世界をめぐる、銀白の翼
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第五章 Over World
遠ざかる真実
天候は曇天。
風は強く、コンクリートで均されていた地面は荒れている。
崩壊し始めている見滝原の街。
「ハァ・・・ハァ・・・・」
そんな中を、鹿目まどかは駆けていた。
とはいえ今は膝に手を当てながら、上体を押し出すように、一歩一歩瓦礫を登って行っているところだ。
「大丈夫・・・・ですか?」
「は、はい・・・」
風も強く、足場も悪いこんな場所を走るには、運動の得意でない彼女には大変なことかもしれない。
そのまどかを気遣って、青龍が手を伸ばし引き上げる。
「しかしこのまま・・・・いけば、ほむらさんの所に・・・・問題なく辿りつけるでしょう」
まどかを引き上げながら、チラリとワルプルギスの夜を見る青龍。
だんだんと近づいている。
それに伴い、地面の乖離や浮遊、崩壊が徐々に迫ってきている。
だが今のペースなら間に合うだろう。
先の危ない瓦礫は白虎が取り除いているので、まだ進みやすいはず。
「・・・・行きましょう」
「はい!!」
そうして、また手を伸ばす。
瓦礫に手間取るまどかを引き上げ、同じ高さに引き上げる。
同時に、背後から漆黒の使い魔が襲い掛かってきた。
「な・・・・に!?」
「きゃぁ!!」
襲い掛かってきたのは一体のみ。
青龍は体を返し、まどかを背負うように背に当て、その振り返りざまに青龍刀で使い魔を上下に切り分けた。
胴体を切られ、崩れ落ちていく使い魔。
瓦礫を転がっていくそれを見て、青龍が一息つく。
「これは・・・」
「青龍!!」
そこで、瓦礫の上に立つ白虎の声がした。
まどかを抱え、その位置にまでたどり着く。
「これは・・・・・」
「順調じゃ、行かないかもねぇ・・・・」
瓦礫の先から見えたのは、数十体の使い魔だ。
数十体しかいないが、今この瞬間にも使い魔は次々に地面から湧き出ている。
「ワルプルギスの夜に近づいてきたからね」
「これは・・・・すみません・・・・まどかさん」
「え?」
「少し・・・・急ぎますので・・・・揺れます・・・・白虎!!」
「あいよッ!!」
白虎が瓦礫を飛び下り、その後を追って、まどかを抱える青龍も飛び降りた。
直後、白虎は巨大な獣神体となって使い魔を踏みつぶし、青龍はその背に着地した。
「行き・・・・ましょう」
「お~う!!どけどけどけぇ!!」
使い魔を蹂躙し、走り出す白虎。
到着まで、もう三分もないだろう。
そして、その時に
奇跡は―――――
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「この街を任せたいの」
佐倉杏子を相手に、そう話しかけるほむら。
当の相手は聞いているのかいないのか、ダンスゲームのプレイ中だ。
「彼女たちが邪魔をするなら、私が対応するわ。だから、彼女たちには手を出さないで」
「・・・・・あのさぁ」
タンッ、と最後のステップを踏み、ゲームをクリアして台から降りる杏子。
菓子を咥えながら、うさん臭そうにほむらを見る。
「そんなうまい話、裏に何かあると思うだろ?ふつー」
「・・・・・」
魔法少女のくせに、グリーフシードはいらないというほむら。
彼女にしてみれば怪しいことばかりだ。
何かあると思うのが普通だろう。
(佐倉杏子は魔法少女として非常に優秀・・・・)
だからこそ、杏子は疑うのだ。
そんな魔法少女が、いるわけがないと。
ならば、信じてもらうにはどうすればいいのか。
『私の固有魔法は時間操作で、実は私は未来から来て何度も繰り返しているのよ』
なんて言えるだろうか?
確かに、もう数度会ってからなら、能力の説明として受け入れてもらえるだろう。
しかし今この状況でいきなり言ったところで、信じてもらえるとは思えない・・・・
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暗い
街の明かりが辛うじて届いているものの、全てを見れるほどではない。
ドクン
ここは公園だというのに、その街灯は全て光を失っている。
ドクン
鼓動のように、何かが胎動している音がする。
ドクン
それは大気そのものを震わせるような音。
ドクン
そしてそれは、小さな青い宝石から発せられていた。
「さやかちゃん・・・・?」
さやかが、胸を押さえてしゃがみ込んでいる。
それを囲むように、四人の魔法少女がいる。
(これは・・・・!!)
