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だがそこがいい

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第三章

「お陰で今じゃ店の看板娘だ」
「ああ、そうだな」
「じゃあこれからも働いてもらうか」
「頑張ってもらうんだな」
「そのつもりだ」
 笑ってこう言うのだった、だが。
 かをりは自分の学校での評判を自覚しているのでだ、ある日親父に対して閉店をして掃除をする時に尋ねた。
「あの、私がいいんですか?」
「いって何がだい?」
「はい、私みたいなおじさんみたいな娘で」
 仕草も服の着こなしも実にそうした感じだ、肉体労働を行う中年男性のそれと言っていい。
「全然女の子らしくないよ」
「ははは、スカートを穿いていてもだね」
「はい」
 見ての通りという返事だった。
「仕草もガサツで趣味だってそうで」
「やってるサイトの更新だよな、趣味は」
「阪神タイガースの」
 応援サイトを運営している、文章はかろうじて女の子のものだ。
「それです、イカ焼きとかも好きで」
「乙女チックは苦手だって言ってるな」
「実際に。読む漫画もマガジン系で小説はハレーム系ラノベです」
 そうした趣味の話もした。
「本当に女の子らしくないですけれど」
「いいんじゃないか?」 
 親父は自分のことを話すかをりに笑って返した。
「別に」
「いいですか」
「乙女な女の子がいてもおっさんみたいな女の子がいてもいいだろ」
 そのどちらもというのだ。
「だからな」
「おじさんみたいでもですか」
「昔はオヤジギャルって言ったな」
「オヤジギャル?」
「ああ、おっさんみたいな趣味で仕草の女の子を昔はこう呼んだんだよ」
 親父は自分が若い時にいた女性のことも話した。
「もう使わない言葉だけれどな」
「オヤジギャルですか」
「そうさ、それはそれで人気があったからな」
「だからですな」
「それがいいだろ、というかな」
「というか?」
「それがいいんだよ」
 そうだというのだ。
「かえってな」
「かえってですか」
「お好み焼き屋は飾らないだろ」 
 そうした趣だというのだ。
「気取ったお好み焼き屋とかないだろ」
「はい、それは」
「だからな」
「これでいいですか」
「ああ、いいさ」
 笑ってかをりに話した。
「うちみたいな店にも合ってるからな、だからな」
「私は私のままでいいですか」
「そうさ、じゃあこれからも頑張ってくれるかい?」
「はい」
 かをりは笑って答えた、こうした話題ではじめて笑って答えた。
「それじゃあ」
「これからもな」
「アルバイト頑張ります」
「そうしてくれよ」
「このまま」
 かをりのままでと答えた、そして次の日もその次の日もだった。かをりはかをりのまま頑張った。ありのままの彼女のままで。


だがそこがいい   完


               2017・6・25 
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