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NARUTO 桃風伝小話集

作者:人魚
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その23

 
前書き
班編成だってばよ1直前のサスケ編です。本編には入れられないフラグともいう。 

 
何をどうしたらそうなるのかは良く知らないが、封印の書を狙ったミズキをダシに、ナルトのアカデミー卒業が決まった次の日。
意気揚々とオレと共にアカデミーに登校してきたウスラトンカチを見つけたヒナタが、喜びと興奮に頬を赤らめ、瞳を輝かせて、ナルトを目指して駆け寄って来た。

「ナルト…君!上手く、上手く行ったんだね!?」
「ヒナタ!」

対するウスラトンカチも、喜びに頬を染め、駆け寄って来た日向ヒナタの両手を取り、しっかりと握り締めて問い掛けに応える。

「うん!僕、頑張った!ヒナタとの約束、ちゃんと守ったよ!!」

それを聞いた日向ヒナタは、瞳を潤ませ、感無量とばかりに笑顔で頷きを繰り返す。
朝っぱらから人目も憚らず、オレの隣で感動の再会をおっぱじめやがったウスラトンカチと日向ヒナタに、オレは少し頭が痛い。
何も知らない馬鹿な奴らが今のやり取りを目撃したら、一体どんな事になるのか、コイツ等は少しくらいは考えた事がないのか。
只でさえ、事実無根な面白可笑しい噂がアカデミー内で蔓延っているというのに。

だが、その噂がナルトの秘密を隠す役に立っているのも確かだ。
そういう意味で、日向ヒナタの存在は実に有用だ。
別の意味でも日向ヒナタの存在は、あのウスラトンカチに取って救いになる。
何よりヒナタは馬鹿ではない。
それはとても得難い資質だと思う。

色眼鏡をかけず、きちんとアイツを見てやれる人間が身近にいると言うのは、下らない物に囚われて、この里の殆どの人間に疎まれている、親も係累もこの里には誰もいないこのウスラトンカチにとって良い事だ。
そしてヒナタは、自分に付きまとう可笑しな噂を否定もしなければ嫌がりもしていない。

ならばオレが口を出す必要は無い。
そう思いつつも、オレ達に集う好奇の視線に、お前ら二人とも、もう少し周りに目を向けろと諭したくもなる。
教室中の、下卑た好奇心丸出しの視線が、喜び合う二人に幾つも降り注ぐ中、二人は完結した世界での会話を進めていく。

「だからヒナタ。約束だよ。僕の話を聞いてくれる?」
「うん。分かった。ナルトちゃ、君!勿論聞かせて。私、ナルト君の話が聞きたい。お願いしても良い?」
「勿論だよ!じゃあ、場所移そう?」
「うん!」

ヒナタが興奮の余りに口を滑らせそうになり、ヒヤリとしたが、二人は嬉々としながら揃って教室を後にした。
どこの少女漫画の恋人同士かと思うようなやり取りを目撃したクラス中のあちらこちらから、二人の仲を邪推するような囁きが漏れ聞こえてくる。

そして、一人残されたオレにも、ついでのように好奇の眼差しが降り注ぐ。
何時にもまして、オレを遠巻きに眺めて面白がる視線が集まり、隠しきれない苛立ちを覚え始める。
そんな中、面倒くさがりのクセに、意外と面倒くさい中身の男がオレに近付いて来た。

「よお、サスケ。ちょっと良いか?」

手短にそう言って、顎をしゃくって教室の外を指す。
何が目的かは知らないが、良い度胸だ。
オレもこいつにははっきりさせておきたい事がある。
それに、ナルトとヒナタのアホな振る舞いのせいでオレまで注目されている今、この場を少しの間とはいえ離れるのは好都合だ。

「……良いぜ」

短く了承し、席を立った。

「やけに物分かりいいな」

男は眉をしかめて小さくぼやく。
しかめられた表情には、口癖の『めんどくせー』が表に出ていた。
自分から近付いてきてオレを誘った癖に。
思わずオレも不快になり、眉を寄せる。
だが、直ぐに気を取り直したらしい。

