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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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最終章
最終節―全ての救い―
  ”鎖”と”枷”

「…1つ聞いていいか、ウィレスクラ」
「あぁ、君がその姿で神の世界(ここ)に足を踏み入れた時点で僕の負けは確定している。何でも聞くと良いさ」

 蒼也と目を合わせずウィレスクラは失意のままに、問いに答えると言った。

「お前はデウスが生まれた地球には、魔力があると言った。なら、何故現在の人間たちは知らない?昔は使えたんだろう?」
「デウスは元々ただの人間だ、ただその才能があまりに突出してしまっていただけでね。だからこそデウスは恐れたのさ…“第二の自分(デウス)”を」

 なるほど、蒼也は納得する。
 圧倒的才能から人間という器を超えて神になったからこそ、同じことが二度と起こらない…ということはありえるのだ。
 昔から人間というのは強欲であり、人の上に一度立ってしまえばその位から引きづり落とされるのを最も嫌がる。

 そこは、デウスもただの人間と変わらない。

「でも、彼には母なる地球の世界の理を変えるほどの権限が無かった。だから、持ちうる力を使い人々から“魔力がある”という概念を消失させたのさ」
「…なるほどな。道理で今の“蒼也()”の体の中に魔力があるのか」

 本当ならデウスは“魔力”という存在そのものを消したかったのだろう。
 けれど、それが出来ないから苦渋の決断として“魔力”の存在を人間全ての頭から消した。
 本来魔力は存在が圧倒的に薄く、その存在概念も“揺らぎ”そのもので科学に頼り切りの現代では到底見つからないだろう。

 けれど、確かに人間の中には“魔力”があった。
 だからこそ、“妖精”として生き、魔力で魔法を使ってきた蒼也はその存在を知っている為、“人間”に戻った後でも感知出来る。

「念のため、こっちからも質問していかな。蒼也君?」
「…あぁ、別に構わない」

 今、蒼也とウィレスクラが行っているのは“互いの疑問解決”である。
 それは現状の確認であり、相互が気になっている部分を払拭する行為でもあった。

「君は、どうして“その体(蒼也)”じゃないとダメだと気付いたんだい?」

 “偽りの人間”から“本当の人間”へ。
 魔力が扱えなくなるなどの根本的な部分が違えど、それはどちらも“人間”でありその能力自体は変わらない。
 神を殺すことのできる唯一の存在という意味では、どちらも同じものだ。

「地球のある世界の生命以外には“鎖”がかけられているとアルティマースは言った。けど、それだけじゃなかった…人間には“もう1つの枷”がある。それを気づいた理由を聞きたいんだな?」
「あぁ、君の言った通り。どうしても僕は君がそこまで行き着く理由が分からないんだ」

 “地球のある世界”と違い、“それ以外の世界”では“鎖”と“枷”の2つがあった。

 1つは“腕力1000、HP・MP1000万、それ以外は150万”のステータス限度である“鎖”である。
 これを行うことで、まず生物は神や天使に刃向うことすら出来なくなった。
 そしてこれが、“デウスから生まれた神が知る事実”。

「“鎖”の方はアルティマースから聞いたし、俺自身も成長していないことを何となく感じていたから分かることだった…。問題は“枷”だな」
「到底君がここまでの道に知る要素は無いと思っていたんだけどね」

 ウィレスクラの言葉に、蒼也は目を何度か瞬きさせると唐突に吹き出す。
 笑いを抑えきれないといった風の蒼也を見て、ウィレスクラは怪訝そうに眉を動かした。

「お前、それ本当に言っているのか?だって、“最初から”視覚化してるじゃないか、その“枷”を」
「…この世界(FTW)を買うのはゲーマーだけだと予想したからね、基本君たちはゲームの固定概念に縛られて気付くはずもなかったんだ」

 2つ目の“枷”。
 それはこの世界…FTWを運営、管理するための“システム”そのものだった。
 アイテム、ステータス、スキル等々…それらはあくまで“ウィレスクラ”が要素を追加し、視覚化した“枷”すぎなかったのである。

「まぁ、言っても俺がこの疑問の答えを導き出せたのは最後の最後…ソウヤ()が死ぬ最後の一瞬だった。これを導き出せなきゃ俺はあのまま死んでいたよ」
「死ぬ直前の鎮静化した脳だからこそ、原初に立ち返って見返せた…という訳か。やっぱり“人”というのはこれだから笑えない」

 どこまで想像の一歩上を歩んでくる…とウィレスクラは空虚に向けて愚痴った。
 当然だ、蒼也が最後“システムが枷”だと気付けていなかったらそのままウィレスクラの勝利となって終わったのだから。

