世界をめぐる、銀白の翼
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第五章 Over World
正義の魔法少女ですよ
見滝原市
とある県に存在する、ある地方都市だ。
特に目立った観光要所もなければ、これと言った売りもない。
しいて言うならば、最近都市開発がすすめられて街のデザインが近代的になったくらいだろうか。
そんな何の変哲もない街。
その街に、一人の男がやってきていた。
「ここか・・・・・」
サイドカー付きのバイクに乗って、この街にやってきた青年の名は、鉄翼刀。
見滝原市への境界を越え、市内に足を運ぶ翼刀だが、これと言って注視するものはない。
確かに物珍しいモニュメントや、近代的デザインの建物は面白いが、特筆すべきものではないのだ。
「舜さんたちは「待ってればくる」って言ってたけどな・・・・」
鉄翼刀が聞いた話。ワルプルギスの夜の出現地点。
だが「見滝原市に出る」と言われているだけで、特にそれ以外の情報がないのだ。
「必ず出現する」らしいが、その原因を聞いても「「統計だ」」と意地悪そうに口をそろえて言ってくるだけだった。
つまり
「俺ががんばって行かなきゃいけないッつーわけだ」
時刻は昼ごろ。
ファミレスに入って腹を満たし、それから「EARTH」で手配したマンションに向かった。
この街での拠点となる場所だ。
とはいえ、引っ越しの整理は日常品と衣服を詰め込むだけで終わってしまった。
端の部屋なので、隣接する部屋は一つだけ。
だが表札に「巴」と書かれたお隣さんは、今は不在らしい。
せっかく引っ越しの報告にお菓子の詰め合わせも持ってきたというのに。
ともあれそろそろ日も沈み始め、街がオレンジ色に染まっていっていた。
荷物は少なかったが、それでも時間は結構かかったようだ。
と、そこで翼刀がふと思い当たる。
「飯がねぇ」
というかよく考えたら日用品ばかりで電化製品がない。
整理に忙しくて気づかなかったがこのマンション、キッチンはある物の冷蔵庫も何も存在しないのだ。
管理人に聞くと、数年前の住人が夜逃げした際、冷蔵庫まで持って行ったらしいのだ。
その後、この部屋だけ格安で貸しているそうだ。
わざわざ新しく買いくらいならそっちの方がコスト的にいいのだろう。
どんだけ貪欲な夜逃げだよ、と突っ込みたくもなるが、ないならしょうがない。
翼刀は遅いとは思いながらも百貨店に向かった。
そこなら冷蔵庫やレンジとかも見れるし、郵送にしても数日くらいは持つ食品を買っておくこともできる。
「いってきまーす」
返事があるわけではないが、出かけるときには言ってしまうものだ。
誰もいなくなる部屋に、翼刀の声だけがして扉が締められた。
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どうしてこうなったし
翼刀の第一声、否・・・・
声に出してないから第一思考はそれだった。
(確かオレは百貨店(デパートだっけ?どう違うんだろ)で買いものを済ませて帰るところだったんだよな・・・・・)
そう、それは正しい。
現に翼刀は荷物を普通に担いでいる。
小型冷蔵庫(と言っても胸くらいの高さはある)を担いでいる時点で普通かどうかの議論はこの際放っとこう。
右手でそれを担ぎ背中に背負い、左手にはビニールいっぱいの食品があった。
電子レンジなども購入したのだが、流石に持ちきれない(というかサイドカーに乗らない)ので、そっちは郵送することにしたのだ。
冷蔵庫よりレンジの方が持ち帰りやすいんじゃ?とか言ってはいけない。
きっと保存のための道具が必要だったのだろう。
翼刀の描写はこれくらいにして、今は彼が立つ空間に目を向けてみよう。
帰ろうとして、確かバイクを止めた駐車場に足を踏み入れたはず。
しかし、どこからおかしくなったのか。壁一面が落書きのような造形になっている。
壁に落書きが描かれているのではない。
「壁その物」も落書きで出来ているかのような見た目なのだ。
だが触ってみると確かに壁だ。
というかいきなりの景観の変化やこの感覚からして、結界であるということは容易に想像できた。
「結界・・・・確か魔女は結界に身を隠すんだっけか?」
ショウの言っていたことを思い出す翼刀。
曰く、基本的に魔女はこうして身を隠して待ち伏せ、人を取り込んでは食らって力を蓄えるんだとか。
そんなことを考えながら、出口を探して歩き回っていると、タンポポの綿毛のようなものが近寄ってきた。
大きさは膝よりも下。身体は棒人間。綿毛が頭なのだろう。なぜかダンディーなカイゼル髭を付けている。
その綿毛は三体ほどか。
じっ・・・と翼刀の方を見上げ、そして視線がその左腕からぶら下げられた食品に向けられる。
「・・・・やらんぞ」
がさりと腕を引き、食品を隠すように守る翼刀。
ここでこれを奪われてはいきなり枯渇だ。
買い直すにしても、流石に冷蔵庫担いだまま食品コーナーを歩くわけにはいかない。家に置きに帰っていたらここは閉まってしまう。
食品がなくなる。Lost Foodsだ。
コンビニの位置もわからない新たな街では、それでも十分危機である。
一日目でいきなり空腹の苦しみを味わいたくはない。
だがそれでも見つめてくる綿毛。
髭はダンディーなくせに、こうしているとだんだんかわいく見えてきた。
しかし、上げられないものは上げられない
「ダメだって」
ダメ?と翼刀の言葉に反応したのか、首をかしげる綿毛。
「出口知ってる?」
「キキキキキキッ」
肝心の質問。
だがそれに対して、綿毛たちは甲高い声で笑い始めた。
突如として、雰囲気が変わる。
――――まるで「出られると思ってるの?」とでもいうかの如く。
「ッ!」
ごドンッ!!
