Dragon Quest外伝 ~虹の彼方へ~
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Lv44 新たな疑惑
[Ⅰ]
ルイーダの酒場で食事を楽しみながら、俺はラッセルさん達と今後についての打ち合わせをした。で、とりあえず、決まったのは、明日の昼頃、もう一度落ち合うという事で話は纏まったのである。
なぜこうなったかというと、まず1つに、バルジさん達と連絡が取れそうにない事が分かったからだ。
確認は酒場の主であるルイーダさんにお願いした。
ラッセルさん曰く、金の階級以上の冒険者は、ルイーダの酒場で、ある程度は動向を把握してるそうである。で、それを確認した結果だが……ルイーダさんの話によると、バルジさん達は今、依頼を受けてないので、王都にいる可能性が高いそうだ。が、あの依頼の件で色々と動き回っているようで、なかなかつかまらないだろうとの事であった。だが、明日の昼頃に酒場へ来ればバルジさん達に会える可能性があるそうだ。なんでも、依頼に参加するパーティの数を、酒場へ報告する事になってるからだそうである。
というわけで、俺達はとりあえず、その言葉を信じ、明日もう一度ここへ来る事にしたのである。
話は変わるが、ここのルイーダさんは、バニーさんではない。普通の格好をした美しい女性であった。
バニーがユニフォームだと思っていたので、少々意外だったが、ここのルイーダさん曰く、そんな決まりはないそうだ。
だが、酒場の主の名前だけは、誰がなってもルイーダを名乗るのが大昔からの伝統のようである。
ちなみに、このルイーダという名だが、これは創業者の名前らしい。多分、称号みたいなモノなのだろう。
というわけで、俺はまた新たなトリビアを知ることが出来たのである。話を戻そう。
ラッセルさん達とルイーダの酒場で食事を楽しんだ後、俺とラティはウォーレンさんの屋敷へと帰ってきた。今までで一番遅い帰宅だ。
すでに日も沈み、暗闇が覆う頃合いである。
日本風に言うなら、宵の口ってところだろう。
(思ったより、遅くなってしまった。ま、いいか)
屋敷へと帰ってきた俺達は、玄関扉を開け、中へと入る。
すると意外な人物が、そこに待ち受けていたのである。
なんと、アーシャさんとサナちゃんが、俺達の帰りをわざわざ待っていてくれたのだ。
「やっと帰ってきましたわね。遅いですわよ。あまり心配させないでください」
「遅くまで、ご苦労さまでした」
「2人共、待っていてくれたんですか?」
「アーシャねぇちゃんとサナねぇちゃんが、ここにいるとは思わんかったで……ビックリしたわ。コータローが心配やったんやな」
それを聞き、アーシャさんは少し恥ずかしそうに頬を染めた。
「だ、だって……今日はあまりに遅いんですもの。心配しましたわよ」
「私もです。心配だったので、待っていました」
どうやら、2人に要らぬ心配をかけさせてしまったみたいだ。
これは謝っとこう。
「そうとは知らず、すいませんでした。実はですね、ちょっと狭い道に入ると、わけわかんない所に出るもんだから、ラヴァナで迷ってたんですよ。なぁラティ?」
「ホンマやで。ワイも知らんような場所行くから、こういう事になるんや」
ラティは打ち合わせ通り、俺に話を合わせてくれた。
これには勿論理由がある。
下手に話して、一緒に行くとか言われても困るからだ。
今は余計な悩みを増やしたくないので、その為の措置であった。
それはさておき、2人の成果の方を聞いておくとしよう。
「ところで、使者の方と会えましたか? 何か進展はありましたかね」
2人は頷く。
「ええ、会えましたわよ。お父様の側近の方が見えられましたので、話は簡単に済みました。4日後にはお迎えに上がれると言っておりましたわ」
「良かったじゃないですか。で、サナちゃんの方はどうなの?」
「私もアーシャさんと同じです。でも、確認に来られた方と、その場にいたウォーレンさんは、私の正体を知って大変驚いてましたが……」
「まぁそりゃそうだろうね」
幾らなんでも、滅んだ国の王女様がここいるとは思わないだろう。
