衛宮士郎の新たなる道
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第5話 獅子ごっこ
前書き
鬼ごっこの鬼を獅子に変えただけです。
臨時の全校集会を終えた生徒達は勿論各教室に戻って行った。
そして此処は1-S、九鬼紋白及びヒューム・ヘルシングの九鬼財閥の2人と、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ及びリザ・ブリンカーの西欧財閥の2人の計4人は、教壇の前でそれぞれ分かれた上で改めて自己紹介していた。
「フハハハハハハハッ!改めて宜しくな、皆の衆!」
「改めまして、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイと言います。肩書きの事は如何か気にせず、今日より宜しくお願いします」
両者とも笑顔ではあるが態度は真逆。横柄と謙虚。
しかし2人がどんな対応を取ろうが、彼女――――1-S委員長の武蔵小杉の対応が変わる事は無かった。
「ちょっと待った―――ッ!プッレミアムターイムッ!!」
「おや、質問ですか?」
「え?いや、えっ・・・・・・と・・・」
男に使うのは適していないかもしれないが、レオのあまりの美少年ぶりの美貌に気圧されて、強気で発言したのも拘わらず、一歩後退する武蔵小杉。
だが勿論その程度で屈する程、彼女の矜持は低くない。
「わ、私は武蔵小杉!プッレーミアムな委員長よ!」
「よろしくな。ムサコッスと言う愛称をつけてやろう」
「そんな渾名、断固拒否するわ!それよりも、幾ら九鬼財閥や西欧財閥の人間であろうとも、このクラスでやっていく以上、リーダーである私に従って欲しいの」
「断る。我ら九鬼は自分たち以外に従う気は無い」
「僕も謹んで断らせ頂きます」
「そう、なら決闘しかないわね!」
最初から予想出来ていた展開な為、大して驚かずに淡々と宣戦布告する。
勿論それに臆する2人では無く、それを当然の様に受け入れる。
そしてすぐ様ほぼ全員と決闘し始める2人。
と言っても決闘の意を示す半分が紋白と、もう半分がレオと決闘している。
此処で少し話が逸れるが、今の状況を予測していた鉄心は事前に1-Sの一時間目を自習にして、決闘の時間を取っていたので、時間割に無理させる事は無かった。
そして話は戻すが、鉄心の予想通り2人とも壱時間目を丸々使いつつも、次々に挑戦者達を任せて行く。
その光景に紋白側の最後の相手の武蔵小杉は戦慄していた。
「そ、そんな・・・。選抜された私達が次々に倒されて行くなんて・・・・・・」
「いや、そんな事はない。中々手ごわく、いい汗をかいたわ。それで確かムサコッスは戦闘だったな」
「え、ええ、そうだけど。まさか幾ら体格差があるからと言って、臆したなんて言わないわよね?」
「いや、構わん。だが戦闘だけはちと特殊で・・・」
しかし武蔵小杉は紋白の説明を最後まで聞かずに先制攻撃を仕掛ける。
「くっらえ!プレミアムドロッ」
「撃退」
「プギュッ!?」
紋白と武蔵小杉の間に瞬時に割って入ったヒュームのアッパーで打ち上げられ、彼女は顔だけが天井に突き刺さった状態として晒される羽目となった。
何でも、紋白は姉の揚羽とは違い完全な武闘派では無いので、戦闘に関してだけはヒュームが自動的に専守防衛で介入するとの事だ。
その説明が終えると同時に、自分側の挑戦者を全て下したレオと護衛のリザが戻って来た。
「おや?もう終えたんですか紋白さん」
「う・・・・・・はい。そちらも終えた様で、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ殿」
「先の自己紹介通り、レオと呼び捨てにして下さって構いませんよ?」
