魔法少女リリカルなのは ~黒衣の魔導剣士~ 外伝
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黒衣を狙いし紅の剣製 FINAL
グリードが計画した俺への襲撃事件は、彼の逮捕によってどうにか幕を下ろした。
それから数日が経過しているわけだが……俺にはまだ平穏な生活は戻っていない。重傷を負っただけに入院生活を余儀なくされたのはまあ良いのだ。無理やり回復させて退院してもあとでその代償が来ることもあるのだから。問題なのは……
「まったく……お仕事で危ないことに首を突っ込まないといけないことがあるのは分かるけど、もっとパパは自分のことを大切にすべきだよ。怪我をしたって話を聞く時はほとんど大怪我だし」
のように俺のことを父のように慕っている小学生から説教を受けていることだ。
無論、俺に説教するのはこの子だけではない。意識を取り戻してから毎日のように知り合い達が見舞いに来てくれているのだ。その中にもこの子以上に説教や小言などを言って来る奴は居た。
レヴィやユーリには泣かれるし、ディアーチェには目を赤くした状態で短い時間だけど小言を言われた。俺の前では泣いてないけど、絶対泣いてたんだろうな。
シュテルは……泣き顔を見られたのが恥ずかしかったのか、いつも以上に澄ました顔してたけど。ただ珍しく説教とかはなかったな。無事でよかったみたいなこと言うだけだったし。からかってきたり、小言を言われると思っていただけに拍子抜けした気分だ。俺としてはありがたいことではあるけど。
「パパ、私の話聞いてるの!」
「まあまあヴィヴィオ。ショウくんも反省はしてるだろうし、ショウくんが悪いってわけでもないんだからそれくらいにしてあげたら? それと、あまり大きな声出したらダメだよ。他の人に迷惑だから」
「……なのはママはパパには少し甘いよね」
ヴィヴィオ、お前は何を言っているんだ。
お前のママはむしろ俺には人一倍厳しいぞ。お前が居るから母親らしい顔をしているが、お前がいない時なんて誰よりも俺に対して説教というか小言を漏らす奴だし。
「私はこういう時はちゃんと言っておかないとダメだと思うよ。なのはママ、パパが入院したって聞いた時泣きそうになってたんだから」
「ヴィ、ヴィヴィオ、べべべ別に私は泣きそうになんかなってないよ!? ショウくん、勘違いしないでね。泣きそうになってたのはヴィヴィオの方だから!」
「もう、何でそこでそういうこと言うかな。確かに私も泣きそうだったけど、なのはママの方が泣きそうになってたのに」
なのはとしては弱っている自分の話をされるのは恥ずかしいだろうから隠したくなるだろう。だがヴィヴィオとしては、そのへんを言っておいた方が俺が反省すると思っているに違いない。
ある意味この親子は漫才のようなやりとりをしているようで、俺に最もダメージを与えてくるから質が悪い。それだけに今後怪我はしないようにしようと思えるわけだが。……それにしても
「……あのなのはが綺麗にリンゴを剥けるようになってるなんてな」
俺の記憶が正しければ、魔法の訓練ばかりしていて家事スキルはほとんど身に付いていなかったのに。
まあ……ヴィヴィオの母親になったこの数年の間に、愛する娘のために精一杯努力したんだろうな。何度か料理とか教えてって言われたこともあるし。こうやって成長を間近で見ると……何というか感慨深いものがある。
「ショウくん……ショウくんは何でそんなにさらりと私にイラつくようなことを言えるのかな?」
「逆に聞くが……お前はどうして俺の言うことの大半をマイナスで受け取るんだ?」
