ドリームノッカー国物語
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第一話。全てが酷かったので青空を見上げました
前書き
登場人物の主な女性達
城塞都市ロギオン
アイリス…城塞都市の姫君。趣味は義賊
ミレイユ…城塞都市の第一艦隊提督。趣味は戦闘
セシル…ミレイユの副官。趣味はメイド
クレア…城塞都市の第二艦隊提督。趣味は事務
ルイリー…城塞都市の補給基地指揮官。趣味は娼館経営の為に大変に嫌われる。
ランスロット・アラン…城塞都市の太りきった好色中年の文官長。汚職の事ばかりの嫌われ者。
ホーリーランス…城塞都市の頭の禿げあがった骸骨の税務長官。守銭奴+見かけからの嫌われ者。
アイファリス…城塞都市の自警団の女団長
知念千秋…流離のパイロット
ナイン…千秋の妹。天性のメカニック+ハッカー
神出アスカ…流離のハイウィザート。神出の相棒
御剣おんぷ…流離のハイプリースト。御剣の相棒
クーレア・フラソンワールト…流離の騎士見習い。
月影りりあん…流離の暗殺者
エメリー…流離の女魔術師
マチルダ…エメリーに仕える女騎士
エイミー…マチルダの副官
レイチェル…エメリーの弟子
白咲和葉…城塞都市の寂れた食堂兼宿屋の若女将
ラムダ…城塞都市に流れ着いた女魔術師。シグマの相方。
シグマ…城塞都市に流れ着いた珍しい男の冒険者。ラムダの相方。
マリア…城塞都市出身の女賞金稼ぎ。
イリット…マリアの亡き息子の妻。
登場人物の主に主人公達
ライ・ハルカ…城塞都市に現れた美貌の無職。
カスラ…城塞都市に現れた豪放磊落の無職。
カーラ…城塞都市に現れた最悪の女魔術師。
レナード…城塞都市に現れた最悪の男魔術師。
ロシェ…城塞都市に現れた最悪の女錬金術師。シエラの相棒。
シエラ…城塞都市に現れた最悪の女錬金術師。ロシェの相棒。
プラダ…城塞都市に現れたシエラ+ロシェのお守り。
レイラ…城塞都市に現れた最高峰の女魔術師。
その日。全てが変わったその日。
「ちわっす」
とある都市の城門の前に立つ若い男に声をかけた一人の人物。
「お、おう」
「仕事ない」
若い男は直ぐに交渉に入るかのように書類を見せた。
「これだ」
受け取った人物は、その書類を見て嘆く。
「な」
声を出す若い男に、その人物は言う。
「昼間からこんな場所で娼館の勧誘か」
若い男は面食らい、人物をまじまじと見る。
褐色の肌に、くびれのある腰である、かつ白い白髪の長髪、見かけは若い女性で、誰が贔屓目の反対側でも美貌の女性だ。スリーサイズは誰がどう見ても喜ぶが、その眼には怒り、受け取った書類を握り、若い男の目をじっと、歯をギリギリと怒らせて睨む。
「金になる訳がない」
若い男はうなだれる。若い人物の発言は、余りにも若い男の先を読んでいた。
「他の仕事は、お前のだ」
周りの他の娼館の男たちも声がない。見かけが若い女性は、娼館の事よりも声をかけた若い男の先を案じるかの声に響き、声をかけられ、書類を渡した若い男が口を開く。
「・・ない」
これに若い人物は書類を握りつぶす。
「ない?」
声にならない怒りの一声。
「お前。幾つだよ」
若い男は躊躇うが歳を言う。
「そんな都市でこんな小銭より酷い仕事か?」
周りの男たちも言葉がない。
若い男は何も言えず、周りの兵士も声がない。
「ゴミ以下の仕事がそんなに良いか?」
「仕事がないんだ」
若い男が絞り出すように声を出した。
他の男たちもうなだれて頷いた。
兵士達も視線を外した。
