真田十勇士
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巻ノ九十五 天下の傾きその五
「よいな」
「その言葉受け取らせてもらうぞ」
「是非な」
「そうしていくわ」
慶次も頷いた、そしてだった。
笑顔のままでだ、兼続にあらためて言った。
「喉が渇いておらぬか」
「茶か」
「久し振りに共に飲まぬか」
「よいのう」
兼続は茶と聞いてだ、先程とは別の笑みになって応えた。
「ではな」
「これよりな」
「共に飲もうぞ」
二人はこうして茶を飲み合った、それぞれのことを話したうえで。そしてだった。
幸村と伊佐は無事に九度山まで戻った、そのうえで自身の屋敷に入ったがそこでだった。幸村はこんなことを言った。
「こうしてこの屋敷に戻るとな」
「やはりですな」
「落ち着くのう」
こう言うのだった。
「流されておる場所じゃが」
「それでもですな」
「拙者の家じゃからな」
だからだというのだ。
「そうなってきた、そしてじゃ」
「そしてですか」
「そうじゃ」
さらに言うのだった。
「落ち着く様になってきたわ」
「次第にそうなってきましたか」
「しかも妻も子もおる」
彼等もというのだ。
「だから余計にな」
「ここにですな」
「馴染みを感じておられますな」
「そうなってきた」
「そうなのですな」
「うむ、どうにもな」
ここはだ、幸村は笑って話した。
「そうなってきたわ、やはりここはな」
「殿のお屋敷ですな」
「休めて落ち着ける場所ですな」
「そうした場所ですな」
「そうなってきましたか」
「住めば都というが」
まさにというのだ。
「その通りじゃな」
「左様ですな」
「我等もどうにもです」
「ここが好きになってきました」
「親しみを持ってきました」
十勇士達も口々に言ってきた。
「それでここに帰るとです」
「ほっとする様になってきました」
「どうにもです」
「最初は違いましたが」
「そうもなってきました」
「そうじゃな、しかしそうも思うが」
それでもとだ、ここでまた言った幸村だった。
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