の連休中に海に遊びに行こうと計画しているため、新しい水着やサンダル、小物などを購入しに行く。
キープしていた水着などはまだ残っていて安心した。アンジェはその綺麗なスタイルを隠すようなワンピースタイプで、フリルスカートが可愛い。ちなみに私のは、フレアトップのバンドゥビキニ。胸のサイズが残念な私には、フリルがどうしても欲しいのです・・・(泣)

「お目当ての水着も無事に買えたし。次は・・・――」

お店を出たところで、ドォーン!と爆発音と衝撃、遅れて上がる「きゃあああ!」という悲鳴が、ここ店頭が立ち並ぶストリート街に轟いた。私とアンジェは黒煙を上がるのを視認して、爆発現場である背の高いビルへと駆ける。

「アンジェ!」

「ええ! まずはこのエリア一帯を担当する現地の陸士隊と合流しましょう!」

「ヤヴォール。教会騎士がザンクト・オルフェン以外で勝手するのは、さすがにまずいでから」

管理局と騎士団は、お互いのテリトリー内にて無断で捜査・追跡・戦闘する行為は禁止である、と協定を結んでいる。とは言え、現地の陸士隊や事件・事故の捜査官と協力体制を敷くことを承認し合えば、お互いのテリトリーでの行動も可能になる。退避する人々に合い間を逆流するように走る中、「魔力反応・・・!」があることが判り、さらに「爆発音、連続!」となれば・・・

「「戦闘中・・・!」」

ということになる。両脚に魔力を付加して、目的のビルへと到着したと同時に黒煙が上がる階層目掛けて跳ぶ。そして割れた大窓よりビル内に突入する。オフィスビルだったようで、屋内はデスクがやたらと多いけれど爆発の影響か、今は部屋の片隅に全て追いやられている。

「あの娘は・・・確か」

部屋の中で交戦中なのは2人の少女。1人はバイザーを付けた娘で、もう1人はプライソン戦役で顔を合わせたことのある娘。以前見た時はツインテールで幼っぽさがあったけど、今はストレートにしているからかなり大人っぽくなっている。彼女の名前は確か「ティアナ・ランスター二等陸士・・・?」だったはず。あぁ、違う。今は執務官だと、イリスやルシル様から聞いていたのを思い出す。

「ランスター執務官!」

「え?・・・あっ、騎士トリシュタン、騎士アンジェリエ・・・!?」

「新手か」

バイザーの娘がランスター執務官から後退することで距離を空ける。このまま逃がすわけにはいかない。事後承諾になるけれど、待機形態である十字架型のイヤリング・“イゾルデ・ツヴァイト”を、双剣形態の「フェヒターフォルム!」で起動させつつ、ショートワンピース、ショートジャケット、オーバースカート、スパッツという騎士甲冑姿へと変身。

「ジークファーネ・ヘルト!」

アンジェのバレッタに付いている宝石――“ジークファーネ・ヘルト”の待機形態が発光。腰の方には大きなリボンがあしらわれた、裾が前後共に燕尾なノースリーブのロングジャケット、スキニーパンツ、エンジニアブーツという騎士甲冑姿に変身。左手に携えるのは2mのポール。片側の先方30cmだけが一回り太く、その先端には槍の穂が付いていて一見して槍に見える。

「ランスター執務官! 確保に協力します!」

「え、あ、よろしくお願いします! そいつ、自爆をするので注意してください!」

口頭だけれどしっかりと協力し合うことを確認した。基本的に執務官が事件捜査の責任者になるから、ランスター執務官と協力を結べば問題は無いはず。しかしそれにしても「自爆・・・!」をするとなると・・・。

「人ではない、か」

「おそらく!」

「アンジェ!」

「ええ!」

見た目は人でも自爆するような奴となると、かのプライソン戦役の投入されたLASを思い起こさせる。けれど今目の前に居るバイザー娘が、新手か、と言葉を発したのは耳にしている。知性ある人型兵器であり、自爆もする。教会図書館で、似たような記述を読んだことがあるような・・・。

(考えるのはとりあえず後。今は・・・!)

