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世界をめぐる、銀白の翼

作者:BTOKIJIN
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第五章 Over World
  もったいないと思わないかい?

「さて、話を始めようか」

「話かい?」

「そ、話」


差し出すように、手の平を出す。
蒔風が講義を始めるかのように語りだした。


「まずはおさらい。インキュベーダー、君の目的はなんだ?」

「宇宙の物理法則に捉われない、新しいエネルギーで宇宙の寿命を引き延ばすことさ」

「そして、そのエネルギーは?」

「この星の生物の感情さ。僕たちはこの技術を作り出しても、いかんせん僕たち自身に感情という物がなかった」



「それで・・・この星に狙いを付けたのか・・・・」

「そう。もう少しで、必要量のエネルギーが集まるんだ」

「そしてより大きな感情を得るために、お前達は人類の進化に貢献してきた」

「ああ」



二人の話を聞いて、映司は一回聞いた内容ではあるが、再び納得してしまう。


そう、インキュベーダーの話は、あまりにも理にかなっているのだ。

宇宙全体を見て、彼らはそれを救うべく活動をしている。

何かを救うために犠牲など払うべきではない。
そう反論したいのだが、ならばそれを引き替えに宇宙の未来を投げ捨てるのか?と言われれば――――


苦悶する映司をよそに、蒔風は話を続けていく。


「僕たちが君たちに干渉しなければ、人類はいまだに洞窟の中で動物同然に暮らしていただろうね」

「なるほど。つまりお前達無しに今の俺たちはなかった、と」

「そうさ。君たち人類はその繁栄を得、僕たちはエネルギーを得る」

「そしてその取引の代価が少女たちの魂と未来というわけか」

「この先の人類の未来を考えて、これはとても利口な取引だと思わないかい?だってこの先生まれる人類と、これまで犠牲になってくれた彼女たちの数は比べ物にならないだろう?君たちが悲しむ理由がわからないよ。どうしていちいち君たちは一個体にこだわるんだい?」

「つまり、俺たちの怒りは誠に遺憾だと?」

「遺憾?ああ、納得できない、という意味ではそうだね」

「では俺たちは犠牲になった少女たちに感謝し、お前らにありがとうと言えばいいのかな?」

「別に感謝は求めていないよ」

「そうかそうか。それは良かった」


キュゥべえとの一通りの話をして、蒔風が腰に手を当ててクックと笑う。
そして、うんうんと頷きながらさらに聞く。


「お前たちは本当に長い間この星にいたんだなぁ」

「まったくだよ。でも、それもまどかが魔法少女になってくれれば解消される」

「どれだけ長いこといたのか、教えてくれないか?俺たちが洞窟暮らし・・・・というからには、数万年単位だろう?」

「あ、俺聞いたことがあります。確か、最古の壁画で3万年近く・・・ってことは・・・」

「さらに言うなら・・・もし最古の人類とかかわったというのならば、それは200万年以上昔だろうな」

「そうだね。僕たちが来たころには、人類は道具を使って生活はしていたけど、そこら辺の石を掴んだようなものでね。よくここまで成長したと思うよ」

「と、なると正解はそれくらい昔でいいのかな?」

「うん。昔は微々たるエネルギーだったけど、時間を経るごとに一回に摂取できるエネルギーはだんだん増えて行った。今ではまどかひとりで目標の三分の一を埋めてくれるくらいにはね。まあ、彼女は特別なわけだけど」

「実際、通常はどれくらいなんだ?」

「さやかやマミ10万人分でまどかと同じだからね」

「なんだって!?」

「まあ当然だろうな。鹿目まどかの背負った因果。それは彼女自身だけでなく、この街の命運全てもだろう。あのワルプルギスをひっくるめるんだから」

「そうなると・・・・」

「見滝原市全体の人口は30万人以上。ワルプルギスの夜の被害を受ける街だけで、五万人はいるだろう。それを繰り返した回数分掛けてみると・・・・ま、十回だとして軽く50万人は超える」

