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やはり俺がネイバーと戦うのは間違っているのだろうか

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4.沖田総司は努力を惜しまない

「この人でなし!」
 はっ!びっくりした、夢か。何て恐ろしい夢だったんだ。覚えてねーけど。
「八幡さん、大丈夫ですか?」
「うっ、総司か。大丈夫だ。舌が痺れてるくらいだ。心配かけたな」
「十分、問題だと思うけれど」
「『雪乃』も心配かけた」
 ん?あれれぇ?おかしいーぞー?総司はともかく雪ノ下を名前で呼ぶなんて。………まさか!
「ひ、比企谷君!?……まさか、なっているの?」
「あ~、みたいですね」
 おいおい、嘘だろ。
 まさか、なってしまったのか。──────『ヒステリアモード』に。
 ヒステリア・サヴァン・シンドローム。略称『HSS』。それが俺のサイドエフェクトだ。
 俺のサイドエフェクトは俺の母方の家系の人間の宿命というやつで、要は体質なのだ。正常に発動すると、思考速度が上がったり、周りがスローモーションに見える。云わばスーパーマンになるのだ。ただ、こいつの発動条件がシビアで、だいたいが性的興奮によって発動してしまうのだ。
 だが、そんなヒステリアモード(命名俺)の中にも種類があって、いつも発動する『ノルマーレ』。自分の女性を他人に奪われた時に発動するヒステリアモード『ベルゼ』。死の間際に子孫を残そうとする本能によって発動するヒステリアモード『アゴニザンテ』。などを俺は聞いている。おそらく、今なっているのはアゴニザンテだ。しかし、こんなクッキー騒動ごときでヒステリアモードの説明はしたくなかったぜ。
「まさか、こんなところでなるとはな」
「八幡さん、本当に大丈夫ですか?何なら休んでてもいいんですよ?」
 総司が心配半分陰謀半分という顔を俺にのぞかせる。おい、総司!お前狙ってるな!そんなことされたら、今の俺だと、
「総司や雪乃が頑張っているのに、俺だけ休むなんてそんなことは出来ないな」
 そうやさしく言いながら、俺は自分より頭一つ低い位置にある総司の頭をなでた。
 ヒス俺ぇ。何やってんの?やだー。誰よこのキャラ。キャラ崩壊も甚だしいよ。あんなに、気持ちよさそうな顔されては、やらざるを得ないじゃないか。だからこのサイドエフェクトは嫌いなんだ。はあ、これを使わなくてもよくなるぐらい強くなんなくては。
「ちょっ!ヒ、ヒッキー何やってるし!?」
「ん?ただ、総司の頭をなでてるだけだよ。由比ヶ浜」
 良かった!まだ知り合っても間もないやつに対して名字で呼ぶという見識はあったようだ。
「由比ヶ浜さん。気にしちゃだめよ。彼のあれに付き合っていたら乙女心が幾つあっても足りないわ」
 おい。それどういう意味だ。俺が誑しみたいに聞こえるじゃないか。違う。断じて、違う?やべー自信ねぇ。
「さて、比企谷君がなっているうちに由比ヶ浜さんのクッキーの改善点を探しましょうか」
「いっそ、もう市販の方がいいのでは?」
「沖田さんひどい!」
「沖田さんそれは最後の手段よ」
「それで解決しちゃうんだ!」
 驚愕の後に落胆する由比ヶ浜。がっくりと肩を落としてため息をつく。
「やっぱりあたし料理向いてないのかな………。才能ってゆーの?そういうのないし」
 なるほどな。
「解決方法がわかったわ」
「努力あるのみ、ですね」
 残酷と言えば残酷だが、これが唯一の解決方法だろう。
 才能が無い。そんなことを言うやつは大抵努力をしてこなかったやつだ。人間は心のどこかでは努力しなければならないとわかっている。だが、人間はどこまでも怠惰な生き物だ。だから人間は怠けるためのいいわけに才能云々を持ち出す。無駄な努力と切り捨てる。
「由比ヶ浜さん。さっきあなたは才能がないと言ったけれど、まずその認識を改めなさい。最低限の努力もしない人間には才能がある人を羨む資格はないわ。成功できない人間は成功者が積み上げた努力を想像できないから成功できないのよ」