「そう聞こえるような言い回しをしてるのはそっちだよね? 私に対して他の人よりも意地悪してる自覚ある?」
「意地悪しているという意味ではお前も俺に対してしてると思うんだが?」
心配を掛けたのは悪いとは思うが、そうツンケンした態度をしなくてもいいと思うのだが。それは俺だけだろうか……。
「あのね、パパもなのはママもどっちどっち。どっちが悪いじゃなくてどっちも悪いから」
「ヴィ、ヴィヴィオ……確かに私も悪いけど、ショウくんが意地悪なのはヴィヴィオも知ってるよね?」
「それはもちろん知ってるよ。一度はパパだって認めてくれたのに未だにパパって呼んだら一度は違うって否定してくるし」
そりゃあそうだろ。
その場の流れというのもあるが、正式になのはの娘になったんだから俺が認めてたら余計な誤解だって生まれるだろうし。
まあ今でも生まれる可能性は十分にあるわけだが。なのはは有名人だし、記者の中には好き勝手に記事を書く奴も居るだろうから。
ただそれでも、こういうことは少しでもリスクは下げておくべきことだ。俺はなのはと付き合って将来的に結婚する可能性が出てきたならパパ呼びを許しても問題はないが。
「だよねだよね」
「でも……私だってもうあの頃とは違うし、パパの言ってることも一理あるってことは分かってるから。それになのはママがパパに対して素直じゃないのも事実。家ではもっと……」
「ごめん、ごめんヴィヴィオ! 私が悪かったからそれまでにして!?」
なのはの立場からすれば止めるのは当然なのだろうが……自分に対して何か言っているわけだから気になりはする。必死になってヴィヴィオを止めるあたり、いったい何を言っているのだろう。
「なのは、お前いったい何……」
「何でもない!、何でもないから。あったとしてもヴィヴィオがショウくんと今度どこかに行きたい、みたいなそういう話だから。そんなことより、せっかくリンゴ剥いたのに食べないの勿体ないから食べて!」
あまりの必死さというか剣幕に触れないでおいたほうが良さそうなので、俺は大人しくベッドに置かれたリンゴの乗った皿を受け取ることにした。
今は聞かないでおくけど……なのはの奴、俺のいないところで何を言ってるんだ?
ヴィヴィオに聞けば教えて……くれる可能性もあるが、なのはに直接聞けと言われる可能性の方が高いだろうな。事件が終わって間もない頃はともかく、今は前ほど甘えてこないし。部分的にはなのはよりもしっかりしている気がしないでもないしな。
「パパ、もしかして自分で食べるの辛いの? じゃあヴィヴィオが食べさせてあげる」
「は? ……いや、自分で食える」
「む……ヴィヴィオが食べさせてあげるの。あ~ん」
「だから……」
「あ~ん!」
これは……絶対俺が食べるまでやめるつもりがない。
今のヴィヴィオの顔は、こうと決めたら最後まで貫き通すなのはの顔にそっくりだ。さすがは親子。こういうところは似てくるらしい。
なのはの見ている前でするのは恥ずかしさもあるんだが……下手に抵抗するとリンゴを口の中に押し込んでくるかもしれない。それで怪我をしたとなれば実に面倒だ。拗ねたり泣かれた方が面倒だけど……元を正せば入院することになった俺が悪いのか。諦めてヴィヴィオの好きなようにさせてやるか……
「えへへ……美味しい?」
「……まあな」
「だってなのはママ。良かったね」
「な、何でこっちの振るのかな!? わ、私は皮を剥いただけで……別に料理とかしたわけじゃないし」
「そういうところが素直じゃないって言ってるのに。本当は自分でパパに食べさせたりしたいんでしょ?」
「そそそんなこと思ってないよ!? だってショウくんは絶対食べてくれないし!」
なのは……お前さ、俺のこと何だと思ってる?