「OK。OK」
遠い国の言葉を話す若い人物が目をつぶる。
「ゴミ以下の仕事をこんな若者に与える酷い国だな」
周りが自然と視線を集めるかのように、怒り、義憤と言うべき怒りの雰囲気を纏う若い人物。
「OK」
若い人物が書類を返す。
「ちなみにだが、先程から観察させてもらったが、誰か通ったか?」
さらに声が消える。
水滴を荒波に一滴垂らすかのように意味のない問いかけに、若い男は疲れた顔で横に顔を動かした。
「OK。ゴミ以下の仕事をありがとう」
若い男は苦笑する。疲れ切った若い男の使うまでもなかった真新しい書類の束の入ったケースがぎりって音を立てるも、握られた。
「こんな仕事は捨てろ、他の職に変えなくては明日はお前がゴミになるぞ?若いだろ?」
若い男は何も言えず、ただへらへらと笑う。
「明日、もう一度来る。仕事を探してやるから替えろ」
若い男は目を大きく見開き、大きく頷いた。
他の男たちも声をかける。
「俺達は?」
声をかけた男たちに、若い人物は頷いていう。
「今日は休め、明日から忙しくなる」
若い人物の声に、男たちは直ぐに書類のケースを捨て、例えほんの僅かな奇跡にしがみついてでも、まともなと思う職の一つにつくことが可能なら、若い人物にはよくわかる。
若い人物が一人の若い兵士の前に歩き、若い人物は敬礼をする。
若い兵士は疲れた顔で返す手も動かせずに、ただ笑う。
「俺の国では、兵士になるにはすさまじい勉強と訓練を終えた者のみが、選ばれてなるエリートだ。貴男の国では末端にまで給与が支払われないのか」
若い兵士は何も言えず、何を言えば良いのかもわからず、頷くことも出来ず、曖昧に笑う。
「なるほど。兵にまでか、酷い国だ」
若い兵士は何も言えず笑う。
若い人物は、一歩下がってから敬礼を解いて去って行く。
若い兵士も、他の年かさの兵士も、一つの荒波が来たことを理解した。
彼女ともいえるような若い女性に見えても、国というものをしっかりと持っている強国の出身者、それ故に国のために生きる者を決して見捨てない、そんな兵士達に歌に現れるかのような荒波が現れた。
「嵐になるな。明日は来るのかな」
年かさの兵士がぼそりと呟くが、若い兵士はじっと去って行く若い人物を見続けた。
一つの都市の歴史が、一人の若い人物の一ページにより、嵐となって変えていく、一滴、されど一滴、と。
その日の夕飯、金を拾って集めた小銭、若い人物は数えて呟く。
「小銭にもならんな」
裏路地の一つのあばら家のような宿屋に入る。
中には一人の少女、獣の様な耳に尻尾、所謂の獣人と言うべき種族の女性だ。
銀髪、碧眼、狐の耳の様な、狐の尾の様な尻尾の少女に、テーブルに座って、若い人物はメニューを取る、随分と使い込まれたメニュー。隣は開いていた、そこに一人の若い女性が腰を掛ける。
「すまんな。金はない。メニューを見るだけだ」
若い人物の近くに小銭の音がする。
「なんだ」
若い人物が見向きもせずに言う。
「貴女変わっているわね」
声を出した若い女の方を見る、黒髪のサイドテール、褐色の肌に黒いトップス、唇には健康的な桜色より薄い白色に近い自然の白色、この辺りでは見かけない人種に見え、若い人物は有り金を見せた。
「小銭より酷いぞ?」
若い女は薄く笑う。その瞳には奪うというより、むしろ喜んでいた。
「出し合うなら、安い食べ物が食べれそうよ」
若い女の言葉に、若い人物も薄く笑い、有り金を置く。
若い女も有り金を置き、最安値の焼きそばには届く金額となる。
「女将さん、焼きそばを一つ」
