魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epica2-A特殊機動戦闘騎隊~The 0 th Extra Force~
†††Sideイリス†††
目の前に広がる海から心地の良い潮風が吹いて来る。こういう日は臨海公園でピクニックでもやりたいな~。とは言え、今日はお仕事をするためにここ第52管理世界アンバーまでやって来たわけだ。
「――んで。一体どこの馬鹿が、軌道エレベータを占拠したって?」
陸地から沖へ向かって約3kmっていう距離に建造された人工島パラディソから大気圏外まで伸びた超高層塔、軌道エレベータ・イーシャを眺める。3km離れたところでも見失うのが難しいほどの巨体を誇るエレベータは今、とあるおバカさん達の手によって占拠されてる最中なのよね。
「具体的な要求はされてはいないとのことだ。しかし見て判る通り、プライソン一派に協力していた組織の1つのようだ。人工島パラディソの周囲にアレが見えるだろう?」
わたしに答えてくれたのはルシル。プライソン戦役の頃は、はやての部隊に非戦闘員の特務調査官として居たけど、現在はわたしの部隊・特殊機動戦闘騎隊の戦闘行為可能な副官として、わたしの隣に居てくれる。そんなルシルが展開したモニターに表示されたのは、人工島の周囲に配置されてる「軍艦・・・」が1隻。
「アレの攻略が楽になるヒントか何か無いかと調べてみると、第97管理外世界――地球の過去の大戦時に投入されていた軍艦などと類似しているのに気付いた。大日本帝国・天城型巡洋戦艦。オリジナルに比べると、プライソンの遺産のその攻防力は桁違いだろう」
ルシルが新しく展開したモニター1つには、そのオリジナルの艦艇画像が表示された。細々としたところは結構差異があるけど、大まかな部分はそっくりだ。それを聞いたセレスが「それでも私に海上兵器なんて関係ないよ♪」って胸を張った。
「私のような氷結系魔法の使い手にとって兵器群、特に海上戦力ほどやり易いものはないし~♪」
実際にわたし達は、特騎隊結成から今日までの1年半、請け負った任務の大半はプライソン戦役に投入されたような巨大兵器の攻略ばかり。まぁ適当に魔力やスキル全開で事に当たって殲滅する~みたいな感じで楽に済むからいいけど。
「軍艦制圧はさほど問題じゃないのは判り切ってたけど・・・。連中がプライソンの遺産を手にしているということは、手に出来る間柄だったことになるわけよね・・・?」
「ルミナの言う通りだな。軍艦などという巨大兵器を保有しているとなると、かなり親密だったと思われるな」
「ひょっとしたら、スキュラ達を殺害した暗殺部隊も出て来るかも・・・」
「じゃあまずは、軍艦から潰してく? 私の召喚獣で一気に決めても良いけど?」
ルミナ、ルシル、セレス、クラリスと思い思いの言葉を発してく。わたしが設立した部隊・特殊機動戦闘騎隊の戦闘組はみんなベルカ式の騎士だ。そして今ここに居るのは少数精鋭の前線組で、全員がS+以上の戦闘のプロだ。部隊長なわたしも前線で戦っちゃうのだ~。
(ホントはトリシュやアンジェ、セレスの姉も入れたかったけど、あの2人は局員じゃないからさ~。嘱託でもいいから局入りして~、ってお願いしても即却下だったし。フィレスもフィレスで管理局を辞めて騎士団1本に絞ったし)
まぁそんな略して特騎隊と呼ばれるわたしの部隊は、並の部隊では対処できないレベルのテロや戦乱の鎮圧などを担当する本局・脅威対策室直属の特務機動隊で、編成番号は第零、第零特務機動隊を頂いてる。有事が起こって対策室から召集が掛かれば即座に任務に就く。で、専用の対策部隊が設立されるまでわたし達が事に当たるわけ。まぁほとんどわたしの隊だけで片付くけどさ~。
「(わたしが造っておいてなんだけど、反則級の戦闘集団なんだよね~)・・・さて、どうしたものか・・・」
「可能であれば、立て篭もり犯が反撃に出られない程の電撃作戦で行くべきだ」