確かに自分で食べれるなら自分で食べようとはするし、現状自分で食べられる。だからされても断るだろう。しかし、別になのはからあ~んとされて絶対に食べないなんてことはないのだが。時と場合によるだけで。
「それよりヴィヴィオ、今日はノーヴェと約束があるんだよね? そろそろ出ないと約束の時間に間に合わないじゃないかな?」
「え? あぁうん、そうだね」
「じゃあ途中まで一緒に帰ろうっか」
「なのはママはまだパパのお見舞いしててもいいような……」
「あのねヴィヴィオ、なのはママにも色々とやることがあるんです」
「例えば?」
「夕食の買出しとか準備とか!」
あぁうん……ドヤ顔で言うことではないけど、確かにお前がすることではあるね。
ただ時間的にまだ昼を回ったくらいだからずいぶんと早い気もする。まああれこれ見て回ったり、他にも買い物をするならおかしくはないのだが。
ヴィヴィオも娘として思うところがあるのか、なのはの方を向いて深いため息を吐いている。
その姿を見ていると、この数年でヴィヴィオもしっかりしてきたと思えるのは俺だけか? それともヴィヴィオは普通で母親の方が年齢の割に子供っぽい……うっかり口から漏れたら睨まれそうだし考えるのはやめておこう。
「ショウくんまたね。時間がある時は顔出すから」
「パパ、バイバイ。明日も来れたら来るから」
「はいはい、またな。ただ無理してまで来なくていいから。それとパパじゃない」
「「もう、何で最後に意地悪するかな!」」
親子だけ合って感性から怒った顔まで同じだ。まあハモったのがツボに入ったのか、最後にはふたりは笑いながら去って行ったのだが。
ふぅ……とりあえずこれで一段落か。毎日誰かしら見舞いに来てくれるのはありがたいが、申し訳なさやらで精神的に来るところもあるんだよな。
とはいえ、何もすることがないので時間を潰すという意味では困る。
今寝てしまうと夜に眠れなくなってしまうだろうし、パソコンといった機材は仕事しそうだからということで頼んでも却下されてしまった。それどころか俺の仕事は相棒達が責任を持ってやるとのこと。優秀な相棒達を持ったのは良いことなのだが……本当に暇だ。
毎日休まず仕事がしたいと思うほどワーカホリックというか、仕事が恋人と思うほど仕事をしたいわけではない。ただ数日何もせずに過ごすというのは退屈だ。俺のような人間は多少なりともストレスのある時間とのんびりと過ごす時間が両立しておいた方が良いのだろう。
まあ……単純に普段仕事してるから生活リズムが変わって違和感があるだけかもしれないが。
「どうするかな……」
はやてあたりに連絡して何かしら本でも持ってきてもらえば暇も潰せる。
だが……散々小言を言われてしまっただけに私をパシリにするとはええ御身分やな! なんて態度で来る可能性も十分にある。年々あいつの性格が可愛くない方へ進んでいると思うのは俺だけだろうか? でもあいつの師匠も師匠だからな。今はその人以上に腹芸が得意かもしれんが。
そんなことを考えていると、病室の扉がノックされる。ここに来るのは知り合いくらいだ。また誰かが見舞いに来てくれたのだろう。もしかするとなのは達が忘れ物でもして戻ってきたのかもしれない。まあ何にせよ、入れることに問題はないだろう。
俺は入室許可の返事をすると、ゆっくりと扉が開く。
「失礼する」
「お邪魔します」
病室に入ってきたのは、私服姿のシグナムと制服姿のフェイト。
昔からふたりはライバルのような関係なので組み合わせとしては珍しくはない。まあ昔と違って今は別々の仕事をすることも多いので、そういう意味では珍しいと言えるのかもしれないが。
ふたりの服装が違うということは、模擬戦をしていたというわけでもあるまい。普通に考えればシグナムは休日で、フェイトは仕事の合間に来てくれたのだろう。
「主はやて達に散々説教されて落ち込んでいると思ったが、思ったよりも元気そうだな」
「もうシグナム、心配するのは身体の方だよ。かなりの重傷だったんだから」
確かにフェイトの言っていることは正しいのだろうが、今の状態からすると精神的な心配をしてくれる方が嬉しかったりする。日に日に小言や説教はなくなっているとはいえ、毎日のように聞いているとさすがに参ってくるのだから。
