喜び
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第一章
喜び
バンコクに住む青年ウボン=チャンタラーニはこの日屋台で友人のラーマ=コンチャラーンと共に汁のビーフンをすすりつつだ、こうぼやいた。
「何かついてないな」
「おいおい、二人共徴兵にあたらなかっただろ」
ラーマはそのウボンに言った、彼のその痩せた顔にある大きな黒い目を見ながら。
「それでそう言うのかよ」
「いや、仕事もな」
「あるだろ、高校を出てすぐに見つかって」
「もっと収入がいいな」
「そうした仕事がか」
「就きたいんだよ、それも恰好いいな」
ビーフンをすすりつつだ、ウボンは言った。ラーマのその自分より大きな唇の暑い顔を見つつ。二人共黒髪で肌は黒い。そして仕事の休憩中なので作業服のままだ。
「そんな仕事に就いて」
「それだけじゃないよな」
「彼女も車も家も」
「何でもか」
「欲しいな」
「欲張りだな」
「億万長者になって」
そしてというのだ。
「ハーレム持って運転手付きの外車にな」
「豪邸か?」
「それでご馳走に美味い酒飲んで」
「そうした暮らししたいか」
「何でも望みが適えばな」
「馬鹿なこと言うなよ」
ここまで聞いてだ、ラーマはウボンに言った。
「そんなことあるか」
「やっぱりそうか」
「そうだよ、願いが何でも適うとかな」
「そんな話あるか」
「うまい話にも程があるか」
それこそというのだ。
「本当にな」
「そうだろ」
「それはそうだよ」
こうウボンに言うのだった。
「御前もそれ位わかってるだろ」
「わかってるけれど最近な」
「徴兵にはあたらなくてもか」
「そうだよ、給料は今一つな感じでな」
もう少し高く欲しいというのだ。
「彼女もいなくてな」
「車もな」
「自転車だよ」
今乗っているものはというのだ。
「新品だけれどな」
「いい自転車だろ」
「それでも車が欲しいんだよ」
乗るならというのだ。
「やっぱりな、それで家もな」
「立派な豪邸か」
「そうだよ、そんな暮らししたいな」
「じゃあ頑張れて」
「それでか」
「大金持ちになってな」
そうしてというのだ。
「適えろ」
「そういうことか」
「ああ、そうだよ」
まさにというのだった。
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