「しかも、その中にはさやかやマミ、他に魔法少女の素質を持っていたかもしれない少女たちも含まれるわけだからね」

「まあおかしくはない数字だな」


そんな話をしていて、映司は気が遠くなってきていた。
一体どれだけスケールの大きな話なのか。


だが、それで大体納得したのか、蒔風は少し身体をほぐし、そして短く言った。



「でもなー・・・お前のそれ、別にこの宇宙に必要ないぞ?」

「・・・・・は?」



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雲の上を飛ぶ、一人の魔導師。
彼女は白いバリアジャケットに身を包み、彼の向った街に飛んでいた。


「もう・・・・なんで置いて行くのかなぁ!!」

《マスターのお仕事もありましたし、恐らく疲れていると思ったのでしょう》

「そんな!!行くって知ってればお仕事全部ヴィータちゃんに投げてきたのに!!」

《ダメだこのマスターどうにかしないと》

「それに仕事って言っても書類に目を通すだけなのに、最近妙に気を使いすぎだよ舜君は!!」


足首に小さな羽のようなフライアーフィンを展開し、白い魔導師はさらに加速する。


「もう絶対、一緒にいるって決めたんだから!!」



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「必要・・・ない・・・?どういうことだい?」

「それはな、キュゥべえ。お前にとって残酷なことだぞ」

「そうなんですか?」



「うーん・・・・まあ、彼も隠し事はいけないと知ったわけだし、次のステップに進むか」

「?・・・・ああ!つまり、言うべきことと、言わなくてもいいこと、ですね?」

「ビンゴ!!やっぱさー、嘘も方便って言うじゃない?あれ?じゃあ言わないべきかな?」

「こういう教訓は、一回受けてみるのが一番いいですよ。ああいう奴は特に」

「おー、流石解ってるねぇ」


「勝手に盛り上がらないでくれないかな。いったいどういうことなんだい?」


コントのようにふざける二人に、キュゥべえが先を奨める。
自分のしてきたことが必要のない、無駄なことだと、一体どういうことなのか。



「簡単な話だよ、インキュベーダー。この星の人類は、別段お前がいなくても普通に繁栄してたってこと」

「な・・・・?」


「気付かなかったか?翼刀が話してなかったか?頭に情報来なかったか?この世界は結合していると」

「それは・・・確かに情報としては」

「ならば話は早い。じゃあ、そのすべての世界にインキュベーダーの干渉はあったか?」

「あ、そうか!!」


ふはッ!と笑いを吹き出しながら、蒔風が愉快に口火を切りだす。
その態度はまるでコントでも演じているかのようで、ふざけているとしか言いようがない。

「いいか?ある世界では数万年前のバトルファイトで勝ち残ったから。ある世界では、ある少女の神懸かった能力で出来上がったなんて言われてるな。そもそもそんな原因もなくても、お前がいない世界だってふっつ~ぅに繁栄してんだよ。さっきまでな~にを偉そうにいってんだかと。もうね、バカバカしくて笑いをこらえるの大変だったんだよ。むしろお前がいなくても、もっともっと発展した技術のある世界だってあるくらいだしさぁ。お前の干渉で、お前がいた世界実はもっと発展できるはずだったのに遅れちゃったんじゃない?プっ、やーいやーい。キュゥべえいらない子~」

「あ、これはむかつく」


最後の方は子供のようにバカにし始める蒔風。
言われてない映司が、自分に言われたらと想像するだけでイラつくのだ。
まあ実際にはスカッ、としているわけだが。


だがそれでも、キュゥべえの表情に変化はない。

「ふん。何を言っているんだか。言っただろう?僕の役目は人類を繁栄させることじゃないんだよ」

「プフッ・・・・・へぇ?」

「人類の繁栄なんてものは副作用、結果論、必要だからそうしただけさ。僕たちは別に君たちが猿であろうと別にいいんだ。低能なままでも良かったのさ。だけどそれだと効率が悪いし、宇宙の寿命に間に合わないからね。その為に発展させたに過ぎない」

「まあそうすれば、その分の悲劇も希望も大きくなるしねぇ」

「そうさ。だから何を君がバカにしているのかわからないよ。そんなことが無駄になったからって、僕には全く、全然関係ないんだよ」


表面上には出てこない。
だが、キュゥべえの言葉は徐々に熱を帯びている。

否、そこまでの物ではない。
精々、語尾に少し力が籠められるくらいか。


「まったくだから訳が分からないと言っているんだ。僕たちの目的はもういっているはずなのにそれを勘違いしいて無駄だなんていうなんて、僕は君たちがいずれ宇宙に進出して僕たちの仲間入りをすると思っていたのだけれどこの様子じゃそれも無理みたいだね」


