提督はBarにいる。
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不幸お茶の会・定期総会その2
「んで、そっちのドイツ組は何でやけ酒してんだよ」
どうにか機嫌が持ち直したらしい陸奥から一旦離れ、カウンターの隅でビールをがぶ飲みしていたレーベとマックスに話を聞く。ウチの店の本来の目的は艦娘の悩みを聞いて、それを解決に導く事だからな。決して毎晩酔っ払いを量産する事ではない。
「あぁ、提督……」
「なんだかね、虚しくなってきたのよ」
どんよりとした顔だな、オイ。ここまで2人が落ち込むなんて余程の事だろうに。
「なんでまたそんな事に」
「日本の駆逐艦の娘達は幸運な娘が多すぎるのよ……!」
ギリギリと歯軋りをしそうな顔で、そんな台詞を絞り出したのはマックスだった。
「時雨とか、初霜とか、雪風とか!その他の娘達でも幸運に恵まれた娘が多くないかな?」
若干涙目のレーベは、真剣な表情でそう語った。まぁ確かに戦績だけ見ると若干頭のおかしいレベルでツイてる奴等がいる。
「けどなぁ、そりゃお前戦闘回数が多けりゃ幸運な話の1つや2つ出来てもおかしくはないんだぞ?」
「それなら、敵艦と間違われて空爆された娘はいるかしら?」
「う、それを言われるとキツいな……」
レーベとマックスの沈んだ原因は、夜間の空襲……それも、敵艦と誤認されて味方であるドイツ空軍に爆撃されて沈むという曰く付きの代物だ。そこまで不幸な境遇で沈んだ奴も、パッと浮かぶのは日本の艦艇にはあんまりいないよな。
「あ、なら深雪とかどうだ?アイツ訓練中に衝突されて沈んでるぞ。中々の不幸っぷりじゃないか?」
「深雪ちゃんもこのお茶会のメンバーに誘ったんですけど、断られちゃいました……」
そう言って会話に割り込んで来たのは、扶桑だった。ってか誘ってたのかよ深雪。
「何でまた断られたんだ?」
「『俺、あんまり気にしてないから蒸し返したく無いんだよね!』って屈託の無い笑顔で言われたら、もう誘えませんよ……」
「お、おぅ」
何というか、物凄く深雪らしい発言だな。加害者である電はまだ若干引きずっているようだが、被害者の深雪の方が引きずってなかったとはな。まぁ、深雪の奴はサバサバした性格だかららしいっちゃらしいがな。
「それならお前らもあんまり気にしなけりゃいいんじゃねぇのか?不幸かどうかなんて本人の気の持ちようだろ?」
降りかかる突然の不幸は回避できないが、泣きっ面に蜂というか、連鎖的に起こる不幸は回避できるんじゃないか?というのが俺の持論だったりする。そもそも起きた事柄が幸か不幸かなんて本人の捉え方次第だと思うんだよ、俺は。
「けれど、過去の不幸は消せませんよ?」
どんよりとした雰囲気を漂わせている扶桑。そりゃそうだ、それこそどっかの青いネコ型ロボットのタイムマシンでも無けりゃあ、過去を書き換えるなんて真似が出来るハズもない。
「じゃあ聞くが、扶桑に山城。お前らウチに来てから不幸な事しか無かったか?」
「そ、そんな事はありませんよ!」
「カッコカリですけど、提督のお嫁さんにもなれましたし!」
首をブンブンと左右に振って、それを否定する2人。
「翔鶴に、陸奥に、大鳳も。毎日が苦しいか?」
「いいえ?」
「むしろ充実してるわ」
「美味しいご飯に、気の合う仲間……時々夢なんじゃないかと思う位です」
「レーベとマックスは故郷を離れてウチにいるが、辛いか?」
「ううん、艦隊決戦は慣れない事も多くて大変だったけど……」
「皆が気を遣ってくれて、今はドイツの仲間も増えて楽しくやっているわ……不謹慎かもしれないけれど」
「な?人生全てが不幸だ、なんて奴はこの世にゃ居ねぇのさ」
何かの本からの受け売りだが、人生に於ける幸運と不運の割合は半々で、それがいつやって来るかはランダムらしい。さらに、振り子の振れ幅のように不運が積み重なった後にやって来る幸運は反動で大きくなるという事が書いてあった。気休めかもしれないが、そう考えると少しは気が楽になるだろ?