「そ、そうか?なら遠慮なく呼びたいが、レ、レオは敬語では無いか!」
「僕の場合はこっちの方が楽なんです。それでもと言うなら溜口を使うよう努めさせていただきますが?」
「いや、構わぬ。お互い楽な喋り方がよかろう」
「ええ。で、如何します?紋白さんがクラスの掌握をしたいのなら、僕とも当然決闘しなければならない訳ですが」
「む」
レオの言葉に紋白は考えさせられる。
どの様な勝負でも臆する気は無いが、戦闘以外では恐らく負ける。
だからと言って、幾ら今はクラスメイトだからとは言え戦闘でヒュームを投入して西欧財閥次期当主を怪我させるなど以ての外だ。
しかし矢張りここで引く訳にはいかない。今此処で引けば、今後の求心力の如何に関わるだろう。
とは言えどうしたモノかと考えていると、レオの方から提案してくる。
「何でしたら決闘方法に僕から提案があるんですが・・・・・・チャイムが鳴ってしまいましたね。この続きは昼休みにしましょう」
「む、むぅ、そうだな」
キリのいい所でと言う事で、話を一旦置くことに同意した紋白。
しかし紋白は判断を誤った。ヒュームすらも。
何故ならば綱渡りとは言え、レオの企みは着々と進行し続けているのだから。
-Interlude-
時間を少し遡るり、此処はHR中の2-S。
此処でも当然転校生の紹介が行われていた。
しかし2-Sは2-Fに負けず劣らぬほどの癖の強い生徒が集うクラス故、合理性に欠けて非常に進行度が遅い。
その生徒間とは違う所で、ジャンヌは与一の背後で自身の不甲斐なさに戦慄していた。
(如何して気づけなかった!?)
何がと問われれば、自分以外のサーヴァントの存在を探知するスキルについてだ。
ルーラーとしての能力が弱体化しているとはいえ、この様な現状を仕方ないと諦めて良いモノでは無いとジャンヌは憤慨する。
(まさかこの距離になるまでサーヴァントに気付けないなんて!)
ジャンヌの視線の先に居るのはシーマだった。
ジャンヌに警戒心丸出しで見られているシーマは困惑中だ。
(如何して余はこの義経なる者に睨まれているのだ?)
ジャンヌは正しく与一の背後に居るのだが、シーマ視線では義経がジャンヌの前に居る角度になっているのだ。
しかも義経は剣士としての直感でシーマを見て、
(凄い・・・・・・!!この人、出来る!)
と言う熱い眼差しを偶然にも送っているので、勘違いが起きている。
この勘違いのそもそもの原因のジャンヌは、この深刻な状況をマスターたる与一に伝えようとしているのだが、彼はそれどころでは無い。
「与一君。如何して逃げるんです?」
「お前が近すぎんだよ!誰かコイツを止めてくれっ!?」
与一は狙われていた――――冬馬に。
隙あらば密着してこようとする冬馬に、与一は切羽詰っていた。
ちょっとしたカオスだ。
しかし弟分の貞操の危機を見て見ぬ振りする弁慶は、マルギッテとの戯れをメンドくさそうに熟す。
「そぉい!」
「ぐ、ぐあ!」
マルギッテのトンファー目掛けて錫杖で叩き付けた弁慶は、精鋭軍人を廊下まで押し出した。
「オー、強ぇな」
「ヒョッホッホッ!流石は武蔵坊弁慶と言う事か」
この余興で心は表面的に褒めはしたが、いずれ戦うと想定しても心の中では負けるイメージなどを想像する気する起きていない様だ。
そして一応準も褒めはしたが、身近に士郎やスカサハ、最近ではシーマと言う最強クラスと一緒に居る事が多くなったので、リアクションは低かった。
だが弁慶は基本メンドくさがりなので、一応認められればそれ以上望む気はない様だ。
「よし。次は義経が皆に威を示す番だな!」
如何やら義経は認めてもらうために、多摩川に来る野鳥の数の推移をまとめた自由研究を通して、環境問題について考えていこうと提案して来た。
