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艦隊これくしょん~男艦娘 木曾~

作者:V・B
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第三十話

 
前書き
どうも、三十話です。 

 

―遊戯場―
 

「全く、よくよく考えれば二号がそんなことするわけねぇじゃんか…………あー、バカした。」
 
あのあと、春雨、俺の順番でドックに入ってきた。終わったときにはすっかり暗くなっていたから、自分の部屋で拓海と悠人とでババ抜きをしてたら、急に春雨がやって来た。
 
「あの…………摩耶さんが遊戯場で待ってるって…………。」
 
とのこと。
 
そんで、俺と春雨は部屋に悠人と拓海を置いてきて、遊戯場にやって来た。中では摩耶さんがダーツをして遊んでた。
 
「さっき拓海は〆ておいたので。気にしないでいいですよ?」
 
俺は少し遠い目をした。あいつ、死んでねぇかな……。
 
「何したんですか…………?」
 
春雨が少し怯えながら聞いてきた。悩んだけど、話すことにした。

「いや、カフェイン二百五十ミリグラムいっぺんに摂取させただけだよ。」
 
俺は徹夜するときとかに、カフェインが入っているドリンク剤を飲むんだけど、百五十ミリグラム配合のやつと百ミリグラム配合のやつがあるから、それを一本ずつ飲ませた。
 
「ほんとに死ぬぞ!?」
 
摩耶さんが驚いたように叫んだ。春雨はガタガタ震えている。
 
 
(※カフェインは一度に大量摂取すると、カフェイン中毒を起こして最悪の場合死んじまう事がある。拓海はここでの研修でカフェインには馴れてたからある程度は大丈夫だけど、テメェらは絶対に真似するんじゃねぇぞ?自殺したいなら話はべつだがな。 By 木曾)
 

うーん、なんか危ないことをしたら木曾の声が聞こえる気がするんだよな…………ま、気にしちゃ負けか。
 
「と、取りあえず摩耶さん!私たちに何か用事があるんですよね?」
 
場の空気を変えようと、春雨が声を大にして言った。ナイスだ。
 
「お、おう。そうだったな。」
 
と言うと、摩耶さんは机の上に置いていたダーツの矢を俺と春雨に渡してきた。

「えっと、どーゆーことです?」
 
すると、摩耶さんは、呆れたような顔をして、
 
「おいおい。ダーツ磐の前に立ってて矢を渡されたら、一緒にやろうやってことだろ。」
 
と言った。確かにそれもそうだが…………と、なんとなく腑に落ちない感じでモヤモヤしてたら。
 
「…………たまには遊びましょうよ。」
 
春雨がダーツを構えた。…………そして、振りかぶった。
 
…………振りかぶった?

「えいっ!!」
 
春雨はそのまま全力投球なんじゃねぇかってぐらいの力を入れてダーツの矢を投げた。春雨が駆逐艦の平均的な体力とは言え、それでもやはり艦娘。恐らく、時速二百キロメートルは出てたのではないだろうか。
 
ダーツの矢は、的から大きく外れて、後ろの壁に当たった。ドゴンと音がした。
 
矢は回転していたらしく、壁に横向きで埋まっていた。
 
「バカ野郎!ダーツの矢を振りかぶって投げるやつがいるか!」
 
摩耶さんは春雨に一喝した後、机に置いてあった赤色ペンを持った。そのまま壁に移動し、春雨の投げた矢のところに、
 
『←春雨』
 
と書いていた。懐かしいなおい。
 
「ご、ごめんなさい…………。」
 
しょんぼりする春雨。いや、確かにダーツの投げ方って知らない人は本当に知らないもんだしな。綺麗なオーバースローだった。
 
摩耶さんは壁に埋まったダーツの矢を取って(そこそこの深さで埋まってた)、俺らの近くに戻ってきた。
 
「ほれ次、二号だぞ。」
 
そのまま俺に催促してきた。
 
…………俺、ダーツしたこと無いんだけどな。
 
俺は的の前に立って、矢を構えた。肘を固定して、肩の前に肘を持ってくる。
 
―――そのまま、スッと投げた。
 
タンッと音がして、矢が的に当たった。
 
「―――5トリプル。」
 
摩耶さんがそう言った。
 
「えっと、なんすかそれ。」
 
ダーツのルールが全く分からない俺。5トリプルなんて言われても分かる筈もない。
 
「このさ、細い二重円の内側の円のところの5の所に刺さってるだろ?ここは『刺さってるラインの数字の三倍の得点』貰えるんだよ。」
 
確かに、的の外側の『5』の所の『二重円の内側の円』に矢は刺さっている。

つまり、五かける三で、十五ポイントってことか。

…………成る程。
 
「かなり面白いですね。」
 
「だろ?」
 
ニヤリと笑う摩耶さん。
 
「さぁ!どんどんやってこーぜ!」
 
摩耶さんはそう言うと、手元の矢を持った。
 
 
―一時間後―
 
 
「いやー、流石に一週間で雷撃を形にしただけはあるわ。吸収はやいな。」
 
俺達はそのあと、遊戯場が閉まる時間までダーツをして楽しんだ。
 
「今日はありがとうございました。また誘って下さい。」
 
「とっても楽しかったです!」
 
俺と春雨は摩耶さんにお礼を言った。
 
 
 