「そういうお前は心配のし過ぎだ。こいつはここを抜け出してまで任務に出ようとするバカなのか?」
「そ、それは……しないとは思うけど、何かあれば無理も無茶もする性格だし」
「そうそうその何かが起こるとは思えんがな」
シグナム、お前がフェイトのことを好きなのは分かるがそういじめるようにからかってやるなよ。そんな性格だからヴィータと折り合いが付かない時があるんだぞ。今はヴィータも大分大人になったから滅多にないだろうけど。
「む……さっきまで誰か来ていたのか?」
「ん? ああ、なのはとヴィヴィオがな。よく分かったな?」
「その食べかけのリンゴを見れば分かる。お前ならそのまま食べてもおかしくないし、皮を剥くにしてももっと綺麗だろうからな。あのなのはにしては成長していると言うべきだろうが」
そう思うなら口にするなよ。あいつはあいつなりに頑張ってるんだから。
それに……お前のとこの少しドジな医者と比べたら遥かにマシというか、比べられないくらい上手いからな。一緒に作ればまともなものが出来るだろうけど、ひとりで作らせると栄養満点だけどそれ故に味が凄まじいものを作ってしまうし。
「……ところでシグナム」
「何だ?」
俺が言いたいことが分かっていそうなのに平然と聞き返すな。お前は本当に親しい間柄の奴にはちょっかいを出したい奴だな。
「言わなくても分かってるだろうが……何でそんなに近くに座る?」
「愚問だな。自分で食べるのがきつそうだから食べさせてやろうと考えているだけだ」
その流れはさっきやった。
何より何でお前から食べさせてもらわないといけない。ヴィヴィオはまだ可愛げがあるし、恥ずかしさを我慢できるがお前からされるのは普通にご免だぞ。腕が動かないわけでもないし。
「結構だ。普通に自分で食べられる。大体フェイトも居るんだぞ。そんな状況でこんなことして楽しいのかお前は」
「テスタロッサがいなければ良いのか?」
「そういう意味で言ってない」
そもそも、笑ってるってことはお前理解してやってるだろ。説教や小言を言わないと思ったらお前はこっちで俺に抗議してくるのか。正直に言って、普通に説教やらされたほうがマシだぞ。
「グリードなんてクソ野郎、あたしがぶっ飛ばしてやる! と怒り狂っていたヴィータを止めたのは誰だと思ってる?」
ここでそんな切り札を切るんじゃない。
口から出まかせを言っているという可能性もあるのだろうが、はやての説教や小言の中に似たような話題があった。
それに見舞いに来てくれたヴィータはグリードに対してかなり苛立ちを覚えていた。それだけにシグナムが言っていることが出まかせである可能性の方が低いように思える。
「…………」
「……ふ、冗談だ。テスタロッサ、そんな羨ましそうな顔をするな」
「べべ別にそんな顔してないから!」
「そうか? 私にはお前があれこれ考えて顔が赤くなっているように見えるのだが」
「シグナムがからかうから怒ってるの! もう……何でシグナムは私の事すぐにからかうかな」
それは間違いなくフェイトがからかいやすく反応が素直な人間だからだろう。
俺のような人間は大抵のことはスルーするか反応が薄いし、はやてのようなタイプはからかわれるとむしろ乗ってオーバーな反応をする。そういう人間より慌てたり、顔に出てしまうタイプの方がからかう側は面白いに違いない。
まあ……シグナムはいつも凛としているからか、悪い人間とは思われないだろうが他の騎士達より取っつきにくいとは思われているだろう。本人も必要がなければそこまで自分が話しかける方ではないし、シャマルやヴィータよりも口数は少ない。
からかってくる主な相手が俺やフェイトあたりなことを考えると、親しく気軽に話せる相手を中心にからかっているのだろう。
「そうだぞシグナム、そのへんにしてやれ。お前は好きな子にちょっかいを出す子供か」
「失礼だな。確かにテスタロッサは私にとっても親しい相手だが、そのような感覚でやっているつもりはない。それにお前は本当にテスタロッサには甘いな。その甘さをなのはや主はやてにも分けてやったらどうだ?」