一足飛びでバイザー娘へ突撃する中・・・

「グリッツェンフェッセルン!」

“ジークファーネ”の一回り太い部分より朱色に輝く光の帯が6枚と展開され、私を追い抜いてそのままバイザー娘を拘束しようとしたけど、彼女は近くに転がっていた机や椅子を拾い上げ、迫り来る帯に投げつけた。結果、「あ・・・!」帯がバイザー娘ではなく机と椅子に絡みついた。

――封縛一閃――

「せいっ!!」

残念だけどそれに構わず私はバイザー娘に最接近して、環状魔法陣が展開されている双剣・“イゾルデ”を振るう。机などを投げていた体勢のままだったバイザー娘が回避に動くけれど、それより早く切っ先を掠る程度に当てる。

「っ・・・ぐぅ!?」

すると環状魔法陣が剣身からバイザー娘へと移動し、急速に狭まって彼女を直立姿勢で拘束した。両腕がピッタリ体の側面に引っ付いていることで、体のバランスが取りづらいのかその場に跪いた。

「ランスター執務官。確保完了です」

「あ、ありがとうございますっ、騎士トリシュタン、騎士アンジェリエ!」

万が一に拘束を解除されてしまった場合を考え、私とアンジェでバイザー娘を左右から挟み込んで警戒態勢。ランスター執務官が歩み寄って来る中・・・

――トランスファーゲート――

「・・・っ!? お2人と――」

ランスター執務官が目を見開き、そこまで言いかけた時にはすでに私たちは振り向きざまに背後に向かって私は右の“イゾルデ”による斬撃を、アンジェは刺突攻撃を繰り出す。視界の端に捉えたのは、“スキュラ”暗殺犯と思しき仮面を付けた女性。目出し帽に狐の仮面、黒のセーラー服。武装は腰のベルトに掛けた短いステッキ型のデバイス。ミッド式の魔導師か。

「え・・・!?」

「なに・・・!?」

狐面の女性は右手の五指で“イゾルデ”を白刃取りをし、左手の五指で“ジークファーネ”の穂を白刃取りした。驚くのはそれだけでなく、「指力が・・・!」すごい所為で押すことも引くことも出来ない。背格好からして20代と思われるけど、おそろしく力が強い。

「本局執務官、ティアナ・ランスターです! 手を挙げて武装を解除しなさい!」

ランスター執務官が拳銃型デバイスの銃口を狐面に向けた。すると狐面は私たちのデバイスから手を離し、私たちは一歩後退しながらもデバイスの先を向けたままでいる。

「仮面を外し、名前と出身世界、あなた達の目的を述べなさい」

「・・・ズィプツェーンテ」

――フリーレンドルヒ・ツヴァイ――

「「「っ!」」」

狐面の周囲に展開される氷で出来た短剣型の魔力弾、その数約50本。それらが展開された直後に一斉射出されて来た。私は連撃で斬り刻み、アンジェは“ジークファーネ”をバトンのように高速回転させて弾き返し、ランスター執務官は半球状のバリアを張って防御。それぞれの迎撃によって短剣の直撃は防げたけれど、短剣すべてが炸裂して視界を封じる白煙と化した。

――トランスファーゲート――

「しまった・・・! これでは何も・・・!」

「トリシュ!」

「ええ、判っている!」

両手に持つ双剣の柄頭を連結して、大弓形態シュッツェフォルムへと変形。切っ先同士を繋ぐ魔力弦に魔力の矢を番え・・・

――穿ち爆ぜる風巻きの咬釘――

「往け!」

狐面の居た場所の床に向かって矢を射る。射出時の衝撃波で私の周囲の白煙が吹き飛び、着弾と同時に爆風となったことでこのフロア全ての白煙が消し飛んだ。視界はハッキリとしたけど、それと同時に「逃がした・・・!」とランスター執務官が悔しげに漏らしたように、狐面の女性とバイザーの少女の姿が消え失せていた。

†††Sideトリシュタン⇒ティアナ†††

私が執務官となってから何度目かの任務となった今回の連続殺人事件。最初の事件は今から3ヵ月前。第60管理世界フォルスの遺跡地帯で発生した殺人事件。事件は1件だけじゃなく、6件にまで上った。さらに第3管理世界ヴァイゼンに舞台を移し、4件の殺人を犯している。

(そして今日、ここ第1世界ミッドチルダにまで殺人事件が起きる事に・・・)

被害者の共通点は、遺跡研究や古代歴史の学者ということ。死因もまた共通で、鋭利な刃物による喉を貫通する刺傷、もしくは爆破による爆死。最初に拉致されて、何らかの脅迫を受けた後、被害者たちは死亡している。偶然目撃者になったスバルの話によると、ある被害者は殺害されたんじゃなく、自ら喉に刃物を突き立てて自殺したのこと。

(でも被害者たちは、いやだ、死にたくない、殺さないでくれ、と懇願しながら喉に刃物を突き立てたらしいし。精神・肉体操作されている可能性もアリと考えられている。だからこその殺人事件判定だ)