「それで、ですね。実はコータローさんにお願いがあるんです」
「お願い?」
「私達の迎えが来る日、一緒にいて頂けると嬉しいのです……駄目ですか?」
(4日後なら大丈夫か……ヴァロムさんの件とも被らないし……)
ゼーレ洞窟の件がちょっと未知数ではあるが、俺は頷いておいた。
「いいよ。その日は皆と一緒にいる事にする。それに、その日を逃すと、サナちゃん達とは暫く会えないかも知れないもんね」
「コータローさぁん……」
するとサナちゃんは、目を潤ませ、俺に抱き着いてきたのであった。
「ちょ、ちょっと、サナさん。ここでそれは、ずるいですわよ!」
「グス……先手必勝です」
2人の会話の意味が分からん。
「あの、どういう……」
「コータローさんは黙っていてくださいッ!」
「は、はい」
俺はアーシャさんの迫力にたじろいだ。
(何なんだ一体……わけがわからん)
入り込む余地がないから、とりあえず、もう触れないでおこう。
と、そこで、若い女性の使用人が、俺達の前にやってきた。
「お帰りなさいませ、コータロー様」
女性は俺に恭しく頭を下げ、話を続けた。
「帰って来られたばかりで、お疲れのところ申し訳ございませんが、ウォーレン様が御呼びでございます」
「ウォーレンさんが? わかりました。じゃあ、アーシャさんにサナちゃん、ちょっと行ってくるよ」
2人はコクリと頷く。
「ではこちらです」
そして、俺は使用人の後に続いたのである。
[Ⅱ]
使用人は、魔法陣を思わせる奇妙な紋様が描かれた扉の前に俺を案内すると、そこで扉をノックし、中に向かって呼びかけた。
「ウォーレン様、コータロー様をお連れ致しました」
「入ってもらってくれ」
「畏まりました」
使用人は扉を開き、中へ入るよう促してきた。
俺はそれに従い、そこへと足を踏み入れる。
すると中は、書斎のような空間が広がっていた。
左右の壁には本棚があり、そこには沢山の書物が並んでいる。部屋の奥には書斎机があり、中央には来客用と思われるソファーが、テーブルを挟んで相向かいに置かれていた。
そして、そのソファーには今、2人の人物が腰を下ろしており、1人はウォーレンさんで、もう1人はなんと、アヴェル王子であった。
だがとはいうものの、今はこの名前で呼ぶことはできない。
なぜなら、今のアヴェル王子は騎士・ハルミアの姿だからだ。この姿の時は、ハルミアさんと呼ばなければならないのである。
今の時間、ここにいるという事は、多分、城を抜け出してきたんだろう。
結構好き勝手やってるようである。
(う~ん……流石にフラフラ王子という称号をもらうだけあるわ)
ふとそんな事を考えていると、ハルミアさんは笑みを浮かべ、俺に労いの言葉をかけてきた。
「ご苦労でしたね、コータローさん。ウォーレンから話は聞いてますよ」
「ハルミアさんもおられたのですか。お勤めご苦労様です」
「ま、そういうわけだ。コータロー、そんな所に突っ立ってないで、ここに掛けろよ。ゆっくりと話も出来ないぞ」
「ではお言葉に甘えて」
ウォーレンさんの言葉に従い、俺もソファーに腰を下ろした。
と、そこで早速、ウォーレンさんが訊いてくる。
「ところで、コータロー。魔物の討伐依頼は、どういう決断を下してきたんだ? やっぱ、断ったのか?」
いきなり、それを訊いてきたか。
まぁいい。かえって好都合だ。
「ええ、それなんですが……実はですね、その事でちょっとご相談があるんですよ……」
「ご相談? って何だ一体?」
「少し込み入った話になりますので、順を追って話しましょう。実はですね……」――
俺はまず、イシュラナ神殿の依頼がおかしいと思った事から順に話していった。
最初は笑顔で聞いていた2人も、次第に険しい表情へと変化してゆく。
そして、俺がゼーレ洞窟の件を話し終えた時には、2人共、かなり強張った表情となっていたのである。
暫し無言の時が訪れる。
まず最初に口を開いたのは、ウォーレンさんであった。
「それは……ほ、本当なのか? 何か証拠はあるのか?」
「証拠はありません。ですが、今のは俺が確かに見てきた話です」