悪寒を感じ取った翼刀。
直後、彼は手に持つ冷蔵庫を綿毛に叩きつけた。
綿毛共は潰される直前、のこぎりのような鋭利な牙を露出させ、翼刀に食らいつこうとしていたのだ。
眼の前の三匹をつぶしたがしかし、ガサガサとビニールが引っ張られて奪われた。
振り返るとそこにも綿毛どもは現れていて、食品を奪って喰らったのち、翼刀に向かって飛び掛かってくるではないか。
「モグラたたきは嫌いじゃないけどさ」
バカン、と一発放って一匹を叩き潰し、翼刀はその場から逃走を始めた。
流石にあの数は面倒だ。
しかもここが魔女の結界だとすると、何が起こるかわからない。
(ま、すこーし落ち着ければこんな結界すぐに切り開いて脱出なんだが・・・・・)
翼刀の持つ力は「渡航力」だ。
結界という異世界から、もとの世界に帰還することなどそうむずかしいことではない。
だがその切れ目からこいつらが外に出るかもしれない。
それに
(人をおびき寄せて、って話だから、まだ人がいるかもしれないし・・・・)
そう、要救助者がいるかもしれない。
当面ワルプルギスの夜が来ないのならば、目の前のできることはやっておきたいのだ。
とりあえず走り回る翼刀。
出口も同時に捜しているが、なかなか見当たらない。
ふと気になって振り返ると、綿毛はさっきよりもはるかに増えていた。
あの鋭利な歯を見なければ、飛び込んでモフモフしたいくらいにはいる。
「あーあ。いっぺん薙ぎ払うか?」
そう思考し、翼刀が前を向きなおす。
すると
「さやかちゃん!!」
「まどか、こっち・・・って!?」
「うぉっとあぶなぁ!!」
眼の前から、少女が二人飛び込んできた。
ピンクの少女の腕には、白い獣が抱きかかえられている。
中学生くらいか。
現に制服も着ている。
「ちょっと!危ないじゃないですか!!」
「ああごめん。だけどこっちもそれどころじゃなくて・・・・」
一緒にいた水色の少女の剣幕に、思わず謝ってしまう翼刀。
すると一瞬ひるんだすきに、少女は一気にまくし立ててきた。
なんで冷蔵庫を担いでたり、どうしてこんなところにいたり、そもそもここはどこなのかだと、質問攻めにあう翼刀。
「ちょ、ちょっとちょっと!!オレもいきなり迷い込んで困ってるんだ。君たちがそこから出てきたってことはそこが出口じゃないのか?」
「えっと・・・違うみたいです。何もないですよ」
「あー、出口と入口は違いますよ結界か・・・まあ迷い込まさせるんだからそりゃそうだわな」
「あの~、いいですかね?結局ここはどこなんです?」
ピンクの少女と話ていると、落ち着いたのか水色の少女がもう一度聞いてきた。
だが翼刀だってよくわからないのだ。
とりあえずわかるのは
「俺たちは命の危険にさらされているみたいだぜ?」
「えぇ!?」
「綿毛みたいのに食われそうになった。っと、そっちのお名前は会話からしてまどかちゃんにさやかちゃんかな?」
「くわれ・・・あ、はい。私は鹿目まどかです」
「美樹さやかです」
「どうも。鉄翼刀でーす。まあ発見できてよかったよ」
「「え?」」
翼刀はもともと、他に迷い込んだ人を探していた。
こうして見つかったなら良好だ。
「さ、出よう」
「出るって言っても・・・」
「か、囲まれてますよ!?翼刀さんが言ってた綿毛って、あれのことですよね?」
気付くと、翼刀たちの周囲にはあの綿毛がグルリと取り囲んでいる。
どれもが刃をギチギチと鳴らし、今にも食らいつこうとしてきていた。
「大丈夫!!俺が絶対出してやっから」
ニカッ、と笑う翼刀だが、まどかたちは不安そうだ。