暇そうな若い少女ともいえる女将に言うと、金を受け取る前に作り始めた。
これに二人は微かに驚き、じっと若い少女を見ていた。
直ぐに作られた焼きそば、ソースはないので、塩のみとなるとすまなそうに説明した少女に二人は頭を下げてから食べ始める。
「二人とも箸をお使いになるのですね」
二人に声をかけた少女の女将、二人も頷いて応じ、軽い焼きそばは直ぐに消えた。
「ライ・ハルカだ」
「カスラよ」
二人して名乗り、微かに若い人物が速く、カスラと名乗った若い女は嬉しそうに頷いて休み出した。
「女将テーブルを借りるぞ」
少女に言うと寝息を立て始める若い人物、ライ・ハルカと名乗った若い人物を、女将は微かに唇をほころばせながら、金を受け取った。
翌日の早朝。
「おはようカスラ」
声を出したライに、カスラもうっすらと目を開いた。
「今日は仕事があるはずだ。探しに行くぞ」
そういったライは席を立つ、カスラも後を追うかのように席を立った。
朝から静かな都市。
金のありそうな建物の中にライが入り、カスラも躊躇うが後を追う。
中には煙草、麻薬、女を売り買いする奴隷商人達がたむろ。
ライが一人の奴隷商人の前に立つ。
奴隷商人は苦笑し、腰元の剣に手を伸ばした。
「ゴミを貰えないか」
奴隷商人はますます苦笑し、近くのごみを拾い渡した。
「拾うのは大変であろう?これだけの館だ」
奴隷商人達はびくりと腰の剣を取ろうとするが、年配の奴隷商人が笑い、若い女性に見えるライに言う。
「大変だな。奴隷にさせる仕事としても」
「であろう。仕事人を紹介するぞ。年配の女性だ」
奴隷商人は考え、強く頷いた。
「カスラ。老婆を呼んできてくれ、急がずにな」
カスラも強く頷いて去る。
「奴隷の服は高かろう。安く作るぞ」
奴隷商人達は引きつるも、一人が頷いた。
「服の洗濯も大変であろう。仕事人を紹介するぞ?」
これに奴隷商人達は苦笑から驚きと変わり、ライをまじまじと見る。
白髪の、褐色の肌の、美貌の若い女だ。しかし、瞳には怒り、纏う空気は怒り、何に対して怒っているのかは分からずにいても、怒っている事は、見ればわかる。
「料理の洗い物、これも大変であろう」
奴隷商人達は茫然とライを見る。
若い女にありがちな暴力でもなく、相手が困っているのなら金次第で引き受ける、そんな臭いを醸し出す、商人の匂いがした。
「積み荷が入るまでも忙しかろう」
奴隷商人が笑い出し、剣から手を離した。
「商売をする気はあるか奴隷商人達」
奴隷商人達は顔を見合わせ、纏め役の若い女性が強く頷いた。
「話を聞きましょう」
その声の後に、ライが声を出した。
「ライ・ハルカだ。そちらの纏め役の名前は」
声からしても怒り、しかし、纏め役の女性も軽く頷いてから名乗る。
「エメリーです」
銀髪の若い女に、ライは強く頷き、敬礼をした。
その流れるようなしぐさに、近くの護衛が槍を向けようとするが、その護衛の副官が制す。
「マチルダ様!」
副官の叫びに、マチルダと呼ばれた槍の使い手の護衛が、苦笑し、槍を戻した。
「老婆が呼ばれている、皆来るであろう。よって仲介は成り立った。手数料を貰うぞ」
これに皆が苦笑するも、門には多くの老婆が来ていた、近くの奴隷商人が見届けて、纏め役のエメリーが金を払う。
「紹介料は一人幾らです」
「銅貨一枚だ。一人につきな」
これに、奴隷商人達が群がる。
金を受け取った後に、老婆に対する労働契約を行い、この娼館との契約と、追加料金の設定も終え、カスラと共に出る。
「城門に行くぞ。カスラ」