「ま、いいか。付いて来いよ」
「ああ」

顎をしゃくり、ズボンの隠しに手を突っ込んで歩き出す。
オレは短く了承し、先導する男の後を付いて行った。
人目を避け、人気のない方へとシカマルは歩を進める。
オレは黙って後に続く。

やがてシカマルが足を止めた場所は、アカデミーの校舎裏の、物置と校舎と植木の陰だった。
人に聞かれたくない話を手っ取り早く済ませるには、アカデミー内ではここは最適だ。
それ程スペースは無いが、2人程度ならば問題ない。
建物と植木がほぼ四方を囲むような形になっているため、どこからも死角になりやすいポイントだ。
内心、この場所を選んだシカマルに及第点をつける。
足を止めたと言う事は、そろそろ話を付けようと言うことだろう。

こいつとオレは、直接接点が有るわけじゃない。
いつの間にやらナルトがコイツ等と交流し始め、いつの間にかオレまで顔を合わす事が多くなっただけだ。
きっかけは、キバの野郎だったようにも思う。
だが、どちらかと言えば、コイツはナルトとの方と気があっているように思える。

しかし、ナルトに付きまとわれ、なし崩しにシカマル達と接触を増やしているうちに気が付いた。
例えアカデミーの成績が揮わなかろうと、木の葉の名家、奈良家の名前は伊達じゃないと。
それに、いつからかははっきり覚えてはいないが、気付けばこいつがナルトを見る目が変わっていた。
真剣な、考え深い意味ありげな物に。
それにオレが気付いた時から、オレとシカマルの間には一種の緊張感を孕んだ駆け引きめいたやり取りが交わされるようになった。
だからこそ、オレはこいつに付いて来た。
そしてこいつの話の内容も察しは付く。
黙って付いて来たのには訳があった。
口火を切ったのはシカマルだった。

「お前意外と短気だからな。だから結論から言う。単刀直入に言うぞ。ナルトの奴は女だな」

問い掛けでもなく、鎌かけでもなく、確信を込めた断定の言葉に思わず沈黙する。
こいつは意外と頭と口が回る。
下手な事を言えば此方が不利になる。
秘密を気取ったこいつをどうすべきか、自然と眉を寄せて検討していると、シカマルはこれからが本題だと言わんばかりに切り込んできた。

「だが、お前の口からこいつに付いての真偽は聞きたくない。どうせ、里の機密や暗部が絡んでんだろ?めんどくせー事に巻き込まれんのはごめんだぜ」

らしいと言えばらしい言い草に、納得と違和感を同じだけ感じた。
普段の物臭な態度からは思いつけないが、シカマルは意外と頭が良い。
そこまで理解していて、それを口にする危険性に気付いていないはずがない。
それなのに、それを敢えてオレに口にした理由はなんだ?

シカマルの真意を探ろうと目を眇めれば、どうやら睨み付けるような表情になっていたようだった。

「そんなに睨むなって。オレはただお前に言っておきたい事があるだけだ」
「何を言いたい」

焦り、オレに友好的な態度を示そうとするシカマルにオレは苛立つ。
いらつきを隠さず吐き捨てれば、シカマルは大袈裟に天を仰いで溜め息を吐いた。

「だから、そんな怒んなよ。前置きくらいちゃんと言わせろ!何を言いたいのか分かんなくなんだろーが」

ぼやき混じりに頭に手を当て、億劫そうにあげられたシカマルの抗議の言葉を、鼻で笑ってそっぽを向く。
シカマルはオレのそんな態度に再び溜め息を吐いた。

「っんとに、お前ら二人ともすげーめんどくせー。しかもめんどくせー所がそっくりだぜ。何なんだよ、お前ら一体」

ぼやきながら億劫そうに顔を反らして頭をかいているが、それは此方の台詞だ。
不快さを隠さず、間髪入れずに切り返す。

「それはこっちの台詞だ。そんな事言うためにオレを呼んだのか?」
「違うって!あー、もー、めんどくせー!もう良い!知るか!!黙って聞けよ、サスケ!」

余りの面倒くささに開き直ったらしいシカマルが、このオレに命令してきた。
思わず反射的に眉をしかめる。
そうして、続いた言葉に呆気に取られた。

「オレは正直、お前にとって、ナルトの奴がどんな存在か、なんて事には興味はねえ!けどな、めんどくせーが、お前もナルトも一応はオレ達の里の仲間だしな。知らねー振りして放っておく訳にもいかねえんだよ!」