「なのははともかく、お前の主は甘くしたら調子に乗るだろ」
この前だって休憩中に呼び出されてあれこれ買ってと言われたのだから。まあ本気で言っていたわけではないが……。
「主はやてなりにお前に甘えているんだ。お前くらいにしか甘えないのだから甘えさせてやれ」
「だったらその甘え方を年相応に変えさせろ」
心も身体ももう大人なんだから学生の時のノリでこられると俺も困るんだよ。あいつとは中学の時に色々あったし。
平行線なだけに話が長引くと思ったのか、シグナムは立ち上がると窓際に移った。どうやらフェイトに会話の主導権を譲るようだ。仕事の合間に来てくれているだけに妥当な判断だろう。あとで主への対応について話すかと思うと億劫な気持ちにもなってくるが。
「昔からだけどふたりは仲良いよね」
「まあ……ある意味家族ぐるみ付き合いだからな」
義母さんとシグナムとの間は最初こそ平手打ちなんかあったけど、そのあとは普通に和解して交流があったし。最も義母さんと話が弾んでいたのはシャマルだけど。俺とはやての関係についてとか孫の話だとか……
シャマルの見た目は20歳前後だが完全に思考は母親の年代と変わらないよな。まあ桃子さんやリンディさんとかと気が合うみたいだし、昔からご近所付き合いを最もしていたのはシャマルだろうからな。そういう意味では当然のことなのかもしれない。
「……その、悪いな」
「え……」
「いや、心配掛けたし……忙しいのに毎日のように見舞いに来てくれてるから」
「ううん……私がしたくてしてることだから」
何というか……なのはやはやてに比べるとフェイトは苦手だ。
いや、この言い方だと誤解が生まれる。あいつらほど強く出れないというべきだろう。
あいつらはツンケンした態度や説教や小言を平気で言ってくるけど、フェイトは性格的に説教というよりはお願いという感じで言ってくる。その際は泣きそうな顔もされるので……無下に扱えるわけがない。
それに……今みたいに優しい笑みを浮かべられると、何というか嬉しさや恥ずかしさが混じった感情が湧いてきて顔を見ていられなくなる。
「ショウ……何だか顔が赤いけど大丈夫? 熱でも出てきた?」
「いや、大丈夫だ……シグナム、お前は何を笑ってる?」
「気にするな。大したことは考えていない」
それは何かしら考えているということなんだが。
どうせ「お前もずいぶんと変わったな。昔はそこまで意識はしてなかっただろうに」とか「お邪魔なら出ていくが?」なんてこと考えていたに違いない。
まったく……脳内がはやて一筋だったお前もずいぶんと柔らかくなったもんだよ。今でも根幹ははやて一筋なんだろうけど。
「それよりも意識をテスタロッサに戻してやれ。お前と話したいから仕事の合間に時間を見つけて来ているんだからな」
「だ、だからそういう言い回しはやめてよ」
「違ったか?」
「違う……とまでは言わないけど、話すべきこともあるから来てるの」
それは考え方によっては……いや、下手に突っ込むのは危険か。フェイトは性格的になのは以上に取り乱しかねない奴だし、話すべきことということは真面目な話があるんだろうから。
「話すべきことって……クロ達のことか?」
「うん。これは私の推測だけど……グリードは今回の事件の首謀者だし、違法研究も行ったわけだから有罪は間違いないと思う。銃を使ってショウを殺そうとしたって証言もシュテル達から挙がってるしね」
「そうか……クロは?」
「あの子に関しては本人も凄く反省してるし、過酷な訓練もさせられてたみたい。それに身体のあちこちに虐待されて出来た跡も確認されたから……多分だけど保護観察処分に持って行けるとは思う。ただそうなるまで少し時間が掛かるかも。一歩間違えてたら人を殺めてたわけだから」
まあ……そこは仕方がないだろう。
被害者である俺が別に良いと言ったからといって、クロが自分の意志で非殺傷設定を切り俺を攻撃したことは事実。負わせた傷の深さからして殺人未遂として扱われるはずだ。さすがに無罪放免というわけにはいかないだろう。
「……悪いな。嫌な事件を担当させて」