「だから、お前らも不幸だ不幸だと嘆かないで『幸運の積み立て貯金をしてるんだ』と思ってみたらどうだ」
「幸運の……」
「積み立て貯金……」
「ふふ、良いわねそれ」
それに人生のツケって奴は自分の一番苦しい時にやって来るらしいからな。幸運な奴がずっと幸せかと聞けば、怪しい物がある。
「さて、気晴らしになった所で恒例のアレ、いっとくか?」
「そうですね……宴もたけなわ、丁度良いと思います」
「あいよ、準備始めるぜ」
そう言って俺はとある料理の準備を始める。小麦粉に、その3倍強の水、削り粉、卵を加えて混ぜ、そこに醤油を一回し。それに具材の揚げ玉や紅生姜、ネギも準備。ここまで来ると解るかな?今作ってるのはたこ焼きの生地だ。毎回『不幸お茶の会』の飲み会の〆はたこ焼きときまっているのだ。しかもただのたこ焼きではない。
具材を入れ、焼き上がったらソースを塗ってマヨネーズ、鰹節、青海苔を振り掛ける。
「さぁ出来たぞ」
「では始めましょう……ロシアンたこ焼きを!」
ロシアンたこ焼き。即ちたこ焼きを使ったロシアンルーレットだ。『当たり』のたこ焼きの中には、タコではなく辛子がしこたま突っ込んである。お茶会のメンバーと俺を含めて全員で食べ進めていき、『当たり』を引いた奴が今宵の飲み代を持つ、というお遊び要素満載のゲームだ。用意したのは50個。1人に6つずつは当たる計算だ。しかも今回は特別バージョン。タコだけじゃなく中心の食材を色々と仕込んである。
「あ、海老が入ってたわ!」
「美味しいですね姉様!」
「こっちは小さく切ったウィンナーだよ」
「中々美味しいわね」
「あら、チーズだわ」
「こっちはお餅です」
と、ワイワイ楽しみながら食べ進めていく面々。俺もタコ、海老、ミニトマト等、食べると意外と美味い具とたこ焼き生地のマッチングを楽しんでいた。そして……
「珍しいわね」
「本当ですね」
「まさか、最後の2つまで当たりが出ないなんて……」
そう。50個もあったたこ焼きは残り2つ、片方が辛子たっぷりの当たりである。
「片方は俺が食べるよ」
と、俺が立候補した。
「では、もう片方は私が……」
と、会の長である扶桑も立候補。一騎討ちの様相を呈して来たな。
「扶桑、先に選んでいいぜ?」
「そうですか?では遠慮無く……」
左右並んだたこ焼きの内、俺から見て右のたこ焼きを選ぶ扶桑。俺は自動的に左側に決まる。同時にパクっと行くぞ……
「あ!やっぱり翔鶴姉ここにいたんだ」
「瑞鶴!?なんでここに……」
いざ食べようとした瞬間、店に入ってきたのは翔鶴の妹であり、幸運艦と呼ばれる1人でもある瑞鶴だった。
「あ、たこ焼きじゃん!美味しそう……もーらいっ♪」
「あ、バカそれは」
そう言って俺の手からたこ焼きをひったくり、パクっと口の中へ放り込んだ瑞鶴。瞬間、盛大に噎せて鼻を抑えている。
「辛~い!何よコレー!」
「支払いを決めるロシアンたこ焼きやってたんだよ。って事で支払いは瑞鶴な」
「え、ちょっと」
途端に青くなる瑞鶴
「そうですね、飛び入りですけど当たりを引いたのは事実ですし」
「そうよね、奪い取ってまで食べたんだもの」
「言い逃れは許されませんね」
「瑞鶴、諦めなさい」
止めはキッチリ翔鶴が刺して、ガックリと項垂れる瑞鶴から今夜の飲み代を徴収した。
「はぁ……不幸だわ」
お前が言うな。
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