少なくとも普段のシカマルを知っているからこそ、シカマルの今の言葉が意外過ぎて拍子抜けする。
そんな言葉を臆面もなく口にするような奴だとは思わなかった。
いつもいつも興味なさげに退屈そうに、周囲の人間を眺めるだけの、何もする気の無い日和見な奴だとばかり思っていたのに。
呆気に取られたオレの前で、シカマルは自覚のあるらしくなさに照れたらしく、耳を赤くしながら落ち着き無く視線をさまよわせながらまくしたてた。

「良いか、サスケ!お前、ナルトを守るんならきっちりナルトを見て、ナルトが傷付かねーようしっかり守れよ!お前、守り方が中途半端なんだよ!言っておくが、オレがアイツに気付いたのは、お前の中途半端なナルトに対する態度の所為だかんな!?」

意味不明なセリフに、オレは再び眉を寄せた。

「あ?」
「アイツと連んでアイツのフォロー入れてやるんなら、お前がナルトを不安がらせんな!そうじゃなくても、女に顔を曇らせるような事すんじゃねーよ!男が女を守るってのはな、どんなに自分が貧乏籤引こうが、守ってる女がどんな時もずっと笑顔でいさせるって事なんだよ!」

思いもよらない言葉をぶつけられ、薄々感じていたオレの狡さを容赦なく両断される。
衝撃に固まったオレだったが、じわじわと怒りがこみ上げて来た。
なんでこんな事をこんな奴に言われなくちゃならない!!

「うるさい!オレがどうしようが関係ねえだろ、てめえには!」
「ああ、ねえな!だが言った筈だぜ?オレ達はお前らを木の葉の里の仲間だと思ってる。お前もアイツも額当てを付けて今日ここに来たって事は、お前らは木の葉の忍になったって事だろ。オレは、木の葉の里に生きる仲間として、女が辛い目にあうのは見過ごせねえ。アイツがどう思うかは関係ねえ!オレは里の忍として、男として女は守るもんだと、とーちゃんとかーちゃんに口を酸っぱくして言われてっからな!めんどくせーけど、おめーらを放っておく訳にゃー、行かねーんだよ!」

らしくもなく熱い台詞に戸惑いつつ、その芯の熱さにオレはシカマルに対して敗北感を感じ始めた。
オレは、今までそんな事をはっきりとナルトに対して感じた事はない。
ただ漠然と、自分に付きまとうナルトの表情や仕草に時折心和ませ、和む事から目を逸らし、相通じる昏い思いをぶつける相手として利用していただけだ。

そして、それはナルトも変わらない。
変わらないが、それでもアイツはオレとは違う。
アイツにはオレとは違って、屈託ない無邪気な明るい笑顔が似合う事に気付いていた。

そうして、アイツが本当に志し、アイツが目指している物は、そんなアイツからあの笑顔を奪うものだと言うことにも気付いている。
だが、それを失えば、生きる指標すら失う絶望を味わうだろう事も、オレは感覚的に知っていた。

だからこそアイツの存在が疎ましく、好ましい。
傷の舐め合いとも違う何かを、オレはナルトに感じていた。
それが何か良くは分からないし、知るつもりもないが、オレ以外の奴がアイツをしたり顔で語るのが気に入らない。
容易くアイツに近付こうとするのは許せない。

