世界をめぐる、銀白の翼
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第五章 Over World
これが俺たちの出会いだね
数週間前
見滝原市に隣接する、また別の街。
「さて、行きますか!」
火野映司はそこにいた。
「少しの小銭と明日のパンツがあれば何とかなる」を旅のスタンスとしている彼は、自然と一つの街にとどまることが長くなる。
貯金と言えば、口座の中には鴻上ファウンデーションからの給与があるので呆れるほどあるのだが、彼はあくまで、それはもしもの時にしか使わないようにしている。
よって路銀を稼ぎ、次の街に行くまでの時間がかかり、結果として見滝原に着いたのも、「EARTH」から出発してそこそこ経っていた。
彼にしてみれば、そんなに急く用事でもないのでのんびりと旅をしてきた、と言ったところか。
そして、旅とは出会いの連続だ。
この手の届く、絆が次々と生まれていく。
彼がこの見滝原に着く前の街で出会った絆とは―――――
「はなせー!!放しやがれー!!」
「放せって言われても・・・・」
公園のベンチで、ぐるぐる巻きにされて座り込む少女と、火野映司が立っていた。
言わずもがな、少女の方は佐倉杏子だ。
何故ぐるぐる巻きにされているのかと言えば、きっかけはは万引きの現行犯だったりする。
実際には少し違うが。
事の発端は、何も劇的なことがあったわけではなく。
単に映司がスーパーで買い物をしていたら、リンゴを盗もうとしている彼女を見つけたというだけのことだ――――
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「へへ、ちょろいね」
そんなことを言いながら、紙袋にリンゴをヒョイヒョイ放り込んでいく杏子。
場所は市内のスーパー。
店内だというのに、彼女は箱を開け、お菓子を咥えはじめた。
にしし、と笑いながらリンゴを放り込む杏子の後ろに、はぁ、とため息をついて映司が立つ。
明らかに買おうとする態度ではないし、その場で一個齧り始めていたのだからもう疑う余地はないだろう。
「ちょっと、何やってんの君」
「うえ!?」
急にかけられた言葉に、ビクッ!と身体を振るわせながら驚く杏子。
ゴロゴロとリンゴが転がり、それを映司が服で拭きながら棚に戻す。
「ダメだよ君。万引きなんて」
「う、うっせーな。カンケー無いだろ!ってか、なんであんた気付いてんだ!!」
「なにが?とにかく、欲しいならちゃんと買わなきゃダメだって、ほら!」
ガシッ!!と杏子の手を取って、レジに進んでいく映司。
どうやら店に引き渡すつもりではないようで、会計を済ませてスーパーから出る。
「全部は買えなかったけど、ほら。これで万引きなんてもうやめなよ?」
「うっせーって言ってんだろ!!」
バシッ!!と映司の手からリンゴをひったくる杏子。
そのまま逃げるように走って行き、振り返りざまにベーッ!!と舌を出す。
その走りっぷりに唖然としてしまう映司だが、スーパーの隣に停めておいた「自販機」にコインを入れ、そこから出てきた缶に声をかけて放り出す。
すると缶は変形し、鷹の形になって少女の後を追いかけて行った。
この時はまだ、ぐるぐる巻きにされるなど想像もしていない杏子だった。
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「ちっ、なんなんだあいつは・・・・」
グぅ~
「ぐっ・・・やっぱリンゴだけじゃたりねーか・・・」
その後、ホテルの一室。
太陽も沈みかけて、暗くなっていくのでカーテンを閉める。
佐倉杏子は魔法少女だ。
今晩も魔女を探して街を歩き、見つけた場合には倒す。
そのためには何よりも体力が必要だ。
グリーフシードのストックはまだ二つあるが、ソウルジェムは何もしなくても濁る物。少し心許ない。
「あんとき邪魔さえ入らなかったらな・・・・」
そう言いながら、上着を羽織って玄関に向かう。
行く途中で、それこそコンビニでもなんでも、そこで食料を「調達」しないとどうにも調子が出ない。
と、椅子に掛けた上着を取り、玄関に向かおうとすると呼び鈴が鳴った。
家庭にあるような温和な音ではなく、各個室に備え付けられたビー!と言う飾りっ気のない音だ。
ドアノブには「入らないでください」のカードをかけているから、従業員ではない。
そもそも、それならまずロビーから電話が来るはずだ。
(魔法少女か・・・・?)