「し、しかしだ。どうやって、その洞窟内を見てきたんだ? さっき魔物に変装したとか言ってたが、そんな魔物だらけの所に行ったら、幾らなんでもバレるだろ」
アヴェル王子もそれに続く。
「ウォーレンの言うとおりだ。コータローさん……言っては悪いが、変装にも限界がある。1体や2体ならまだしも、魔物の巣窟と化してるような所では、流石にバレますよ。奴等だって、そこまで馬鹿ではないのですから」
俺は変化の杖を2人に見せた。
「それには、コレを使いました」
「なんだ、その杖は?」
「これはですね、俺達を襲ってきた魔物が持っていた物なんですが、そいつ等はこの杖を使って人に化け、俺達に近づいてきたんですよ」
「な、何を言っている。意味が分からないぞ、コータロー」
ウォーレンさんとアヴェル王子は、少し困惑していた。
まぁこの反応は仕方ないだろう。
この際だ。実際使って信じてもらうほかない。
「それじゃあ、論より証拠です。今からこの杖を使って、お2人を魔物にして御覧に入れましょう。ですが、決して取り乱さないでくださいね。ちゃんと、元に戻れますから」
「……わかった。やってみてくれ」
「では、いきますよ」
俺は変装用の水晶に魔力を籠めた。
その瞬間、紫色の煙が俺達を包み込む。
「な、なんだ、この煙は……」
「慌てないでください、ウォーレンさん。大丈夫です。体に害はありませんから」
程なくして霧が晴れ、2人の驚く声が聞こえてきた。
「こ、これは、魔物」
「そんな、馬鹿な……こんな事が……」
流石の2人も、これには驚いたようだ。
ちなみにだが、俺とウォーレンさんが妖術師で、アヴェル王子は悪魔の騎士といった感じである。
「これは変化の杖というらしいです。魔物達は、こういう魔導器も所持しているので気を付けた方がいいですよ。奴等は人に化けれるという事ですから。さて、では解除します。いつまでもこの格好でいたくないですからね」
俺は水色の水晶球に魔力を籠め、変装を解除した。
「さて……これで信じてもらえましたか? 俺達はこれで魔物になって移動し、ゼーレ洞窟を見てきたという事です。それとこれも付け加えておきましょう。これで姿を変えてからというもの、一度も魔物達と戦闘はありませんでした。つまり、魔物達はですね、変装した俺達を仲間だと認識していたという事です。というわけで、これが、洞窟内部まで行けた理由なんですよ」
2人は無言であった。
かなりショッキングな事実を知ったので、受け止めるのに時間が掛かるのだろう。
少し間をおいて、ウォーレンさんが訊いてきた。
「コータロー……今の話だが、俺達以外にも誰かに話したか?」
「今のところ、この杖の事を知っているのはアーシャ様とイメリア様達。それと、今日、同行した冒険者達とラティだけです。それから一応、この杖の事は他言しないように冒険者達には言ってあります。今、こういう事実が世間に知れると、王都は混乱すると思いましたので」
「ああ、そうしてくれ。もうこれ以上、余計なゴタゴタは避けたいからな」
「で、どうしますか? 奴等はあの洞窟で、冒険者を使った人体実験をしております。オヴェリウスとしても無視するわけにはいかないと思いますが?」
俺の言葉を聞き、ウォーレンさんとアヴェル王子は顔を見合わせる。
その表情はかなり険しかったのは、言うまでもない。
アヴェル王子は自分に言い聞かせるかのように、ボソッと言葉を発した。
「ウォーレン……これは国の一大事かも知れない。早めに悪い芽を摘み取らねば、国の存亡に関わる気がする……」
「それは私も同感ですが……かといって有効な手立てが思いつきません。ハルミア殿は、何かいい考えがおありで?」
「考えも何も、コータローさんの話が本当なら、もはや魔導騎士団か、雷光騎士団でなければ対応は無理だろう」
「確かにそうですが、今、魔導騎士団は、王都の警護と魔の島の警護にかなりの数を割いております。とてもではありませんが、ゼーレ洞窟にまで手が回らないでしょう。それと、雷光騎士団は王家直属の近衛騎士団です。魔物討伐に率いてよいものかどうか……」
「ああ、それは分かっている。だから、騎士はそんなに多く、ゼーレ洞窟に派遣できないだろうな」