「てめえ、アイツに惚れてんのか」

それならば、考えがある。
決意は容易くオレの両目を燃え上がらせる。

「おわっ!ちょ、サスケてめえ!んな、マジになんなって!」

オレが発現させた写輪眼を目にしたシカマルは、腰を引けさせて慌てて否定してきた。

「別におりゃーナルトに惚れてる訳じゃねーっつーの!里の一員として、つーか、友達としてだ、友達!ダチだけどオレは男だからな。ダチだろうがなんだろーが、女はオレら男が守ってやんなきゃなんねーと思ってるだけだ。お前だってそう思ってるから、アイツのフォローいれてやってんだろが!!それと同じだっつーの!」
「オレと同じだと?」

シカマルの言葉はそんなオレの気持ちを逆撫でした。
だが、そんな事にはお構いなしにシカマルは続ける。

「ああそうだ!お前だってナルトは脳天気に笑ってるほうが似合うって思ってんじゃねーの?そしてそれが今の木の葉じゃ結構無茶な要求で、大分難しいって事にもよ」

シカマルが吐き出した事は、確かにオレも常々感じ、薄々思っていた事だ。
思わず言葉を失い沈黙する。

「オレは別にアイツに何か特別な思い入れがある訳じゃねーけどよ、アイツが本当は女で、何か里に重いもん背負わされてて、そんで、里から除けもんにされてんのは分かる。そんで、オレはそれが面白くねー。けど、オレにゃあ、アイツを守る事もアイツの抱えてるもん軽くしてやる事もできねーんだよ。悔しいけどな」

いつしかオレは、黙ってシカマルの言葉に耳を傾けていた。

「ナルトはオレの見たとこ、お前とヒナタ以外、この里に気を許してる奴は居ねえ。そして、アイツを本当に笑わせられるのも、今のとこ里の中じゃお前ら二人っくらいきゃ居ねーんじゃねえの?信用されてねえのは悔しいけどよ」

それもまた事実だ。
そして。

「それに、アイツ、里外れの山の中に一人で住んでんだろ?女の一人暮らしだってのに、危険じゃねーのかよ。お前、気にならねーのかよ?」

続いたシカマルの指摘にオレは沈黙する。
シカマルの指摘は全く以て正しい。
そんな事、気にならない訳がない!

大体ナルトの奴は、自分が女だっていう自覚が薄すぎるんだ。
今でさえ、油断すればオレの布団に潜り込んで来やがろうとするし!
そもそも、アイツに負の感情を持つ里の人間の中でも、馬鹿で下衆な奴らから、一人暮らしのアイツの身を守る為とは言え、物心つく前から男として育てたとか、一体それはどうなんだ!?
しかも、4、5歳のガキを山の中に放りだして、監視付きでも一人で生活させるとか、全体的にアイツへの対応は変でおかしすぎるだろうが!
だからアイツには常識がねえし、自覚も生まれてねえんだ!
アイツに自覚の欠片も何もねえから、自分のどんな所を誰のどんな目から隠せばいいのかもあやふやなままで、素直にオレに懐いて来ちまってんだろうが!!!!

ただ、そういうあれこれを素直に口に出すのは憚られた。

「まあ、その顔見りゃ、何となくお前の気持ちも分からなくもねーけどよ」

シカマルは遠くを見つめて諦めたような溜め息を吐いた。

「どう考えても特大の訳アリ持ちなナルトの奴の懐に自分から踏み込んで付き合うなんざ、わざわざ自分から苦労背負いこむようなもんだし、尻込みすんのも分かんなくもねーしな。アイツ、自覚のねーバカだしよ」
「確かに」

的を得たシカマルの言葉に、ぽろりと本音が零れ出る。
アイツは自分という物を全くと言っていいほど理解しておらず、無頓着過ぎる。
望みも、実力も、性格も。

なのに、強がりだけは一丁前だ。
本当はただの傷付きやすい泣き虫の臆病者の癖に、平気な振りだけが板に付きすぎている。
見ていて腹立たしいほどに。

「だからよ、お前、ナルトの事守ってやれよな」
「だから何でオレが!」

繰り返されるシカマルの言葉に、思わず反射的に切り返す。
だが、思いがけず返されたシカマルの言葉は、思いもよらない内容を含んでいた。

「いいか?オレの見た所、十中八九、お前とナルトは同じ班に回される」
「はあ?」
「オレは奈良だし、チョウジとイノと組まされんだろうな。それを踏まえてあの場に居た面子から推定すると、恐らくな」
「何故そう言いきれる」
「まあ、勘って奴だ。あと、曲がりなりにもナルトの奴を知ってるしな。アイツ、里に疑心抱いているんだろ?」

