元令嬢、冒険者になる 〜婚約破棄されたので国を捨てました〜
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プロローグ
前書き
「ラミス・マートライト!貴様が騎士団長という身分を傘に取り、その部下を虐めた悪行其方の兄から全て聞いた!その罪は許しがたく、
よって其方と私との婚約を破棄する!」
それは王子とラミスの婚約を正式に決定するために行われたパーティ会場。
様々な人々の視線を集める中、豪華な衣装に身を包んだ男、このスプライム王国の王子が私を指差し叫んだ。
そして王子が叫んだ言葉の内容、それはとんでもない物だった。
正式に婚約を定める場での王子による婚約の破棄。
それは正式な理由であればどんな高位の貴族令嬢であれ、一生後ろ指を指され生きて行かなくてはならなくなる。
部下を無意味に殴る。
部下の給与の横領。
そして積極的に身分の低いものに対する虐め。
だが王子が指摘したそれらのラミスが犯した罪は婚約破棄するのに充分な罪だった。
しかしそのことを悟りながらラミスに浮かんだ表情はまるで何が起こっているのが分からないというような驚愕。
「それお兄様がやらかしたことですのに……」
そして、私はぽつりと口から愚痴とも、呆れとも受け取れる言葉を漏らした………
王子がラミスに告げた罪、それはラミスの不肖の兄が犯した罪だった。
そしてそのことは高位の貴族であれば殆ど知っていることで、王子が分からない訳がない。
「はっ!自分の罪を暴かれたことに言葉もないか!」
だが何故か王子は自信満々にラミスを責め立てる。
そして、これはもしかして王子は誰かに騙されているのでは無いのだろうか、という考えがラミスの頭によぎる。
正直あり得ない事態だと思うが、目の前に立つ王子は正直屑で馬鹿だ。
勘違いしている可能性は否定できない。
ラミスはそう判断し、王子に間違いを指摘しようとして、
「これはお前のせいだから、な」
口を開く前に王子に耳元でそう囁かれた。
何事か分からず呆然とするラミスを見て王子は下卑た笑みを浮かべる。
「お前が素直に身体を俺に明け渡していたらお前はこんな目に遭わずに済んだんだよ!」
「っ!」
そしてラミス次の王子の言葉を耳にし、自分の予想が大きく間違っていたことを悟る。
王子はラミスが冤罪であることを知っていて婚約破棄を持ちかけたのだ。
ー あぁ、私の身体を得られないことに耐えかねてこんな騒ぎを起こしたのですか……
そしてラミスは王子の考えを全て悟り、小さく溜息をついた。
王子とラミスの婚約、それは愛からのものではなく政略結婚だ。
だが、政略結婚と言っても王家とマートライト家を結ぶものでは無い。
王家がラミス個人を王国に留まるための婚姻なのだ。
というのも、元々スプライム王国はかなり大きな国であったのだが、今はかなり衰退しそして腐敗してきている。
そんな中、どんどん優秀な人材は外に流出していっていたが、だがマートライト家の管理する王国の騎士団だけは世界最強の名を持っている。
そしてそんな人材が騎士団に集まる理由、それは武勇で名高いラミスがこの王国にいることなのだ。
だが、その兄であるサーマル・マートライトは才能はあるものの、努力をしようとしない愚物で、男子であるという理由で彼がマートライト家の当主になった今、ラミスがこの王国を抜け出せば最強の騎士団が崩れるのは目に見えている。
そのことを恐れた国王がラミスを王国に留まるために王子と結んだのがこの婚約で、そのことを知っていたラミスは1つ条件をつけた。
それは王子が愛人をいくら作ろうが気にはしないが、自分との肉体関係は拒否する、という。
その理由は国王に甘やかされて育った王子とそんな関係になるのはごめんだという、至極簡単なもの。
だがラミスは余りにも容姿が整い過ぎていた。
艶やかな金髪に、メリハリの取れた豊満な胸と臀部にしなやかなウエスト。
そして王子がそんなラミスを前にして我慢が出来るはずがなかった。