そう言ったルシルが展開したモニターに表示されたのは、宇宙から見た美しい青の星アンバー。そんなアンバーを1周する静止軌道上にはオービタルリング・アーカーシャが在って、そこから地上とを繋ぐ軌道エレベータのアヒムサー、イーシャ、ヴェーダ、エーヴァ、オーム、カルマ、キラナ、グル、ケーヴァラ、コーシャ、の計10基がある。
「管理世界入りするまでは・・・というよりは今現在も、アンバーは付近の衛星から資源採掘を行っている。占拠している連中は局が攻勢に出れば、目の前に在るイーシャを破壊すると脅してきているわけだ」
モニターに映る軌道エレベータが崩壊する想定映像が流れて、破片が広範囲に亘って落下する映像に「うわ・・・」って思わず引いた。当然オービタルリングにも少なからず影響が出るみたい。
「破片くらいならば俺たちが対処すれば、地上に1つたりとも落とさない自信も確信もある。が・・・」
「崩壊上等で攻め込んで軌道エレベータ1基をダメにするのはさすがにね~」
「再建造の時間、費用諸々。それを考えれば、イーシャに被害を出さずにテロ犯を全員とっ捕まえるのが一番か~。・・・こちらナイト1・イリス。シャーリーン。イーシャ内の状況、もうそろそろ探ることが出来た?」
となれば、こちらもいろいろと準備をしないといけないな。そういうわけで、行動開始前に我が特騎隊の母艦・LS級艦船シャーリーンのブリッジへと通信を繋げる。
『はい、フライハイト部隊長。軌道エレベータ・イーシャ及びオービタルリング・アーカーシャ運営局の協力の元、施設内の無事な監視カメラより現場のリアルタイムを入手できました。映像、そちらに送ります』
ブリッジに控えてるスタッフから送られてきたエレベータ内の映像。エレベータは全100階層とあって、居住区や研究区、開発区、農作業区などなどがあるみたい。その中を走るリニアレールが12便とあり、各階層で停まる仕組みになってるわけだ。
「確認できるだけで19人か~・・・」
一般に出回ってる杖型から、ちょっぴり高価な銃火器型のストレージデバイスを所有してる男連中。エレベータ・イーシャの管理を行う施設関係者10人を人質にとって、管理室に立て籠もる5人。研究区に2人。オービタルリングとエレベータを隔てる隔壁の前に3人。エレベータの居住区で住民を人質に取ってる5人。エレベータの基台――第1階層のリニアレールステーションに4人。
(わたし達が来てるのはすでに察知されてるだろうけど・・・。行動に移らないのは余裕の表れか・・・)
例の暗殺部隊との共通点は目出し帽だけ。服はラフな格好だったりスーツだったりとまちまち。そんな連中を見て「どう思う?」ってルシル達に訊ねると、「雑魚」の一言だけが返って来た。
「そんじょそこらの武装マフィアと下っ端なチンピラって感じかな」
「クリアリングはまぁやっているけど、素人の域は出てないわね」
「この程度なら気付かれることもなく殺れるよ」
「殺っちゃダメだからね、ルミナ。・・・んじゃ、こういう作戦でどうかな・・・」
大まかな作戦を立案したわたしは、部下であり戦友であるルシル達に伝える。問題は人工島の周囲に陣取ってる軍艦1隻。これについては「セレス。1人でいける?」って確認してみる。
「もちろん、問題ないよ。海上兵器なんてどれだけ強かろうが凄かろうが、ね」
「ん。わたし達は突入組ね。ルシルは管理室を、ルミナは居住区を、わたしがステーションを、んで・・・」
もう1人の前線組へと視線を移す。175cmという長身で、薄い桃色のロングヘアをおさげにした、緊張に染まる濃い目の桃色の瞳のミヤビ・キジョウ陸曹。ミヤビは“スキュラ”やシスターズみたいにプライソンの手によって生み出された娘だ。拉致されたんじゃなくて一から生み出されたことで、親族は誰1人としていない。引き取り手が局員一家だったことで、彼女も恩返しとして局入り。そしてたった1週間で陸戦SSを獲得した。
「研究区はミヤビ、あなたに任せる。いいね?」
「了解です! 精いっぱい頑張ります!」
