永久就職
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第三章
「そういう顔になるんだよ」
「だから人間顔じゃないか」
「知り合いにガキの頃からとんでもなく性格が悪い奴がいたさ」
長渕は伊勢に自分が見た具体的な話もした。
「高校の時は高校全体で有名な嫌われ者だった」
「相当に性格が悪かったんだね、そいつは」
「だからやがて碌でもない奴になると思ってたけどな」
「実際にだね」
「とんでもない屑になってな」
それでというのだ。
「四十の頃には見事チンピラの格好と顔になってた」
「それ見事かい?」
「俺の予想通りになったからな」
そうした意味で見事だというのだ。
「見事なんだよ」
「周りにとっては見事じゃないだろうね」
「ああ、何されるかわからないからな」
「関わり合いにならない方がいいな」
「そうした奴だよ」
完全にというのだ。
「見事にそうなってたよ」
「それじゃあ今はどうなってるだい?そいつは」
「さてな、まあ今はもっと碌な顔になってないだろ」
「生き方が悪過ぎてか」
「ああ、そいつの人相はどんどん悪くなった」
「そうしたことからもか」
「人間は顔じゃないんだよ」
つまり生き方、性格だというのだ。
「だからあんたはな」
「いいっていうのかい」
「ああ、というかそんなに顔ばかり気にしてたらな」
それこそというのだ。
「あんたずっと一人だよ」
「それでこの店もか」
「あんたの代で終わるぜ」
「頼りになる人に譲るとかは」
「そんあに美味くいくものじゃないさ」
長渕は笑って伊勢に言葉を返した。
「だからな」
「結婚か」
「それで家庭を持った方がいいかな」
「僕が持てるかい?」
「あんたなら大丈夫さ、だからな」
「あの娘にか」
「言ってみたらどうだい?」
伊勢に確かな顔でアドバイスをした。
「勇気を出してな」
「告白なんてね、どうせね」
伊勢はここで学生時代のことを思い出した、太っていてスポーツも出来なくもてなかったその頃を。
「言ってもね」
「振られてただね」
「そうなるって思っていてね」
「これまではだね」
「一度もだよ」
それこそというのだ。
「したことなかったよ、けれどだね」
「言ってみたらどうだい?悪い娘じゃないんだろ」
「ああ、それはな」
絶対にとだ、伊勢も応えた。
「間違いないよ」
「それじゃあな」
「勇気を出してかい」
「告白したらいいさ」
長渕はまた伊勢に言った。
「何なら仲介するけれどな」
「爺さんがかい」
「絶対に一緒になりたいって思うならな」
その美咲にというのだ。
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