真田十勇士
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巻ノ九十五 天下の傾きその二
「そちらが主になっておる」
「ですな」
「そしてじゃ」
慶次はさらに話した。
「こうして伊佐殿に術も教えておる」
「左様ですな」
伊佐も言った。
「拙僧に」
「うむ、思えば奇遇じゃ」
「若し前田殿が前田家に養子に入らねば」
「その時はここにおらぬかもな」
「そして拙僧にもですな」
「術を授けておらなかったな、傾奇者にもじゃ」
慶次の生き様であるそれもというのだ。
「ならなかったかものう」
「そうですか」
「そして叔父御とも幾度も殴り合わなかったわ」
伊佐に棒を繰り出しつつ話した、幸村も共に付き合っているのはいつも通りだ。
「槍の稽古もよくした」
「今の様に」
「そうもしておった」
修行の中懐かしむ顔も見せた。
「叔父御とはな」
「槍の稽古もされていましたか」
「そうじゃ、この様にいつも荒稽古をしておった」
さながら戦の命のやり取りの様なだ。
「それをしておった」
「そうでしたか」
「わしもあと少し経ったらな」
慶次はこうも言った。
「叔父御のところに行くやもな」
「そう言われますか」
「そうも思う、しかし最後の最後まで傾くか」
その生き様は貫くというのだ。
「そして真田殿達もじゃな」
「生き様は変えませぬ」
伊佐と共に駆ける幸村が応えた、忍の中でもとりわけ素早い。しかも幾ら駆けようとも息切れ一つしてはいない。
「それはな」
「わしが言う傾くか」
「そうされます」
是非にというのだった、幸村も。
「それが傾きならば」
「そうか、ではわし以上に傾きをな」
「貫きます」
「そうしてもらいたい」
修行をしつつだ、慶次は幸村達のその言葉に頷いた。そしてだった。
三人で修行を続けた、伊佐は慶次の言う通りに日に日に腕をさらに上げてだった。やがて慶次が思っていたよりも早くだった。慶次にこう言わせた。
「もう充分じゃ」
「では」
「うむ、貴殿はな」
「これで、ですな」
「免許皆伝じゃ」
伊佐に笑みを浮かべて告げた。
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