提督はBarにいる。
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秋を先取り!鮭レシピ特集・その1
「鮭ねぇ……」
「はい、鮭なんです」
ある日の昼下がり、深刻な顔を付き合わせる俺と神威(かもい)。この間の春の特殊作戦で発見された新たな艦娘で、補給艦から水上機母艦、そして大型飛行艇を装備できる補給艦へと特殊な改装を施せる。ウチはもう大型飛行艇を装備できる神威【改母】となっている影響か、何でもやれるので遠征部隊の奴等に引っ張り回されている。つい先日も単冠湾泊地への長期遠征に連行されて、つい今しがた帰ってきたそうな。
「それで、帰ってくる途中で深海棲艦の連中に襲われている漁業船団を助けたら、お礼として鮭を大量に貰ったと」
「はい……。鳳翔さんや間宮さん、他の希望者の方々にも配ったんですが、まだまだ余ってしまっていて」
割とこういう事があったりするのが今の現状だ。正式に鎮守府へと謝礼をしようとすれば、それなりの金が絡む。かといって助けてもらった礼をしないのも気が引ける。そこで漁師の皆さんなんかは自分達の獲っていた獲物の一部を謝礼としてわたしてくるのだ。賄賂という訳ではないが、お礼の気持ちを受け取らないというのも気が引けるしな。ただ、命の恩人だからと漁師のおっちゃん連中は気前が良すぎるのが少し困り者だ。
「わ~った、一部は俺の店で引き取る。それ以外は食堂に下ろせ、暫くは鮭のメニューが続くだろうが仕方あるまいよ」
「イアイライケレ、提督」
「お、おぅ」
たま~にアイヌ語っぽい単語が出てくるが、イマイチわかんねぇんだよな。津軽弁とかなら解るんだが……。
さて、その日の夜。久し振りに『Bar Admiral』のドアには貼り紙がされた。カレーの日や食材が大量に余っていて、そればかりを使って料理をする時に貼り出される物で、今日の貼り紙には『今日は鮭尽くしです』の文字が踊る。店内も魚好きで満員御礼状態だ。どんどんと注文が入る鮭料理を肴に杯が交わされていく。
「提督、こっちシメの鮭ごはん4つね~!」
「あいよ、ちょっと待ってな」
こうやって混雑する事を予想して、時間のかかる料理は予め仕込んである。今宵のシメのオススメは『鮭の洋風炊き込みご飯』だぜ。
《入れて炊くだけ!鮭の洋風炊き込みご飯》※分量米2合分
・米:2合
・鮭(切り身):1切れ
・白だし:大さじ1
・醤油:大さじ1
・有塩バター:15g
・ニンニク:1片
・塩:適量
・白ごま:適量
・黒胡椒:適量
さぁて、作っていくぞ。とは言っても研いだ米と材料を一緒に炊飯器にぶっ込んで、炊くだけなんだがな。研いだ米を入れたら、目盛りより少しだけ下になるように水を注ぎ、鮭、バター、白だし、醤油、みじん切りにしたニンニクを入れてスイッチオン。
炊き上がったら鮭の骨を外し、白ごまを振ったら身を解すように全体を混ぜ合わせる。一旦味見をして、塩加減はお好みで調整してくれ。市販の塩鮭を使う場合、店やメーカーによって塩加減が違うから、その辺に注意しよう。後は茶碗などに盛り付けて、仕上げに黒胡椒をガリガリ。これで完成だ。
「あいよ、『炊き込みご飯』4つ」
お盆に乗せられた4つの茶碗を取りに来た千歳は、一緒のテーブルに座っていた他の3人のやり取りを苦笑しながら見守っていた。
「いいのかい足柄ぁ、新妻がこんなトコで飲んだくれてて~?」
と、ニヤニヤ隼鷹が聞けば、
「そーだそ~だぁ、早くも倦怠期かコノヤロー!」
と顔が真っ赤の高雄が煽る……というか絡む。相当酔ってんな、高雄の奴。
「いいのよ、今日は旦那様公認なんだから」
そう言ってお猪口をクイッとやって、日本酒を味わう足柄。
「『君を束縛したくないし、友人は大事にしないとね。僕はいつでも君を独占できるし』って……キャッ////」