 
「いやいや、本題はここからよ。」
 
 
 
 
摩耶さんは、真面目な顔をしてこちらを向いた。
 
「「…………?」」
 
きょとんとする俺と春雨。
 
 
 
 
「お前らにまだ木曾の昔話しをしてねぇだろ?」
 

 
 
「は?」
 
思わず間の抜けた声を出してしまった。
 
「私たちは勝負に負けたんですよ?なのに、なんで。」
 
春雨はそう言った。確かに摩耶さんは、『アタシに勝ったら教えてやる。』と言っていた。
 
「いやいや、どう考えても今日の対決は誰に聞いてもお前らの勝ちだぜ?」
 
また訳の分からない事を言い出した摩耶さん。しかし、誰に聞いても、と言うのはどういうことだ。
 
「アタシに水上機を飛ばさしたんだ。誇っていいことだ。」
 
そう言えば、俺達が真っ向勝負を挑んだとき、摩耶さんは水上機を飛ばしていた。摩耶さんが水上機を飛ばしたところを見たのは、俺も春雨も初めてだった。
 
「あれのおかげでお前らの正確な位置が分かるからな。」
 
「「あ。」」
 
俺と春雨は同時に理解した。
 
『着弾観測射撃』だ。
 
水上機を扱うことのできる艦種は、水上機から敵艦の正確な位置を計測して、それを艦娘に発信。それをあてに砲撃するものだ。水上機を扱える大多数の艦娘が使っている。
 
「流石に新入りと見習いにあそこまでやられるとは思わなかったからな。思わず飛ばしちまった。」
 
ただ、摩耶さんは今の今まで、そんなものを使っていなかった。
 
つまり――――――。
 
 
 
 
『手加減していたとはいえ、アタシに一矢報いたことは誉めてやる。だから褒美に教えてやる。』
 
 
 
 
「そーゆーことだ。」
 
摩耶さんは、俺と春雨の表情から、俺達がすべてを理解したのだと気づいたらしく、そう言った。
 
……………完敗だ。
 
「ふぅ――――…………。」
 
ため息をついて、壁にもたれ掛かる俺。春雨はその場にへなへなと座り込んでしまった。
 
なんたる屈辱。
 
手加減されて、それなのに一発当てたことに多少なりとも喜んで。
 
ちょっと本気を出されたら感じ何もできず。
 
最後には塩まで送られた。
 
もはや何も言うことはない。完全なる敗北。略して完敗。
 
俺はいつの間にか握っていた拳を開いて、深呼吸を一回。
 
吸って、はいて。
 
 

「…………いえ、大丈夫です。」
 
 

俺はそう言った。

壁から離れて。
 
摩耶さんを真っ直ぐ見て。
 
 
 
「俺は、たかが手加減された程度で最初の約束を変えるようなちんけな男じゃないと思ってる。」
 
 
 
「そんなちっせぇ理由で聞いたとしたら、俺に雷撃を教えてくれた木曾、一緒に訓練した春雨とかに、すげぇ失礼だ。」
 
 
 
「あなたに負けた時点で、俺が木曾の昔話しを手にする方法は完全にねぇんだ。テメェのプライドかメンツかは知らねぇが、んなことの出汁にされてたまるか。」
 
 
 
「いつか見てろよ。そんなプライド、ズタボロにしてやるからな。」
 
 
 
「俺は、勝者に愚弄される敗者じゃない。」

 
 
 
俺はそう言うと、摩耶さんと春雨に背を向けて歩き出した。
 
春雨は驚いた顔をしてたし、摩耶さんはこちらを睨み付けながら笑っていた。
 
…………これが俺、七宮 千尋の、人生最大の負け犬の遠吠えだった。
 
 

 
後書き
読んでくれてありがとうございます。僕も昔、今回の二号君みたいな負け犬の遠吠えをしたことがあります。友達とのポケモンバトルのときでしたが。今思い出すと、死にたい位恥ずかしい。
それでは、また次回。 
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