脅迫の内容などは判ってはいない。唯一判明しているのは、加害者の身なりと名前。ついさっきまで相対していたバイザーを装着した少女で、マリアージュという名前。

(私見だけど、マリアージュは人ではなく量産型の兵器。しかも斃されること、死ぬ事を前提に造られてる・・・。体を燃焼液化させての自爆。被害者たちの死因の1つである爆死は、おそらくマリアージュの自爆に巻き込まれたものと見ていい)

ここでやるべき事はもう何も無いから、失敗に終わったけどマリアージュ確保に協力してもらった騎士トリシュタンや騎士アンジェリエと一緒にオフィスビルから出たところで・・・

「ティアナ!」

「ギンガさん!」

「・・・あ、騎士トリシュタン、騎士アンジェリエ!」

ミッドで共同捜査をしてもらえることになってるギンガさんに声を掛けられて側に駆け寄る中、ギンガさんが私の後ろに居たお2人に気付いて敬礼をした。お2人は局員じゃないけど、教会騎士としての捜査能力や戦闘能力は、プライソン戦役の活躍からこれまで起きた事件もあって局内でもかなり有名だ。

「あの、お2人はここで・・・?」

「ギンガさん。このビルに現れたマリアージュ2体の内、1体の自爆を見て駆けつけてくれたんです」

ビルのオフィスで起こったことをギンガさんに伝える。遺跡研究・古代歴史の学者の繋がりを調べて、被害者の1人と交友関係にあった人物を探り当てた。その人物は正に今まで居たビルの中に居るとのことで訪ねて来たわけだけど、その人物の代わりにマリアージュが2体と居た。

「最初に遭遇した1体はバインドで確保したんですけど、燃焼液化して自爆をしました」

「自爆!? えっ、それってもしかしてマリアージュって人間じゃない・・・!?」

「おそらくは」

そして2体目の出現と交戦時に、騎士トリシュタンと騎士アンジェリエのお2人が来てくれたというわけだ。ギンガさんに先ほど考えていた私見を伝えると、「なるほど。たぶん、それで合ってると思う」って納得してくれた。そんなギンガさんから騎士トリシュタンと騎士アンジェリエの方へと視線を移すと、「マリアージュ・・・」という名前に反応してた。

「あの、何かご存知だったりしますか?」

「ティアナ。アレ、殺人現場に記されてた詩篇について、何か訊いてみたら・・・」

ギンガさんにそう提案された私は、お2人が古代ベルカ時代より存在している名家のお嬢様だったってことを思い出した。シャルさんもそうだけど、これってかなりすごいコネクションじゃない?って身震いする。小首を傾げるお2人に、いま捜査している事件をあらましを伝えた。

「世界では今そのような事が・・・」

「それで、その詩篇というのは・・・?」

「あ、はい。読み上げますね。・・・詩編の6。かくして王の帰還は成されることなく、大いなる王とそのしもべ達は闇の狭間で眠りについた。逃げ延びたしもべは、王とその軍勢を捜し彷徨い歩く。・・・です」

ある被害者が死の間際に自らの血で綴ったダイイングメッセージだ。騎士アンジェリエが「その詩篇、教会の大図書館で読んだ記憶があります」と、騎士トリシュタンも「あぁ、うん。私もある。オーディン様とエリーゼ様の手記の中に・・・」と、とても有用な情報を教えてくれた。

「あの、他にもイクスという、地名か人名、物名に心当たりは・・・?」

ギンガさんが訊ねた、イクス、という単語にお2人が「あっ!」と何かを思い出したように声を出した。

「冥王イクスヴェリアですね!」

「マリアージュも、イクスヴェリア陛下の固有戦力の名前です!」

騎士トリシュタン達と会わなければ、無限書庫に調査を依頼しようとしてた。でもその必要はなくなったみたい。私は「出来れば詳しくお願いします!」と頭を下げた。

「頭を上げてください。冥府の炎王イクスヴェリア、ベルカに関連する事柄であれば私たちにも関係があります」

「この事を、教会本部に連絡しても良いですか?」

騎士アンジェにそう訊かれた私は「どうぞ」と答える。古代ベルカの王が関係してるなら、どの道聖王教会にもこの話が行くはず。遅いか早いかの違いだ。騎士アンジェリエが席を外して教会本部に連絡をつけている間、騎士トリシュタンからイクスヴェリアやマリアージュについて話を聴く。

「冥王イクスヴェリア陛下は、マリアージュという死体を利用した固有戦力を有するお方らしいですね。陛下はマリアージュの核となる物を生成する能力を持ち、戦場で散った騎士たちの死体に核を埋め込んで操るそうです。それゆえに冥王」

