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真田十勇士

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巻ノ九十六 雑賀孫市その一

                 巻ノ九十六  雑賀孫市
 その話を聞いてだ、幸村はすぐに言った。
「うむ、では」
「そちらにですか」
「行かれますか」
「願っても適ってもないこと」 
 こう伝えてくれた家臣達に述べた。
「それではな」
「すぐにですか」
「ここを発たれますか」
「そうする、内密にな」
 幕府の目を逃れてというのだ。
「そしてだ」
「件の方の下に参られ」
「そうしてですか」
「教えを乞う、まさかその様な場所におられるとはな」
 幸村は驚きを隠せない声でこうも言ったのだった。
「思わなかったわ」
「長きに渡って行方が知れませんでしたが」
「どうなっておられたのかと思っていましたが」
「それがです」
「あちらにおられるとは」
「この機は逃さぬ」
 幸村は強い声で言った。
「絶対にな」
「それでは留守はお任せを」
「いつも通り」
「頼んだぞ、ではじゃ」
 幸村は家臣達にこうも言った。
「小助を呼べ」
「はい、それでは」
「その様に」
 家臣達は幸村のその言葉にも応えてだ、そのうえでだった。実際に穴山を幸村のところに呼んだ。するとだった。
 穴山は幸村の前に風の様に参上した、そうして主に対して問うた。
「殿、お話は聞きました」
「うむ、ではよいな」
「はい、参りましょうぞ」
 穴山は幸村に目を輝かせて答えた。
「是非」
「それではな」
「はい、では熊野にですな」
「今から行く」
「同じ紀伊とは」
「奇遇じゃな、しかしな」
「雑賀殿は元々この紀伊の方」
「だからここにおられるのもな」
 紀伊、今幸村達がいるこの国にというのだ。
「当然じゃ。しかもこの紀伊は山が深い」
「そして木々も多く」
「潜むには持って来いじゃ」
「だからですな」
「そのまま紀伊におられるのも有り得たこと」
 幸村の言葉は冷静なものだった。
「それではな」
「熊野に赴き」
「雑賀殿にお会いしようぞ」
「わかりました」
 こうしてだ、幸村は穴山を連れてだった。九度山を発ち。
 そして同じ紀伊にある熊野に入った、その熊野に入るとすぐにだった、穴山は鬱蒼と茂った周りの木々を見回して言った。 
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