今まさに、さやかのソウルジェムが限界を迎えていた。
魔女は魔法少女から生まれる。
それを、受け入れたくないだけで皆は感じ取っていた。
そしてそれが今、目の前で起こっているということも。
「あ・・・あ・・・・わたし・・・は・・・・」
(このままでは・・・・!!!!)
このままでは美樹さやかのソウルジェムは砕け、あとにはグリーフシードが残るだけとなるだろう。
そしてそれは魔女を生み出し、目撃した彼女たちを更なる絶望の底へと突き落とすであろう。
「わたしは・・・みんなを・・・守りたいのに・・・・!!!」
(今回の美樹さやかの絶望は・・・・・・)
今回のさやかは、徐々に溜まったソウルジェムの濁りを浄化しきれなかったことだ。
彼女はもともと感受性豊か。
それはソウルジェムの濁りやすさに直結する。
最初こそはグリーフシードで浄化していたが、気づけばその使用はさやかがほとんどを占めていた。
それに気づき、彼女が遠慮しないわけがない。
そして、今回の魔女戦で魔力を使い、限界を迎えた。
そのソウルジェムの変貌。
さやかは見た。徐々にその形が、グリーフシードの物に近づきつつあると。
即ち、それは・・・・
「どうして・・・魔女になんか・・・・私たちは・・・みんな・・・・ぁあ・・・・」
魔法少女の行く末が、魔女になる事に相違ない。
それは、変わりゆく彼女をさらに貶め、もはやとどまることを知らない。
もう数十秒もない。
(このカケラの最後に彼女が魔女になって終わってしまったら、それが結果となってしまう!!)
それは防がなければならない。
絶対に止めたい。
掛けるべき言葉は、前のカケラで見つけている。
きっとこれならほんの少しでも遅らせることができる。
彼女の絶望を留められる。
しかし
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「え、なんで・・・!?」
「あら」
そこで、ほむらはカケラから出てしまった。
さっきまでと同じだ。
だが、納得できない。
「私は・・・かけるべき言葉があったのに・・・」
何をすればいいのか、解らないわけではなかった。
掛けるべき言葉も、解っていた。
だが、一体何がいけなくてカケラから出されてしまったのか・・・・
「どういうことなの!?」
振り返り、カケラを除けておく梨花に向かって叫ぶ。
それに梨花は「うん?」とでも言いたそうに、眉を上げる。
「あら、解らないの?」
「なにが・・・・」
「例えば・・・・あなた、誰かに失礼なことをしたことはあるかしら?」
梨花の質問。
腑に落ちないながら、一応首肯して答える。
そう言うことは人生で必ず一度はある物だ。
「そう。じゃあそういう時なんて言ったか、わかるかしら?」
「普通は謝るわ」
「そ」
そう言って、ワイングラスに目をやってその中身に口を付ける梨花。
一息ついてまた話すのかと思えば、そのまま除けたカケラをクルクルといじりながらそれにもう一度口を付ける。
彼女にとって、この話はもう終わったことになったらしい。
「ちょっと・・・どういうことなのか教えなさい!!」
「あぁ、ごめんなさい」
「・・・・・」
こちらを向くこともなく、口にグラスを運びながら答える梨花。
まったく謝罪している気は無い。
多少なり頭にくるほむら。
それを感じ取ったのか、チラリとほむらを見た梨花は、またクスクスと笑い出す。
「私は謝罪したわよ?」
「そんな言っているだけで、謝罪だと本当に思っているの?」
「違うわね」
「だったら・・・・」
知っていてやったと言う梨花。
それが余計に腹立たしい。
だが、そんなほむらにサラリと梨花は言う。
「わかっているじゃない。つまりはそう言うことよ」
「は・・・・?」
「今自分が言ったこと、もう一度考えて見なさいな」
そういって、完全にほむらを意識から外す梨花。
一方、ほむらは顎に手を当てて考え始めた。
カケラを見る。
これ以上進めないカケラは、合わせて四つ。
まどか、さやか、マミ、杏子
それぞれ一人一つずつだ。
恐らく、これが最も重要なカケラに違いない。
だが、それを突破するカケラが見つからないのだ。
すでにみたカケラを、もう一度見る。
違う。
ここにはない。
まだ未開帳のカケラを見て回る。
どれも違うと思う。
すでにいくつかのカケラを見たほむらにはわかる。
いったい、あれを開くにはどうすればいいのか――――――!!!
