世界をめぐる、銀白の翼
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第五章 Over World
それはとってもすごいこと
翌日
翼刀は朝から病院にいた。
嵌め込みガラスの向こうに横たわるマミを、ただただ眺めている。
傍から見れば、何の感情も無く眺めているようにも見えるが、心境はそんなものではない。
しかし、ここで悔やんでもしょうがない。
マミの腕や足は爆発で粉々に散ってしまったようで、いくらヴァルクヴェインでもそれを治すことは出来なかった。
だが、ここで不可解なのは
「なんで眼を覚まさない・・・・・」
マミはあれから眠り続けていた。
医者が言うには「爆発のショックで精神が止まったのかもしれない」とのこと。
更には、ソウルジェムだ。
マミの最後の一撃にどれだけの魔力が込められたのか。
枕元の机に置かれたそれは、真っ黒の直前にまで染まっていた。
ヴァルクヴェインで浄化できないのだ。
これが不可解だった。
魔法少女と、ソウルジェム。
そして、その契約の願い。
暁美ほむらは「巴マミの方にも要因はある」と言っていた。
放課後にも彼女には話を聞くつもりだ。
だから今、彼が話を聞く相手は一人だけだ。
「・・・・・・」
何を語ろうとしたのか、翼刀の口が開く。
だが開いただけでそれは閉じられ、踵を返して部屋から出ていく。
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「探したぞ」
「おや?なんだい?」
見滝原中学
校舎裏の一角
そこで翼刀はキュゥべえを発見した。
翼刀の方を見はするものの、興味は無いようで軽く視線を向ける程度。
だが、相手の態度など関係ない。
即座にヴァルクヴェインを抜き、キュゥべえの額のド真ん中に向けた。
「何のつもりだい?君にその利点はないはずだよ」
「動くな。質問にだけ答えろ」
「やれやれ」
剣の切っ先と額がピタリと付いたこの状況でも、キュゥべえはいつものペースを全く崩していなかった。
「契約の願いってのは、なんでも叶うんじゃなかったのか」
「そうだよ、基本的にはね。厳密に言うと、その子の持つ因果の大きさによって、規模は異なってくる」
「じゃあマミちゃんがあんな状態になったのは、さやかちゃんの因果が足りなかったからか?」
「いや、そうじゃない。彼女はその願いを全うするだけの素質は持っていたよ。ただ、今回は状況がまずかった」
「状況だと?」
「願いから生まれる魔法少女は、絶望を振りまく魔女を倒す。だけど、その魔法少女自身が絶望に捉われると、その力は一気に落ち込むんだ」
「――――つまりマミちゃんが「自分は死んだ」と察してしまったら」
「そうだね。それはもうだれにも止められない。今のマミの状態はひどいものだね。さやかたちに言わなくていいのかい?」
「どうしてそう思える・・・・!!」
「思うというか・・・・情報は正しく伝えてあげた方がいいと思っただけさ。君たちには小さな勘違いからつまらないいざこざが起こるからね」
「知らなくていいこともある」
「隠し通せるつもりかい?」
「隠し通すんじゃない。その嘘を現実に変えるんだよ」
会話を終え、剣をキュゥべえから離す翼刀。
踵を返し、屋上へと向かう。
「もういいのかい?」
「あとはほむらちゃんに聞く。悔しいことに、お前に非はないようだしな」
「それはよかった」
ズコン!!
