FAIRY TAIL~水の滅竜魔導士~
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さよならは言わないで
前書き
この話の時系列としては、回想録が終わった直後くらいのイメージですね。といっても、回想録ってぶっちゃけどのタイミングでやってもいいような気がするから、あまり気にしないでもらえると幸いです。
シリルside
長かった一日が終わった。城内の至るところで行われていた戦闘は終了し、無事に国王を守り抜くことができた。そして、俺が抱えていた一番の心配事も、無事に解決していた。
「やった!!戻った!!元に戻れた!!」
体の変化のあった部分に手を当て、元に戻ったことを実感している。サクラやセシリーたちが捕らえてくれた、俺のことを女にしたバランス系の魔法を使う魔導士を軽く脅し、通常の姿へと戻してもらえた。
「え?どこか変わった?」
「張り倒すぞ!!」
一人隔離されていた部屋からようやく起き上がって合流したレオンの一言に怖い顔をする。彼は冗談冗談と言っていたが、顔がマジっぽいからムカつくんだよな、いやマジで。
「あ~あ、もうちょっとシリルのおっぱい揉みたかったなぁ」
「なくなると寂しいものですね」
後ろから残念そうな声を出しながら、抱き付いて来ようとしたソフィアから華麗に避ける。俺が女の姿になった時、散々攻撃してきたサクラが少し残念そうにしているのが、ちょっと腹立たしかったりする。
「でも良かったね、元に戻れて」
「うん!!やっぱりシリルはその方がいいよ」
そんな中で優しく声を掛けてくれるウェンディとシェリア。二人は純粋だから、声をかけてくれる時に裏表ないのがいいよねぇ。
「ラウも元に戻れたよ!!」
「サイズがね」
「あれはすごかった~」
あともう一人元に戻れた・・・ていうか、元に戻すのを忘れていたと言った方が正確なんだけど、サクラにバランスの魔法を使うエミを攻略する時に巨大化させられたんだけど、大きさを変えたサクラが敵を捕まえたことに喜んじゃって、ラウルを元に戻すのを忘れていたんだ。さっき合流した時にカグラさんが必死に走ってから何かな?って思ったけど、後ろからあんなのが追い掛けてきてたら怖いよね。正直合流した全員、ビビってカグラさんと一緒に逃げ回ってたくらいだし。
「皆のもの、ご苦労だった」
俺たちが話していると、そこに包帯だらけになっているアルカディオスさんと、国王とヒスイ姫がやってくる。それを見て、散らばっていたリオンさんやカグラさんといった面々が集まってくる。
「皆のお陰で、こうして無事でいることができる。ありがとうカ・・・ありがとう」
一瞬国王が語尾を間違いかけていたけど、そこは暗黙の了解の元スルーすることにする。ただ、ウェンディたちは何を言い直したのかわかっていないので、気にしないようにと俺とシェリアから声をかけておく。
「賊の処罰は我々が行う。皆の働き、感謝する」
今俺たちの目の前には王国兵に捕らえられ、地下牢へと連れていかれようとしている山賊たちがいる。アルカディオスさんは俺たちに頭を下げると、彼らの元へと向かおうとした。
「待ってくれ!!」
しかし、そんな中一人の青年が背を向けた人物に声をかける。
「こんなことを言うのは何なんだが・・・寛大な処分を頼むよ」
アルカディオスさんに駆け寄ったグラシアンさんは、気まずそうな顔をしつつそんなことを言っていた。そういえばグラシアンさんの昔の仲間がいるんだったっけ?それなら確かにそうお願いしたい気持ちもわかる。けど・・・
「残念だが、奴等は大罪を犯した。それを許すことはできない」
「それはそうなんだが・・・」
非情な大佐の言葉に納得ができず、引き下がろうとはしないグラシアンさん。しばらく押し問答になっていると、見かねたスティングさんとローグさんが、彼を止めに入る。
「じゃあ、少しだけ・・・少しだけ待ってくれ」
「まぁ・・・少しなら」
諦めた青年はわずかばかりの猶予をもらうと、全員と同じように手錠で拘束されている女性の元へと駆けていく。
「ベリー」
「どうしたの?グラシアン」
暗い表情をしているグラシアンさんとは対称的に、なぜか笑顔で彼を迎え入れる茶髪の女性。彼女の周りにいた面々は、空気を読んでなのか、二人から距離を置き、邪魔をしないようにしている。
「その・・・ごめん」
「もう!!こないだからずっとそればっかじゃん!!」
引き留めたはいいが、何を話そうかとかは考えていなかったらしく、ただ今までのことを謝罪するしかないといった感じの彼に、彼女は楽しそうに微笑みかけている。
「大丈夫だって!!私は何も気にしてないから」
「そりゃそうかもしれねぇけど・・・」
