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羽衣を捨てて

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第三章

「一年です」
「一年?」
「はい、考えさせて下さい」 
 こう言うのだった。
「そしてです」
「一年経ったらか」
「お返事をします」
 こう幸吉に言うのだった。
「その時に」
「そうか、わかった」
 幸吉はお宮のその言葉に頷いた。
「ならな」
「はい、一年経った時に」
「返事してくれ」
「わかりました」
 真剣な顔で答えてだった。
「それでは」
「おら悪いことをした」
 今更になって後悔して言った。
「おめえのことが幾ら好きになってもな」
「それは」
「だから言うんだ」
 お宮自身にというのだ。
「一年経ってな」
「私が天界に帰りたいなら」
「帰れ、羽衣を渡す」
 隠し持っているそれをというのだ。
「それで坊主も連れてな」
「そのうえで」
「帰れ、やっぱり悪いことは駄目だ」
 自分自身にも言っている言葉だった。
「だからな」
「一年で」
「決めてくれ」
 こうお宮に言った、それからは普通の夫婦の暮らしに戻ったがお宮はこの一年の間ずっと考えた。
 そしてだ、幸吉も暗かった。そうした一年だった。
 だがその一年の間にもだ、幸吉は真面目に働きお宮も子供も大事にしていた。このことは決して変わらなかった。
 そしてある日だ、お宮は家の倉庫を掃除していた、その時に奥にだ。
 きらきらと光る薄い生地の衣を見付けた、お宮はその衣を見てすぐにわかった。そしてその衣をだ。
 手に取ろうとした、しかし。
 ここで幸吉の顔と彼とのこれまでの暮らし、二人の間に出来た子供のことを思い出した。そしてだった。
 衣に伸ばした手を止めた、そうして掃除を続けたのだった。
 やがて一年経った、その夜幸吉は死にそうな顔でお宮に言った。晩飯を食い子供が寝てからだ。
 家の中で向かい合ってだ、彼はお宮に羽衣を出してそれから言った。
「返すな」
「そしてですね」
「決めてくれ」
 こうお宮に言うのだった。
「どうするか」
「帰るか残るか」
「それをな」
 まさにというのだ。
「そうしてくれ」
「そうだ、どうするかな」
 羽衣をすっとだ、さらに前に出した。そのうえで死にそうな顔のままお宮のことを見ている。
 お宮は手を動かした、すると幸吉はさらに死にそうな顔になった。この世の終わりの様に。 
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