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リアリズム

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第六章

「演技を宜しくね」
「首を切られて死んでいても」
「首と身体はCG合成で分けているから」
 そこはというのだ、尚打越はこういったCG合成も本格的でかなりの予算を投じてもいる。しかも音楽も日本ということで和楽器つまり雅楽の人達を頼んで特別に演奏してもらってもいる。
「いいね」
「はい、死ぬ時もですね」
「死んでるけれど吸血鬼はとにかくしぶといから」
 それでというのだ。
「焼かれるその中で断末魔のね」
「その顔で、ですか」
「演技を頼むよ」
 こう美優に言って演技をさせる、そうしてようやく予定から半年以上も遅れてクランクアップとなった。
 撮影の仕事が終わってだ、マネージャーは事務所で美優に言った。
「あの人の撮影は遅れるんだ」
「そのことで有名ですか」
「そう、ああして何度も摂り直しをして」
 そしてというのだ。
「演出も演技指導も脚本も何でも言うから」
「そういえばそうでしたね」
 美優も撮影の時のことを思い出して頷く。今はラフなジーンズとブラウスというプライベートの格好だ。
「あの監督さんは」
「脚本なんてね」
 それはどうかというと。
「もう赤ペンでメインの脚本より書き込んでいて」
「そんなにですか」
「赤ペン先生って感じでね」
 通信ゼミのそれの様にというのだ。
「殆ど自分が書いている感じで」
「脚本家さんが書いていてもですか」
「何度も脚本家さんと喧嘩して降りたこともあったんだ」 
「脚本家さんが」
「そうなったこともあるしね」
「撮影時間もですか」
「遅れることは絶対だから」
 時々という問題ではなくだ。
「それ込みでスケジュール組んでいたんだよ」
「他の仕事に差し支えがない様に」
「うん、とにかく我が強い人でね」
 打越という人間はというのだ。
「もう自分の主張を誰にも曲げないから」
「私にも自分の言う通りに、でしたし」
「そうそう、美優ちゃんは素直だけれどね」
 だから打越の言う通りに動いていたというのだ。
「これが言う娘だとね」
「すぐにですか」
「徹底的に押し付けてね」
「リアリズムをですか」
「話なんて聞かないから」 
 演じる方のものもというのだ。
「無理にでも墓場から這い出たせてね」
「ゾンビみたいな演技とメイクで」
「そうさせていたよ」
「正直ああした役はじめてでした」
 他ならぬ美優自身もだ。
「お姫様みたいな恰好で美女や美少年の血を吸うと思っていました」
「優美にだね」
「それで仲間を増やしていくとか」
 和風吸血鬼と聞いてだ、美優は実際にそう思っていた。 
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