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時代が作るもの

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第一章

                    時代が作るもの
 僕はある時ふと思った。それで友人にこう言った。
「昔のプロ野球選手って凄くないか?」
「具体的に言えば誰が凄かったんだよ」
「稲尾とか杉浦とかさ」
 僕が挙げたのはこの伝説的名投手達だ。今もその名前を残す超人的な名投手達だ。
「無茶苦茶凄くないか?」
「変化球とかストレートがか?」
「ああ、二人共凄い変化球投げてたらしいね」 
 稲尾は高速スライダーにシュート、杉浦はカーブにシュート。稲尾は高速スライダーで有名だが実際はシュートの方が得意だったとのことだ。杉浦はストライクでバッターの足に当たるカーブに少し沈むシュートだったらしい。
「打てないレベルの」
「両方共魔球投げてたらしいな」
 その域に達していたという意味だ。友人が言うのはこのことだった。
「それな」
「ストレートもだね」
「ああ、稲尾のストレートの球威は凄かったらしいな」
 それでとてつもなく重かったらしい。
「で、杉浦のストレートはノビが凄くてな」
「どっちもそんなに速くなかったらしいね」
「速いっていったら尾崎か山口だろ」  
 友人が名前を挙げるのはこの二人だった。
「ジャイロボールだったんだろ?」
「二人のストレートのノビはえげつなかったらしいね」
 そこまで至ったらしい。
「しかも速度自体も」
「一六〇出てたって?」
「らしいね」
「けれど御前が今言うのはあれだろ」
「うん、稲尾とか杉浦とか」
 そしてだった。
「金田とかね」
「三十年代のピッチャーか」
「連投連投で投げ抜いた」
 稲尾、杉浦も金田もだ。
「あと米田とかかな」
「ガソリンタンクか」
 友人は米田の仇名を出した。米田はその無尽蔵のスタミナからこの仇名がつけられたのだ。伊達に三五〇勝した訳ではない。
「そういう体力のあるピッチャーか」
「うん。今だと先発完投で連投とか」
「日本シリーズとかでな」
 これは稲尾も杉浦もした。
「四連勝とかな」
「鉄腕とか言うけれどね」
「今じゃ絶対に無理だな」
「いや、四十年代でも」
 僕は三十年代あから年代を少し下げた。
「江夏豊も鈴木啓示も山田久志も」
「関西ばっかりだな」
「まあそうだけれど」
 このことは僕も否定しない。
「とにかく。四十年代以降のピッチャーはそこまで連投しないよね」
「江夏もそこまではしてなかったな」
「村山はまだしていたけれどね」
 阪神の永久欠番はまだそうしていた。
「けれどそれでもね」
「四十年代以降はか」
「そこまで投げてないじゃない」
「権藤権藤雨権藤とかな」
 中日のピッチャー権藤博だ。流石に二年でその選手生命を実質的に終わらせはしてしまっているがこのピッチャーも凄かった。
「四十年代からはなかったな」
「太洋の平松にしてもヤクルトの松岡にしてもな」
「広島の外古場とか北別府もね」
「確かにいないな」
 友人も納得した言葉で答えてくれた。
「そこまで投げられたピッチャーはな」
「三十年代までのエースって連投連投だったけれど」
 話はまた稲尾とか杉浦の話になる。
「そういうピッチャーってどうしていなくなったのかな」
「野球のやり方が変わったんじゃないのか?」
 友人はこう僕に答えた。 
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