カスラも分かる、この若い女はキレる。
城門へと歩き、そこには男たちが集まっていた。
「仕事がある、町のゴミ一つを買い取ろう。一つに付き銅貨一枚だ」
男たちは急ぎ町に出る。
町のゴミをひたすら集めて持ってくる、それを集めてから、ライが数え、カスラが金が足りないという。
「足りなかったか、全員で分けるといい、有り金全部だ」
足りないが、確かに支払う物は支払いすっからかんだ。
「このゴミは貰うぞ」
男たちも文句はないので頷いて帰る。
膨大なごみを、城門の横の兵士達は黙ってみる。
「兵士達、私物が邪魔しているな、上司を呼んでくれ、交渉したい」
年かさの兵士が走る。
若い女が呼ばれてきた。
「ライ・ハルカ、こちらがカスラ」
「カスラよ」
「ルイリーよ。何この私物」
直ぐに名乗る女に、ライが説明し、ルイリーは呆れながらも酷薄に笑い、何度も話を聞いては肩を笑わせる。
「面白い事を言うわね、町のゴミを買い取ったが金が足りずに、城門に有ると」
「ルイリー様!」
年かさの兵士が声を出した。
「何?」
兵士が後ろを指差した。
ルイリーの後ろには、マチルダと副官がいた。
黒髪の流れるような若い槍の護衛のマチルダに、短い金髪の剣士の副官の組み合わせに、ルイリーは腰の剣を取ろうとする。
「エイミー様より話があるそうだ。連れて来いと」
ルイリーはマチルダの言葉に意味を悟り、前にいるライを睨むが、ライは怒りの目をしたまま睨み返した。
「交渉は終わっていない筈ではないのかルイリー殿」
これに兵士も言葉がない、ルイリーも困惑した。
「どうするのか決めてもらわねば」
ルイリーはカスラを見るも、カスラは苦笑し首を横に振る。
「ルイリー殿!」
昔に教官に怒鳴られたかのような昔の事を思い出し、ルイリーは苦笑し、もろ手を挙げた。
「降参します」
これにライが激高し掛けるが、周りもびくりとなりかけるも、カスラが背に手を回し落ち着かせ、ライが静かに敬礼をした。
ルイリーも苦笑し諸手より敬礼に変えた。
「では、一時的に兵を預からせてもらうぞ」
ルイリーも頷いたが、兵士達が困惑する。
「指揮権を預かるという訳ね、了解よ。じゃ」
ライが直ぐに兵を集め、直ぐに町の整備に動く、まずは城門の封鎖、直ぐに整備に必要な物資の計算、必要な予算の計上、それらを終えながらも、要らない物資を売却し、この資金で兵の給与を支払う、兵士達はこの巧さに思いっきり苦笑していた。
事務方の文官に書類を叩き付け、直ぐに兵士を預かっているのでと言い、文官たちの仕事を行わせ、文官たちも文句を言いながらも嵐の中と言って働き、まともな仕事が終わる昼間に、兵士達も久しぶりの食事に、町の人々にも笑顔が広がり、城門が封鎖されながらも暖かい一息と言えた。
そこに一人の文官が来る、太りきった中年の男だ。
「仕事の話がしたい、可能ならそう文官の下請けでもどうか」
「仲介料は銅貨一枚だ」
これに中年の文官は金貨一枚を支払うが、ライは受け取らずに黙っている。
周りの兵士がざわつき、文官たちも慌てだした。
「それはなんだ。俺は銅貨一枚と言わなかったか?」
凄みのある声に中年の文官は背筋を伸ばし、急いで銅貨を探すもない、ライは何も言わずに去る。文官たちも、兵士達も嵐の中には生きられないと愚痴を一つ漏らす。
「では」
兵士が一枚の銅貨を見せる。
「確かに銅貨一枚だ」
ライが見てから言う。
中年の文官は金貨一枚と交換し、銅貨一枚を出した。
「で、何の仲介だ」
「文官の下請けを探しております。大至急です」