オレは再び口を閉ざした。
里に疑念を持つのはナルトだけじゃない。
このオレもだ。

シカマルは黙り込むオレに構わず、再び滔々と語り出す。

「めんどくせーけど、里の人間のアイツやお前に対する態度を見てりゃ、それも仕方ねーかもしれねーなとオレでも思う。だけどアイツは自分から里の忍びになった。そして、里の上層部は、そんなナルトの奴を制御して、下手すりゃ排除しようとするだろうな」

そこに異論は特に無い。
そして、ナルトにはどうやら、暗部の監視が今でもついている事も聞いている。
里は、ナルトの里に対する負の感情を知っていて、ナルトの事を警戒している。
それを再度強く意識し、ざ、と、背筋に冷たい物が走り抜けた。

ナルトは九尾の人柱力だ。
めったな事では処分はされない。

だがそれは、意志を拘束されないという事と同義ではない。

「そこにお前だ」

シカマルは真剣な表情でオレを指す。
段々、コイツが何を言いたいのか、というのが、オレにも見えてきた。

「あの九尾をも制御したといううちはの末裔であり、あのナルトがこの里で唯一と言って良いほど気を許している人間を、里が野放しにして放っておく訳はねーだろ?ぶっちゃけ、何でナルトにそこまですんのかはわかんねーが、オレは十中八九ナルトは出生含めて里の重要な機密のなにかに関連していると見ている」

シカマルの推測はイイ線を点ついている。
アイツは実は今は亡き四代目火影の一人娘で、更には当代の九尾の人柱力だ。
そこまで掴んでいるとは思わないが、何も無い所から確信に近いところにここまで迫れるとは、やはりコイツは侮れない。

コイツがここまでキレる奴だったとは思いもしなかった。
いや、もしかしたら、コイツは父親から何かしら情報を得ているのかもしれないと思った。
コイツの親父は奈良シカク。
父さんが家でその知略を認める発言をしていた男だ。
それを思い出す。

ぞくぞくと、身の内に高揚にも似た気持ちが渦巻いて行く。
コイツと全力を尽くして戦ってみたい。
一体コイツはどれだけの力を隠している。
オレはいつの間にかシカマル自身に興味を湧かせていた。

「で、だ。アイツは意外と何しでかすかわかんねー所があるからな。同じような立場でも、ヒナタとは別の班に回されるだろう。アイツはあれでも日向宗家のお嬢様だからな」
「それで何故オレがアイツを守る事に繋がる」

それでもしたり顔に続けるシカマルが気に食わず、突き放す。
その途端、苛立たしげにシカマルは髪をかきむしって声を荒げた。

「だから黙って聞けって言ってんだろーが!つまりよ、アイツは里との繋がりを増やす目的で班を組まされんだよ。んで!お前はアイツの舵取り役!スリーマンセルのもう一人の人間は、恐らくは一般家庭出身者が選ばれんじゃねーかと見てる。特に女の可能性が高いな」
「あ゛?」
「根拠は2つ。本来のアイツ自身と、あれでアイツも対外的には男として通ってっからな。女には多少当たりが柔らかくなることを見越されてんだろうよ。んで、さっきっから言ってる事に繋がる訳だけどよ、って、お前のその顔からすると、オレが言いたい事を理解してくれてるみてーだな」
「チィ……」

今度こそ本当に、オレは不機嫌さを隠さずに舌打ちした。
ああ、本当に、シカマルの懸念は正しい。
そして、恐らく、班の組み分けに対する推測も正しい。
シカマルの推測通りだとすると、オレは女二人と班を組まされる、という事か。

