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仮病

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第二章

 公表されなかった、それでネットで彼女を嫌う者達は忌々しげに話していた。
「逃げたな」
「ああ、仮病使ったな」
「病気なら逮捕されないからな」
「病人なら逮捕されないからな」
「だからだな」
「病気になったな」
「癌になったな」
 こう話してだ、それでだった。
 彼等はどの病院に入院しているか探そうとしたが憶測でしかなかった、それ以上は無理だった。それで余計に忌々しげに書き込むだけだった。
「さっさと逮捕されろ」
「他人にはあれこれ言って自分は逃げるのか」
「何処まで性根が腐った女だ」
「とんでもない奴だ」
 こう忌々しげに書き込むばかりだった、誰もが野枝は逃げたと思われていた。だが。
 入院していた野枝はある日だ、急にだった。入院しているということになっている病室の中で仲間内であれこれと話して酒を飲み上等の神戸牛のすき焼きを食べているとだ、ここでこんなことを言ったのだった。
「?何かお腹が」
「お腹が?」
「お腹がどうかしたんですか?」
「いえ、何かね」
 どうにもとだ、違和感を感じて言った。
「お腹が痛いわ」
「痛いって演技じゃなくて」
「実際にですか?」
「そうなんですか?」
「気のせいかしら」
 ベッドにすらいない、着ている服も入院している患者の服ではない。私服を着てそうしてすき焼きw食べていたのだ。
 その中でだ、こう言ったのだった。
「けれど何か」
「ではお医者さんを呼びましょう」
「そうしましょう」
「わかったわ」
 こう言ってだ、そのうえでだ。
 野枝は医師を呼んだ、しかしその医師は彼女に笑って言った。
「ああ、そういうことですか」
「そういうこととは」
「はい、それなら大丈夫ですよ」
 野枝に明るい笑顔で言うばかりだった、彼女の病室に来て。
「胃癌ですね、癌が胃に転移したということになったんですね」
「いえ、診察は」
「わかってますよ、党の方にはそう伝えておきます」
 至って明るい顔で言うのだった。
「その様に」
「あの、ですから」
「胃癌ということで」
 こう言ってだ、医師は笑って去った。後に残った野枝と仲間達は呆然としていたが詳しい診察は受けられずにだ。 
 そのまま放っておかれた、そしてだった。
 何度もそう言って診察を申し出たがこの医師も病院の他の医師達も笑って取り合わなかった。そうしているうちにだ。 
 野枝は本格的に苦しんでだ、遂にだった。
 寝ているベッドから転がり落ちて苦しむだした、それを見てだった。仲間達は血相を変えてそうしてでだった。 
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