 雪ノ下のそれはどこまでも辛辣で反論すらも許さないほどに正論だった。
 俺らはそういう人をボーダーで何人もみてきた。天才が努力をし己に磨きをかける様を。努力で天才に食い下がろうとする様を。
「で、でもさ、こういうの最近みんなやんないってい言うし。………やっぱり合ってないんだよ、きっと」
「へぇ。じゃあ、由比ヶ浜さんは『みんな』が勉強をやらないって言ったら勉強をやらないんですね。『みんな』が学校をやめるって言ったら学校をやめるんですね」
 あ。やばいぞ。総司の堪忍袋が切れた。
「何かあれば『みんな』って単語だしてはぐらかすのやめてください。あなたは何のためにクッキーを作ってるんですか?『みんな』のためですか?違いますよね?努力を怠る理由を居もしない『みんな』何て言う単語ですまさないでください」
 総司にそういう類いの言葉はタブーだ。
 俺の知る中で総司ほど生きることに、戦うことに努力を費やした人をみたことがない。そして、俺はいつもそれを端から見ていた。だからこそ、こいつがこんなにも憤慨する理由がわかるし、終わらせたくない理由もわかる。いつものヒス俺なら優しい一言でもかけるところだが、どうもヒス俺は総司にやさしいようで総司の肩を持ってしまう。ヒス俺には珍しいことだ。
「そうね、沖田さんの言うとおりだわ。自分の不器用さ、無様さ、愚かさの遠因を他人に求めるなんて恥ずかしくないの?」
 総司の怒気、雪ノ下の嫌悪感。この二つをヒシヒシと俺は感じてる。恐らくそれを直接浴びせられている由比ヶ浜は相当来ているだろう。証拠に俯いているし、涙目だ。
「か………」
 帰る、とでも言うのだろうか。今にも泣きそうなか細い声が漏れた。だが、正解だろう。逃げが悪いわけではない。
「かっこいい………」 
「「「は?」」」
 俺ら三人の声が重なった。こいつ何言ってんの?思わず三人で顔を見合わす。
(どうしましょう!?どうやら、あまりに睨みが効いたもんで頭がどうかしちゃったみたいです!)
 いや、そういうことじゃないと思うぞ。多分。
「建前とか全然言わないんだ………。なんていうか、そういうのかっこいい………」
 由比ヶ浜が熱っぽい表情で総司と雪ノ下を見つめる。総司はヒッ!と小さい悲鳴を上げて俺の後ろに隠れて、雪ノ下も気圧されたのか一、二歩後ろに下がっていた。
「な、何を言っているのかしらこの子………。これでも結構きついことを言ったつもりだったのだけれど」
「ううん!そんなことない!あ、いや確かに言葉はひどかったし、ぶっちゃけ泣きかけたけど……」
 だろうな。この二人にあれだけ言われたら俺だって泣くわ。
「でも、本音って感じがするの。ヒッキーとはなしてるときも、ひどいことばっかり言い合ってるけど、ちゃんと話してる。あたし人に合わせてばっかだったからこういうの初めてで……」
 そう、由比ヶ浜は頭がどうかしたわけではない。それは羨望だったのだ。俺たちのチームはチームプレイもするが基本スタンドプレイなのだ。良くも悪くも個人主張の強いチームで、本音を言い合っている俺らからしたら簡単なことでも由比ヶ浜は環境がそれを許さなかった。だから、憧れ、焦がれたのだ。
 それゆえに、由比ヶ浜は逃げなかった。
「ごめん。次はちゃんとやる」
 その視線はさっきの逃げていた目ではなく、逃げないと目を背けないと決意をしたやつの目だった。
 そんな目を見て、総司は口元を緩めた。
「わっかりました!そういうことならば、この最強無敵の沖田さんが教えて差し上げましょう!」
「うん!」
 どうやら向こうはまとまったらしいが、雪ノ下はまだ呆気にとられたまんまらしい。 
「雪乃」
「ひゃっ!ひ、比企谷君!?」
 まだヒステリアモード続いてたのか。
「君も手伝ってあげてくれ。恐らく総司もクッキー初めてだろうからね」
「そ、そうね。二人とも私も手伝うわ」