まだ自分のかつての行いを悔い、許せないでいるグラシアンさんは思わず顔を背ける。すると、イザベリーさんは手錠で封じられた手を器用に使い彼の顔を引き寄せると、鼻と鼻がくっつくくらい顔を近付ける。
「私はあなたを恨んだりしないし、忘れたりもしない。だからあなたは、一生懸命あなたの道を歩んで」
その言葉を聞いた途端、グラシアンさんの目から涙が零れ落ちた。もう何も言うことができずにただ目を覆い隠している青年。そんな彼から手を離すと、彼女は今の仲間たちと一緒に王国兵たちに連れられていく。
「さよならは言わないから。またね」
そう言い残し、崩れそうになっている青年から離れていく。彼女の姿が小さくなると、スティングさんとローグさんに慰められながら、グラシアンさんはこちらへと戻ってきた。
「どうなるのかな?あの人たち」
「まぁ・・・軽い罰では済まないだろうな」
一国の王の命を狙ったわけだし、よくて一生独房の中、普通に考えて極刑になるのは目に見えている。
「一体どんな狙いがあったかは知らないけど、仕方ないよ」
「そうですね。悪いことだって言うのは、わかってだろうし」
シェリアとサクラも同情しつつも、こうなってしまうのは仕方がないと割り切っている。
「たぶん、前のエクリプスが原因だろうな」
クエストを完遂したはずなのに重苦しい雰囲気に包まれていると、どこからともなく現れたリオンさんがそう言う。
「エクリプスって・・・大魔闘演武の?」
「あぁ。あれは黒魔術だからな。そんなものを王国が保有し、ましてや使用してたなんて知ったら、こうなってしまう輩もいるだろう」
どこから漏れたのかはわからないが、それを知った人たちが反旗を翻し、国王やその関係者を暗殺し、自分たちが理想とする国にしたいと考えたのかもしれない。でも、それでもいきなり暗殺計画なんかやったらダメだよね。
「大丈夫か?グラシアン」
「あぁ・・・心配するな」
二人に支えられているグラシアンさんに、ミネルバさんが声をかけると、ようやく落ち着いてきていたようで、元気そうな声が返ってきた。青年は真っ赤になった目をこちらに向けると、一つ息を付き、二人の支えから離れる。
「みんなには迷惑をかけた。あいつの変わりに謝罪させてもらうよ」
そう言って深々と頭を下げるグラシアンさん。しばらくしてみんなから頭を上げるように言われた彼がそれを上げると、再度深く息をついた。
「あいつもこれから大変だろうけど、そうなってしまったのは俺に大きな原因があるからな。これからは――――」
ドゴォーン
「「「「「!!」」」」」
彼女との思い出に幕を引き、決意を新たにしようとしたその時、突然の爆音が響き渡る。
「おい・・・この音って・・・」
「向こうから聞こえてきたよな」
爆発音が聞こえてきたのは、先程山賊たちを連れていった方向と一致していた。その音が聞こえたと思われる場所からは、黒い煙が上がっている。
「ウソだろ!!」
「あ!!グラシアンさん!!」
最悪の事態が脳裏を過る中、真っ先に駆け出した紫髪の青年。俺たちは彼についていくように、その後を追いかけ走り出した。
俺たちがたどり着いたその場所は、悲惨な姿になっていた。かつての惨事からようやく元通りの姿になりつつあったその街の一部を破壊し、火の海に陥らせていた。
「消火を急げ!!」
「衛生兵たちを!!早く!!」
その脇で慌ただしく動いているのは、爆発から何を逃れた王国兵や、後から合流しようとしていた者たち。彼らは爆発に巻き込まれ、血まみれになっている仲間や拘束した人たちに駆け寄り、治療や意識の確認をしていた。
「・・・」
血の海に染まるその場所で、彼はある人物の前で呆然と立ちすくんでいた。彼は変わり果てた彼女の姿に唇を震わせると、ゆっくりと腰を下し、血だらけの女性を抱き抱える。
「ベリー」
「あれ?グラン?」
抱き締められたイザベリーさんはグラシアンさんの声に反応を見せる。けど、その目が青年の姿を捉えることはできない。
「あれ?なんでだろう・・・グランの顔が見えないよ?」
爆発の影響で顔に火傷を負っている彼女の目は、すでに光を感じることができなくなっていたのだ。彼女はまだ事態を理解できず、グラシアンさんを探すように手を伸ばす。その手を青年は掴むと、自らの頬に当てさせた。
「ここにいるよ、ベリー」
「ホントだ・・・そこにいるんだね・・・」
もう姿を捉えることができず、全身がボロボロになっている彼女は、辛うじて残っていた手のひらで青年の頬を撫でる。それに対し青年は、ただ静かにされるがままでいた。
「ゴホゴホッ」
「!!ベリー!!」
お互いに言葉を発せられずにいると、突如女性が吐血する。それを見て正気を取り戻した俺たちは、すぐに治療しようと駆け寄ろうとした。
「待て」
しかし、その肩を後ろからリオンさんに掴まれる。