そんなまどかたちの頭をワシャワシャと撫で、ヴァルクヴェインを取り出そうとした。
瞬間
「キキギッッ!!」
綿毛が飛び掛かってきた。
翼刀はそちらに気を取られ、とっさに冷蔵庫を振り回してそれを消し飛ばす。
「さっきまでスルーしてたくせにこういう時だけ飛びついてくんな!!」
「よ、翼刀さん!!」
「やめて!!まどかに近づくなぁ!!」
文句を垂れる翼刀。
その後ろではまどかにも綿毛が飛び掛かっていた。
さやかが前に出て庇おうとして腕を広げる。
目の前に迫る歯に恐怖し、彼女は眼を閉じようとするが・・・・
ごォッ!!
ブチっ、ばきゃァッッ!!
物凄い勢いで押し投げ出された冷蔵庫が、宙の綿毛に命中、木端微塵に吹き飛ばした。
更には落下地点の綿毛も一気に消滅し、冷蔵庫は購入から一時間もしないうちに粗大ごみになってしまった。
「返品・・・きかねぇだろうなぁ~・・・・」
あーあ、と無気力状態のような眼で、投げた体制のまま翼刀が呟く。
その翼刀にさやかとまどかが駈け寄り、身を隠すように縮こまった。
「さて、ちょっとびっくりするかもしれないけどパニックにならないでね?」
「あ」
「はい」
「いっくぞー!!せーの!!」
「ティロ・フィナーレ!!!」
ドォンッッ!!
翼刀の掛け声。
二人の身構え。
そしてそのタイミングで、巨大な砲弾が綿毛殿を吹っ飛ばした。
もちろん、翼刀はこれから綿毛どもを軽く蹴散らし、出来た隙で結界から出ようとしていたのだが・・・・
完全に出鼻を挫かれ、唖然としてしまっている。
「大丈夫ですか?・・・・あら?その制服、二人は見滝原中学?」
「あ、はい」
「その子を助けてくれてありがとね」
その子、というのはまどかの抱えている白いのを言っているらしい。
砲撃をぶち込んで現れたのは、黄色を基調にした服装の少女だ。
歳はまどかよりも上だろうか?
「ところで・・・・君はなんだ?その服装は?」
翼刀からのとりあえず、質問。
その翼刀の言葉に、少女はうーん、と少し考えてから、冗談めかしてこういった。
「正義の魔法少女ですよ♪」
ウインク、そして人差し指。
この組み合わせは何ともかわいいものだったが、周囲の状況がそれを許してくれない。
しかし、少女は余裕の態度を崩さない。
「ちょっと待っててくださいね」
そう言うと、帽子を手に取り、右にかざした。
すると帽子の中からマスケット銃が出てきたではないか。
「四次元帽子?」
「それは後で」
帽子をかぶり直し、銃を構える少女。
「さあ、お痛はそこまでよ!!」
ちゃか、と銃を構えて駆け出す少女。
これが、この地の魔法少女との出会いだった。
to be continued
後書き
翼刀 in 見滝原
あれ?火野さんどこ行った?とかいわないの。
彼は彼で動いてるから。
とりあえず、第一話ですね。
まどかたちとマミさんの出会いを、翼刀を交えてやってみました。
まどかサイドは原作で補完プリーズ
蒔風
「オイコラ」
ちなみに冷蔵庫背負ってる時点でわかるでしょうが、翼刀も大概にアホです
まあ蒔風みたいなブッ飛び方はしませんが。
天然なんだろうか?
ショウ
「お前がきいてどうする」
書いてばキャラは勝手に動く。
そして勝手に成長していく。
僕らは他の世界の情報をキャッチしているだけだから
蒔風
「その設定をリアルで信じてるのか」
その方が楽しい。
翼刀
「次回、魔法少女とは?魔女とは?そんなことよりもお隣さんですか!?」
とりあえずの説明になりそうです。
ではまた次回
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