 そして、時間は進み。俺のヒステリアモードもやっと切れて、由比ヶ浜の料理教室も佳境を迎えていた。
「なんでー。何で雪ノ下さんみたいにいかないの?」
「何が悪いのかしら?」
 そこに出来ていたクッキーは最初の木炭よりも遙かにましなものがあった。クッキーと呼んでもよいほどのものが。よくぞ、この短時間でここまでにさせたものだ。これは偏に雪ノ下と総司の教鞭によるものだろう。
 雪ノ下と由比ヶ浜はまだ上を求めているみたいだが、
「別にこれでも良くないか?味も食えないほどのものではないし、それに男に渡すならこれくらいの方が男心はくすぐられるぞ」
 え?という風に三人とも俺の方を向いた。おまえもかよ総司。
「そうなん?」
「ああ。ようは誠意が伝われば男はうれしいんだよ。そして愉快にも勘違いしちゃう哀れな生き物なの」
 その俺の言葉を皮切りに、猛獣に睨まれたような寒気がしたのは気のせいだろう。
「………ヒッキーも揺れるの」
「揺れない。むしろそういう罠にかかりすぎて察知してかわすレベル」
 由比ヶ浜、お前は気づいてないだろうが猛獣二人ににらまれてるぞ。
「まあ、つまりは───お前の食感も味もまあまあのそこまでうまくないクッキーでもいいんだよ」
「ヒッキー、マジ腹立つ!もう帰る!」
 勢いよく立ち上がり、キッ!と俺を睨むと鞄を持って出口へ向かった。
「由比ヶ浜さん、依頼の方はどうするの?」
「あれはもういいや!あとは自分でがんばってみる!ありがとね、雪ノ下さん、沖田さん。あと、ヒッキーも」
 そして、由比ヶ浜は嵐のように去っていった。片付けしてけよ。


 
 翌日。
「やっはろー!」
 何故来ている?あのアホの子は。
「あ、由比ヶ浜さん。にゃんぱすでーす」
 総司も適当な返事をしちゃってるよ。雪ノ下に至ってはため息を盛大に出してる。
「……何か?」
「あれ?あたしあまり歓迎されてない?雪ノ下さんあたしのこと嫌い?」
「そんなこと無いわ。ただ、少し苦手なだけよ」
「それ女子言葉で嫌いと同義語だからね!」
 そんな言葉覚えるなら普通の同義語覚えろよ。今回の定期試験古典の問題で数問出るって話だぞ。
 その後、百合百合な雰囲気を雪ノ下と由比ヶ浜が醸し出し始めたため、俺と総司はそそくさと退散することにした。
「ヒッキー!これ!」
 そう言って渡されたのは、何かの袋。
「一応昨日はお世話になったし、お礼!あと、おきたんにも」
「あ、私はおきたんなんですね」
 おきたんって、なんだよその関西弁みたいなあだ名は。
 中をみると禍々しいはーと型をしたクッキーだった。
 やはり、由比ヶ浜に料理をさせない方がいいな。努力云々だとか才能云々だとかそんなチャチなもんじゃ断じてねぇ。もっと恐ろしいものの片鱗を味わったぜ。






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 設定③

 雪ノ下雪乃

 ポジション:アタッカー

 トリガー構成
 メイン:槍弧月、旋空、シールド、FREE
 サブ :槍弧月、幻踊、グラスホッパー、バックワーム

 サイドエフェクト:なし


 今作のヒロイン。二人目の槍使い。中学時代に留学から帰ってきてからボーダーに入隊。B級に上がってすぐ、偶然目に入った八幡とランク戦をするもフルボッコにされる。何か感じるものが八幡にはあったらしく何やかんやがあって比企谷隊に入り、八幡と総司に徹底的に鍛えられる。トラウマになっている。姉との関係はとこぞのプレイボーイのおかげで改善されており、今や恋のライバル。 
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