裏切り者に花束を
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裏切り者に花束を
前書き
ロックマンX3のオープニングにて唐突に登場し、あっという間に倒されていった
イレギュラーハンターマック。
そんな彼の背景を、勝手に想像してみました。
雨が降っている。
雨は嫌いだ。
物悲しくて、うるさくて、どこまでも気分を滅入らせる。
此処は、イレギュラーハンター本部。
人類に、世界に仇すレプリロイド――イレギュラーと呼ばれる存在を屠る為に結成された組織。
その本部基地。
「聞いたか? エックス隊長がゼロ隊長を救ったって話」
「シグマ元隊長を二度も倒したんだろう? 凄いよな」
すれ違うハンター達が話しているのは、第十七精鋭部隊隊長――蒼き英雄こと、エックスについてだ。
突如として反乱を起こした元第十七精鋭部隊隊長、シグマ。
その野望を二度にわたって打ち砕き、一番初めの大戦において大破した第十七精鋭部隊の特A級ハンターゼロを救いだしたとあっては、話題にならない方がおかしいだろう。
だが。
「……下らんな」
俺には、何の興味も関心も無かった。
別に他人の噂話をしていたところで、自分に実力が備わるわけではない。
そんな非建設的な事をしているくらいならば、トレーニングを積んでいた方がよほど自分のためになるというものだ。
受付で申請を済ませ、トレーニングルームへと足を踏み入れる。
一口にイレギュラーハンターと言っても、使用する武器はそれぞれ異なる。
バスターやセイバーを使う者、その他にも弓や斧、変わったところでは扇をなどを使う者もいる。
このトレーニングルームは、バスターを使う者を対象としたものだ。
視線の奥には的が一つ。
バスターによって的を破壊すれば新しい的がすぐさま出現し、ミスをするまでそれが繰り返されていくという、単純なシステムだ。
「…………」
深呼吸をする。
他の意識を消し飛ばし、ただ眼前の的だけを見据え――――。
撃つ。
撃つ。
撃つ。
バスターから放たれた閃光は、着実に的を消し飛ばしていく。
十、二十。
そんなものは入り口にもなりはしない。
三十、四十。
ここまでが準備運動。
五十、六十。
ここまではいつも通り。
七十、八十。
「…………」
頬を伝う汗の冷たさが、僅かに集中力を鈍らせる。
これも、いつも通りだ。
一度そこに気を取られてしまえば、後はもう下り坂になる。
九十。
いつも以上に成功はしている。
だが――――。
乾いた音が、バスターを弾き飛ばした。
集中力を欠いた事による威力の低下――破壊した的は、九十三。
「ちっ……」
舌打ちをしてトレーニングルームを出ようとした所で、青い体のレプリロイドが入ってきた。
「やあ、マック。君もトレーニングかい?」
「……ああ」
そのレプリロイド――エックスが笑顔を向ける。
特に話す気分でもなく、話す内容も無かったが、なんとなく。
俺はトレーニングルームから出ようとするその足を止め、エックスのトレーニングを見てみることにした。
「…………」
一言で言えば、圧倒的だった。
的を破壊した数は実に数千を超え、それでいて未だに集中力を欠いている気配もない。
あれだけ柔和な顔をしていた表情は、トレーニングを始めたその瞬間からまるで別物のように鋭い表情になっており、ただ的を破壊していっている。
格が違う。桁が違う。
これが、二度にわたり世界を救った英雄――ロックマンエックス。
音を立てないようにトレーニングルームを出て、割り当てられた自室へと戻った。
「…………」
あまりにもバカバカしくて、声を荒げる気にさえなれなかった。
「俺に、特別任務?」
イレギュラーハンター総司令官から下った指令は、ドッペルタウンの調査だった。
何でも、世界最高峰の頭脳を持つドップラー博士の作り上げたドッペルタウンが、近頃ほんの僅かだが不穏な空気が漂っているらしい。
シップを手配し、早急にドッペルタウンへと向かう。
ドッペルタウンは平和そのもので、特に異常は見当たらない。
「……ちっ、ガセネタか」
何もないならばそれでいい。
せっかくここまで来たのだ、少しくらい羽を伸ばしても罰は当たるまい。
そこへ。
「フッフッフ。網にかかったのはキサマか」
「歓迎しよう、ようこそドッペルタウンへ」
見た事も無い二体のレプリロイドが、立ちはだかった。
一体は、全身が金色の騎士のような出で立ちで、みずら結をしたようなレプリロイド。