グリーフシードを狙って、魔法少女同士が争うことはそう珍しい事ではない。
しかも固有魔法は十人十色で多種多様だ。
自分を見つけ出す魔法少女がいてもおかしくはないのだ。
ソウルジェムを握りしめ、取り出す杏子。
そこから槍(全部ではなく、先端から半分ほど)が出てきて、それを構える。
もう一度呼び鈴が鳴る。
恐る恐る近づき、覗き穴から向こう側をうかがう。
「なッ!?」
そこにいたのは、昼間に見た男だった。
つまり、映司だ。
(な、なんで名前も知らないあたしのいるとこに来れんだよ!!)
玄関に背を預け、驚きで詰まった呼吸を整える杏子。
彼女は気づいていないが、この部屋は包囲されている。
カンドロイドで。
カンドロイドが何かって?
あのタカのことです。ほかにもいます。
説明?
さあ、wikiを見よう。
『もしもーし?いるかーい?』
(い、いないいない!!だまってりゃわかるはずもねー。というか窓から逃げれば・・・)
『おっかしーな。今「なっ!?」って声聞こえたんだけど。あと息をのむ音』
(あたしのバカーーーーー!!!)
がっくりと膝をつく杏子。
だが、どっちにしろ黙ってればいい。
ホテル側だって、杏子の許可もなくここの鍵を開けるはずがない。
スタスタとベッドに向かい、ボスっ、と座り込む杏子。
玄関からは映司の声がなおも聞こえる。
『えーっと・・・・いるんだよね?このままだとオレ、無理矢理開けちゃうけど?』
黙って扉に魔法をかけて強化する杏子。
杏子、扉を強固にする。
シャレではない。
『返事してくれないと、お店の人に万引き犯って言いつけるヨー?』
万引きの時には魔法で意識を向けさせてない。
カメラにも細工しているから、映ってない。
いくら映司が騒いだところで、証拠がないから意味がない。
『あ、俺あのときカメラで映像取ってたから』
嘘だということはすぐにわかる。
あの時、映司は何も持っていなかった。
だが、そんなあからさまな嘘にイラついたのか、杏子は言葉を返してしまった。
「うっせーな!んな嘘が通じると思ってんのか!」
『あ、いた』
中から聞こえてきた声に、とりあえず反応する映司。
杏子としてはまた面倒なことしちまったと頭を抱えるが、よくよく考えればロビーに文句を言えば追い出せるのだ。
そう思って、電話に手を伸ばす杏子。
が、コンコン、窓を叩く音がして、そちらに意識が向く。
なんだ?と思いながらカーテンを引くと、そこにはタカカンに掴まれたバッタカンがいた。
カンが何かって?「カンドロイド」の「カン」です。
「うわぁ!?」
『あ、それがカメラ。どこに電話するの?』
思わずしりもちをついてしまう杏子。
どうやらカメラがあったというのは本当だったらしい、これなら手に持ってなくてもいいのだし。
更に窓を覗き込むと、バッタやタカの他にもウナギやタコのカンドロイドが部屋を囲んでいた。
「こ・・・の・・・・」
キュゥン
『ねー、ここ開けて・・・・』
「だっシャぁーーーーー!!!」
バリーン!!
『なに!?って、えぇええ!?』
ホテルの窓をブチ破り、外へと飛び出していく杏子。
バッタカン越しにそれを見ていた映司は驚愕と共に青ざめた。
当然だろう。
少女がいきなり投身自殺したようにしか見えないのだから。
ゆえに
「変身!!」
《タカ!クジャク!コンドル!!》
「ハァッ!!!」
映司はオーズに変身し、部屋に飛び込んでそのまま空中の杏子を掴んだ。
「えぇ!?」
「いきなり何するんだ!!死んだら何も残らないだろ!!」
いきなり現れた仮面ライダーオーズタジャドルコンボ。
それが映司の別の姿であることなど、杏子にはわかるはずもない。
「は、はなせ!!」
「え?あ、暴れないで!!」
「「うわぁぁああ!!!」」
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「――――ってことがあって。まあこれが俺たちの出会いだね」
「フン」
時は戻って、翼刀の部屋。
今、この部屋には主要となるメンバーがそろっている。
まどか、ほむら、さやか。
部屋の主、翼刀。
そして招かれた映司と杏子だ。
杏子は最初こそ逃げようとしたが、映司に肩を掴まれて引きずられてきた。
「そ、それでどうしたんです?」
「その後公園に落ちてさ、変身を解いたら解いたでまたビックリさせちゃって」
「だからってこいつぐるぐる巻きとかしやがるんだぞ!?」
「いや、それは杏子ちゃんが悪いよ」
「はぁ!?」
「だって万引きしようとして、その後ホテルのガラスも割っちゃったんでしょ?」