「では一体、どうされるおつもりで?」
アヴェル王子は暫しの沈黙の後、口を開いた。
「……方法は1つだ。ギルレアンが発掘した騎士団の秘宝を使えるよう、ヴァリアス将軍とディオン殿に掛け合ってみるしかない。あの秘宝ならば騎士の数が少なくても、なんとかなるだろうからな」
「ま、まさか……アレを使うつもりですか?」
「ああ、そうだ。アレを使う以外に手はないだろう。あの洞窟で、秘宝を使うのは2度目になるがな……」
名前を伏せているところをみると、多分、口外できない秘宝なのだろう。
だがそれよりも、ここでギルレアンの名が出てくるとは思わなかったので、その秘宝とやらがなんなのか、少し気になるところだ。
答えてくれるかどうかわからないが、とりあえず、訊いてみる事にした。
「あのぉ、今、ギルレアンの名が出てきましたが、その秘宝とは一体何なのですか?」
アヴェル王子はそこで、ウォーレンさんに視線を向けた。
「ハルミア殿、秘宝の持つ力くらいなら、話してもいいのでは?」
「そうだな……。ではコータローさん、どんな形をした物かというのは話せませんが、秘宝の持つ力についてならお話ししましょう。それでいいですか?」
これはかなり気になる話である。
訊くしかないだろう。
「ええ、それで結構です。で、どんな力を持った秘宝なのですか?」
「ではお話ししましょう。実はその秘宝を使うとですね、味方の攻撃力を倍に高める事ができるのですよ。しかも、その影響力は広い為、集団戦闘における切り札として、わが国では厳重に管理をしているのです」
「味方の力を倍に高める秘宝……」
つまり、バイキルト効果のある道具って事だ。
しかも、集団戦闘における切り札と言っていたから、多くの者がその影響を受けるのだろう。
(話を聞く限りだと、凄いチートアイテムだが……そんな都合の良いアイテム、ドラクエにあったっけか? バイキルトを得られるアイテムというと、滋養強壮飲料のキャッチフレーズみたいなファイト一発というのならあった気がするけど、あれは1人用だ。Ⅷに出てきた不思議なタンバリンがそれに近いが、あれはテンション上げるアイテムだし……この他にとなると……あ!? そういえばあるわ……戦いのドラムだ。確か、あれは戦闘中のパーティ全員にバイキルト効果だった気がする。まさか……あのチートアイテムを持ってんのか? とりあえず、確認してみよう……)
つーわけで、それとなく訊いてみる事にした。
「あのぉ……その秘宝ってもしかして、叩いて大きな音を鳴らす楽器みたいな道具ですか?」
するとその直後、2人は驚きの表情で訊き返してきたのである。
「え? コータローさん、知っているのですか?」
「お前、どうしてそれを知ってる?」
どうやら、ビンゴのようだ。
まぁそれはさておき、どう答えようか。
とりあえず、それっぽい事でも言っておこう。
「実は以前、そういう魔導器が大昔にあったような事を誰かから聞いたんですよ。ま、結構前の話なので、誰から聞いたのかは忘れてしまいましたがね。名前は確か、戦いのドラムとかいうらしいですが」
「そうだったのか。まぁそれはともかく、お前の言うような代物だ」
「ですが、少々問題もあるんです」
アヴェル王子はそう言うと、表情を曇らせた。
「問題? と、いいますと?」
「今言った古代の魔導器は秘宝ですから、当然、管理も厳重です。なので、そう簡単に持ち出すことはできません。つまりですね……まずは、それを持ち出せるようにしなければならないのですよ」
ま、そんな事だろうとは思った。
「面倒な手続きが必要なんですか?」
「いや、手続きはそれ程面倒ではありません。主席宮廷魔導師と将軍の認可が必要なだけですから。ですが、これには問題があって、どちらかが駄目といったら、持ち出す事は出来ないんです」
「え? 騎士団の秘宝なのに、主席宮廷魔導師の認可も必要なんですか?」
するとウォーレンさんが答えてくれた。