一気にまくし立てるキュゥべえ。
そのキュゥべえに、蒔風がにんまりと笑って首をかしげる。


「どうしたキュゥべえ?怒ってるのか?」

「・・・・・そんなわけないだろう。そんなもの、僕たちがもつはず、無い」

「そうか。じゃあ話を進めるぞキュゥべえ」

「え?」

「言ったろ?「すべて」無駄だと。そんなこともわからないで・・・・すべてなんていうわけないでしょっ」


訳が分からないとでもいうキュゥべえに、それだけ言って蒔風が空を指さす。
そして、最高に意地の悪い顔をして、からかう口調ではっきりと宣言した。





「宇宙、別にお前が言うような危機に瀕してねーから」


嗤いながら、震える声で。
それを抑えながら、蒔風ははっきりと言い放った。



「解ったか?俺が無駄だと言った理由」

「は?そんなはずはないよ。宇宙は確かに今もエネルギー問題を・・・・」

「いやぁ、それがそうでもないのよね。ほれ、これウチの優秀なメンバーが出してくれたんだけどね。通信繋げる?ほい」


蒔風が言うと、空中にモニターが現れ、そこに一人の少女が映り込んできた。
そこに映った少女、長門有希は、淡々とした口調で事実だけを告げた。

『宇宙全体のエネルギーは、確かに減り続けている。しかし、結合によってその総量は増加した。統合情報思念体も、そのことに危機を抱いてはいない』



言うだけ言って、通信は切れる。
だが、言われたことはただ一つ。

いま、彼らが行っている使命はすべて必要のないモノとなった。


「あー、ここに資料があるわけだけど、難しくて俺にはわからん。まあ勝手に見てくれや」

どこから取り出したのか、一冊の本のようにまとめられた資料をだし、ぽいと投げ捨てる蒔風。


クリップが外れ、バサバサとそれがキュゥべえの前に散る。
それは、確かにあの少女の言っていることを裏付ける内容だった。


「確かに、宇宙という物は膨張と縮小を繰り返している。今は膨張期だが、縮小期になれば恐らくこの宇宙は滅びるだろう。でもねぇ・・・・それ、多分数千兆どころかそれ以上先の話だぞ?」

「たしか、そもそも地球の寿命があと50億でしたっけ?」

「それ太陽の寿命な。まあそうなる前に、人類が先に衰退してそうだけどなー・・・んで、お前たちはそれまで繁栄できているのかな?」

「・・・・・!!」

「お前のとこじゃどうだか知らんが、少なくともこの世界じゃ宇宙より生物が長生きできる可能性なんてねーよ。宇宙が縮小する時にゃ、それよりも前に生物は滅んでるよ」

「それに、それで滅ぶなら自然の摂理、ってやつですしね」

「そのとーり。あー・・・・でっかいスケールの話してつかれたァ・・・・」


んー、と伸びをして、身体の筋を伸ばす蒔風。
もうキュゥべえのことはどうでもいいのか、完全に眼中にない。


「そんな・・・ばかな・・・・!!」

「あ?」

「それじゃあ、僕たちのやってきたことは・・・・」

「ああ、無駄だって言ったろ。少なくとも、今からセコセコ対策とる必要なんてのは皆無だ。数百万年頑張って、する必要もないのにセコセコ人類育てて、それなのに誰からも褒められることなく、最後には「お前のやってたことは無駄でしたのー」だもんな。笑えるぜ」