「でもそれは―――」
「やったんでしょ?」
「うぐ・・・・」
「悪いことだよね?」
「ぐ・・・ぬぬ・・・・・」
「おぉ・・・まどかが押してる・・・・」
「この組み合わせは珍しいわね・・・・」
精一杯の抵抗をしようとする杏子だが、ズズズィッ!と寄ってくるまどかに後ずさってしまい、最後には何も言えなくなってしまった。
間違ってる、これしかない。
そう決めた時のまどかの頑固さは半端ないのだ。
流石は最主要人物である。
「それで?そのあとはどうしたの?」
「あぁ。その公園で魔女が出て、杏子ちゃんと戦ってやっつけて。その時に魔女のことを聞いたんだ」
それからというもの、ことあるごとに映司は杏子の前に姿を現す。
一回「このストーカー野郎!!」と思いっ切り罵ったらしいのだが「万引き現行犯」とバッタカンをちらつかされては何も言い返せない。
無論、警官などは軽く振りきれるし、いざとなれば魔法でどうにでもできるのだが・・・・
「そうしようとしたらコイツ、紫のおっかないのに変わりやがって・・・・・・」
まあそんなこんなで、魔女を倒すときに共闘したり、万引きを止めたり、ちょっかいを出したり(杏子が)、バイトをやらされたり(杏子が)で、色々と関わったらしいのだ。
「フン!腐れ縁さね。この街に来て、やっとコイツともおさらばと思ってたんだけどね」
「あれ?言ってなかったっけ?俺の目的地、見滝原だよ?」
「聞いてないっての!!」
イライラしながら立ち上がる杏子。
机の上に出されたお菓子を一掴み取り、そのまま玄関の方へと向かって行く。
「どこに行くの?」
「この街の寝床を見つけないといけないんでね。それに、じゃれ合うのは好きじゃないんだ」
ジャキン―――
そこまで言って、杏子が槍を出現させて一同に向ける。
その瞳にはすでに、明確な敵意があった。
「あんたら二人も魔法少女なんだってね?」
「ええ」
「そうよ・・・だからなに!?」
「この街の魔女はあたしがもらう。死にたくなきゃ、早く出ていくんだね」
明らかな縄張り宣言。
ほむらは「そう」と軽く流すが、さやかは今にも突っかかりそうな勢いだ。
もともと最初から「縄張り」なんて意識はなかったが、こういわれると無性に渡したくなくなってくるのが人の性だ。
拳を握りしめるさやか。
が、それを思い切り握りしめると、飛び出してきそうな言葉を飲みこんだ。
代わりに、静かな声で聞く。
「あんた・・・・一人で戦う気?」
「言ったろ。じゃれるのは好きじゃないってね。あんたもそうだよ、エージ」
「映司だよ」
「知らないよ。とにかく、これ以上あたしの邪魔をする気なら、次に会った時には殺す」
部屋の温度が、下がった気がした。
それは、ほむらとさやかに臨戦態勢を取らせるほどに。
まどかは目の前の光景に怯え、映司はそれを庇いように膝立ちになる。
もしも、ほんの少しのきっかけさえあれば、この場で戦いに発展する程の緊張――――
「おーい!!翼刀スペシャルココアが出来たぞー!」
そこに翼刀がやってきた。
いつの間にか別の部屋にいたのだろうか、この空気に置いてけぼりだ。
「ありィ?」と盆に6つのマグカップを持ち、首だけをクリン、と捻る翼刀。
女の子だったらかわいい仕草だっただろう。
ちなみに、翼刀が出てきた部屋からはむせ返るほどの甘いにおいがしてきていた。
何ですかあれは、魔女の工房ですか?と言われてしまうほどの。
中は真っ暗で見えない。本当にどうなってるんだ。
ピシャン、と襖を閉じ、マグカップを並べていく翼刀。
「どうしたんだ?立ち上がって」
翼刀からすれば、沸点の低かったり、暴れ出す女子の扱いはもう慣れたものだ。
槍を出していることなど、お構いなしなのだろう。立ち上がっている杏子にも「ほい」とマグカップを差し出す。
杏子は杏子で「食べ物は粗末にしない」という矜持のため、そう差し出されてはいらないというのも気が引けてしまう。
まあいらないと言っても捨てられることはないのだろうが、それでも自分に出されたのだ。無視はできない。
しょうがねーな、と言った雰囲気で、杏子がマグカップに手を伸ばす。
各々も手を伸ばし、少し口を付ける。
飲んだ感想は人により
「あま~い♪」
「甘ッ!?あ、でも飲めなくはないですよ」
「ちょっとこれは・・・・」
「甘すぎるわね」
とのこと。
ちなみに杏子はというと
「フー、フー・・・な、なんだよあんたら。何見てんだよ!!」
冷ましていた。
どうやら飲むにはまだ少し熱かったらしい。
が、それに口を付け、コクッと喉に流し込む。
「おぉ・・・・」