「ただ、もしその腹に何かまだ抱えてんなら・・・・今の内に話しておけよ」
その場を去ろうとするキュゥべえの眼前に、刃が一本突き刺さった。
翼刀から警告か、それとも宣戦布告か。
だが、なおもキュゥべえの口調は変わらない。
「ボクは何も嘘をついてないよ」
「隠し事を含めてか」
「ボクは何も隠しているつもりはないんだけどね」
「これ以上あの子たちに何かあったら・・・・お前潰すぞ」
「君に僕を殺すことは出来ないよ」
そう言って、今度こそその場からキュゥべえが消える。
背後から気配の消えたのを確認し、翼刀が携帯を取り出す。
そこに送られてきたメールには、一言だけ添えられていた。
『一週間くらい』
「・・・・・長いっすよ」
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「じゃあさやかちゃんもマミさんみたいに魔女と戦うの?」
「う~ん・・・私運動は得意だけど、戦いってなるとやっぱり・・・・ねぇ?」
屋上に向かいながら、まどかとさやかが、これからのことを話している。
色々とあって魔法少女になってしまったさやかだが、戦いには乗り気になっていない。
以前のさやかならば「マミさんが復帰するまで、私が代わりに街を護ります!!」とでもいうところだ。
運動も得意だったこともあったし、正義の味方という言葉に憧れもあった。マミに追いつきたい、ということもあったかもしれない。
だがここ数日でその考えは変わっていた。
運動が得意だからと言って、動けるだけで戦えるわけではない。
マミに言ったように、自分に魔法少女は無理だと最初からわかってもいる。
もし目の前で魔女が誰かを襲っていたら、助けに行くのだろう。
だが、必死にならなくても今この街には翼刀もいる。
不本意だが、転校生のほむらも・・・・一応いる。
マミだって今は怪我で無理だけど、必ず帰ってくるんだから、無理はしないで彼のフォローに回ればいいだろう。
「とにかく、そんな目くじら立てて魔女を追い回すことはしないのだ~」
「へぇ・・・でもさやかちゃん、かっこいいね」
「そぉ?だって言っちゃえば私、魔法少女のお仕事はしたくな~い、って言ってるんだよ?」
「それでもマミさんのために魔法少女になって、それで誰かをまだ助けようと思えるっていうのは、それはとってもすごいことだよ」
「あ、あはは~!!そう言われると悪い気しないねぇ!!」
カツコツと階段をあがり、屋上への扉に手を掛けるさやか。
と、後ろを振り返るとまどかが顎に手を当てて何かを考えていた。
「どしたの?」
「さやかちゃん・・・・・「目くじらを立てる」って・・・・知ってたの?」
「ひど!?」
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「なん・・・だと・・・・!?」
「美樹さやか・・・・あなたがその意味を知っていたなんて・・・・」
「「目くじらを立てる・・・・・」」
「なんで翼刀さんもまどかみたいに言うんですか!?流石に年上でもグーで殴りますよ!!ってか転校生!!あんたはなんでここにいんのよ!!!」
その後
昼食を食べて、さやかの話題が出て同じようなことを四人で話していた。
翼刀たちの対応にプンプンと怒るさやかだが、それがいい。それでいい。
「私はもともと彼とここで話していたのよ。あとから来たのはあなたじゃないの」
「私たちだって翼刀さんと待ち合わせしてましたぁ~!ってさり気にまどか除外してない?なんで私だけ!?」
「まどかは天使・・・・いえ、女神だからいいのよ」
「まどかは・・・・ぐぬぅ、そこは否定できない・・・!!!」
「えぇ!?」
ほむらの言葉に何も言い返せなくなってしまうさやか。
先日の翼刀の言葉通り、ほむらとのケンカはNGとされている。
それでもついつい突っかかってしまうさやかだが、翼刀がいると言葉が詰まる。
そのおかげでいらない口げんかが抑えられているのだ。
翼刀曰く「言い方はともかく、言うことは正しい」そうなので、そこに注意して聞いてみると――――
「確かにそうなんですよね・・・・キュゥべえとか攻撃したのはまだ許せないけど」
「別に。わかってもらおうとか思ってないから」
「ほら!!こういうこと言うんですよこいつ!!どう思います翼刀さん!?」
座ってもそもそとサンドウィッチを食べるほむらに向け、立ち上がって指をさすさやか。
その顔には気にくわないという言葉がありありと浮かんでいる。
ほむらの方も食べ終わるとすぐに立ち上がり
「私はお邪魔のようだから」
と言ってその場から去ろうとしてしまう。
「しかもあの無愛想な態度・・・・翼刀さん、ホントにアイツ信用してるんですか?」
「それなりには。それにあの態度だってさ、新手のツンデレだと思えば・・・・・どうよ」
「むぅ、あり・・・・ですね」
「そんなつもりないから」
「ひゃあゥ!?あ、あんた今出口に向かって!?」
背後に突如として現れたほむらに、悲鳴を上げて驚くさやか。
だが翼刀の言われたとおり、そう言うフィルターを通して見ると・・・・
「ホントだ!!ツンデレだ!?」
ガシッッ!!