アイツの腹に封じられたモノを何とかするのに、オレ以外の適任は居ないという事も良く理解した。
シカマルの言うように、オレはうちはだ。
そして、だからこそアイツはオレにまとわりついている。
いずれ、敵となる者への切り札を手に入れる為に。

そしてオレは、ナルトの、無邪気にオレに纏わりついたり、自分をオレの修行の実験台にさせるような無防備さを最近持て余し始めていた。
だから班決めには少し期待していたのだ。
無理なくナルトとの距離を置く口実を得れるかもしれないと。
何より、オレ自身、一族について一人で深く考えたい事がある。
写輪眼を開眼してから知ったあれこれを考えるのに、何かと纏わりついてくるナルトは邪魔だった。

だが、突き放すには諸々の事情が邪魔して踏み切れない。
伝説の三忍の一人と繋がりや、オレ自身の修行相手、果ては食生活の一切を気付けば握られてもいる。
だからこそ、いつの間にか大分オレと近くなってしまったナルトの存在自体が気に入らない。
そしてシカマルの推測通りならば、きっとオレはアイツと班を組まされる。
だが、まあ、それは良い。
ある意味では好都合でもある。
下手に使えない奴と組まされるよりは大分ましだ。
だから別に良いだろう。

問題は、だ。
その組み分けにはもう一つ、オレに対する里の思惑が絡んでいるだろう事だ。
オレはこの里に一人だけ残された、うちはの血継限界を継ぐ者でもある。
何事もなく、順調にオレ達が成長を続けて、結婚だのなんだのの話が出てくるような年頃になる前に。
オレが戯れに手をつけてても問題なさそうな相手でオレの周囲を固めておく、という観点もあるんだろう。
あからさまに種馬扱いされてるようで、気分が悪い。

しかもアイツは、オレと班が同じになれば、今まで通り、オレの隣に在り続けようとするだろうし。
それは、まあ、それも別に良いのかもしれない。
そもそもアイツはオレに自分が女だという事がバレてる事を知らないし、まあまあアイツはいろんな所で役に立つ。
メシも上手いし、母さんがアイツに仕込んだあれこれも悪くない。
オレの修行相手としてもかなり有益だ。
だから、アイツの存在自体は悪くはない。

悪くはないが、だからこそ、このオレが自然とそう思わされている事が気に入らない。
のに。

「今んとこ、オレらの同世代じゃお前とヒナタの二人っきゃナルトの力になってやれねえし、ヒナタの奴は実家のしがらみが多くて自由に身動きとれねえし、性格的にも自分から積極的に動くような奴じゃねえからな。言っちゃあなんだが、ナルトに関しちゃ、お前以上の適任がいねえんだよ。オレにはまだよくわかんねえけど、オレの親父が言うには、どんなおっかねえ女にも可愛いとこがあって、そこんところを護ってやんのが一人前の男なんだとさ。めんどくせーけど、それが出来なきゃ男じゃねえとか言われたら、どうやったって気になんだろ!つっても、ナルトに信用されてねえオレにゃーどうしようもねえしよ。だから、アイツの近くにいるお前に頼むしかねえんだ。お前だってそう言うのが分かるから、陰でアイツのフォロー入れてやってんだろ?」

語られていくシカマルの言葉にぐうの音も出せずに沈黙するしか出来ない。

「こういうのはオレが口出す事じゃねえってのは分かってんだけどよ、お前とナルトが並んでるのみると、なんかこー、訳もなく不安になるんだよ。このままだと、いつか何か取り返しのつかねえ事になっちまうんじゃねえか、ってさ」

そして察しのいいシカマルが漏らした漠然とした懸念に、オレはどきりと心臓が跳ねた。
オレの抱える闇と、アイツの抱えている闇と、アイツの持っている望みと、アイツの中に封じられている存在と、オレの望みについてが脳裏に断片的に浮かんでいく。
そして、それについての漠然とした解決法も。