「「「「「「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」」」」」」
しかし皆に引かれて狼狽える義経。
「弁慶、自分はそれ程可笑しなことを言っただろうか?皆の態度が冷たいような・・・」
「だから言っただろう?そんな研究しても、良いウケ等とれるわけないと」
弁慶の言葉は正確だ。だがジャンヌは、
(如何して皆さん喝采を浴びせないのでしょうか?素晴らしい研究結果だと思いますが)
義経を称賛しているが、自分達と周囲の温度差に驚いていた。
だがしかし、ジャンヌ意外にも褒めるモノがいた。それが、
「その心意気、素晴らしいモノだ!余は感動したぞ!!」
1人立ち上がって拍手を送っていた。シーマが。
「そ、そうか?でも、1人だけでも賛同してくれるなんて、義経は嬉しい!」
義経はシーマに駆け寄って、自分の研究結果をまとめたデータ票のプリントを手渡して、嬉しそうに説明する。
それを従者の弁慶が複雑そうにしながらも嬉しそうにほほ笑む。
(ラブリー主と似たような性格の奴がいたとは・・・・・・な。それなら主の精神的負担も少しは和らぐだろう)
こうして、将来を期待されるクローン達は今日から、このクラスで日々邁進していくのだった――――のだが、ジャンヌはさらに警戒度を上げていた。
(これは不味いですね・・・!こんな形で義経に取り入って来るとは。しかし、狙いは一体・・・・・・まさか!?私の存在に気付いて、自分に手を出させないようにしていると言う事でしょうか!だとしたらこのサーヴァントがマスターの言っていた組織の使いなんて――――)
与一が最初に変な情報を吹き込んだせいで、またジャンヌが暴走して行くのだった。
-Interlude-
同時刻。
3-Sでも武士道プランの申し子の1人である葉桜清楚の自己紹介が改めて行われていた。
今年の3-Sは1年生や2年生ほどクセがある者もいない上、温厚的な性格が多くを占めているので、清楚の事を快く直に受け入れていた。
そんな中である1人が提案をする。
「葉桜さんの歓迎会をやらない?」
これに当人である清楚が苦笑いで遠慮したが、次々と賛成の声が上がり時間は何時か?場所は何所で?と話し合われ、結果的に士郎の家の中庭で開催する事になった。
料理は勿論士郎の腕によりをかけて調理される予定だ。
「ごめんなさいね、衛宮君。迷惑かけてしまって」
「別に構わない。それに今日なら百代との組手稽古も無いから丁度いい」
そう、淡白な反応を見せてから自分の席に戻る士郎。
それを自分はやっぱり、不愉快な思いをさせてしまったのではないかと心配した清楚だが、京極彦一が心配には及ばないと声を掛ける。
「衛宮は基本的には朴念仁だからな。君が不安に思う必要など無いよ」
「そうなんですか?」
「ああ。それに衛宮はお人好しの世話好きだ。寧ろ自分の家で歓迎会を開くとなれば、色々勝手が利いてやりやすいだろうからな」
「な、なるほど」
京極の言葉を聞きながら士郎の背中を見る清楚。
それに京極が一つ補足説明する。
「一つだけ君に注意してほしい事がある」
「注意?」
「うむ。衛宮は歯も浮くような言葉を平気で口にする。そこに駆け引きなど無く、下心など無い裏表のない男だ。故に性質が悪く、天性にして天然の女誑しだ。だから君も衛宮と接する時、これからは注意して臨むと良いだろう」
「あ、あははは、そ、そうなんですね」
京極の説明に若干苦笑いしながら答える清楚。
「それにしても」
「ん?」
「京極君は衛宮君と仲が悪いんですか?」
「いや、親友だが?」
何故そんな事を聞くんだ?と言わんばかりの態度に、清楚は衛宮と京極の距離感を掴めずにいた。
そんな話の中の当人は旭に声をかけていた。