これにライが受け取り、銅貨を調べる事もなく、使えそうな人物を一人紹介した。
娼館より呼ばれたエイミーが、仲介の話を聞いて、請け負う。
「そちらの方と話してくれ、銅貨一枚は確かに受け取ったぞ」
ライが去る。文官たちは直ぐに銅貨を探し出す、兎にも角にも銅貨がいる、それは金貨一枚と交換しても惜しくはない、何せ、紹介でエイリーが来るほどの人物の紹介だ。当然次は自分の紹介を仲介してもいい、変ではあるが、文官も出世に忙しいからだとも言えた。
あちらこちらから紹介を終え、銅貨を稼ぎ、和葉の食堂に来る。
「儲けた。食事を頼む」
有り金を置くライに、カスラも、和葉も驚く額だ。
「店にいる者すべての代金に不足はなかろう」
これに子供達も、浮浪者も、多くの者が今日の実りを感謝した。
和葉も嬉しそうに作り出し、足りなければ買い足し、子供に金を払う使う、炊き出しのように使い切り、カスラと共に焼きそばを分け合う。
「一日一食でも食べられるのなら問題はない、次は水だな」
二人で食べながら、ライのボソリと呟く一言に、カスラは今日の実はよいとしても、明日の水かと項垂れるも、少なくても明日の食事は保証されるらしく、カスラとしても文句はない。食べてからら休み、そこにルイリーが来る。
「はい」
片目のレンズの女指揮官が挨拶し、ライが敬礼をする、カスラもこの友人の動きは把握はするも、予想が出来ない嵐のような女友達と楽し気に苦笑していた。
「水、それを売るわ」
ルイリーの言葉に、ライがニヤリと笑う。
「買おう、代わりに塩を売ろう」
これにルイリーは面食らい、思わずに笑ってしまう。また諸手を上げて言う。
「降参よ。二度も全面降伏なんて」
また指揮権を受け取り、兵士達を使い、水を取る水道を作り始める、これには職人たちを使い、氷を生み出せる魔術師達を使い、凍らせてから氷を売り、これを使い食料を保存する冷蔵庫を作り、圧倒的な錬金術で、町を大忙しに変えてから、夜の前に近くの漁村に有り金を支払い、塩を買い占めてから、これを銅貨で販売した。
金貨1枚に対し、銀貨10枚、銀貨1枚に対し、銅貨10枚、銅貨一枚が塩の値段、これに裏付けられた町は活気づき、一気に仕事が増え、町が動き出した。
ゴミは軍が買取り、このごみを資源化し、リサイクル技術を、職人たちが生み出して活用し、城塞都市は息を吹き返した。
ライが城より去る前に、文官長に道は国なりと教え、それを常に整備せよと課す、これに文官長は強く賛同し、自らの私欲すらも上手く使うライに感謝した。
翌日の前に、ライの前に一人の女性が現れた、褐色の肌に桃色の髪をした若い女だが、白いロングマントに、蒼い縁、空色のサイドスカートをはき、黒のレザーパンツをはくが若い女だ。
「カーラと言う、貴女がライ&カスラ?」
周りの道行く人々が見る、また褐色の若い女だと唸る。
「面白いわね。貴女は面白い人よ。だからとあるギルドを紹介するわ」
これにライは財布を見る、この予想外の行動に、誰もが言葉がなく、カーラも目をしばたかせて言う前に、カスラも財布を見る。二人の妙な行動に、辺りの人々も財布をつい見てしまう。
「な、何?」
カーラと名乗った女性も驚く一連の行動に、ライが財布を反対にし、銅貨一枚も落ちない、カスラも財布を反対にしても落ちない。
「分かった紹介を受けよう」
周りの人々も驚く、あれ程に稼いでもう有り金がない、誰もがカスラを非難の目で睨む。
「カスラが酒に大金を支払い金がないのだ」
カスラが強く頷くも、ライは何処か疲れていた。カーラもと名乗った女性も絶句し、町に人々はカスラを睨む。