「あれじゃあ、もう無理だ」
イザベリーさんだけじゃない。他の人たちも同様だった。なぜこんなことになったのかわからない。でも、先程の爆発はあまりにも大きく、命を消し飛ばすのには十分だった。
「あ~あ・・・せっかくグランとまた会えたのに・・・もう会えなくなっちゃうなんて」
「何言ってんだよ・・・」
彼女の手を握りしめ、徐々に呼吸が浅くなっていく彼女に懸命に声をかける。彼の姿を見ることができない彼女は、握られた手を握り返そうとするが、力が入らず、手が震えているだけになっている。
「ごめんね・・・またねって言ったのに」
「ちがっ・・・」
つい先程交わしたばかりだったのに、また会えるようにと祈りを込めたはずの言葉だったのに、すぐにその願いは叶わぬものになってしまうのかと、震える声で話す彼女の手を握る手にさらに力が入っていく。
「また会えるよ・・・死ぬなよ・・・頼むよ・・・」
握りしめる手に涙を溢し、懇願し続ける幻竜と、自らの死を悟り、清々しいような表情を見せる茶髪の女性。
「ねぇ・・・グランは私のことどう思ってた?」
なんて答えてほしいのか、彼はすぐにわかった。そして涙を拭った彼は、決して合うことがない視線を合わせ、それに答える。
「愛してる・・・大好きだったよ・・・」
それが本心だったのか、虚偽だったのかは誰にもわからない。しかし、その一言は彼女を看取る最期の言葉にふさわしいものだった。
「おい・・・ベリー・・・ベリー!!」
懸命に体を揺すり、動かなくなった女性の名前を叫び続ける。その直前、俺たち滅竜魔導士たちの耳には、確かに聞こえた。
『ありがと・・・またね・・・』
さよならは言わないといっていた彼女が、最後に残した別れの言葉。冷たくなった旧友の手を握り締めた青年は、彼女を抱き抱えると、すっと立ち上がり、歩き始める。
「おい、どこに・・・」
どこかに立ち去ろうとしているグラシアンさんを制止しようとしたアルカディオスさんだったが、振り向いた彼の目を見て、それを止めた。
怒りと憎しみに満ちた目をした青年は、元に向き直ると、抱き抱えたイザベリーさんを連れ、この場から立ち去ったのであった。
第三者side
「ふぅ・・・危なかった」
大惨事に見回れたその場所から遠く離れた山の中、そこにいたのは、本来この場にいるはずのない人物だった。
「ずいぶん派手に動き回ったようだね、ホッパー」
ボサボサに黄緑の髪を直しながら、ケガの治療をしている青年の後ろから、黒髪の青年が歩み寄ってくる。
「やっと来てくれましたね、陛下」
その声を聞いてすぐさま振り返り、頭を下げるホッパー。彼の前にいたのは、最凶の黒魔導士、ゼレフだった。
「やっぱり僕を探すためだったんだね、今回の騒ぎは」
「もちろんですよ」
今回ホッパーがフィオーレ王国国王を暗殺しようとした理由、それは、ゼレフを呼び寄せるためだった。そのために彼は王国がエクリプスを使用していたことをバラし、今回の作戦に必要な人員を集めたのである。
「それで?何の用だい?」
「はい。陛下にお客様がお見えです。至急お戻り願います」
「客?」
頭を下げたまま用件を伝えると、ゼレフは眉をひそめる。なので、ホッパーはより詳細な情報を伝えるため、顔を上げた。
「妖精の心臓について・・・何か話があるようでしたが・・・」
「あぁ。なるほど」
それを聞いただけで、ゼレフは誰が尋ねてきたのか、また、何の用件なのかすぐに理解できた。
「わかった。すぐに戻ろう」
「はい。船の手配もできております」
ゼレフの前に立ち、道案内をするホッパー。青年はそれに付いていきながら、小さく笑みを溢した。
「いよいよ始まるよ、ナツ。竜王祭が」
そう呟いたゼレフの瞳は、普段の優しげなものとは異なっていた。まるでそれは、人の命の重みを考えぬ、殺人鬼のように、常軌を逸したものだった。
後書き
いかがだったでしょうか。
これにてオリジナルストーリー『国王暗殺編』は無事終了となります。ここまでお付き合いくださりありがとうございました。
ここで一つご報告があります。
次から原作の方に返っていく訳ですが、しばらく更新の方をお休みさせてもらうことにしました。
理由としては、来年からアニメが放送されるとのことで、アニメに合わせながらストーリーを作っていきたいと思っております。
皆さんからオリジナルはもういいとか、日常編が多すぎるなどの意見も受けましたので、アニメが放送されるまではこちらを停止し、放送されてから投稿を再開したいと思います。
これまでお付き合いしていただきありがとうございました。また会う日までお元気で。それでは( ´・ω・)シ
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