「最上は今日の葉桜の歓迎会如何するんだ?」
「評議会が有るから最初から同席は出来ないけど、遅れて行くわ」
「そうか。元から抜く気なんて無いけど、葉桜の歓迎会だ。最上にも食べてもらうんだから手の抜いた料理は作れないな」
「・・・・・・・・・ねぇ?やっぱり私の事口説きに来てない?自分の作った料理を毎日食べて下さいと言う風に」
「口説いて無い!」
まだ一時限目も始まっていない朝から、士郎は精神的に疲れる羽目となった。
-Interlude-
昼休み。
昼食を取り終えた紋白とレオは、お互いに護衛を従えて向かい合っていた。
因みに審判役には既にルーが待機済み。
「それで、決闘方法は如何する?」
「そうですね。狐とがちょう――――ではなく、鬼ごっこと言うのは如何でしょう?」
「ぬ?鬼ごっこか。構わぬがルールは?普通でよいのか?」
「ええ。ですがこちらから提案して置いて何ですが、お願いしたい事があるんです」
「うむ?」
「鬼役をヒューム・ヘルシング君にお願いしたいんですが」
「「「「「「なっ!?」」」」」」
レオの提案にクラス全員息をのむ。
この少年は気は確かか?と。
そして表情こそあまり動かしてはいないが、一番驚いているのは指名されたヒューム本人だ。
「レオ!?いくらなんでもそれは・・・!」
「駄目ですか?」
「いや、駄目と言う事は無いが・・・」
「少々宜しいでしょうか?」
2人の交渉にヒュームが口を挿む。
「レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ殿」
「ヒューム君。川神学園ではお互い年齢や立場を気にしないで話しませんか?」
「・・・・・・了解した。それで君は本気なのかな?この私から逃げきれると?」
「いえ、たまには無茶してみたいと思いまして。ですがやはり長時間は流石に無理でしょうから、最初の待ち時間は無しでいいので三分間逃げきれたら此度の決闘、引き分けにしてもらえませんか?」
レオの大胆な交渉内容に関心を深めるヒューム。
しかし紋白は三分間だけでも無謀が過ぎると確信している。
ヒュームは武術家のみの世界では世界最強であり、最速の男でもある。
その殺戮執事に如何なる理由でも追われれば、瞬時に捕縛されるなど明白だからだ。
事実、直下の部下であるステイシー・コナーは色々な理由で逃亡を何時も図るが何時も捕まっているからだ。
そんな勝率ゼロに等しい決闘をわざわざ自分から提案するなどイカレテいるにも程がある。
しかし何かしらの策が有るのか、提案したレオの笑顔は何時までも陰りを見せる事は無い。
だが興味心が先行するヒュームはそれを了承しようと紋白に伺いたてる。
「紋様、如何します?」
「我はそれでも構わぬが、本当に良いのか?」
「男に二言はありませんよ。では了承してもらえるんですね?」
「ええ」
両者の意思表示が済んだところで、ルーが最終確認をする。
「では確認するよ」
レオをヒュームが拘束すれば紋白側の勝利。
レオが捕まらずに三分間逃げきれば、要求通り勝負を引き分けとして認められる。
そして勝敗を満たすために、西欧財閥の威光以外でレオは何を使用してもいい。
「では、始め!」
「!」
決闘開始の合図直後、あらゆる方向から紋白に向かって椅子が投げられる。
投げたのは全員レオに負けた1-S生徒諸君だ。
「ッ!」
目の前に居るレオを拘束すればヒュームの勝となるが、しかしそれをした後では僅かに椅子の雨から紋白を守り切れないと判断したヒュームは、即座に紋白の壁となって全ての椅子を掴みとる。
「すまぬヒューム」
「いえ。ですがクク、随分と過激な開戦でしたな」
不敵に嗤う殺戮執事。
そして当の画策した本人は、護衛のリザ共々既にこの教室から逃亡していた。