ビシッと敬礼したミヤビ。仮にも陸戦SSランクの実力者なんだから、そこまで緊張することもないんだけど・・・。まぁ今回みたく対人で人質解放なんて、そんな繊細な任務が苦手な娘だからしょうがないかぁ・・・。
「ミヤビ。君なら出来る。自信を持て」
「ルシル副隊長・・・。はいっ!」
「よぉーしっ。ではこれより被疑者の逮捕に動く」
そう指示を出した後、「ん? 隔壁エリアはどうするの」ってルミナに訊かれた。それにわたしは「サポート班から1人を召喚~♪」ってウィンクしながら答えて、「先輩、人手が足りないから手伝ってください♪」と個人メッセージを送る。
『お! 今回は私にも出番あり!? よぉーしっ! 張り切って頑張るぞぉー、おー!』
サウンドオンリーのモニターから元気いっぱいな返事。通信が切れるとすぐと「お待たせ!」1人の女性がこの場に現れた。魔法によるものでもトランスポートによるものでもない、スキルとしての転移能力者。
「特騎隊サポート班、エイダー3・クララ。現着よ♪」
わたしやルシル、八神家がかつて所属してた特別技能捜査課の先輩局員、クララ・リークエイジ。もう27歳な彼女だけど、まぁ小っこいんだな、これが。150cmジャストな身長で、本当に27歳かどうか疑わしい童顔と性格。寿退職や都合退職などで部隊の最低稼働人数が足りなくったことで特捜課が解散となった中、クララ先輩はわたしのスカウトに応じて隊に入ってくれた。
「クララせ~んぱい。転移スキルで助けてほしいんだけどぉ~」
「いいよ。そのためのエイダー3だから!」
先輩に作戦を伝える。ルシルも転移魔法を使えるけど、魔力反応が出ちゃうから感知され易いんだよねぇ。でもスキルとしての転移ならまず感知されない。
「隔壁エリアの3人の逮捕も一緒にお願い」
「了解。シャーリーン。こちらエイダー3。予定転送ポイントの各座標を教えて」
『了解です。すぐに送信します!』
送信されてきた座標を見た先輩が頷くと、「出撃はいつ?」っていう問いに「今すぐ!」って答えた後、「みんなもそれで良いね?」って確認を取る。
「無論だ。早々に片付けてくれる」
「よっしっ! 叩きのめそう、死なない程度に」
「腕が鳴る・・・!」
「すぅ・・はぁ・・・。大丈夫、私は大丈夫」
「そうそう、深呼吸が大事よ」
「では各騎、騎士甲冑を着装!」
「ナイト2・ルシリオン・セインテスト。エヴェストルム、セットアップ」
2m近い剣2本の柄頭を連結させたようなアームドデバイス・“エヴェストルム・オルタ”を起動させたルシル。真っ黒な詰襟の長衣、ズボン、インバネスコート、ブーツっていう騎士甲冑に変身。
「ナイト3・アルテルミナス・マルスヴァローグ。ツァラトゥストラ、セットアップ!」
漆黒に輝く六角形型で、6つの表面に十字架が彫られた腕環・“ツゥラトゥストラ”を両手首に装着したルミナ。ビスチェワンピースにショートパンツ、ショートジャケット、ブーツっていう騎士甲冑へと変身。
「ナイト4・セレス・カローラ! シュリュッセル、セットアップ!!」
両刃剣型のアームドデバイス・“シュリュッセル”を起動させたフィレス。黒色のインナースーツ、白のテールジャケット、タイトスカート。羽織ってるのは白の袖無しインバネスコート、ロングブーツっていう騎士甲冑に変身。
「ナイト5・クラリス・ド・グレーテル・ヴィルシュテッター。シュトルム・シュタール・・・へ~んしん!」
三日月型の刃――月牙を両側に備えた槍と、六角柱に鋲がズラリと並んだ金棒が連結された方天戟型アームドデバイス・“シュトルムシュタール”を起動させるクラリス。上は詰襟のネックカバー、厚手のノースリーブブラウス、カフスの付いたアームカバー、そしてグローブ。腰には2本の40発入りカートリッジベルト。下はスリットが深いミニタイトスカート、タイツ、そしてロングブーツっていうデザインの騎士甲冑に変身。
「ナイト6・ミヤビ・キジョウ! フェーニクスフェーダー、お願い!」
赤い羽根の形をしたアームドデバイス(シャマルのクラールヴィントみたくカートリッジシステムは積んでないけど)の“フェーニクスフェーダー”を起動したミヤビ。薄い紫色の小袖と紫色の袴っていう和風テイストな騎士甲冑に変身。武器は持ってない。ルミナと同じ拳闘士だからだ。