もちろんラミスはそのことを悟っており、王子が心変わりをすれば肉体関係を許すと言ったのだが、王子が自分を変えようとすることはなかった。
それどころか力強くで押し倒そうとしてきたのだから。(もちろんラミスは返り討ちにしたが)
「本当に、想像以上の馬鹿でしたわね……」
そして流石に王子の暴走が目に余ると考えていたラミスだが、まさか妹に劣等感を抱え逆恨みをしている兄と手を結ぶとは思っておらず、思わず頭を抱える。
そしてぽつりと言葉を漏らした。
「これまでお父様のいう通り王家の顔を立ててきましたが、もうやめますか……」
対する王子はラミスの言葉が聞こえず、ただ婚約破棄を恐れているとでも思ったのか、相変わらずの下卑た笑みのまま、ラミスの耳元で何事かを囁こうとして、
「今からでもお前が俺のものになるならば、お前の冤罪をこのおれ………ぶべっ!」
「気持ち悪いですわ!」
その途中でラミスに殴られ吹っ飛んだ。
「うわぁ!」
「に、逃げ、ぐはっ!」
そのまま王子は素晴らしい回転のまま飛んで行き、王子とよくつるんでいるボンボン達の中に突っ込む。
「あぁ、気持ち悪い……と、鳥肌がしてきましたわ……」
突然王子が宙を舞ったという状況に周囲の貴族から言葉が消える。
だがラミスは一切周りを気にすることなく必死に王子が囁きかけた耳を擦り続ける。
そしてパーティ会場になんとも言えない空気が漂いだして、
「貴様ぁ!よくもこの私を!王子であるこの私を投げ飛ばしたなぁ!」
しかしその空気は意識を失ったかと思われていた王子の叫びに霧散する。
どうやら下敷きになった人間がクッションになり、意識を失うことを免れたらしい。
赤くなった頬を涙目で抑えた王子の憤怒に満ちた表情に会場に緊張が走り、ラミスは憎々しげに舌打ちを漏らす。
「ちっ!殺さないように手加減して殴ったのと、気にくわない輩に密集しているところに殴り飛ばしたのが間違いでしたわ!」
「貴様ぁ!騎士団!この罪人を捕らえよ!」
ラミスの言葉に王子がブチギレて、もう引き返せない所直前まで緊張した空気が会場を覆う。
「両方そこまで!」
「っ!」
だがその空気は新たに現れた国王の言葉によって霧散した。
「ちちう、」
そして自分を散々甘やかしてきた父の登場に王子は顔を勝利の確信で輝かせて、ラミスに嘲笑を浮かべる。
「ラミス殿!どうか!」
「っ!」
ーーー だが、その顔はラミスに土下座した国王の姿にあっさりと固まることとなった。
◇◆◇
「ち、父上何故その女にそんな格好を……」
震える声で王子が国王にそう問いかける。
「この、馬鹿者が!」
「がっ!」
だが国王はその問いに答えないどころか、王子の頭を拳で殴りつけた。
そしてさらに馬乗りになり、王子を殴り続ける。
「いや、ち、父上、やめ、やめたください!」
「巫山戯るな!お前は、自分が!何をしたのか分かっているのか!」
鬼気迫る表情で我が子を殴る国王の姿に貴族達の間になんとも言えない空気が流れる。
「そんなことをしてももう遅いですわよ」
「っ!」
だが、ラミスの冷ややかな声が国王の行動を止めた。
「ラミスど、」
国王はそのラミスの様子に焦ったように口を開くが、
「言ったでしょう。ちゃんと子供を躾けろと。幾ら派手に子供を罰した所で、もう遅いですわよ。」
「っ!」
しかしラミスは国王の言葉を聞くまでもないというように遮る。
「お願いです!ラミス殿!今貴女にこの国を抜けられたら……」
だがそれでも国王はラミスに嘆願する。
「私は一度、あなた方の行いを許しました。
決してあなた方を信じた訳ではありませんが、一度だけは。
2度目はありません」
「っ!」
そしてその日、1人の令嬢が王国を去った。
そのことに危機感を覚える人間は殆どいなかったが、だがその時からゆっくりとそれでも確実にスプライム王国は破滅への道を進んで行くこととなる……
後書き
暁では初めてです。
よろしくお願いします!
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