グランドソード~巨剣使いの青年~
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最終章
最終節―全ての救い―
圧倒的敗北
「――ようやく、ここまで来たんだね、ソウヤ君」
「あぁ、会いたかったよ、クソ野郎!」
幾たびも挫折し、幾たびも恐怖し、幾たびも傷付いてきた。
その果てに向き合うのは世界全てを手中に収める最高神…“世界神”。
神の名に相応しい、“創り”が違うとまで言えるその美しい顔を卑劣に歪めながらウィレスクラは嗤う。
ただの一人の人間だったはずの男が、妖精となり、限界にまで上り詰め、再び人間となってここまで来た。
多くの悲しみを知り、多くの辛さを知り、多くの物を失ってまで…である。
「まず、ここまで来たソウヤ君に拍手を送ろう」
ウィレスクラはそう言うと、自らが座る玉座から立ち上がるとソウヤに向けて拍手を行った。
その行為には確かにここまで上り詰めたソウヤに対する敬いがあり、それ受けるに値することを成し遂げたのだと思わせるもの。
「――おめでとう。3年もの年月をかけ、君は“最高神”と向き合うに値する生命となった」
「――――」
その拍手を受け、ソウヤは言葉を詰まらせる。
ウィレスクラの醜悪な笑みが消え、真剣な表情で拍手を送るその姿に大きく違和感を覚えたから。
「どうしてお前は“世界神”になった」
それは、ソウヤがウィレスクラに最も聞きたかった質問。
どうして“世界神を喰らう”という大罪を犯してまで、そこに立とうとしたのか。
問われたウィレスクラは「そうだなぁ」と少し考える素振りをした後――
「自由に遊びたかった…かな?」
――平然と、世界を玩具と言い放った。
刹那、巻き起こるのは空間を揺るがすほどの衝撃。
「ウィレスクラ、お前はぁッ!」
「流石ソウヤ君…というべきかな」
音の壁さえ破り、接近したソウヤが放つ渾身の一撃をウィレスクラは“2本の指”で止めて見せた。
生物本来の“鎖”をはるかに凌駕し、天使はおろか神でさえ傷付けるに至ったソウヤの攻撃が…である。
どれだけ押しても、その2本の指を越えることをソウヤは出来ない。
「ぐ…うぅ!」
「本当は小指1本で止める気だったんだけど…流石に無理そうだったよ」
必死に力を込め続けるソウヤに対し、ウィレスクラは含み笑いをしながら表情は変わらない。
―剣神達王級にまで至っているというのに…それでも傷1つ付けられないのか…!?
ソウヤの実力はとっくに神にまで及んでいると言っていい。
相性にもよるが、単純な戦闘能力では半端な神でさえ超えることは無いと言えるだろう。
だが、それでも全世界を収める王には敵わないのである。
今までの戦いはソウヤが圧倒的に強いか、ソウヤと匹敵する程度の敵との戦いだった。
皮肉にも本来もっと早くに知るはずの“敗北の感覚”を、ソウヤはここにきて初めて知ることになる。
―駄目だ、敵わない…!
「ん…?もう諦めるのかい、ソウヤ君?
――つまらないなぁ」
刹那をおも超える間の中で、ソウヤは気付けば吹き飛ばされていた。
全身は軋み、内臓は破裂しているのがわかるほどに、身体がダメージを受けていたのだ。
「がッ…!ぁ、っ……!」
「もう少し粘ってくれると思っていたんだけど、そこは期待外れだったね」
あまりにあっけない。
ここまでやってきた時間はなんだったのか。
ここまで行ってきた努力はなんだったのか。
――ここまで殺してきた“モノたち”はなんだったのか。
そう、こんなところで終わってはいけない。
終わってしまったらなんと謝ればいいのか?
「『我、強き者。我の導きに答えよ。我、弱きを護る者。我の言葉に答えよ」
その誓いはどこに行ったのか。
その願いはどこに行ったのか。
その求めはどこに行ったのか。
その歩みはどこに行ったのか。
その道はどこに続くだろうか。
今までのソウヤに託された想いは、どこに行ったのだろう。
「我、汝の魂に誓い力を得ぬ。汝、我の声と共に黄泉へ逝け』」
その恐怖を何とする?
その悲哀を何とする?
その慟哭を何とする?
その暗闇を何とする?
その巨壁を何とする?
それを全て変えるのだと、破壊するのだと言ったのは誰だ。
託された想いを強さに変えるのではなかったのか。
それが、“強者”の宿命ではなかったのか。
それが、“弱者”の呪いではなかったのか。
だからこその“呪いの文”ではなかったのか!