デレッデレの足柄は真っ赤になりながら、頬を抑えてイヤンイヤンしている。そんなラブラブ空気に当てられたか、先程まで煽っていた2人が死にかけている。
「……ずっとあの調子か?」
「えぇ、まぁ」
「大変だなぁあいつらも……ってか、聞かなきゃいいだろうに」
「やっぱり気になるんですよ、提督とケッコンしてる娘は沢山いますけど、他の方と結婚した人は数少ないですからね」
隣の芝は青く見える、みたいなモンなのかね?よくわからんが。
「千歳~!炊き込みご飯はぁ!?」
と隼鷹が叫び、
「こんな発情した雌犬に構ってたら死んじゃうわ!とっとと帰るわよ!」
高雄が追撃とばかりに叫ぶ。
「ちょっと、誰が雌犬よ!?」
足柄もそれに反応してテーブルをバンバンやっているが、2人はお構いなしといった様子だ。
「はいはい、今持っていきますからね~」
千歳は苦笑いのまま、茶碗を配膳していく。鮭とガーリックバター醤油の旨味がご飯に染みて少しくどいかと思いきや、黒胡椒がピリッと全体を引き締め、丁度いい塩梅にしてくれる。4人も先程までの口論は何だったのかという位黙り込んで、夢中になって炊き込みご飯を掻き込んでいる。食べ終わって箸と茶碗を置くと、
「かぁ~食った食ったぁ。さてと、帰ろうぜ~♪」
と隼鷹が立ち上がり、勘定をしようと此方へやってくる。
「ご馳走さん提督、幾らだい?」
「えぇと、4人で3万と4000円だな」
「んじゃ、アタシが纏めて払っとくよ」
「あらいいの?悪いわねぇ」
と足柄が言うが、隼鷹はニヤリと笑い
「いいって事さぁ。青葉に足柄のネタ売れば、十分元は取れるからねぇ~?にししっ!」
「え、ちょっと、待ちなさい隼鷹っ!」
「待てと言われて待つバカはいませんよ~っだ!じゃあなっ!」
隼鷹はしこたま飲んでいたのも感じさせずに、脱兎の如く駆け出していった。あ~ぁ、こりゃ明日の『鎮守府日報』の1面は決まりだな。
高雄と千歳が真っ白に燃え尽きた足柄を抱えて出ていった後、店内には何とも言えない空気に包まれる。足柄可哀想……と思う奴がいたり、まぁあれだけノロケてたら仕方ないと思う奴がいたり様々だからだ。
「すまんな、騒がしくて。ゆっくり飯を食いたかったろうに」
「いえいえ、着任当初は馴れませんでしたが……この騒々しさがここの良さなんだと思います」
俺と向かい合わせに座っているのは神威だ。彼女は酒よりも飯が良いと白飯に味噌汁とちょっとした小鉢、メインのおかずに『鮭の生姜焼き』で夕食を楽しんでいた。
《シンプルで美味い!鮭の生姜焼き》※分量3人前
・鮭の切り身:3切れ
・片栗粉:少々
・味醂:大さじ3
・砂糖:大さじ2強
・醤油:大さじ2強
・酒:大さじ2強
・生姜(すりおろし):小さじ1~2
焼鮭と言えば塩焼きか定番だが、こいつは醤油ベースの生姜タレを絡めて作る代物だ。その生姜タレだが、片栗粉以外の調味料とおろし生姜を混ぜ合わせて予め準備しておく。
鮭の切り身は余分な水分をキッチンペーパー等で拭き取り、片栗粉を薄くまぶしておく。
フライパンに油を引いて熱し、鮭を焼いていく。両面とも十分に焼けたら、余分な油をキッチンペーパー等で吸い取ってから作っておいた生姜タレを投入。しっかりと煮詰めながら絡めてやれば出来上がりだ。今回は鮭でやったが、鰆や鯖、鰤なんかでも美味しく作れるぞ。塩焼きに飽きてきたら試してみるといい。
「それに提督のお料理が美味しくて、食べるのに集中していましたから……」
そうか?そこまで褒められると悪い気はしないが。
「私は反対だな。もっと静かに酒を飲みたいんだ、私は」
神威とは逆に騒々しさが嫌いな奴も居たらしい。
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