「下らん話だが、これには理由があるんだよ。まぁ要するにだな、発見したのはギルレアンなのだから、これは宮廷魔導師の秘宝だという輩がいてだな、当時、宮廷魔導師側と騎士団側で結構揉めたらしいんだ。そこで、手打ちという形で、騎士団と宮廷魔導師の両方で管理をするという事になったのさ」
「ああ、そういう事ですか。なるほど」
つまり、手柄の問題のようだ。
確かに、こういうのは難しい問題である。
「という事は、その両名に認可を貰えれば、持ち出し可能なんですね?」
「まぁ確かにそうなのですが……実は今、諸事情により、そう簡単にはいかないんですよ」
「え? それってどういう……」
アヴェル王子は溜息を吐くと続けた。
「主席宮廷魔導師であるオルドラン家当主のディオン殿は今、ヴァロム様の件で、一時的に謹慎を命ぜられているからですよ。その為、今は主席宮廷魔導師としての責務を全うできない状態なのです」
「ええっと……それはつまり、肩書きだけは残っている状態ってことですか?」
「そうなりますね」
「代理の主席宮廷魔導師はいないのですか?」
「一応、今は次席の宮廷魔導師が代理をしてますよ。ですが、全権委任されたわけではないので、対応できない部分もあるのです。特に、この秘宝については、主席宮廷魔導師の認可が必須の案件なのでね。困った話ですが……」
「話の流れから察するに……今の代理宮廷魔導師では、認可出来ないということですか?」
2人はコクリと頷いた。
つまり、Exactly(その通りでございます)って事のようだ。やれやれだぜ……。
「何といいますか……その……色々とあるんですね」
「ええ。ですが……それについては私が何とかするつもりです。今の話を聞いた以上、そんな事が行われている洞窟を野放しにはできませんからね」
「その方がいいと思います。王都、いや、このイシュマリア国にとって脅威になりそうですから」
俺が出来るのはここまでだ。
後は2人に任すとしよう。
と、ここで、仕切り直しとばかりにウォーレンさんが俺に話しかけてきた。
「ま、それはそうとコータロー。アーシャ様達の件だが、恐らく、ここ3、4日の間にお迎えの者が訪れるだろうから、2人の事については安心するがいい」
「そのようですね。先程、2人から聞きました」
「しかし……まさか、あのラミリアンの少女が、ラミナスの王女様だったとはな。流石の俺も驚いたぞ」
「そうなんですよ。スイマセンでした。隠していた事をお詫びします」
俺は頭を下げた。
ウォーレンさんは頭を振る。
「別に謝らなくていい。刺客の魔物に襲われて、道中、大変だったらしいしな。身分を偽るのは止むを得んだろう」
「実際、それに巻き込まれて、俺も大変な目に遭いましたからね。ちなみに、この杖はその時の戦利品なんですよ」
俺はそう言って、右手にある変化の杖に目を落とした。
「ほう、その時の物だったのか。なるほどな」
アヴェル王子が訊いてくる。
「ではその時、魔物共は、人に化けてコータローさん達に近づいてきたという事ですか?」
「そうですよ。しかもですね、その内の一体は、先程話したグァル・カーマの法を施されたと思われる魔物だったんですよ。ですから、倒すのに苦労しましたよ。実際、全滅かと思いましたからね」
するとウォーレンさんは、大きく目を見開いた。
「お前が、そこまで言うということは、相当な魔物だったんだな」
どうやらウォーレンさんは、俺の事を買い被っているみたいだ。
変に勘違いされても困るので、臆病なヘタレと言っておかねば……。
「ええ。そりゃもう凄かったですよ。鋼の剣程度の武器では、まるで歯が立ちませんでしたからね。おまけに、口から炎を吐くわ、回復魔法を唱えるわ、補助魔法が利かないわで、散々だったんですから。臆病でヘタレな俺も、あの時ばかりは死ぬかと思いましたよ」
「……そこまでの魔物なのか。で、どうやって倒したんだ?」
「あの時は、この魔光の剣で倒したんです。これがなければ、倒すのは不可能でしたね」
俺はそう言って、魔光の剣に目を向けた。
思い返せば、鳥肌がたつほど寒い出来事であった。
ライトセーバー様様である。
「ほう、その武器が活躍したのか。それを聞いて、ますます欲しくなった。ちゃんと頼んでおいてくれよ」
「ええ、頼んでおきます」