「え、ええ、えーと」
さすがにカーラと名乗った女性も困惑する、少なくても町一番のお金持ちのはずだった。
「酷い浪費家ね」
そういうのが限界であった。
さすがのカスラも冷や汗が流れる。
「良い友人だ。悪くは言わないでくれ」
この言葉を発するライに、カスラだけではなく、カーラすらも唇をほころばす。
紹介を受ける中、和葉の店の後ろにある一軒の建物、小さな店とも工房ともいえる、そんな建物の中に入り、ギルドの看板にはソーサラーギルトと有った。
中には二人の少女、一人のメガネの青年、メガネの女性の四人がいたはずだったが、一つの本が動き、カスラが見ればひとりの女性がいた。
「5名ね。カーラを入れて6名ね」
カスラの呟きで、ライも変なギルドと思わず一言を漏らす。
「プラダです」
本を書く少女の挨拶に、ライは首を傾げ、本人には大変に失礼であるが、周りとの服装についての格差と言うべきモノに、風変りな服装の女性なのか少女なのか困る本を書く少女に挨拶した。
「体操着のフリルとは変わっているな」
これに周りがびくりと動くも、プラダは気にせずに説明をする。
「国の恰好です」
これにライもビックリし、カスラも驚き、つい口に出す。
「「そのレオタードが?」」
これにプラダがびくりと動く、どうも本人はかなり気にしているらしい事だったらしい。
「いや失言だったカスラと共に詫びる」
「ゴメン」
そこに後ろから一人の男が声をかけた。
「ライ・ハルカ殿」
唯一の出入り口に立っている男に視線が集まる。
頭の禿げあがった骸骨のような体の中年だ。
「ホーリーランスと申します」
文官の様に慇懃な態度でいう。
「税務長官をしております。今一度、貴女を上司として雇いたい」
これにライが頷いた。
「請け負う。このギルドは後ほどな」
「私も行くわ」
ホーリーランスは頷き、城に歩き、もう一度現れる。
税務長官のイスに座り、全税務官に独り言を話す。
「税務官は手堅く出世だ。計算ミスは許されないが、わざと一日に二重のチェック、担当者は常に変わるチェック制度に変え、多ければ返し、少なければ徴収する。その為には軍も顎で使うのが税務官僚だ」
全員がこの発言にすくみ上る。警備の兵士がごくりと唾を飲む。
「いいか、一日二度のチェックは常に午前と午後だ。仕事で忙しくてな。分かったか」
全員が困惑する中、ライが続ける。
「国民が豊かならば、税収が上がる、当然のように計算すればわかるのが税務官僚だ。そこには功績はない、国民を金で肥やさせるのが税務官僚だ。ねらい目は中間層、一番の金払いの良い方々だ。どんな国民も中間層になればよいが、まあ偶には富有層も居るだろうそれはたまになら許そう、全体の収益の計算が合えば」
恐ろしい事を平然と言うライに、税務長官もすくみ上る。
「一番は国民には長生きしてもらい、当然のように税金を長く支払ってくれる良い国民ならば良い、支払わねば徴収だ。軍を動かしてでも奪え」
全員が青褪める。
カスラとしても言葉がない。
「計算は合う、どんな計算も合う、簡単だろう。」
乱暴を通り越し、これでは公務の強盗だと誰かが言う。
「国民には豊かになってもらい、それを支えるのが税務官僚だ。国民の為に常に豊かさを求めるのが税務官僚だ。貧しさなど買い占めろ。国民に昔は貧乏だった、そう誰にも言わせてこそ、税務官僚である」
税務官たちが鎮まる、警備の兵士もごくりと唾をまた飲む。
カスラもこの友人の破天荒なやり方には頭を抱える。