「そ・う・い・う・つ・も・り・な・い・か・ら」
ギリギリギリ
「イタイイタイ!!」
さやかの頭を左右から両手でつかんで押すほむら。
その手を払って「何すんのよ!!」とまたケンカ腰になるさやかだが、昨日までの険悪さはない。
子猫がじゃれ合ってるくらいのものだ。
「まあほむらちゃんもまだ時間あるんだし、こっち座ってなよ。まだ話もあるだろ?」
「・・・・その話をするには今は時間がないわ」
「じゃあ放課後だな」
「そうね」
「何の話ですか?」
「今後の対策さ。っと、あとすべきことは一つだな」
「なに?」
「すごく重要なこと」
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「ドンドコドコドコ ドンドコドコドコ」
「まど神様~」
「素晴らしや~」
「まど神様は~偉大なり~」
「「「ドンドコドコドコ ドンドコドコドコ ドンドコドコドコ ドンドコドコドコ」」」
「やめてよ三人とも!!ほら!!チャイム鳴ったから教室戻るよ!!翼刀さんも置いて行っちゃいますから!・・・・なんで三人とも教室までそのスタイルで着いて来ようとするの!?」
教室に着いてもやめない三人。
その後五分間、教室はまど神様を讃える歌に包まれた。
間違って・・・・ぬ!!
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「キュゥべえを信頼しきらない方がいい?」
「どうしてですか!!そのおかげでマミさんも助かったのに!!」
放課後になって、二人と待ち合わせをした翼刀が、帰路に付き合いながら話題を切り出した。
と、同時にさやかのソウルジェムを浄化しておく。
マミの説明にはなかったが、見てみると少し濁っている。
どうやら何もしなくても少しずつ濁っていくようなのだ。
結果、魔女との戦いを余儀なくされるのだが・・・・
「翼刀さんがいてホントよかったです」
「だよね~。それで、どういうことですか?」
ソウルジェムを返してもらい、最初の質問に戻る。
キュゥべえは今、此処にはいない。
「まず一つ。なんか胡散臭い」
「それだけですか!?」
「まあそれは半分冗談。もう半分はあれだ、さやかちゃんの願いが完璧に成就されてないだろ?」
「? マミさんは助かりましたけど・・・・」
「さやかちゃんの願いは確かに「マミちゃんを死なせない」だけど「生きてればいい」ってことじゃないでしょ」
「・・・・・あ!そういうこと!」
「マミさんが無傷じゃなくて、怪我をしている、ってことですか?」
「そ」
実際の理由を(一応)キュゥべえから聞いている翼刀はそれが違うと知っているが、あながち間違ってもない。
「それと、ほむらちゃんの言うこともあるし」
「でもアイツ理由言わないじゃないですか」
「そうなんだよな。言やぁ解るのに、言わなきゃ最初からわかんないのにな。でも」
そう、言い方や行動はともかく、ほむらの言うことは大体正しいのだ。
その理由が言わないのか言えないのかはわからないが、彼女には彼女なりの確信があって警告してきている。
「だからとりあえず信じておくってこと」
「嘘だったらどうするんです?」
「嘘?」
「他の魔法少女を排除して、グリーフシードを独り占めする気とか!!マミさんも言ってたじゃないですか」
さやかの疑いももっともだ。
そもそも、翼刀もまったく疑ってないわけではない。
ただ
「疑ってたら何も見えない。ま、疑うのはいいことだ。何もかも鵜呑みにしたら絶対にマズイ。そういう経験あるから」
「じゃあ」
「でも、俺はほむらちゃんを信じたい。だったら疑うべき場所をピックアップして、それをクリアしてしまえばいい。それが出来たら、信じられるってことでしょ」
「あ・・・・・そうですね!!」
「最初から疑わないなんて馬鹿だ。そんな奴はきっとすべてを失う。俺の知ってる人が言ってたんだけどさ「否定するには理解しないといけない。どこが間違ってるのかはっきり言えなきゃ、否定なんてできない。だからそのためには理解しないとダメ」らしい。これも同じなんじゃないかと思う」