もう一体は、金剛力士像のような風体の、見るからにパワータイプのレプリロイド。
「私の名はヴァジュリーラ」
「我が名はマンダレーラ」
それぞれが名乗りをあげて。
「博士の命令だ。キサマを捕獲する」
絶望が、襲い掛かってきた。
「はああああッ!!!」
マンダレーラが突進してくる。
大きく飛びあって回避したところへ、既に上空に待機していたのか――ヴァジュリーラが剣を構えて突進してきた。
「ぐっ……!!」
後ろへ飛ばされたところで、すぐさま背後に回り込んだヴァジュリーラが俺を地面へと叩き落とす。
そうして地面へ待機していたマンダレーラに思いっきり殴り飛ばされ、石造りの壁に叩き付けられた。
「かっ……は……」
まるで話にならない。
僅か数回の攻撃を喰らっただけで、もはや体が動かなくなっていた。
「これだけ弱らせれば十分だろう。行くぞ、マンダレーラ」
マンダレーラが俺を軽々と担ぎ上げる。
そうして、俺の意識は闇へと消えていった。
目を覚ました俺は、どことも分からぬ場所に拘束されていた。
「目を覚ましたかね? イレギュラーハンターマック君」
白髪の老人が口角を釣り上げる。
「貴様……どういうつもりだ。何を目論んでいる!?」
「私はあの方の意に従い、世界を滅ぼすのだ。その為には手駒が足りんのでなぁ。嘘の情報を流し、イレギュラーハンターを此処に派遣するように仕向けたのだよ。だが――」
白髪の老人――ドップラー博士が、一つのチップを見せつける。
「もはや君がそれを知ったところで何の意味も無い。今からこのチップを君に植え付ける。……そうして君は、私の手駒となるのだ」
「何だと……!? くそっ、ふざけるなっ!! こんな、こんなものっ……!!」
幾ら暴れても拘束は外れない。
そうしてあがく俺のヘッドパーツに、そのチップが侵入した。
雨は好きだ。
物悲しくて、陰鬱で、余計な物音を洗い流してくれる。
ドップラー博士がドッペルタウンで反乱を起こし、イレギュラーハンターに任務が下った。
恐らくは近いうちに、エックスかゼロ――そのうちのどちらかが来るだろう。
近くなる足音、バスターの騒音。
俺の前に現れたのは――エックスだった。
「君は、行方不明になっていたマックじゃないか」
躊躇なく、ドップラー博士によって改造されたバスターを打ち込む。
それは着弾と同時にエックスの体を完全に麻痺させ、その動きを封じ込めた。
「フッフッフ。エックスお前は甘いな。オレはもうイレギュラーハンターではなくドップラー軍団の一員だ。悪いがお前を捕獲する」
鹵獲専用のマシン――ハンガーターを呼び出して、エックスを転送する。
「クッ……クククッ!!!ハハハハハハ!!!!」
ハンガーターに捕らえられたエックスを眺めながら、狂ったように笑っていた。
おかしい。
おかしい。
おかしい。
おかしくて、堪らない。
二度も世界を救った英雄が――自分では到底届かない場所にいた存在が。
自分如きにあっけなく捕らえられ、無様な姿を晒しているその事実が。
何よりもおかしくてたまらない。
「何が英雄だ! 何が希望だ! 俺如きに捕らえられる甘ちゃんハンターが!!」
笑う。
笑う。
笑う。
どの道に自分には未来も、希望も無い。
ならばせめてこの一時だけは、ほんの僅か――勝利の余韻に浸っていたところで問題はない。
「……来たか」
眼前に立ちはだかるのは、セイバーを携えた真紅のレプリロイド。
特A級ハンター、ゼロ。
その鋭い相貌には何を映しているのか。
言葉を発さないままに、俺はバスターを撃つ。
「――――」
消えた。
文字通り眼前から、ゼロの姿が完全に消失する。
そして――。
気が付いた時には、俺の体は真っ二つに切り裂かれていた。
「あ……あ……?」
ぐしゃりと、床に叩き付けられる。
二人のレプリロイドは俺に気も留めず、足早に去っていた。
「…………」
思考にノイズが走る。
視界はひどく点滅し、ひたすらに耳障りな雑音が響いている。
「エ……ック……」
言葉にすらならない何かが、口の端からこぼれたような気がした。
それで最後。
俺の意識は、そのまま深い闇へと飲まれていった。
後書き
なんとか書き上がりました。
唐突に出てきて唐突に死んでいったイレギュラーハンターマック。
楽しんでいただけたら幸いです
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