「エイダー3・クララ・リークエイジ。アークフランカー、セットアップ!」
拳打用のナックルダスター型ストレージデバイス・“アークフランカー”を起動したクララ。スカート丈がミニなコルセットを付けたビスチェワンピース、袖口がサーキュラーカフスになってるアームカバー、太腿までの丈であるサイハイブーツっていう防護服に変身。
「んじゃ最後に。ナイト1・イリス・ド・シャルロッテ・フライハイト! キルシュブリューテ、セーットア~ップ♪」
155cmの長さを誇る刀身が桜色の刀型アームデバイス・“キルシュブリューテ”を起動する。ハイネック・ノースリーブのレオタードをインナーに、ノースリーブの前開きショートワンピース、コルセット付きのオーバースカート、サイハイソックス、オペラグローブ、キャバリエブーツっていう騎士甲冑に変身する。
(特騎隊の部隊長就任記念として、騎士甲冑のデザインを一新したのだ~♪)
以前のものはガッチガチに肌を隠すようなデザインだった。でも大人になった今は、ちょこっと色気というか艶めかしさというか、アダルティ~❤な感じにしてみた。でも可愛らしさも残すため、髪型を結ばないストレートからハーフサイドアップにしてみた。どうよ?
「「「「「「着装完了!」」」」」」
号令に応じたわたし達みんなの変身が終わる。それを確認して改めて作戦のおさらい。クララのスキルでそれぞれの持ち場に転送。タイミングを合わせた同時攻撃でテロ犯連中を瞬殺して、セレスは軍艦1隻の凍結封印。わたし達の実力からして、こんな大雑把な作戦でも成功率はかなり高い。
「じゃあクララ先輩。よろしく!」
「オーケー!」
先輩がまずルミナの背中をポンと叩くと、瞬きの間にその姿が掻き消えた。次いでクラリス、ミヤビ、ルシルと転移させてった。次はわたしだ。わたしに振り返った先輩から伸びる右手が、ポンッとわたしの肩を叩いた。
†††Sideイリス⇒ルシリオン†††
シャルの設立した特務零課――特殊機動戦闘騎隊に副官として入隊してから早1年半。今日も今日とて本局の荒事担当として、管理世界を飛び回る日々。今回は軌道エレベータを占拠したという馬鹿どもを殲滅するため、アンバー地上本部からの要請でやって来た。
『こちらナイト2。配置完了』
俺が任されたのはエレベータで一番重要なエリアである管理室。10人の施設管理人を人質に取る5人の実行犯を捕まえることが任務だ。元特捜課の先輩であるクララのスキルで監視カメラの死角である、管理室前のT字通路の段ボールの山の陰に転送された俺は、念話で同様にそれぞれの持ち場に転送されたシャル達に伝える。シャル達からも『配置完了』との報告を返された。
『各騎。すでに脱出できてる施設関係者が各ドアを外部からのハッキングで開く。ハッキングが完了し、ロックが解錠されると同時にドアが開くから、それと同時に突入、被疑者を逮捕という流れで。じゃあカウント30!』
シャルのカウントに耳を済ませ、『――5、4、3、2、1、突入!』という号令に合わせて物陰から跳び出す。ロック中を示す赤ランプから解錠を示す青ランプへと変わったドアが両側にスライドする。開け切っていないドアの間を縫うように入り込む。
「(被疑者5名を視認)・・・カムエル!」
――闇よ誘え、汝の宵手――
新幹線の総合指令所のようなデスク並びと空間モニターがずらっと並ぶ、台形状の管理室の一番奥。空きスペースの床に正座させられたうえ両腕を後ろ手で縛られ、布で目隠しをされた管理人10人と、彼らに銃口を向けている被疑者5人の姿を視認。しっかりとこの目で確認して、連中自身の影を利用して発動した影の触手で、「っ!? な、なんだこれ・・・!?」反撃の隙すら与えずに簀巻きにしてやった。
「管理局だ。変に抵抗せず大人しくしていれば、痛い思いは済むからそのつもりでな」
「銀髪に紅と蒼の光彩異色・・・!」
「お前はまさか・・・!」