「LASと似たような戦力ですね・・・」

「ですが戦闘能力はかなり高く、人語を介すとなればLAS以上の高性能ですよ。腕を刃物などに変化させ、燃焼液化して自爆もしますし」

LASも自爆もするし武装を装備していたから、当時の私にとっては十分脅威な戦力だった。でもマリアージュの方が本能的にヤバいって気がするのよね。

「マリアージュが稼働しているということは、イクスヴェリア陛下も目を覚ましているようです」

「あの、騎士トリシュタン。今さらなんですけど、古代ベルカ時代の王が現代にまで生き残っているとは考えられないんですが・・・」

「確かにそうですね・・・」

「詳細は私にも判らないですけど、目覚めと眠りを周期的に繰り返すようなんですね。そういう体質なのかも知りませんが、現代で目覚めたのなら聖王教会はお出迎えをしなくては。オーディン様とは戦友らしいので、セインテスト家とシュテルンベルク家の名を出せば、きっとお話を聞いて頂けるはず」

グッと握り拳を作る騎士トリシュタン。そこに騎士アンジェリエが「お待たせしました」と戻って来た。

「トラバント団長へは通信が繋がらなかったため、フライハイト教皇聖下へお伝えしたところ、イクスヴェリア陛下を教会本部へお連れするようにと、私とトリシュに勅命が下りました」

「そう。・・・ランスター執務官。本件へ本格的に協力したいのですがよろしいですか? それとイクスヴェリア陛下の身柄は教会預かりにして頂きたいです」

騎士トリシュタンと騎士アンジェリエの綺麗な瞳が私を見た。そして私はギンガさんを見る。すると「本件の担当はティアナだから、あなたが決めて」と頷いてくれた。

「判りました。お2人にも協力して頂きます。が、お2人にはマリアージュの迎撃を担当してもらうことになると思いますが・・・」

「「お任せを!」」

騎士トリシュタンと騎士アンジェリエは共にS+ランク(3年前にそう聞いてるから、今はもっと上かも)で、実力的には申し分なさ過ぎる。それにイクスヴェリア陛下とお会いした時、騎士トリシュタンが側に居てくれた方が、話もし易いと思う。
お2人にさらにイクスヴェリア陛下の外見、マリアージュの1体が漏らしたトレディアなどの話を聞こうとした時、私に通信が入ったことを知らせるコール音が鳴った。

「ちょっとすいません。・・・はい、こちらティアナ・ランスター」

『やあ、ティアナ。久しぶりだな』

ギンガさん達に一言断ってから通信を繋げてモニターを展開すると、「え? ルシルさん!?」が映った。ドキッと心臓が跳ねた。もちろん異性だからじゃない。ルシルさんは局内の不正などを暴く調査部の調査官だ。そんな人から個人回線で通信となると、まぁ恐怖なわけで・・・。

「お久しぶりです、ルシルさん。何かありました・・・?」

『ああ。今、本局に居るんだけど、少し時間を貰えないだろうか。出来れば2人きりで話がしたい』

いよいよ以って心臓が早鐘を打つ。ルシルさん、マジな表情なんだもん。執務官として何かまずい事でもやっちゃったのかと、必死に思考を巡らせる。

「ちょっと待ってください! ルシル様、浮気ですか!? 浮気なのですか!? 私、イリス、はやてと3人から愛の告白を受けておきながら! 男の甲斐性で済ますレベルではありません! 若さですか!? やはり若さですか!? 20代はもはやおばさんですか!?」

騎士トリシュタンが血相を変えて私とモニターの間に割り込んできた。ルシルさんが『トリシュ!? いやそうじゃない。というか、すぐにそっち方面に勘繰るのはやめてくれ』って嘆息しながら否定した。うーん、大変だな~、ルシルさんは相変わらず。

「あのルシルさん。申し訳ないですが、今ある事件を捜査中なのでしばらくミッドから離れられません」

『そうか・・・。通信やメールなどで済ませるような内容じゃないからな~・・・。判った。事件解決の折、また俺に連絡をしてくれないか?』

「判りました」

『トリシュ。またちゃんと話そう』

「はい❤」

ルシルさんとの通信が切れ、私は改めてお2人にいろいろと訊ねることにした。
 
 

 
後書き
少しばかりオリジナルを交えて描くマリアージュ事件。本エピソードはベルカ騎士が主役ですので、トリシュやアンジェを押し出したいがためです。とは言え、マリアージュ事件に無駄に話数を消費するわけにもいかず、詳細には描かずに大まかに流す予定です。 
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