「確かにそうですね・・・・」
うーん、と考えながらも理解したのか、さやかが納得した面持ちで顔を上げる。
と、そこでまどかがヒョコ、と手を上げて質問した。
「それ「EARTH」の人の言葉ですか?」
「ん、局長さんの言葉だよ」
「「局、局長!?」」
「そんなに偉イイ人ですか!?」
「まどか、テンパりすぎだよ。深イイみたいになってる」
「さやかちゃんそこまで騒がないのな」
「まどかが先にテンパってくれましたから」
「あぁ、なるほど」
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街の向こうに、太陽が沈んでいく。
私の知っている世界とは、少し違う世界。
いや、私の世界から変わった世界、と言った方がいいか。
そこで現れた、新しい人物。
彼がカギなのだろうか。
この閉ざされた運命の扉を開けるための。
今までとは、すべての展開が違っている。
結果的には変わってないけれど、みんなの心境が大きく変化している。
今日も、まさか美樹さやかとあんな言い合いをするとは思ってなかった。
いがみ合いの形だったが、それが嫌とは感じず
「―――――あ」
ふと、手を口元に当てると
(笑っていたの?)
少し、柔らかくなっていた気がする。
ビルの屋上から見るこの街はきれいだ。
だけど、その住人が、生活が、未来がきれいだとは限らない。
まるでそれを必死になって覆い隠すかのような、整った街並み。
みんな、自分のためだけに動いている。
そういう私だってそうだ。
自分の目的のためにだけしか、もう動かないと決めた。
でも
気付けばあの時、魔女の結界の中に踏み込んでいたし
中で戦っていた彼の手助けをしたし
巴マミを一緒に探し
今日なんて一緒に昼食を取っていた
もうだれも頼らないと決めたのに
こうも簡単に私の覚悟は崩れてしまった。
私のせいか
それとも、彼の影響か
あなたなら、救えるというの?
あなたがいれば、まどかを助けられるの?
嗚呼、信じられるなら、今すぐにでも飛びつきたい。
涙ながらにしがみついて、まどかを救ってと叫びたい。
きっと彼はそれを聞き、任せてくれというのだろう。
だが、それが出来なかったとき、私は真に絶望へと墜ちるだろう。
それだけはダメだ。
そうなってしまっては、もう二度とまどかを救えない。
だから、私は進めない。
何も変わってない。
何も変わらない。
私は、あの事の私と何も変わってない。
臆病で、何もできない、あの頃の私。
でも、誰も解ってくれない。
解りようもない。
だから、私は一人で耐えなければならないのだ。
「そろそろかしらね」
立ち上がる。
少し状況は違うが、巴マミがいなくなり、美樹さやかが魔法少女になったのならば、次は彼女の登場だ。
出迎えなければならない。
変えなければならない。
これから先の運命を。
たとえそれが、こちらを食い尽くそうと不気味に口を開けていたとしても。
to be continued
後書き
最後の文章がめちゃくちゃ自信作です。
蒔風
「いきなり言うのがそれか」
翼刀とほむらはマミさんのことを隠します。
マミ
「私、眠り姫♪」
身体はボロボロだけどな。
翼刀
「なんてこと言うんだこの作者は」
今回描きたかったこと
・悔やむ翼刀
・キュゥべえの問い詰め
・ほむらとの確執をソォイ!
・まど神様
・キュゥべえなんて信じないで!!
でした。
最後のは「なんか〆ないとなぁ・・・」と思って書き始めたらできた。
こういうのってなんで狙って出来ないんでしょうね。
ほむら
「次回、新たなる魔法少女・・・と行きたいところだけど」
まどか
「えっと・・・「EARTH」の人たちの様子みたいだね」
翼刀
「てなわけで」
ではまた次回
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