「――力を貸せ、亡霊。『亡霊解放』…!」
「…へぇ、今まで殺してきた全てを解き放ったんだね。…凄い力だ」
粉砕された骨が、潰された内臓が、軋み肉体が、それを上回る力で強引に修復されていく。
だがそれは治療ではなく“力の上塗り”。
この『亡霊解放』が切れた瞬間、ソウヤの肉体は負荷に耐えられず粉々に砕け散るだろう。
けれど、死にはしない。
ならば大丈夫だ、問題はない。
「お前だけは、生かしてはおけない!」
「あぁ、君は“それ”でいい」
あぁ、倒さなきゃ。
「お前だけは、倒す!」
あァ、タオさなきゃ。
「お前だけは、“殺す”!」
アァ、コロサナキャ。
「ガアアアァァァァッ!」
脳が沸騰するような痛みに襲われながら、ウィレスクラの元へ突撃するソウヤ。
その速度は光速にまで至り、振るわれる雪無は見事世界神の身体に傷をつけ――
「“その方”が対処しやすいからね」
――ることは叶わなかった。
何かが砕け散る音がして、何かが崩れ去る音がしてソウヤは“目覚める”。
「…え?」
「本当に、君のような聖人ほど扱いやすい敵はいないね」
目の前に映るのは、“刀身が砕け散った”雪無の姿。
同時に感じるのは、身体が悲鳴を上げる声。
「ありがとう、ソウヤ君。楽しかったよ、オヤスミ」
次に感じたのは“死”。
『亡霊解放』の力を積み重ねすぎて、受け止めきれず破裂しかける身体に叩きつけられる暴力だ。
蠅を叩くように振るわれた手が直撃し、ソウヤは遠く飛ばされ血を撒き散らしながら倒れる。
――話にならなかった。
まるで赤子の腕を捻るかのように、簡単にソウヤは敗北した。
これだけ積み重ねても、まだ足りないのだと。
どれだけ積み重ねても、越えられぬ壁があるのだと言われるかのように。
「――――」
痛みはない。
とっくに判るための器官は失われている。
見えるものはない。
とっくに見るための器官は失われている。
音は聞こえない。
とっくに聞くための器官は失われている。
血の味はしない。
とっくに知るための器官は失われている。
空気の匂いはしない。
とっくに嗅ぐための器官は失われている。
――それでも残ったものはある。
考えるための器官は運良くか運悪くか残っていた。
なら、考えないと。
人は考える生き物だ、考えて生き残る術を探し続けてきたのだから。
考える対象として、一番気になるのはやはり“鎖”について。
どうして“人間”だけは“鎖”を繋がれなかったのか。
この世界の管理神は地球のある世界だけは、“魔力”のような摩訶不思議な物質が無いからだという。
だが、ルシファーに見せられた昔の地球の戦いの中では、魔法らしき光が確かに存在した。
もしアルティマースがそれを把握してなく、ルシファーの見せた景色が本当ならば、前提すら崩れてしまう。
そして"地球のある世界"に"鎖"がないのならば、どうして“地球のある世界だけ”なのか。
というより、何故“地球のある世界”という呼び方なのだろうか。
何故“地球を中心とした世界”と思わせるような言い方をしているのだろうか。
ヴェルザンディから与えられた知識の中で、妖精の世界のことを“スプライティ”と知った。
なら何故、地球のある世界を“地球のある世界”と呼ぶのだろう?
世界に名前があるのなら、俺たちの住む世界も名前があるはずなのに。
それも疑問だが、やはり一番の疑問は“鎖をつながった世界”が地球のある世界のみという点だ。
試験的に“魔力的な要素のない世界”を創るのなら、1個だけなら不完全なはず。
だが、どれだけ考えても答えは出ない。
なら次の疑問…“何故上級の神は地球にある神話と同じ名前が多いのか”と言う点だ。
現在、世界を超える神の中でウィレスクラ以外は“全て”地球にある神話にある神と同じ名前である。
そして妖精の世界…“スプライティ”にてその世界を超える神の名は“一切”聞いていない。
――あぁ、なるほど…それなら仮定出来る。
何故、深春が「元の世界の私は死んだ」といった理由が立証できる。
何故、“今の俺”がウィレスクラに敵わない理由がはっきりする。
―徹底的に考える…っていうのもあながち馬鹿に出来ないな。
あぁ、でも時間が無い。
“個体”が生命活動を終えるまでに成し遂げないと。
そうしなければ俺は本当に死んでしまう。
―ウィレスクラ、待ってろよ。まだ“終わっちゃいない”!
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