「当然のように功績は売却してもよいのが税務官僚だ。金の話だろ。要は実を取るのだよ」
税務官たちが強く頷いた。税務長官のホーリーランスも強く頷いた。警備の兵士はこの税務の警備で良かったと何かに感謝していた。
「最初に、子供には健康でいてほしいので、医者に見せよう、次に老人、長く税金は支払ってもらわねば、浮浪者達には仕事を教えよう、彼らもよき納税者になってくれよう」
戦慄する全員に、青褪めるのホーリーランスは国庫から有り金を取り出し、これを直ぐに公開し、有りの侭に伝え、国民を医者に見せる。
これには文官長も強く納得し、国民には豊かになってもらい、長生きしてもらえれば当然のようにより金を支払ってもらえるのなら喜んでと働いていた。
国民も複雑ながらも渋々に納得し、子供達も複雑ながらも受け入れる。
翌日までに仕事を行う筈が、官僚の夜は休みだと言って休むライに、翌朝、朝日が昇る前に仕事し、計算を終えてから乱雑に書類を集め、国民には豊かになってもらう計画を提供し、職業安定所を建設し、浮浪者達を集め、仕事を教える。
ライの政務は破天荒で型破りであるが、長期的な実利に動くために誰もが納得していた。
それが終われば獣の治療、疫病の研究、より国民を長生きしてもらい、より豊かになってもらい、この功績を売却し、税務官たちは肥えるという仕組みだ。
定時の前に仕事を終え、分け前を貰って、税務長官のイスより降りた。
少なくても結果のみを見れば、ライの税務の仕事は完璧以上の成果をたたき出していた。
「金になる話だな」
そういったライは青空を見上げる、まだ定時の為に夕方が遠い時間帯なのだ。
カスラもつられて空を見る、澄み切った青空が広がり、雲一つもない晴天で有ったが、直ぐに雲が現れる。
(ライとなら生きていけそう、大変だとしても楽しい)
カスラはふとそう思う、隣を見れば少女のように目を輝かせて空を見る友人がいた。
「ライ、よろしく」
これにライは虚を突かれてカスラを見る、にこりと微笑むカスラに、ライも微笑んで手を出し、これをカスラが握った。
「ライ・ハルカだ。よろしくな。カスラ」
再びの自己紹介を交えて二人は歩き出し始めた。
城塞都市ロギオンの嵐のような日々が過ぎ、ライ&カスラのコンビが、政務より夜の街に繰り出し、最初に訪れた服屋、それも高価そうな夜の店専用の服屋に現れる、嫌がるライを捕まえて現れたカスラが店に放り込み。
「金は払うわ」
豪放磊落のカスラと知られる剛の者だが、ライの服装だけが受け入れられずについに我慢の限界に達したらしく、店の女たちも直ぐにライに群がり、服を剥ぐと、沈黙が流れる。
「何?」
沈黙。
カスラも困惑する沈黙に、店の女たちが離れると、ライにはある物があった。
股間に男性の性器が付いている、これにはカスラも絶句。
店の女たちも困惑し、ライは初めて顔を俯かせ、カスラは言葉を失い、少ししてライは自分で服を選び、女物と言えるような格好に変え、下着も買い揃えた。
黒い裏地の白い長手袋に、白いハーフカップのブラウス、白いコルセットに、白いミニスカート、その下に赤に近い紫色のミニスカート、黒いガーターベルトのハイソックス、白いロングブーツ。
容姿が大変に良いライならではの服装趣味かも知れないが、店の者も一流と云える様な美貌の美女となる。哀しい顔で金を支払うライに、店の女たちも言葉がない。
「終わったぞカスラ」
言葉がないカスラはライを見る。
非常に映えながらも、それは永遠にどちらにも成れない、両性を持つ性別の第三とも言うべき人物であった。
「店に行こう。そこで話そう」