「軍神ルシリオン・セインテストぉ・・・!」
「何でそんな大物が出てくんだよ!?」
「終わりだ・・・」
被疑者たちが俺を見て顔を真っ青にし、ガクッと項垂れた。はやては歩くロストロギア、なのははエースオブエース、リアンシェルトはトップエースなどという、その局員を示す二つ名のようなものがあるわけだ。そして俺の二つ名は軍神。任務先で1対多数戦を繰り広げることも多く、その様を目撃していた現地局員たちからそう呼ばれ、結果その呼び名が広まってしまったようだ。
「いい判断だ。ほら見てみろ。お前たちの仲間も確保されたぞ」
監視カメラ映像が流れているモニターに、同僚のシャル達が被疑者をバインドなどで拘束している様子が映し出されていた。シャルとクラリスとクララはカメラに向かってピースをしているしな。とにかくシャル達も、何も問題なく逮捕できたようでなによりだ。
「おい! あの刀持ち! 剣神イリスじゃねぇか・・・!?」
「あっちは闘神アルテルミナス!?」
人質となっていた関係者を「大丈夫ですか。怪我をしている方はいますか?」と解放している中、連中は悲痛な声を発し続け、さらに「なんだありゃ・・・!」と連中の口からそう漏れたのが聞こえた。
「戦艦が凍り付いてやがる・・・!」
「じゃあ、あの凍結は氷神セレスかよ!?」
「ひょっとして、俺たちを捕まえに来たのは本局の特騎隊・・・!」
若干涙目な連中がモニターから俺へと視線を移してきた。二つ名に神が付くようになった俺とシャルとルミナ、それにセレスは、ただその功績だけでなく管理局規定の魔導師ランクがSS+ということもある。ちなみに俺たちより1つ下のSSランクであるクラリスやミヤビにも二つ名はある。
「最強部隊、遭ったら即アウト、人型戦略兵器、管理局の本気、犯罪処理屋、破壊の化身、と呼ばれるあの血も涙も無い化け物部隊・・・!」
酷い言い草だ。だが実際に犯罪者界隈からそう呼ばれているのも事実だ。溜息を吐きつつ、「こちら管理室。被疑者5名を逮捕。捕らわれていた関係者もみんな無事だ」と通信を入れる。
『了解。そっちの監視カメラから確認できてるだろうけど、ステーションの被疑者も確保完了!』
シャルに続き、ルミナ達も『こちらも確保完了!』と報告を入れてくれた。ここ以外で人質になっていた人たちも無事なようだ。解放したばかりの管理者たちが「ありがとうございました! 急いで運用を再開します!」と所定のデスクに着き、空間キーボードのキーと打ち始めた。
「さてと。これからお前たちを連行するわけだが。逃げないと誓えるなら自力で歩けるようにする。誓えないのならこのまま引き摺っていく。どうだ?」
「アンタを相手に逃げようなんて馬鹿な真似、出来るわけねぇだろうがよ」
リーダー格らしいブラックスーツ姿の男が言い捨てると、他の4人も「ああ」と観念したように頷いた。カムエルを解除し、連中の両手首に手錠を掛ける。床に転がっているデバイスや質量兵器を1ヵ所に集め、使用できないように封印処理を施しておく。あとは後続で来るアンバー地上部隊に預けてしまえばいい。連中を引き連れながら管理室を出、ステーションへと移動を始める。
「こちらナイト2。これより被疑者5名をステーションへ連行後、手筈通りにリニアレール下り線に乗車し、エントランスフロアへと移動する」
『了解。エイダー3、あなたの居る階層がわたし達の中で一番上なの。というわけで、あなたの乗る便にわたし達も乗車するから、便のナンバーを教えて』
『了解よ~。えっと、B-8492便の下り線に乗――』
クララがそこまで言い掛けたところで、『こちら管制室。管理局の皆さん。連行専用車両を御用いたします』という通信が入った。モニターには先程助け出した管理人の1人が映っている。俺たちはお言葉に甘え、特騎隊の居る階層にだけ停車する貸切リニアレールを用意してもらった。それからしばらくステーションのホームで待機する中・・・
「で? お前たちは軌道エレベータを占拠して、一体何をやらかそうと考えていたんだ?」