「では少々失礼します。しっかりと紋様を護衛しろよステイシー」
「うむ!」
「へい」
何時の間にか来ていたステイシーに命令したヒュームは、凶悪な笑みを浮かべながら“鬼”としてレオを捕えるべく廊下に出る。
「・・・・・・・・・・・・」
レオの気配を追う為に一度立ち止まる。
神経を研ぎ澄まして周囲の気配探知を行う。
そこで中々上手く気配を殺しながら下へ下へと降りている気配を察知する。
それにその気配を詳細に探ると、自分の気配で覆い隠している別の気配も感じた。
(悪くない気配の消し方だが、中途半端の上、他者の気配を自分の気配で覆い隠して愚かな結果となっている。矢張りあのリザもまだまだ赤子よ)
何時もの様に未熟者と見下しながら、当の本人たるリザの下に一瞬で駆け寄る。
「お遊戯はその辺でいいですか?レオくッ!?」
だが本人の目の前に来たらいたのはリザのみ。
その代わり彼女の両腕の中にはレオの赤い半そでの上着を抱きしめる様に所持していた。
「引っかかりましたね?ヒューム卿」
「・・・・・・チッ」
つまりヒュームが感じ取ったのはレオの気配の残滓。
まんまと引っかかったのを素直に認めるヒュームは、これ以上の問答は無用とさらに気配探知の領域を広げながらその場を去った。
-Interlude-
「――――と言う事で、改めまして先輩の皆さん。僕の事は如何かレオと気軽にお呼び下さい」
ヒュームからの逃亡の最中である筈のレオは何故か、暢気に2-Sに遊びに来ていた。
だが一見箱入り息子の様なお坊ちゃまに似つかわしくない隙の少なさや立ち振る舞い、それに大勢の人々の上に立つことが約束された様なカリスマ的なオーラに、多くの2-S生徒達は圧倒されている。
自分達よりも年下だと頭で理解できても、心の部分で既に一歩も二歩も引いていた。
しかし中には声を掛ける者もいる。
「初めましてレオナルド君」
「はい、初めまして。冬馬さん、ユキさん、準さん」
「アレ?ボク達の事知ってるの?」
「当然士郎さんから事前に聞いてたんだろうさ?」
「はい。それに準さんが小さい女の子が好きな事はシーマさんから聞いています」
「うむ。すまぬ、教えた」
レオの説明に自分へ顔を向けてきた準に対して、あっけらかんというシーマ。
理由としては、
「事前に説明しておけば、ジュンが性犯罪の一線を越えそうになりそうな現場を見た時、協力してくれると思ってな」
実に理に適った考えだが、本人は納得できずにいる。
「それじゃあ俺が、まるで犯罪者予備軍みたいじゃねぇか!」
叫ぶ――――が、
シ―――――――――ン・・・。
誰も言い返す事は無いが否定もしない。
「え・・・、何この空気?」
「だからみんなの気持ちは一つなのだー」
「私もユキも準が捕まらないかと心配してるんですよ?割と本気で」
そのやり取りにちょっと和んだレオだが、相変わらず誰も近寄って来ない事に首を傾げる。
「警戒しなくてもいいと言ったのですが・・・」
「それは無理であろう。お前のオーラに当てられた後ではな」
「おや、英雄さん。いえ、此処では九鬼先輩とお呼びした方がいいですか?」
「好きに呼んで構わぬ。代わりに我も今まで通り、呼び捨てにさせてもらおう」
そこへ、あずみを連れて教室に戻って来た英雄が近づいて来た。
「はい、勿論構いません。そう言えば久しぶりですよね?あずみさんも」
「は、はい!」
レオに声を掛けられたあずみは、らしくなく緊張しながら返事をした。
カリスマ性を持った人間とのやり取りは九鬼財閥で慣れているモノも、レオのオーラは九鬼家財閥の重鎮達とはまた違った凄味があって、それに慣れていないので緊張しているのだ。
そう、軽く挨拶してから別の方へ向くレオ。
「それであの御2人が?」
「うむ、弁慶と義経だ」
