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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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最終章
2節―反逆決戦―
  反逆決戦、開幕の準備

 聖剣と聖盾を手に、勇向は熾天使の元へ迫る。
 ガブリエルとラファエルの距離は連携を取らせない為、少し離れたところに居るため同時に攻めることは出来ない。
 だから勇向は先にガブリエルに襲い掛かった。

 敵がこちらを狙っていると気が付いたガブリエルは、右手を聖剣に向けて広げる。

「『護り給へ百合の花(リリィ・プリテクスト)』」

 聖剣と障壁がぶつかり合う、それだけで風が吹き荒れ衝撃で土が荒れ狂う。
 勇向は聖剣を両手で握ると鋭い気合いの声と共に腕の筋肉を盛り上げ、障壁ごとガブリエルを吹き飛ばした。

 ―なんていう馬鹿力……!軽く“鎖”を越えていますッ!

 地面を削りながら威力を押し殺したガブリエルは、欠片も崩れていない自身の障壁を見て“安堵する”。

 それを見逃さなかった勇向はあることに気が付き、それを脳裏に押し込めてルリの元へ駆け寄った。
 未だ立ち上がれずにいるルリを「すみません」とだけ言って担ぎ、エミアの居る場所に移動する。

「ルリさんをお願いします」
「……えぇ、承りましたわ」

 エルフは最も魔法に長けた妖精。
 故に彼女に任せておけば大丈夫だろうと勇向は安堵し、この場を離れて次はラファエルの居る戦場へ接近する。

 予めその行動を読んでいたラファエルは、軽く舌打ちすると首に手を当てて呟く。

「癒されろ――」
「――『平等規則(レイ)』」

 だが、ラファエルの言葉は勇向に届くことは無かった。
 ラファエルが言いきっても、勇向が“癒される”雰囲気はない。

 自身の力が使えなくなったのを即時に理解したラファエルは、忌々しそうに勇向の持つ盾を睨む。

「その盾か、『勇者』様よぉ?」
「流石にすぐにばれるか」

 勇向の持つ聖盾には、特殊な力が宿っている。
 それが『平等規則(レイ)』。
 名の通り、平に等しくなるよう規則を掛ける……そんな力だ。

 この『平等規則』を定められた戦場では、勇向が力を消さない限り誰も“力”を使うことは叶わない。
 魔法は使えないし、能力(スキル)も使えなくなる。
 その代わりとして勇向も使うことは出来なくなるという、正に平等な戦場となるのだ。

 今この戦場で許されるのは個々の鍛え上げた力のみ。
 所持する武具、そしてそれを扱う所持者の単純な力だけが勝敗を決める。

 だからこそ、熾天使にはこれが一番効く。
 力に頼る者にとって力を使用不可能になることは、死を意味するのだ。

 聖剣の切っ先をラファエルへ向け、勇向は口を開く。

「ラファエル、ガブリエル、君たちはどうする?」
「ッチ、仕方ねェ。面倒だから肉弾戦とかしたくなかったんだがなぁ」
「文句を言わないでください、今この戦場の決定権は『勇者』にあります」

 文句を垂れながらラファエルは杖を、それを正しながらガブリエルは盾を出現させる。
 明らかに王剣レベルの武器に、勇向は眉を潜めた。

 ―……あれが、ラファエルとガブリエルの力の正体、という訳か。

 ガブリエルの障壁の根源である盾。
 ラファエルの癒しの根源である杖。

 どちらも自らが持つ聖剣より格上の武器であり、持つ所有者の身体能力はほぼ互角である。

 ―つまり、結局僕が不利……ということ。

 けど、と勇向は笑う。
 目指した背中は、憧れた背中はそんなことで挫けはしなかったはずだから。

 武器が敵よりも弱い?
 身体能力がほぼ互角?
 そんなの関係ない。

 結局、技術で勝てば良いだけだ。

「行くぞ、熾天使」
「あぁ来いよ、面倒だが相手してやる」
「相手が有利でも、それを覆した余りあるのが熾天使の役目ですので」

 本来相容れることがないはずの、『勇者』と『熾天使』との戦いが……今幕を開ける。




「うぅ……」
「目が覚めましたか、ルリさん?」

 障壁による打撃で負傷していたルリは、体中が治っていく感覚を覚えながら目を覚ます。
 目の前にはエミアがおり、どうやら自身は意識をいつの間にか失っていたらしいと悟った。

 ―確か、『勇者』の人が助けに来てくれて……。

 今、その『勇者』が戦っているとまで行き着き慌ててルリは体を起こそうとする。

「ぐッ!」
「勝手に動いちゃ駄目なのですよ」

 体中に走る痛みに体を硬直させたルリは、そのままエミアにもう一度床に倒された。
 まともに動けないことを悔やみつつ、自身を助けに来てくれた『勇者』の安否を願う。

 ―『勇者』様は、多少疲労していたとはいえ大天使と相討ちするレベルの力しかなかったはず。熾天使を相手取ることなんて……!