「・・・・・・・・」

「数百万年、お疲れ様ですたー。さ、無駄だからもうこの星から去っていこうや。お前もいやだろ、こんな星。合理的に考えて」

「ぐ・・・うぅ・・・・・」


瓦礫の上に、置物のように座るキュゥべえが唸りを上げる。
顔はうつむき、まるで何かをこらえているかのような様子すら見せる。


「お?怒ったのか?」

「僕たちに・・・・感情なんてものはない・・・怒るなんて・・・ことは・・・・・」

「でも、怒ってるよね」


蒔風の問い、キュゥべえの返答、映司の追い討ち。
そう、確かにキュゥべえは今まで感じたことのないモノを感じていた。



「もうひとつ教えてやる、インキュベーダー。あぁ、安心しろ。今までのこととは関係ない話さ。心の講義だ」

そう言って、蒔風が人差し指をピッ、と上げて話を始める。
映司もその話に聞き入る。


「感情や心ってのは伝染する。誰かが楽しそうなら楽しそうにするし、誰かが悪いことをすれば自分も・・・という気がしてしまう。ま、その真逆になることもあるけど」

「朱に交われば赤くなる・・・ですか。同感や同情、あと妬みとか卑屈、ってこと?」

「まあそんなもんだ。実際、感情を刷り込まれていなかったヒューマノイドインターフェースに感情が芽生え、人格でしかないデバイスにはマスターを思いやる心が生まれた」

「そして満足することのできなかった、ただのメダルでしかなかった奴にも、魂を得ることができた・・・・」




「そう。間違いなく感情は――――心ってのは無からだって生まれるし、周りの環境さえあればいくらだって増大する。ま、お前らの言う「物理法則に捉われない」ってやつだ」

皮肉のように言う蒔風。
キュゥべえは聞こえているのか、無感情そうな目で蒔風を見る。


「もしその個体にそれを受け入れるだけの知性があるのなら、心はそこに生まれ出ずる。大半の機械にそれがないのは、感情を得るだけの器が足りてないからだ。もしそれを受け止めるだけのキャパがあるならば、どんなものにでも心は宿る」

「つまり、ただの機械だと感情を得てもオーバーしちゃうってことですね」

「フリーズだな。過剰情報で煮詰まっちまうんだ。だが・・・・心はそれだけ取扱いの難しいものだってことだ」


「じゃあ・・・・これは・・・・・」

「自覚させてやるよ、インキュベーダー。それが、感情だ」

「これ・・・が・・・・なぜ・・・・」


「お前を支えていたのは使命感だ。宇宙を救うためという大きな目標があったからこそ、こんな星でもやってこれた」

「こんな星?」

「言ってたでしょ?彼等には感情が無いって」

「・・・・ああ、感情がない彼等からしてたら、俺たちは精神異常者にしか見えないってわけですね」

「それがいけないわけじゃないが・・・・彼等にとっては苦痛だったろうな。その補佐を数百万年もやってきたんだから」

「だけど、それが崩れた」


「断言するぞ、インキュベーダー。お前のそれは感情だ。心だ。全く・・・・そんだけの時間この星にいたくせに、そんなこともわからないのか?というか、やっとわかったのか」