「――――初めまして御2人共、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイです。先ほども言った様に如何か気軽にレオとお呼び下さい」
「は、はい」
「う、うん」
本来ならば逆の筈なのに、レオのオーラに当てられて緊張する2人。
しかし本人はその気が無いので如何したモノかと考え込む。
「ふむ。困りましたね――――そうだ!武蔵坊弁慶さん」
「ん、んん?」
「僕のコネで川神水大吟醸を毎日差し上げますので、学園卒業後、西欧財閥で働きませんか?」
「ホントにッ!?」
思わずの条件に緊張さを忘れて喰いつく弁慶。
「ホ、本気か弁慶!?」
それに義経が悲しそうにしながら驚きの声を上げた。
「い、いや、冗談に決まってるだろ!だから落ち着いてよ」
「ふむ。やっぱり駄目ですか?ですが緊張を解く事には成功しましたね」
「・・・・・・2人の緊張をほぐしてくれた事には礼を言うが、我の目の前で大切な武士道プランの申し子をスカウトするのは頂けんぞ?」
「フフ、すいません。つい」
全く悪びれないレオの態度に肩を竦める英雄。
「そう言えばレオは紋の代理のヒュームと決闘をしていたのではなかったか?」
「はい。ですからその最中で」
「レオ」
そこへシーマが2人の会話に割って入る。
「来ましたか?」
「あと5秒後に来る。ユキ、窓を開けてくれ!」
「う、うん!」
シーマに言われるがまま窓の一つを全開にする小雪。
それを確認したシーマは直に体を丸める態勢を取ったレオを掴み上げる。
「行くぞ?」
「いつでもどうぞ」
そこへ、2-Sの前側の出入り口の縁を掴んで瞬間的に来たヒュームが、凶悪的な笑みを浮かべたまま現れた。
ちなみに残り時間一分前だ。
「見つけたぞ、レ・オ・君♪」
この悍ましいやら恐ろしいやらの威圧に九鬼関係者以外の生徒全員が気圧される。今正しく準備を済ませた2人を除いて。
「セイっ!」
「ッ」
「なっ!?」
その場のほぼ全員が驚かされることを2人はした。
何とシーマが小雪に頼んだ窓を通過させて、グラウンドに向けて思い切り放り投げたのだ。
こいつらは正気か?とヒュームは疑ったが、ちゃんと受け止め役がいた様で、シーマの投擲によって投げられたレオを受け止めたのは、張り込んでいた士郎だった。
「チッ!」
すぐさま追いかけて士郎の下へたどり着くヒュームだが、
「行け!」
「またかッッ!?」
今度は士郎が一年生たちの教練塔の屋上へ向けて投擲した。
これに振り回されるヒュームだが、矢張り直に屋上に追いつく。
屋上に着くなり、士郎の計算された投擲速度などで無事着地で来ていたレオをすぐに柵の奥側に追い詰める。
「クク、随分楽しめたが、これで終わりだレオ君」
楽しめたと言うのは勿論予想外のアクションだが、それ以上が悉く学園中に散りばめられたレオの気配の残滓を発する囮だ。
レオが事前に仕掛けた囮によってまんまと引っかかり続けたのと、本人の気配の消し方が完璧であり優雅だったのも大きかった。
実際気配の消し方だけを見れば、実の弟子である揚羽よりも上だと言うのがヒュームの感想だ。
しかしそれも終わり。
だが追い詰められている筈のレオは笑顔を絶やさない。
「いえいえ、まだまだ粘りますよ?」
「この状況で何、をッ!?」
なんと今度は自分から屋上から飛び降りたレオ。
その様な事態、流石に決闘などと言ってる場合では無い。
例えどれだけお互いに了承した決闘であろうとも、九鬼財閥の重鎮の1人である自分が追い詰めた結果として西欧財閥次期当主を大怪我させたとなれば、どれ程追い込まれるか計り知れない。
そんな現実を顕現阻止するために急ぐヒュームだが、一瞬驚いてしまったために間に合うかはギリギリだった。
だがしかし、
