真田十勇士
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巻ノ九十四 前田慶次その十一
「実に残念じゃ」
「そのご不運が」
「そう思う、しかしそれも人生か」
「そうなるかと」
「思いのままにならぬのも」
慶次は達観した顔のまま述べていった。
「そうしたものか」
「はい」
「そうじゃな、しかしな」
「それでもですか」
「そうも思ったわ」
こう言うのだった。
「どうしてもな、それでじゃが」
「はい、結城殿にですか」
「今度文を書こうと思う」
「左様ですか」
「そうしてな」
慶次はさらに言った。
「この世ではじゃ」
「お別れをですか」
「それをされるのですか」
「文において」
「そうされますか」
「そう考えておる、残念じゃがお会い出来ぬ」
慶次はその無念を顔に出していた。
「最早な」
「だからですか」
「文で」
「そうする、あの方もわしの様な者の友になってくれた」
慶次は瞑目して言った。
「有り難い方であったわ」
「前田殿ならばです」
幸村はその慶次にだ、心を励ますべく言った。
「様々なよき方とです」
「友にか」
「なれるのでは」
「この様な不便者にか」
「そう思いますか」
「ははは、わしなぞとてもじゃ」
慶次は自嘲めかして笑って返した。
「その様な者ではない」
「友の方が多くおられる様な」
「そうじゃ」
まさにというのだ。
「とてもな」
「不便者だからですか」
「戦以外何も出来ぬな」
「あえて申し上げまする」
あくまで己を否定する慶次にだ、幸村はこれまでよりも強い声で言った。
「前田殿はお人柄も才覚もおありなので」
「だからか」
「はい、多くのよき方に慕われて」
「友となってくれているのか」
「左様です、第一です」
幸村はさらに言った。
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