「ううん。あの子は……昔の私に似てるから。でも私は……なのはやみんなに助けてもらって今ここに居る。今も自分らしく生きてる。だから今度は私があの子を助けてみせるよ。あの子の未来のためにも」
フェイトの中には今もジュエルシードを巡り争った事件が残っているのだろう。そのとき犯してしまった罪もまだきっと背負っている。でも……だからこそ、フェイトは間違えることなくこれからも執務官としての仕事をこなすのだろう。
「ただ……あの子の今後のことを考えると色々と決めないといけないことも出てくるし。ショウにも相談に乗って欲しいかな。グリードは生きてる内に外に出られるか分からないし、元の家に住ませてあげられるかも分からないから」
「ああ、そのへんのことは協力する。義母さんにも話しておくさ。今回のことに多少なりとも責任を感じてるみたいだし……桃子さんとかにヴィヴィオの話をされる度にあれこれ言ってきてるからな」
ヴィヴィオはなのはの娘になったし、桃子さんからすれば孫なのは間違いない。
しかし、年齢的なことを言えばなのはとヴィヴィオは一回りほど離れてるようなものだ。それは親子というよりは年の離れた姉妹。普通に考えれば娘がもうひとり出来たようなものにも思える。
故に……義母さんの気持ちも分からなくもないが、早く孫の顔が見たいということをあまり言わないでほしい。そう簡単に結婚相手なんてできないし、結婚したとしても子供が産まれるまで時間は掛かるのだから。
「だから多分……クロのことを引き取ってもいいって言うかもしれない。娘が欲しそうなことを言ってたこともあるし……昔はそれをシュテル達で発散させたんだろうがあいつらももう大人だしな」
「あはは……何というかレーネさんらしいね。まあ研究ばかりに目が行かなくなったという点では良いことだとは思うけど」
「そうだな。お前やなのはよりも仕事中毒だし」
「私はちゃんと休みは取ってるよ。なのはもヴィヴィオを引き取ってからはちゃんと取るようにしてるし。そこまで心配しなくても大丈夫だから」
確かにそうなんだろうが……割と大変だと思うラインが人とずれてそうだからなお前となのはは。
我慢強いんだろうけど、それ故にはたから見ると無理をしているようにも見えるわけで。まあ今言ったように昔よりは休んでるみたいだから安心はしてるけど。
「そんなに心配ならお前がテスタロッサの休日に付き合ってやればいい。事前に話しておけば、休みを合わせるのも可能だろう」
「シ、シグナム!? べべべ別にそこまでしなくてもいいんじゃないかな。私もショウももう大人だし、お互い仕事があるわけで。た、確かに昔みたいにみんなと遊んだりできる時間ってないから……そういうことが出来たら嬉しくはあるけど」
「だそうだが?」
だそうだが? じゃねぇよ。
何で今日のお前はちょくちょく余計なことを挟んでくるんだ。いや別に言うのは良い。今回の事件で最も迷惑を掛けることになった相手はフェイトだ。裁判やら事後処理をやってもらうわけだから。それに対するお礼はするべきだろう。
だがしかし、そんな茶目っ気が見える顔で言われるとさすがに腹が立つ。お前……年々主に毒されてきてるんじゃないか。これ以上あいつに似てきたら俺のお前への対応は冷たくなるぞ。ほぼ間違いなく。
「まあ……今回の事で礼はするべきだろうし、俺としては構わない」
「ほほほ本当に!?」
「あ、あぁ……フェイトにはこれからもしばらく面倒掛けるわけだし」
というか、少し離れてくれませんかね。
さすがに目の前にフェイトの綺麗な顔があるのは困る。子供の頃ならまだ今ほどの感情は湧いてこなかったわけだが、今はすでに大人。異性として見てる相手の顔が至近距離にあるのは精神的によろしくはない。
「というか……フェイト、時間は大丈夫なのか?」
「え……あぁうん、そろそろ戻らないといけないかな。えっと……また来るから。色々と報告や相談もしたいし。その……今の話の続きもしたいから」
「ああ。当分は暇だし、そっちの都合の良い時に来てくれ」
「うん。じゃあまたね」
笑顔で俺に手を振るとフェイトは足早に部屋から出て行った。俺が思っている以上にここに来るために時間を作ってくれているのかもしれない。