まぁそれはさておき、ついでなのでアレの事について訊いておくか。
「ウォーレンさん、1つ訊きたいことがあるのですが」
「ン、なんだ?」
「訊きたい事というのは、他でもない、アウルガム湖についてなのですが……ウォーレンさんは以前、アウルガム湖の魚が消えたと仰っておりましたけど、どこかに移動したという線は考えなかったのですか?」
「ああ、その事か。勿論考えたさ。だが、調査を行った者の話では、その兆候はないという報告だったんだよ。だから消えたことになっているのさ」
「そうでしたか。ですが……となるとですね、少し辻褄の合わない事が出てくるんですよ」
「辻褄の合わない?」
2人は顔を見合わせる。
「今日、ルイーダの酒場に行った時に、妙な話を聞いたんです」
「どんな話ですか?」と、アヴェル王子。
「実はですね、アウルガム湖から水揚げされたとされる魚介類が、市場に出回っているのですよ」
「ああ、それはだな、近隣の町や村から王都へ回してもらっているのさ。他の地域も漁獲量が減ってはいるが、アウルガム湖みたいな事は起きてないからな。まぁとはいっても、ヒャドで氷詰めにして陸路で運ぶから、それほど多くの量ではないが」
「そうなのですか。だとすると、ますます妙ですね……」
ウォーレンさんは眉根を寄せる。
「妙? どういう意味だ、一体?」
「俺が聞いた話だと、かなりの量の魚介類が市場に流れているみたいでしたよ。それも、価格の変動が起きない程の量のようです。通常、市場に出回っている食料の数が減れば、食料の価値は上がります。ちょっとおかしいと思いませんか?」
「価格の変動が起きてないだと……馬鹿な、そんなことある筈……」
「本当ですか、コータローさん」
「ええ、間違いありません。ルイーダの酒場にいる仕入担当の方に訊いてみたのですが、仕入れ値は今までとそんなには変わらないそうです。これは、どういう事なんでしょうか? 価格の変動がないという事は、市場での取引数量もそれほど変動がないという事です。なので、それが少々気になりましてね」
2人は俺の話を聞き、顔を見合わせた。
「確かに、妙な話だ……」
俺は話を続ける。
「それから、まだ付け足す事があります」
「なんだ?」
「お2人は、ウィーグ地方にあるイスタドと呼ばれる町はご存知ですか?」
2人は頷く。
「ああ、知っているぞ。ウィーグ地方に入ってすぐにある湖畔の町だ。それがどうかしたのか?」
「今、その町は魚が面白いほど獲れて、大賑わいだそうですよ」
「イスタドがか? しかしだな……あそこの湖はアウルガム湖と直接通じてはいないぞ」
「そうなのですか。ですが、直接は通じて無くても、回り回ってという事も考えられます。この際ですから、アウルガム湖の支流となっている河川を、もう一度、調査した方がいいかもしれませんね。それと、これ程までの魚介類をどうやって市場で流せたのかという事も調べた方がいいと思います。ある筈のない量が出回っているのですから」
「ふむ……その必要はありそうだな」
「ウォーレン、漁師には箝口令を敷いてあると聞いたが、他の対応はどうしているんだ?」
「それがですね……今言ったように、近隣の街から魚介類を回してもらっているだけの筈です」
「だとすると、確かに妙だな……」
「ええ。ですが、市場がいつも通り回っているのなら、今はそれ程混乱は起きてないという事です。深刻な事態でもないですから、その辺の事は後日、漁師組合や市場の者に確認しておきますよ」
「ああ、そうしてくれ」――
その後も俺は、2人と色んな話をした。
内容は主に、この間あった魔の島での事だったが、その他にも、今の王都の状態や、ヴァロムさん関係の話も2人から聞く事ができた。
まぁそんなわけで、かなり有意義な時間を過ごせたのだが、そこで俺は少々気掛かりな話を耳にしたのである。
それは何かというと、国王だけでなく、アヴェル王子の弟君であるアルシェス王子の様子までもが、ここ最近おかしくなってきたという話であった。
王城の事は俺にはよくわからないが、色々とキナ臭い出来事が立て続けに起きている事を考えると、Xデーまで……もはや時間はそれほど残されてないのかもしれない。