「ぐ・・・が・・・・」

「物わかりの悪いというか、鈍感というか、やっと影響を受け入れたか・・・・俺たちは生まれて数年で自覚する心を、お前は数万年もかけるんだから、お笑いだよ」



「そう・・・・か・・・・じゃあ・・・・これが怒り・・・という物なんだね」

「お、自覚した?」

苦しそうな声だったキュゥべえだが、その声がだんだんと戻っていく。
体勢も戻っており、さっきまでの座っていた体勢と同じだ。



「そうだね。確かに僕は君たちで言う「怒っている」状態なんだろうね」

「まあそうだな」

「でも、僕はそんなものに流されはしないよ」

「そうか」


「ただ・・・・・」

「?」


キュゥべえの顔がうつむき陰に染まる。

様子がおかしい。
映司が目の前の相手に困惑していると、蒔風が険しい顔をして警戒していた。


「来るぞ映司。構えろ」



一言発し、緊張が走る。

そしてそれにこたえるかのように、目の前のインキュベーダーも宣言した。





「そこまでして集めたエネルギー、無駄にするのはもったいないと思わないかい?」


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「ちょっとちょっと!なんですかあなたたち!!」

「そこの女一人だけが無事だなんておかしいじゃないか!!」

「出せ!!そいつは呪いの女だ!」

「悪魔を殺せ!!」


村の狂気。
標的は一人に向けられる。

手に持つのは、いつも生活に使用している道具ばかりだ。


「そいつは外から来た人間だ!!」

「そうだ!どこから来たのかもわからないそうじゃないか!!」

「神父様は騙されているんだ!!」



教会の扉で、神父が相手にする村人たちはすでに正気を失っている。
このままでは「神父は悪魔に敗れた」とでもいって、彼も殺されてしまうかもしれない。


教会内部では、子供たちと唯子が隠れていた。

自分が出て行けばいい、と言い張った唯子だが、子供たちが不安がってしがみついてしまったのだ。
引き剥がすこともできず、こうして隠れている。


隠れている場所は、教壇より奥の下だ。

ちょうど、十字架が立てられている真下。
真正面から見ても、教壇に隠れて見えない場所に出入り口がある。

最悪、奥の方に抜け道があるのでそこからも逃げだせる。



「どうしてこんなことになっちゃったのぉ・・・・?」

「ねーちゃん、悪魔なんかじゃねーのに・・・・」

「俺話してくる!!そうすれば――――」

「ダメ!ここから出ちゃいけないって、神父さんも言ってたでしょ!!」


涙で瞳を潤ませる女の子
この状況に憤る二人の男の子
それを止める、唯子


もしこのまま出て行ってそんなことを言えば「悪魔に魂を取られた」として殺されるのがオチだ。

そうじゃなくても、彼らが唯子と共に生活していることはわかっているのだ。
何も言わなくても標的にされるかもしれない。


そこで



ガシャァ!!

『―――そ!どこ――――』

『よくも神父さ―――』

『本物の―――は―――こだ!!』


教会内に、暴徒が入ってきた。
唯子が子供たちを奥に行かせて、小さな扉の隙間から外をのぞく。


彼らが口々にするのは、悪魔である唯子への、確証のない罵倒。
そして、よくも本物の神父様を、という怒りの言葉だった。


「私が神父さんやっつけて偽物を用意したってこと?・・・・あれは!?」

のぞき穴から得られ得る情報をまとめると、用はそういうことらしい。
まったくもってまともでないし、つじつまの合わない話ではあるのだが、もう村人たちは止まらない。



その光景をのぞき穴から見、目の前を村人の足がバタバタと駆け回るなか、唯子は気付く。
頭から血を流した神父がこっちに向かって少しづつ這いずって来ているのだ。

だが、少し進んで体力が尽きたのだろう。止まってしまう。
しかし、除き穴の向こうに唯子を見るとニッコリと笑い、コクンと頷く。

そして神父の頭はガクリと崩れて、そのまま動かなくなってしまった。


「おねーちゃん?」

「みんな、逃げるわよ」

その神父が頷いた瞬間に、唯子は涙を振り切って後ろの子供たちに声をかけた。

その中は細長くなっており、数メートル進むと途中から洞窟となっている。
入るときに渡されたランプに火を灯し、内部を照らして進んでいく。


「おねーちゃん、先に!!」

「いいから進みなさい!!」


狙われているのが彼女だと知っているため、少年が唯子を先に勧める。
だがその時間も惜しいと言わんばかりに、唯子はいいから先に進むよう促した。



『おい!!こんなところに・・・・』

『この先だ!!追い込め!!』

『この方向なら崖の洞窟だな!!』

『先回りしてやる!』



後ろから、村人の声が聞こえてきた。
見つかったらしい。

狭い洞窟だけあって、反響してよく聞こえる。

「おね」

「シッ。黙って」


心配そうに声を発する少女に、唯子が人差し指で黙らせる。
向こうから聞こえるということは、こっちからも聞こえるということ。

むざむざ教えてやることもない。


だが


『おい!!明かりが見えるぞ!!』

『見つけた!!あいつだ!!』

『捕まえろ!!』


「くっ・・・・」


やはり子供と大人の足では、いずれ追いつかれてしまう。
狭い洞窟と言っても、子供の方が有利になるほどの小ささではないのだ。


「ねーちゃん、来たぞ!?」

「そうね・・・・口閉じてなさい」

「え?うわ!」


心配する子供たち。唯子はその三人を両脇と背中に抱えると、洞窟内を一気に走り出した。


狭い洞窟だ。すぐに熱気が籠り熱いはずなのに、噴き出すものは冷や汗だけ。
そうして村人たちの声と明かりが遠くになって行き、目の前に光が現れた。


「外だ!」

「舌噛むわよ!閉じてないさい!!」

出た先は、教会裏の丘の崖だ。
崖には切り出された足場があり、それが階段のように曲がりくねっている。

だが、走っていた唯子に止まるだけの時間はなく。


「目ェ閉じてないさい!!」

「マジかねーちゃん!!」

「ヤダやめてぇ!!」

ダンッッ!!



