タガメ
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第六章
「そのせいでいなくなっています」
「農薬だね」
「農薬を出来るだけ使わない様にしたら」
「それはよく言うけれどね」
「けれどですね」
「そう、これはね」
どうにもとだ、課長は夏樹に真剣な顔で話した。
「どうもね」
「難しいですね」
「農薬はわかってるんだ」
環境に問題がある、そのことはというのだ。
「使う方も売る方もね」
「そうですよね」
「そうなんだよ」
「そこが難しいですね」
「君もそれはわかるね」
「除草剤にしても」
こちらのこともだ、夏樹は言った。
「必要ですしね」
「雑草への対策にな」
「はい、やっぱり散布しないと」
「一つ一つ毟ってもいられないだろ」
「物凄い手間がかかりますし」
「そればかりは出来ないさ」
雑草毟りばかりはというのだ、農家も忙しいのだ。特にそれが兼業農家になるとそれは余計にである。これもまた現実だ。
「中々な」
「はい、どうしても」
「農薬もな、それで河川の開発とかもな」
「橋や堤防も」
「必要だ、それにあまり水も自然のままだとな」
「魚に寄生虫とかいたりして」
「川魚を食べる人もいるんだ」
課長はこのことも話した。
「鯉とかな」
「はい、鯉は美味しいですね」
「食べる人も少ないがな」
「寄生虫の問題もあって」
「そうだ、有機肥料もだ」
今度は肥料の話にもなった。
「昔のそうした肥料はな」
「はい、虫ですね」
「飯の時にする話じゃがないがな」
課長は牛丼を食べつつ苦笑いも浮かべた。
「そうしたことも問題なんだ」
「それを全部昔に戻しても」
「出来るか?」
「無理ですね」
「だから環境を奇麗にしてもな」
それでもというのだ。
「難しい」
「それが現実ですね」
「そうなんだよ、しかし君はだな」
「何とかしたいですね」
心からだ、夏樹は課長に答えた。
「やっぱり」
「そうだよな、じゃあどうするか」
「真剣に考えてます」
「タガメか」
課長は食べつつ遠い目になって言った。
「あれは本当に奇麗な水にしかいないっていうしな」
「ミズカマキリにしてもタイコウチにしても」
「その中でもな」
「タガメは特にですよね」
「実は蛍よりもな」
奇麗な水にしかいない夏の風物詩であるこの虫よりもというのだ。
「そうみたいだな」
「ミズカマキリとかにしても」
「この市にも蛍はいるさ」
この虫はというのだ。
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