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希望の国

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第十章

「そしてそこで暮らします」
「途中帰られるかい?」
 故郷までとだ、船乗りはニコラスに尋ねた。
「そこまでは」
「帰られる様になってから帰ります」
「そうしてからか」
「路銀を手に入れて安全に帰られる手段を整えて」
「それからだな」
「帰ります」
 そうするというのだ。
「あらためて」
「それがいいな」
「さもないとですよね」
「ああ、悪い奴等はアレクサンドリアやバチカン以外の場所にもいるさ」
「ですから気をつけます」
「そうした方がいい」
「はい、ただ僕はここまで来られました」
 アレクサンドリアまで、というのだ。
「途中病に罹りながらも」
「むしろそれが幸運になったか?」
「そうかも知れないですね」
「そしていい人達に助けられてな」
「ここまで来られましたが」
「皆は違ったっていうんだな」
「どうして騙されて売られたのか」
 ニコラスはこのことについても考える様になった。
「わからないです」
「それはな」
「それは?」
「やっぱりあれだろ、神様がそうしてくれたんだよ」
「神がですか」
「そうだろうな、だからあんたは助かったんだ」
 そうなったというのだ。
「ここまで来られたんだ」
「それではどうして皆は」
「さあな、神様が助けようとしなかったんじゃないだろうけれどな」
「それでもですか」
「助からなかったんだ」
「そしてペーターは」
 ニコラスは彼のことも思った、別れた友のことも。
「改宗したんですか」
「そうだろうな、あっちの神様に助けられたんだ」
「そうなったんですね」
「助かる奴と助からない奴もいるんだ」
「神がおられても」
「それがどうしてかはわからないさ、しかしあんたは帰るんだな」
「エルサレムには行きません」
 もうそんな気はなかった、それも全く。 
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