杏子の顔が明るくなった。
が、一瞬でハッ!と我に返り、もう一口で飲み干してしまう。
「こ、こんなんであたしを仲間にできると思ってんじゃないよ!」
(おいしかったんだね)
(おいしかったんだ)
(おいしかったのね)
(おいしかったんだなぁ)
(うんうん、おいしくてよかった)
「なんでそこで生暖かい顔しやがるんだ!!チクショウ!!帰るからな!!」
そうして、今度こそ部屋から出ようとする杏子。
と、その背に向けて翼刀が剣を取り出した。
「ッ!?・・・・・あんたも妙な力を持ってんのかい・・・・」
丸腰だった翼刀が手に持つのはヴァルクヴェイン。
映司という前例がいたので、こっちの方にはそう驚きはしない。
が、剣を突き付けらているのは事実だ。
ゆっくりと翼刀の方へと体を反す。
「まあね。で、どうする?」
「・・・どうするも何も、あたしは・・・・」
「ソウルジェムを出すんだ」
「!・・・・やっぱそうかい・・・あんたらあたしの・・・!!」
「どうせいくらか濁ってんだろ?だしなよ。浄化するから」
「他の魔法少女をつぶす・・・ってはぁ!?」
「翼刀さん、あたしもお願いします」
「どうせなら私も頼もうかしら」
剣を向けられ、緊張する杏子だが、次の瞬間には別の意味で身体が固まった。
ソウルジェムを浄化?グリーフシードも持ってないこの男が!?
「はん!!あたしを担ごうったってそうはいかないよ。そんなことできるはずが・・・・・」
シュワァァアア・・・・
「ほい」
「ありがとうございます!!」
「感謝するわ」
「ヘェア!?」
必死になって抵抗する杏子だが、目の前で二人のソウルジェムがきれいになって行っていた。
そこで杏子は、キュゥべえの言っていたことを思い出した。
彼女たちは仕事をしない、と
つまりはこういうことだったのだ。
戦いを放棄しても、ソウルジェムは日々自然と濁る。
ゆえに、魔法少女は魔女と戦わねばならなくなるのだが、こうして浄化できるのならば確かに戦う必要もない。
「キュゥべえの奴・・・・もっとちゃんと言えよ・・・・」
がっくりとうなだれる杏子。
その隙にほむらが杏子のソウルジェムをかすめ取り、勝手に浄化してしまった。
「ほら」
「返せっ!!」
浄化され、差し出されたソウルジェムをひったくるように奪い取り玄関から出ていく杏子。
恐らくは寝どこでも探しに行くのだろう。
「じゃあ私たちも帰る?」
「そうだね~。そろそろ暗くなりそうだし」
そうして、まどかたちも帰路につく。
今日という日は、こうして終わる。
ちなみに
「映司さん、ホテルとかとりました?」
「いや、まだだけど」
「じゃあうち住みます?」
映司は翼刀の部屋でお世話になることになった。
「この部屋とかは?」
「どの部屋?」
「さっき俺がココア作ってた部屋。ちょっと片づけないとだけど・・・・」
「他の部屋でお願いします」
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どんどん変わってる。
また新しい人も来た。
このままいけば、これ以上誰も失わないであの日を迎えられるかもしれない。
・・・・期待してもいいのだろうか。
本当に期待、出来るのだろうか。
今までも期待した。
何度も何度も希望を抱いた。
でも、結局はすべてが終わる。
その度に、私の心は疲弊していく。
その度に、私は絶望に襲われてきた。
期待するのはやめると決意したんだ。
私は予測だけすればいい。
その先に希望を抱いちゃいけない。
でも・・・・
もし、許されるのであるのなら
私は、祈ります。
この運命の輪から、彼女を救い出してください、と。
to be continued
後書き
というわけで、映司と杏子の出会いな話。
蒔風
「さやかが怒りを自重した・・・だと・・・・」
アリス
「成長してていいですねぇ~」
翼刀
「マミちゃんの脱落で一回気落ちした第五章だけど、また明るくなりそうですね!!」
ショウ
「とでも思っていたのか」
三人
「「「!?」」」
そう。
次回から杏子を含めた魔法少女の戦い。
そして、一気に真実へと向かいます。
向かえると・・・・いいなァ・・・・・
蒔風
「おい」
そんなことよりも今回は杏子が可愛い。
蒔風
「おい」
あーあ、早く第五章終わらせて・・・・・
第六章が書きたくてたまらない!!!!
映司
「次回、三角関係・・・恋愛は苦手だぁ~!!」
ではまた次回
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