[Ⅲ]
翌日の昼頃、俺はラッセルさん達と共にルイーダの酒場へとやって来た。目的は勿論、バルジさんに会う為だ。が、ルイーダさんに確認したところ、バルジさん達はまだ来てないとの事であった。
というわけで、俺達はとりあえず、空きテーブルに適当に座り、まずは昼食をとる事にしたのである。
そして、食事を始めて暫く経った頃、目的の人物がようやく俺達の前に姿を現したのであった。
「よう、ラッセル、待たせたな。ルイーダから聞いたぞ」
「おお、バルジ。待ってたぞ」と、ラッセルさん。
ちなみにだが、バルジさんは数人の仲間と共に俺達のところにやって来た。
それらは何れも修羅場を沢山潜ってそうな、かなりの手練れと思わしき者達であった。勿論、その装備品も中々の代物だ。
一応、バルジさんのパーティの構成を言うと、戦士系の男が3人、それから魔法使い系の女が2人に盗賊系の女が1人といった感じで、ある意味、王道的なパーティ編成であった。
年齢は、20代後半から30代前半くらいといったところだろうか。男は3人共、精悍な顔つきをしており、筋骨隆々といった感じだ。で、女性陣はというと、スタイル抜群の美人さん達であった。
男3人に女3人なので、もしかすると、ゴニョゴニョの関係なのかもしれない。
まぁそれはさておき、バルジさんは話を続ける。
「それはそうとラッセル、討伐には勿論参加するんだろ?」
ラッセルさんはそこで俺に視線を向けた。
多分、話してもいいかどうかを訊きたいのだろう。
というわけで、俺は頷いておいた。
ラッセルさんは話を切り出した。
「バルジ……ちょっとその件で、話したい事があるんだ」
「ン? なんだ?」
「単刀直入に言おう……あの依頼……あれは罠かもしれない。だから、行かない方が良い」
バルジさんは首を傾げた。
「罠? 何を根拠にそう言うんだ?」
「実は俺達……昨日、魔物に変装してあの洞窟を見に行ってきたんだよ」
「なんだって? それは本当か?」
「ああ、本当だ。ここにいるコータローさんに、あの依頼は不審な点が多いと言われたからな」
そこでバルジさんは俺をチラ見した。
「……で、どんな様子だったんだ?」
「この間、バルジが言っていたように、あの洞窟には確かに魔物の親玉らしきモノがいたよ。そして……見た事もない、沢山の魔物達の姿もな。依頼の通り、洞窟内は魔物で溢れんばかりだった」
「なら、問題ないじゃないか。俺達が討伐すればいいんだよ」
ラッセルさんは頭を振る。
「だが、バルジ……それだけじゃないんだよ。あの洞窟では、魔物達による恐ろしい儀式が行われていたんだ」
「恐ろしい儀式?」
「ああ……冒険者の身体を使った、恐ろしい儀式がな」
バルジさんはラッセルさんに詰め寄った。
「冒険者の身体を使った儀式だと……何だそれは?」
「魔物達は言っていた……魔物の魂と、この地上にいる者の魂を融合させる儀式だと……。一体何の為にそんな事をしているのかはわからないが……とにかく、そんな儀式が行われていたんだ」
「お前達はそれを見たのか?」
「ああ、俺達はその儀式を目の当たりにした。だが……儀式は失敗に終わった。そして……その実験台に使われた冒険者達は……無残な姿になって命を落としたんだよ……。おまけに魔物達は、その儀式を続ける為に、更に冒険者の身体が必要みたいな事を言っていた。つまり、あの依頼は、冒険者を誘き寄せる為の罠の可能性があるんだ」
この場に重苦しい空気が漂う。
バルジさんは暫しの沈黙の後、口を開いた。
「……そんな事があったのか。ところで、実験台にされたという、その冒険者は救出できなかったのか?」
ラッセルさんは身体を震わせ、絞り出すように言葉を紡いだ。
「く、悔しいが……俺達では……助ける事すらできなかった。敵はあまりにも……強大だったんだ……」
「そうか……」
「だからバルジ、悪い事は言わない。あの依頼は止めておくべきだ。でないと、被害は甚大なものになるぞ」
だが、バルジさんは頭を振った。
「ラッセル、それはできない。今の話を聞いて、尚更、行かねばならないという気持ちになったよ」