その洞窟から、一気に飛び出していった。
当然、宙に放り出される唯子たち。

そちら側に先回りしていた村人たちも、洞窟から飛び出した彼女たちを見た。
子どもを抱え、空に飛びだしたその姿に唖然としながらも、その方向へと走り出す。



「だァッ!!」

一方唯子は、崖下に広がる森の、届く範囲の一番高い気に足を付けた。

両腕は抱えているので使えないし、背負っているため転がることもできない。
あと頼れるのは、この二本の足だけなのだ。


木の側面に足を付け、不動によって衝撃を送る。
バキッ!と木に足跡が残り、唯子は別の木に向かって跳躍する。

そこでも同じように衝撃を送り、そうして少しずつ落下の衝撃を消費して、次第に下へと降りて行った。




「(スタッ)っとと、大丈夫?」

「「すっげぇ~!」」

「おねえちゃん・・・?」


感動に目をキラキラさせる男の子たちに、不思議そうな顔をして唯子を見つめる女の子。

考えてみれば、こうした唯子の力を見るのはこれが初めてだったりする。


「どこで習ったの!?」

「うんとね・・・・どこだっけ?」


『おいこっちの方だぞ!!』

「!!―――行くよ」


会話もまともにできないまま、三人は走り出す。
そのまま教会から遠ざかろうとしているのだ。

こっちの方向には、荒野が広がるばかり。
森さえ抜ければ、そこは村の外だ。出て行きさえすれば、彼等も満足するかもしれない。

故郷からこの子たちを連れだしてしまうのは少しかわいそうだが、命には代えられない。
そう考えた唯子なのだが、森の出口にまで行ってその考えが甘かったことを実感する。


「なにあれ・・・・」

何時の間に設置したのか。
森の出口の境界線上に、大きな壁が張られていた。

その気になれば突破は出来るが、今はこの子たちがいる。


しかも敢えてなのか壁はビッチリと並んでいるわけではなく、隙間が空いているのだ。
もしあの壁の向こうに誰かがいて、待ち構えているとしたら・・・・


そうなれば狙い撃ちだ。
唯子はその場でUターンする。


道ともいえない森の中を、四人は獣道に頼って進んで行く。
獣道とは言うが、おそらく村の狩人が使っているものだろう。


と、なれば
この道に行く先は、町の中ということになる。


逃げ場はなく、逃げ道は一つしかない。


四人は逃げて行くために、その狂気のはらわたに飛び込んで行くことになった。





to be continued
 
 

 
後書き
蒔風
「キュゥべえ思いっきり馬鹿にしてきたよ!!」

そんな話の今回です。



このめぐ銀の世界だからこそ言える否定ですよね。
他の世界が分かっていて、更に宇宙に対しての必要も全くないんです。

だって情報思念体とかいるんですよ?
大丈夫に決まってるじゃないですか



映司
「あれ?でも俺何のために残ったの?」

聞き手

映司
「そんな!?」


まあそれだけじゃない。
映司が残った理由は、この後にわかりますよ。

というか、もう何をするのかはわかると思いますが。




一方唯子サイドは完全に村を敵に回しています。

イメージは「過去の雛見沢村」です。
まあこっちは西洋風の村と言うか町と言うかですが。


一切説明していませんでしたが、お分かりのようにここはワルプルギスの夜内部の疑似空間です。
夢のようなものですね。

では、この夢は一体誰の夢なのか・・・・
まあ推測は簡単ですが。



ゆーわけで、更に加速する最終決戦!!
ほむらの方はまだまだ後です!!




映司
「次回。帰って来た、口の減らないアイツ」

ではまた次回
 
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