そう考えると無視してまで来ないでいいと言いたくもなるが、フェイトの性格的に迷惑なことをしていたと考えそうなだけに躊躇われる。
「行ってしまったな」
「仕事なんだから仕方ないだろ。……それはお前はいつまで居るつもりなんだ?」
「帰れというならすぐにでも帰るが?」
「別にそんなことを言うつもりはない。やることがなくて暇だからな」
はやてやシュテルみたいに頻繁にからかってくる相手だと、さっさと帰れと言いたくもなるが。シグナム程度の頻度であるならまあ許容範囲内だ。
「そうか……では私が帰った後のためにお前にこれを渡しておこう」
シグナムが取り出したのは数冊の本だ。表紙を見た限りこっちの本もあるが、地球の本もいくつかある。
「……いつからお前は読書家になったんだ?」
「分かってて惚けるのはやめろ。それは主はやてからだ。私はお前が暇だろうから持って行ってほしいと頼まれただけだ。感謝するなら主はやてにしろ」
確かに正論ではあるが……素直に言いたくない気持ちも芽生えてしまっている。素直に言って調子に乗られても面倒だし、ついこの間あいつのことを元文学少女だと言ったりばかりだ。それを根に持っていて絡んでくる可能性も十分に考えられる。
かといって……受け取った本を読まなかったらそれはそれで絡んでくるだろう。何故こうもあいつが絡むことはどっちに転んでもあいつが主導権を握れそうな展開になっているのだろうか。
「はぁ……年々あいつの腹の内が黒くなってる気がしてならない」
「だったら……さっさと主はやてと身を固めるんだな。あまりこのことに口を挟むつもりもないが、我らが主の相手に今のところ認めているのはお前だけだ。それに見ていてむず痒くもあるからな」
「あのな……その手のことは俺よりもお前の主に言って欲しいんだが」
俺だってお前の主の言動に振り回されてるところはあるんだから。俺はあいつの二度目の告白をいったいいつまで待ってればいいんだよ。六課が解散するときにもう少し待っておけと言っていたが、一向にないんだが。前以上にデートとかには誘われているけども……
「言いにくいからお前に言っているんだ。別にテスタロッサやなのはを選んでも構わんが、あまり時間を掛けられると次の相手を探すのも難しくなる。私としてはヴィヴィオが独り立ちできる年齢になる前には決着をつけてほしいところだ」
「ヴィヴィオが独り立ちって……急かしてるようで大分期限があるんだが」
「何年お前達の関係を見てきたと思っている? 何かきっかけがない限りそう簡単に変わらんのは分かっているさ。だからそれなりに気長に待つと言っているんだ」
反論しにくい状況ではあるが……はやてとしてはお前やシャマルの未来も心配しているのだが。
美人で胸も大きいのにちっとも男が寄ってこん。私の自慢の家族やのに世の中の男は何見とんねん! と前に一緒に酒を飲んだ時に言っていたし。
「そいつはどうも……ただ俺達は俺達のペースで進むだろうさ。同年代と比べたら俺も含めて仕事に偏ってるだろうしな」
「……そうだな……まあ私としてはお前達が幸せになってくれればそれで良い」
「その言い方だとお前がその輪の中に入っていないように思えるんだがな。お前の主はお前も幸せじゃないと幸せにはなれないって言う奴だぞ」
「ふ……それもそうだな。まあ今こうして生きているだけで幸せなのだが……私も私なりに更なる幸せを探してみるさ」
ああ、そうさ。
俺もお前も……これからまだまだ長い人生を歩んでいく。その中で多くの出会いと別れを経験するだろうが、それでも前を向いて歩いて行くんだ。
悲しいことや残酷なことにも巻き込まれるかもしれない。だけど喜びや幸せを感じる時間もある。それを重ねながら俺達は成長し変わっていくんだろう。
これからがどうなるかなんてそれは誰にも分からない。だけどこれだけは言える。
俺達は精一杯今日という日を過ごして明日に向かう。自分らしく生きていくのだと……。
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