「しかしだな、バルジ……あそこはとてつもなく強い魔物達で溢れ返っているんだぞ」
マチルダさんとシーマさんも、ラッセルさんに続く。
「そうよ。私達も見たわ。しかも、私達が殺されかけた魔物みたいなのが、わんさかといたのよ。あそこは危険よ!」
「ラッセルの言ってる事は本当なのよ。やめた方が良いわ、バルジ」
と、ここで、バルジさんのパーティメンバーと思われる戦士系の男が口を開いた。
「おいおい、アンタ達は、金の階級の冒険者だろ。そんな情けない事言うなよ。ゼーレ洞窟で男達が殺されたのを見て、ビビッちまったんじゃないだろうな。こっちは総勢200名以上で洞窟に向かうんだぜ。しかも、全員、金の階級以上の王都を代表する冒険者だ。これだけ揃えば、そう滅多な事はねぇさ」
バルジさんはその男に同調する。
「ゴランの言うとおりだ。いいか、ラッセル。あの洞窟に向かうのは、精鋭の冒険者だ。そう滅多な事にはならん筈さ」
「魔物は……王都の冒険者では歯が立たないかもしれない。それくらいに強い可能性があるぞ」
するとそこで、ゴランと呼ばれた男戦士が、ラッセルさんを嘲笑ったのである。
「おいおい、一度、殺されかかったからって、何弱気になってんだよ。おい、バルジ、こりゃラッセル達は駄目だぜ。一度やられたから、腰抜けになってやがる」
「ちょっと何よ、その言い方はッ!」
流石にカチンと来たのか、シーマさんは声を荒げた。
バルジさんはゴランという戦士を諫める。
「おい、よせ。口が過ぎるぞ、ゴラン!」
「はいよ……」
ゴランは返事をすると、手をヒラヒラさせながら、ぶっきら棒な態度をとった。
結構、ムカつく仕草である。
「すまないな、ラッセル。口が悪い奴だが、許してやってくれ。まぁそれはともかくだ。何れにせよ、今の話だと、あの洞窟に魔物が居るという事には変わりない。だから、予定通り、俺達はゼーレ洞窟へと向かうつもりだ」
「しかし、バルジ……」
「まぁアレだ。嫌なら、ラッセル達は無理に参加しなくてもいい。これは強制ではないからな。それと、今の忠告も一応頭に入れておこう」
「どうしても行くのか?」
「ああ」
ラッセルさんは残念そうに肩を落とした。
「そうか……行くのか」
「大丈夫さ。王都で一番優秀な冒険者達が行くんだ。なんとかなるさ。まぁそういうわけだ。お前達はゆっくりと静養してな」
バルジさんはそう言って、ラッセルさんの肩をポンと軽く叩いた。
そして、少し離れた所にある空きテーブルの1つへと去って行ったのである。
と、そこで、ラティが俺に話しかけてきた。
「なぁ、コータロー。さっきからどうしたんや? 額に手なんか当てて……頭が痛いんか?」
「へ? ああ、違う違う。ちょっと考え事をしてたんだよ」
「なんや考え事か」
額に右手の指先を当てていたので、そう思ったのだろう。
知らず知らずの内にそんな仕草をしてたようだ。
まぁそれはともかく……どうやら俺は、思い違いをしてたようだ。これは思ったより、不味い事態のようである。
だがとはいうものの、今の現状だと、俺の推察通りとも限らない。それを裏付ける為の情報が必要だ……。それも確固たる情報が欲しい。
(仕方ない。どうにか時間と場所を作って、ラーのオッサンに訊いてみるしかないだろう。今の俺の疑問に答えられるのは、ラーのオッサンだけだからな……)
俺がそんな事を考えていると、そこでラッセルさんの弱々しい声が聞こえてきた。
「コータローさん……貴方の言っていた通りになってしまいました。どうしましょう……」
「ま、こうなった以上は仕方ないです。とりあえず、食事を終えたら、ここを出ましょうか。少し静かな所でお話ししたい事がありますんで」
この場にいる者達は皆、顔を見合わせた。
ラッセルさんとリタさんが訊いてくる。
「それは構いませんが、どうしてなんです?」
「コータローさん……何かいい方法でもあるの?」
「それは後でお話ししますよ。少々、面倒な事になってるみたいですからね」――
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