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希望の国

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第五章

「特に多いんだ」
「嘘、ではないですよね」
「嘘でこんな話をするか、バチカンに行くと特にだよ」
「神のおわす場所では」
「神様がおられる場所には悪魔もいるんだよ」 
 その両方がというのだ。
「世の中何でも表と裏があってな」
「神がおられる場所でも」
「そうだよ、悪い奴も大勢いるんだよ」
 教会の中も然りというのだ。
「そうした奴にも注意しろよ」
「バチカンに行った時は」
「アレクサンドリアでもだ」
 これから行くこの街でもというのだ。
「注意しろよ、くれぐれもな」
「そうですか」
「ああ、あんた自身の為にもな」
「わかりました」
 信じられなかったがその話は脳裏にこびり付いた、それでだ。
 ニコラスは船乗りにこう答えた、そしてだった。
 彼は遂にアレクサンドリアに着いた、するとすぐに自分の国の言葉が通じる者を探した。だがこの時だった。
 船乗りはすぐにだ、彼にこう言った。
「やっぱり心配だ、暫くここにいるからな」
「アレクサンドリアにですか」
「ああ、だからな」
 それでというのだ。
「一緒にしてやる」
「すいません」
「いいさ、あんた一人にしておくとな」
「危ないですか」
「言葉が通じる奴の方が怖いんだ」
 彼が今探しているそうした者達の方がというのだ。
「そうした奴こそ親しげに近付いてきてな」
「騙してですか」
「何をしてくるかわからないからな」
 そうしたものだからだというのだ。
「一緒にいてやる、船がここに停泊している間はな」
「悪いですね」
「何かあんたを見てると放っておけない」
 純粋で曇りがないが頼りない、だからだ。
「多分これまであんたによくしてくれた人もそうだったんだろう」
「お医者様や神父様は」
「そうだ、それで俺もだ」
 船乗り、彼もというのだ。
「放っておけない、だから一緒にいてやる」
「では」
「ああ、あんた人を探してるんだろ」
「ここからエルサレムに行った故郷の仲間達を」
「ここに来たのは間違いないんだな」
「はい、そうです」
「なら一緒に話を聞いていくぞ、この街には何度も来ている」
 だからだというのだ。
「よく知ってるからな」
「それでは」
「ああ、行くぞ」 
 船乗りの方が案内してだった、そのうえで。
 ニコラスは同じ街の仲間達の行方を探した、ここにまだいれば合流しエルサレムに向かっているのならば彼も向かうつもりだった。
 それで探していたがだ、手掛かりは得られず。
 数日街を歩き回ってだ、彼は思わず船乗りに言った。
「もう人知れずです」
「エルサレムに行ったっていうのかい?」
「はい、皆」
「ああ、そういえばあんた十字軍だったな」
「参加していました」
 その通りだとだ、彼は宿にさせてもらっているここまで来た船の中で船乗りに話した。 
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