連中の未だに出されていない要求が何だったのかを訊ねる。リーダー格らしい男が「俺ぁ、元はここのアルバイト従業員だったんだ」と身の上話を始めると、他の4人も元従業員だと教えてくれた。しかしその素性が管理世界で有名な一大マフィア・アウロラファミリーの一員だったことが知られ、解雇されたらしい。
「その腹いせに軍艦シーサーペントを持ち出して、占拠したというわけか・・・?」
「それもあるけどよ。ファミリーの看板を舐められっぱなしで終わらすんじゃねぇって、俺たちの親から叱られちまって・・・」
アウロラファミリーの本気というものを次元世界に轟かせるため、派手に世界1つを敵に回してみようとのたまった最高幹部の1人が居たらしい。ソイツが連中に命じたのはエレベータの破壊。正直、馬鹿としか言いようの無い愚か者だ。
「その割には命じられたままに破壊などせずに占拠を選んだのは何故だ?」
「俺たちこの世界の出身なんだよ。ガキの頃から軌道エレベータを眺めて生きてきた」
「アンバーが管理世界入りする前にファミリーにスカウトされてさ」
「ガキだったからさぁ、俺たち。異世界とかマフィアとか、憧れてんだそういうのに」
「気付けば悪さばっかやってて・・・。ファミリーを抜けようにも根性無くて・・・」
「そんな時にアルバイト募集をやってんのを知って・・・。俺たちは揃って応募して合格。2年と働いて来たんだ」
連中は言った。エレベータやそこに暮らす住民、働く関係者に愛着があったのだと。だから破壊する真似だけは出来なかったと。ま、連中の事情など知ったことはないな。俺にとって重要なのは「軍艦はどこで手に入れた?」だ。
「さっき話した親が持ってたモンだよ。ドン・アウロラがプライソンと繋がりが合ったみたいでさ」
「なるほど。じゃあ、コイツらに会ったことは?」
展開したモニターに、“スキュラ”姉妹を暗殺した奴らを表示させる。連中は口をそろえて、知らない、と答えた。嘘や隠し事をしている様子はない。白と断定していいだろうな。
「俺たち、今度こそ親父たちに殺されるな・・・」
「は? その心配は要らないだろ。アウロラファミリーは数日後には消滅しているからな」
怯えている連中にそう言うと、「え?」と目を丸くした。プライソン一派と繋がっていたドン・アウロラは捜査対象となった。自然と奴らと衝突することになるのは確かだ。
――トランスファーゲート――
ステーションで待機していたところで、「っ!?」背筋に悪寒が走った。
――護り給え、汝の万盾――
即座に被疑者5人を護るため、無数の小型の円盾をドーム状に組んだケムエルを発動。俺も瞬時に“エヴェストルム”をニュートラルのイェソドフォルムで起動。
(来たな・・・!)
視界の端に捉えたのは例の暗殺者の1人だ。漆黒の学ランに学生帽にマント、天狗の面を被っている。手にしている武器は槍型のストレージデバイス。ひょっとしたらコイツはベルカ式の騎士・・・。
――ヴォルフ・クラオエ――
「っ・・・!」
奴の槍が俺のシールドに弾かれ、奴自身も後退せざるを得なかったようだ。穂先が向いていたのはリーダー格の男であるのは確認した。“スキュラ”姉妹と同様に殺害する気だったようだ。
「ふざけるなよ、貴様ッ!」
エレベータ内を損壊させないように結界を展開し、確保していた被疑者5人を結界外へと置き去りにする。これで結界内に居るのは俺と暗殺者の2人だけ。そして暗殺者を撃破するため、俺は一足飛びで奴に最接近した。
後書き
今話からシャル達の仲間として新キャラ、ミヤビ・キジョウを登場させます。
ルシル、フノス、テスタメント・優斗、テスタメント・ルフィスエル、アポリュオン・テルミナスの前身キャラが登場した、小学校時代の文芸クラブで書いた私の処女作・『だからぼくは悪魔になる』のメインヒロイン・鬼城 雅の改変キャラです。
解散した特別技能捜査課の若いキャラを出すべきか迷いましたけど、まぁそこは本エピソードのためということで。
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