「・・・・・・ククク、何所までも愉快な方、だッ!!」
下を覗き込んだ瞬間、宙でリザに受け止められたレオの姿があった。
如何やら最初にリザが下へ向けて降りていたのは、この為でもあったらしい。
これに即座に下に降りレオ達を追う。
途中でリザだけを見つけて、これ以上介入させない様に気でコーティングした針で傷を負わせない前提で壁に縫い付ける。
それを済ませた後、直感に従って屋上に来てみれば案の定レオがいた。
ちなみにあと――――。
「今度こそチェックですよ?レオ君♪」
「それは如何でしょう?」
「強がりは君の質を落とすだけですぞ?リザ・ブリンカー及び衛宮士郎も、あのシーマなる者もこの周辺にはいません。ですからどうぞ大人しく」
「たまには子供らしく燥ぐのもいいと思いますよ?」
「・・・・・・・・・・・・」
そうしてレオはまた屋上から身投げをした。
どんな勝算があるかは知らないが、ヒュームは備えとして一瞬でレオが落ちて来るだろう下に到着する――――が。
「なっ!?」
なんとレオは壁を蹴って、五メートルは離れているであろう別の教練塔の三階の開いている窓の上の縁を掴んで、そのまま見事窓を潜りその別の教練塔内に入ったのである。
完全に行き届いた調査内容では無いが、レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイは少なくとも壁越えや準壁越えでもない。精々マルギッテやリザよりも少し下がるくらいの運動神経と戦闘力クラスだ。だがそれでも年齢の一四歳を考えれば十分過ぎる位だ。
しかしだからこそヒュームと勝負しても適う筈が無いと言う当初の予想を面白いくらいには裏切った形である。
事実、先程から驚かされてばかりで段々楽しくなってきたヒューム。
けれど無情にも、
「ハイハーイ!今三分経ちましたから、これで終わりですヨ!」
「・・・・・・・・・・・・・・・」
ルールがルールとは言え、もう少し楽しみたかったヒュームとしては、八つ当たりに等しい鋭い眼光を無言のまま審判役のルーに送り付けた。
「ヒューム卿、早く1-Sに戻って下さーい!レオナルド君はもう着いた頃ですヨ!」
しかし格上であろうとも決して屈さず怯まないルーには効果は無く、教室の戻る事を促されるヒューム。
仕方なく欲求不満のままの殺戮執事は、彼にしては珍しく肩を落として瞬間移動で帰って行った。
-Interlude-
「申し訳ありません紋様。如何なる処分もお受けいたします」
1-Sに戻って来て決闘の結果引き分けとして完結した後、ヒュームが開口一番に口にしたのが紋白への謝罪だった。
「よいよい、気にするでない。――――ところでヒュームから聞いた最後の芸当・・・・・・そんなことが出来る身体能力がレオにはあったのか?」
「いいえ、今はまだそこまで動けませんよ」
「ならばどうしてだ?」
「フフ、企業秘密です」
何時もの満面な笑顔で誤魔化すレオだが、理由としては服の下と靴底についている幾つかのチップにある。
このチップはエジソンの一時的に身体強化を可能とするモノを目指した発明品だが、いかんせんまだ試作段階なので制限時間が三分間しか持たない不良品だ。
しかし今回の一件の展開を事前に予想して、企みに使えないか直談判して手に入れたものだ。
そして今回見事にチップは役に立ち、役目を終えてチップは臨終と相成ったのだ。
ちなみに、今回の一件を後で知ったハーウェイ家に使える執事長や家令長などは、泡を出して気絶したとか。
後書き
色んな種類のある鬼ごっこが有るのは知ってましたが、国ごとに呼び名はやっぱり変わるモノなんですね。
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