「お手上げだよ、僕は全てを理解した。その上で言わせてもらうよ…“現世界神()の負け”だ」

 上を見上げ、両手を上げるウィレスクラ。
 そう、ソウヤが蒼也となった時点でウィレスクラに“勝ち”はない。
 何故なら――

「おめでとう、蒼也君。君は“第二の全て知り全て能う存在(デウス)”と至った」

 ――“本当の人間”として“神の世界(ここ)”に足を踏み入れた瞬間、蒼也は上位の存在へと昇華されたのだから。

 ウィレスクラは“現世界神”ではあるが、“全て知り全て能う存在(デウス)”ではない。
 どの神よりも強く高い場所に居るが、原初の神には敵わないのだ。
 “現世界神”でさえもデウスの権能の一部にすぎないのだから。

 故に、ウィレスクラは勝てない。
 人間以上に、この世界()は上下関係を崩すことはできないのだ。

「…でもね」
「――――」

 それでも、とウィレスクラは蒼也に…“第二のデウス”に目を向ける。
 まだ終わらないのだと。

「僕にだって、神が在ってから初めて“下剋上”を行った神だ。だからこそ譲れないものはある」
「…あぁ、わかっている」

 神となった蒼也にはわかる。
 想像以上に、この“神”という存在は凝り固まっていた。

 普通の生物ならば、才能の差は努力によって埋められることもあるだろう。
 そう、蒼也が“妖精”から“偽りの人間”となり、“本当の人間”を越えて“全て知り全て能う存在(デウス)”となったように。

 けれど、神の世界ではそれは成立しない。
 それぞれが確立した能力を持ち、確立した立場にある。
 能力を蔑ろにすれば、立場を蔑ろにすれば世界の状態がより不安定に近づいてしまうのだ。

 だからこそ、神として在る者はその才能によって全てが決定してしまう。
 努力“しない”のではなく、努力“出来ない”。
 生まれた瞬間から存在意義が決定され、個として完成してしまう神はそれ以上にもそれ以下にも成れないのだ。

「全部、お前の気持ちもわかるよ。だからこそ、“不可能”を“可能”にしたお前は素晴らしい存在だ」

 けれど、と蒼也は続ける。

「ウィレスクラ、お前は生命を蔑ろにしすぎた。上を目指すことしか考えぬが故に、下に在るものを本当に知ろうとしなかった」

 ――だから、俺はお前を絶対に許さない。

 明らかな敵意で睨み付けられるウィレスクラは、大きくため息をつくと玉座から立ち上がり白銀に光る剣を生み出した。

「僕にだって譲れないものはある。それが“世界神の座(ここ)”だ。決して勝てないとしても…僕は蒼也君に立ち向かうよ」
「…あぁ、それで良い。それでこそ“下剋上を司る神(ウィレスクラ)”だ」

 蒼也はソウヤ(前の自分)の手が握っている雪無を握りしめると、ウィレスクラに向けた。
 すると、刀身が折れ、吹き飛んだ部分が粉々に砕けてしまった雪無が唐突に極光を放ち、震え始め砕け散る。

「我が剣は君臨する者を穿つ刃」
「我が剣は無限に強化される刃」

 その剣はかつて“世界神”を傷付け、その血を浴びた。
 その剣がかつて人、魔族、天使、神…全てを傷付けた。

「――世界を統べる(ブラッド・ス)()よ、死に給へ(プリームゴッド)
「――永久に強く在(デウス・グ)()、全傷の剣よ(ンドソード)

 (ウィレスクラ)が持つのは“神器(セイクリッド・ウェポン)”。
 世界の法則さえ変えることができ、下手をすれば世界そのものを破壊しかねない…神にしか持つことを許されぬ武器。

 (蒼也)が持つのは“虚剣(デウス・ソーガ)”。
 全て触れることは叶わず、全て拒むことは叶わず、全て受け入れることも叶わない。

 もうあれは“武器という個体”ではなく、デウスである蒼也が脳内から出力した“武器という概念”である。
 “触れれば傷が付く”“刺せば死ぬ”という理念の塊であり、物質でさえない。
 故にその一撃を防ぐことは不可能であり、その一撃を逃れることは不可避だ。

 片や持つのは神しか持たぬことを許されない“全てを破壊する剣”。
 片や持つのは宿主自身の想像により創られた“刃の概念である剣”。

 そして――

「――――!」
「――――!」

 ――純銀に光る剣と、ただ“剣”の形をしただけの巨剣が今、ぶつかる。 
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