「マジでこんなのオレの柄じゃねえのも分かってるし、お前らにとっては余計な世話だっつーの自覚してる。だけどお前は男だし、ナルトの奴は女だし。だったらやっぱ、ナルトの事はお前に頼むしかねえなって思ったから今腹を割った。だから、気が向いたらで良いから、オレの話をお前の頭の片隅にでも置いててくれ。オレの話はそれだけだ」

真剣そのもののシカマルの眼差しに、返す言葉もなくオレは沈黙を続けた。
なんとなく、感じてはいても、そんな事をオレが認める訳にはいかないのだから。

だからこそ、混じりの無い真っ直ぐなシカマルの視線から思わず視線を逸らし、本音を漏らしていた。

「オレは、アイツと連みたくて連んでるわけじゃねえ」
「は!?」

これ以上は言えないが、ぎょっとしたように目を向いたシカマルを正面から見返して、シカマルの話から生まれた気持ちも同時に告げる。

「けど、お前の話は頭の片隅でもに置いておく」

オレの答えをぽかんとして見つめていたシカマルは、やがていつものようにだらけきった姿勢と、緩い表情で笑いながら軽く手を挙げてきた。

「ああ。そんくらいで良いから、少し考えといてくれや」
「ああ」
「多分ねえとは思うけど、話聞くぐらいならオレでもできるからそんときは宜しく。めんどくせーのはゴメンだけどよ」
「そうだな。考えておく」

そう返した瞬間、シカマルは無言になり、押し黙ったかと思えば、落ち着かなさそうに視線を彷徨わせつつ、同意を返してぼやいてきた。

「お、おう…。なんか、やけに素直だな。もっと反発されるかと思ってたぜ」
「理が通ってるなら、誰の話だろうと耳を傾けてやるくらいはオレだってする」

意外そうに告げられた内容に、何となく嫌な気持ちになりながら、オレはシカマルに返答を返した。
別に誰に何をどう思われてようが構いはしないが、聞く耳すら持ってないとか思われるのは心外だった。

ナルトの奴の言葉じゃないが、情報があるにこしたことはないのが忍びってものだ。
耳は大きく広くしておけ、と、父にも母にも兄にも、ナルトにすら耳にタコができるくらい言い聞かされている。

特にナルトの奴は、こちらが少しでも有益な情報を聞き逃していれば、すぐさまオレを不利な立場に追いやり、理不尽な不利益を被らせようと虎視眈々と狙っている。
いつ何が自分の利になり、得になるかしれないのに、情報を得ておく機会を逃すような愚は犯せない。
それがアイツを不利な立場に追いやり、理不尽な不利益を被らせる事に繋がるならばなおさらだ。
まあ、もっとも、アイツが仕掛けてくるのは他愛もないガキの悪ふざけ程度の不利益なんだが、それが敵の姦計末のものだったとしたらとするとぞっとしない。
普段からこういう緊張感を養う事を忘れさせない関係というのは、やはり悪くない、と思い直す。

そうなると、ナルトの存在を認める事に繋がりそうで、ナルトを認めてしまうと自分の何かが変わってしまいそうで、変わってしまう事に恐れと不快感をオレは感じた。
そして、感じた事を認めるのにも嫌気がさしたオレは、感じた事をシカマルの話のせいだという事にして、それまで考えていた事の一切を放棄することにした。

「話はそれだけだな?」
「おう。手間取らせて悪かったな」
「別にいい」

同意を得たオレは、無言で踵を返した。
シカマルとの話はこれで終いだと言外に突きつけて。


そうして戻った教室で、まさかナルトの奴が、昨日の今日で九尾を開放しそうになって胆をつぶす事になるとは夢にも思いっていなかった。
オレがちょっとでもナルトから目を離すと、コイツは何をやらかすか知れたものではなくて、そのせいで昔聞いた母さんの言葉だけではなく、この時に聞いたシカマルの話すらも、自分の頭から離れなくなるだなんて、ナルトとオレを取り巻く現状に苛立ちを抱えていたこの時のオレは、微塵も思ってはいなかった。 
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