ライが震える手でカスラに手を出し、カスラは友人を傷つけてしまった事を激しく後悔し、歯がぎりっとなり、ライの震える手を握る。
「大丈夫よライ。私が責任を取るわ」
これに顔を俯かせていたライが顔を上げ、目には涙が浮かんでいたのが、カスラにもよくわかってしまう。確かにこんなライを受け入れる人は早々にいない。
強引に手を取って、強引に店に連れて行く、適当な夜の店に入り、人払いし、酒を飲みながら、カスラは友人の手を強く握る。ライが酒を軽く唇に着けてからポツリと言う。
「昔は男性だったんだ」
誰がどう見ても女性のライ、そんなライの秘密である両性具有、カスラも分かるような分からない様な、ライの言葉に嘘はない、こんな所でつまらない嘘を言うような器の小さい奴ではないからだ。
「この都市の近くで目覚めれば、俺は女になったと、でも股間にも男性の性器がついていた、気付いたよ。両性具有者になったのだと」
カスラには分からないライの過去に触れ、カスラは頬を伝う雫を拭う。
こんな辺境の都市に飛ばされ、しかも両性具有者にされ、容姿すらも恐らく弄られ、もう再会する人々にも気付いてもらえず、永遠に故郷に帰ることも出来ず、帰っても居場所はなく、受け入れる家族すらもおらずに、カスラと言う友人を得たその安堵の大きさは、安寧ともいえる様な平和、どんな酷い浪費家のカスラでも受け入れるのは、そんなライを受け入れる男性も、女性もいないからだ。
「俺は男だった。だから名前は捨てない」
ライとカスラをつなげる手を、ライが強く握る。
「それが俺の意地だ。」
カスラも打たれる様な声に、ライの魂に触れた感じがした。
カスラは言う。
「私は不老種だ。年老いん」
これにライが弾かれたような顔でカスラを見る。カスラは続けた。
「祖国で世界初の符を作り、不老種と化し、永遠に年老いない体になって、祖国を捨てた、ただのカスラになったわけだな」
カスラの言葉に、話に、ライは遠い世界を感じるも、カスラとの強い温盛が、ただ生を感じさせた。女性としての生、生命と言うべき強く命と。
「あのソーサラーギルドはそんな変な奴らの巣窟だ。どいつもこいつもろくでもない事をした、どう見てもお尋ね者の賞金首達だ。だが友よ。共に歩くのなら行かぬか」
カスラの迷いの言葉もない単刀直入に申し出ると、ライは強く直ぐに頷いた。
カスラは後悔もなく、笑いがこみ上げる、こんな辺境に来て、初めての友人が親友ともいえる者になった。
「人生は捨てた物ではないな」
カスラの言葉に、思う言葉に、ライは微かに笑って言う。
「その言葉はよいな、世の中捨てた物ではない筈だ。ライ・ハルカだ」
三度目の自己紹介に、カスラは言う。
「友人の名前だ。いや親友の名前だ。忘れる事も無し」
ライが言う。
「カスラ、お前は大切な友人だ。この友情は捨てないぞ」
ライが自らの杯をカスラの前に出し、カスラも自らの杯をライの前に出し交換して飲む。
人払いしても美貌のライは人目を引くも、ライの荒々しい性格は周知の事実であり、その怒りに関する感情の強さは、子供でも知っているほどの激情家だ。故に触らぬ神に祟りなしと言うべきものでもあった。
「今日の酒は美味いな」
変な話であるが、カスラは同性愛の趣味はないノーマルな女性だが、この元男性なら恋愛的にどうなのかはとても悩む。いつか誰かに相談しようと決心するも、誰に相談すればよいのかが分からない、そもそも相談が可能な話なのかも分からないからだ。
二人して酒を飲み始める一夜の話であった。
ページ上へ戻る