真田十勇士
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巻ノ九十八 果心居士その六
「何でも寺子屋をされておられるらしい」
「そうなのですか」
「長宗我部家が改易された後な」
「そしてここにおられますか」
「かつては大名であったがな」
「今ではですか」
「寺子屋じゃ」
そこで子供達に物事を教えているというのだ。
「人の世はわからぬな」
「ですな、確かに」
「人の世は何時どうなるかわからなぬ」
「うたかたですな」
「まさにそれじゃ」
「何時どうなるかわからぬ」
「そうしたものですな」
「我等も今では九度山暮らしじゃ」
流されてそうしてというのだ。
「同じじゃな」
「ですな、うたかたですな」
「全くじゃ、ではうたかたとしてな」
「はい、これより」
「果心居士殿のところに参ろうぞ」
「それでは」
筧も応えてだ、そしてだった。
二人はその果心居士がいるという家まで来た、そこは長屋の奥にありそこに行くとだった。一人の年老いた老人がいた。
するとだ、ここでだった。老人は二人を見て言った。
「よく来られた」
「わかっておられたか」
「はい」
その通りだとだ、老人は二人に飄々とした笑顔で答えた。
「それはもう」
「それは術で」
「はい、それがしの術で」
まさにそれでというのだ。
「わかっていました」
「そうであったか」
「左様です、そして来られた訳は」
「わかっておられますな」
「来られたこともわかっていますので」
これが老人の返事だった。
「既に」
「そうであられるな」
「この果心居士の術をですな」
「この者に授けて欲しい」
幸村は筧を指差して言った。
「宜しいか」
「若し嫌でしたら」
その時はとだ、果心居士は幸村にまた答えた。
「それがし最初からこの部屋におりませぬ」
「左様ですか」
「仙術で何処かに消えています」
「そうしておられたか」
「気に入らぬことをせぬのがそれがしなので」
だからこそというのだ。
「そうしていました」
「では」
「はい、これからです」
「この者にですな」
「筧十蔵殿ですな」
果心居士は筧が誰かも既にわかっていた、彼のその術から。
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