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「死ねぇ!!!」
「きゃっ!?」
ドズゥッ!!と、畑仕事に使うようなクワが地面に突き刺さる。
本来ならそれでいいのだろうが、今これを握っている男の目的は地面にはない。
唯子は村の中を走り回っていた。
追いかけてくるのは、凶器と化した生活用品を手にする住民たちだ。
子どもを抱えて逃げるのにももう限界だ。
一旦撒けても、いかんせん狭い村。五秒としないですぐに見つかる。
「ッ・・・・今はここに!!」
そんな唯子が再び住民を巻いたところで、目の前に小屋が飛び込んできた。
絶妙のタイミングだ。そのに入り込み、身体を隠す唯子。
外の住民たちは唯子を見失い、見つけ出そうとあたりを捜索し始めている。
「少しは時間が稼げるかも・・・・」
この小屋は誰も使っていないもののようだ。
少しは時間が稼げるはず。
夜にでもなれば、まだ脱出の糸口はある―――――
「君たちはここにいて」
「え!?」
唯子は子供たちを置いて、一人立ち上がった。
彼等の狙いは唯子だ。
ならばここで一緒に隠れるより、唯子一人が逃げていた方がいい。
そして夜になってここに戻り、みんなで脱出だ。
「ね?おねーさんの言うこと、聞ける?」
「でも・・・」
「何があっても、ここから出ないでね?」
そう言って、外に気を付けて扉を開ける唯子。
外に出て、中の子たちがカギを締める音を確認してから、村の中に駆けだしていった。
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「ッァ・・・」
おかしい
「ハァッ・・・ハ・・・ァッ・・・・!!!」
(な、なんで・・・・・)
あれから唯子は村を走っていた。
村人を一手に引き付け、子どもたちに脅威が迫らないようにだ。
当然、唯子ならば彼女たちから逃げきるだけの体力はあるだろう。
むしろ全員を倒すことだって出来るだろう。
だが
(体力が・・・・落ちてる・・・!?)
息はすでに上がりきっており、顎もだらしなく上がっている。
そもそも
(私、どうしてそんな時間逃げ切れるなんて思ってたの・・・・!?)
それに
(・・・あれ・・・・私・・・うん最初からこれくらいの体力しかないわよね・・・なのになんで逃げ切れるなんて)
「何の力もない私」が、普通に考えてあれだけの村人に追い回され、逃げ切ることなど不可能だろう。
あれだけの人数を倒すなど、無理に決まっている。
どうして唯子は、それができる気でいたのか。
まったく思い浮かばない。
(でも・・・・できるかどうかより、あの子たちを護れるならこうしてたかもね・・・・)
体力も何もかも、唯子は一般人だ。
(というかあれ?教会から脱出してきたときはどうしたっけ・・・・?)
確か、教会の隠し通路を通って・・・・・
途中で追いつかれそうになったからあの子たちを担い「あの子たちの手を取って走り抜け」た。
洞窟からそのまま外に飛び出そうになって、そのまま「いったん止まってから壁に沿ってある階段で下り」たんだ。
それで街まで彼等を背「手を引っ張って一緒に逃げて」来た。
そうだった。
必死になってここまで逃げたんだ。
それであの子たちに危害が加えられないように、一人飛び出してきたんだ。
私はきっと「逃げきれないで」「捕まるけど」あの子たちが無事ならそれでいい。
・・・・・・なんか少し違う様な気が・・・・
フッ、と
そんな唯子の背後に影が落ち。
ゴッ!!!
角材で頭部を殴られた唯子は、そのまま意識を手放した。
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悩むほむら。
先に進む道が、どうしても見つからない。
突破口になるカケラが、どこにもない。
そんなほむらを眺める梨花が、視線だけを右に逸らす。
そこには、確かにカケラがあった。
(あんなに大きなカケラを・・・・どうして見逃しているのかしら?)
だが、ほむらには見えていない。
あれだけ異彩な光を発しているというのに。
あんなにも、美しく虹色に輝いているというのに――――
to be continued
後書き
ルパッチマジックレッツゴー
チョーイイネ
アトガキ サイコー!!!
さすがに完全崩壊はまだしてないですが、瓦礫の中を進むにはまどかには大変そうですね。
使い魔の影響も出てきましたし。
まあ青龍たちが対処しますけどね。
おい白虎最初からそれで行けよ
白虎
「じ、自分の足で行かなきゃいけなかったんだよ(汗)」
青龍
「・・・・(コクコク)」
ほむら、気付かず。
大きなカケラは、何が必要だと言うのか・・・・・
そして唯子。
過去の追憶の侵食が加速してますね。
はてさて、各人いったいどうなる事やら。
まどか
「次回、大切なこと」
ではまた次回
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