 これ以上、誰1人として死なせたくない。
 だからこそ誰にも告げず、ソウヤと自分たちだけで来たはずなのに、今『勇者』に死なれてしまっては意味がなくなる。

 苦痛と後悔に表情を歪ませるルリに、エミアは微笑んだ。

「大丈夫なのです、『勇者』様は熾天使と対等に渡り合っているのですよ」
「ぇ?」

 どうやって熾天使と渡り合っているのか、それがルリには理解できなかったが、すぐにルリは思い出す。
 『勇者』が『勇者』足り得る力の存在に。

 ―使ったのですね、対魔王用の1度のみ使用を許されたあの力を。

 魔王と1対1で戦うことを想定した、最後の壁。
 それ故に魔王と同程度かそれ以上の力を一時的に得ることが出来る力を使えば、熾天使と渡り合うことも不可能ではないだろう。

 最悪の状況でないことにルリは安堵するが、エミアは真剣な表情で「ですが」と言葉を続ける。

「きっと、『勇者』様の力だけでは足りないのです」
「……私もそう思います」

 魔王の力は熾天使と同程度かそれ以下であり、それが意味するところは未だ『勇者』が不利、ということだ。
 今はまだ凌ぎきれるかもしれないが、いつかは限界が来ることは予想出来る。

「7枚の花と“癒し”の言葉……その対策を考えなければならないのです」

 ガブリエルの力、『全て護り防(アイアスリリィ)()七輪の百合(ガブリエル)』。
 1枚1枚が使用者へのあらゆる攻撃を防ぐ百合の花だ。
 それが7枚……となると、普通に考えて攻略は不可能だろう。

 ―ですが、何か制約があるはずでしょう。

 ルリの頭に浮かぶのは、朦朧とした意識の中に見えたあのガブリエルの表情。

 ガブリエルは確かにあの時、欠けなかった障壁に“安堵”した。
 壊れてもデメリットが無いのなら普通あんな表情をしない。
 ならばきっと攻略法はそこに存在する。

「――ラファエルに関しては俺に任しときな」
「ナミルさん!気が付いたのです!?」

 黙考する2人に笑いかけるのは、“無傷で”消耗したように笑うナミル。
 火傷による半永久的な焼ける痛みと、それを“救われる”無限ループに陥っていたナミルは、ルリと同じように気を失っていたのだ。

 心配して駆け寄るエミアを気にせず、ナミルは「多分」と言葉を続ける。

「アイツには“命のストック”がある、そうでもなきゃ辻褄が合わない」
「命のストック……?」

 ラファエルは初め、エミアによる縦断攻撃を食らって確実に死んだはずだった。
 けれどラファエルは生きており、その後「“癒せ”、ラファエル」と口にする。
 もしその時発した言葉が彼自身を癒す言葉なら、死んだ後に甦るのは順序が間違っているのだ。

 なら、それがストックの補充と考えれば辻褄が合う。
 ラファエルには幾つかの命のストックがあり、死ぬたびにそれを消費していくとする。
 死後“癒された”ラファエルは言葉を紡ぐことでストックを回復した。

「アイツが本当に命のストックを持っているなら、幾らでも対処法はある」

 ただ精神が摩耗していただけのナミルは、すぐに体を起こすと体操を行いながらそう言う。
 問答無用に相手に直接ダメージを行うラファエル相手には、確かに現状相手取れるのはナミルだけだ。

「あの様子だと、俺がまた自傷すれば幾らでも付き合ってくれそうだしな」
「……分かりました」

 ですが、とエミアは言葉を続けナミルに人差し指を突きつける。

「一瞬だけです、それで片を付けるのです」
「策はあるのか?」
「それを今から考えるのです」

 なんだそりゃ、とナミルは肩を竦めた。
 ルリもエミアの考えなしの言葉に、クスリと笑う。

「……私も何となくガブリエルの対策、掴めた気がします」
「おう、頼むぜ。アイツ等を倒せねぇとソウヤにも追いつけねぇよ」

 一度はその能力に圧倒され、一度は熾天使に敗北を許した。
 けれどそれで終わりじゃない。

 相手がびっくりするぐらいのチートなら、こっちもびっくりするくらいの作戦で対処するだけ。
 きっともう足止めなんてしなくていい、退却したければ退却すればいい。

 ――でもそれじゃあ、ソウヤに誇れない。

 いつまでもソウヤの脚を引っ張る存在じゃないのだと、いつまでもソウヤの背中を見つめるだけの存在じゃないのだと。
 そう叫ぶのだ、“自分たちは弱者じゃない”と。
 そう笑うのだ、“自分たちの分を背負うな”と。

 だから、もう一度決戦を行おう。
 ――反逆決戦、その幕を引き上げよう。 
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