普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
207 クリスマス・ダンスパーティー
前書き
この話が先週だったらちょうど良いタイミングだったんですが…。
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
〝三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)〟の第一の課題でドラゴンと対峙してから約一週間。それからと云うものの、取り立てて大きなイベントも無く、12月がやって来ていた。
しかし幾つかは小さなイベントはあった。……予てよりの習慣で、〝対抗試合〟が開催される年のクリスマスは、ダンスパーティーが開かれるのだと、マクゴナガル先生から通達された。
曲がりなりにも〝親善〟を掲げているこの〝三大魔法学校対抗試合(トライウィザード・トーナメント)〟である。当然、ダンスパーティーに誘える女子もホグワーツに限らない。
しかし、多数の生徒はダンスのステップなど踏めなかった。……然もありなん、今日日の魔法界で社交ダンスをたしなんでいるのなんて、マルフォイ家みたいな由緒(笑)ある家系くらいなものなのだから、そこら辺は致し方ないだろう。
……ともなれば、ホグワーツに泥を塗りたくないマクゴナガル先生が奮起したのも仕方の無いことでもあった。
「……ウィーズリーが女性のエスコートまで心得ているとは思いませんでした」
「どうも」
マクゴナガル先生の腰から手を離し、一礼。するとラベンダー・ブラウンを始めた女子勢から黄色い声が──フレッドとジョージなどの男子勢からからかう様な野次が飛んでくるが、どちらも丁重にスルー。
ちなみに俺はマクゴナガル先生が驚いていたように、〝多数〟にはカウントされていない。昔取った杵柄と云うのか、ハルケギニア時代に社交ダンスを身体に染み込ませた経験が、今に活きているのだ。
……ついでに、ダンスの練習相手になってくれたカリーヌ義母さんの足を間違えて踏んでしまった時の、常人なら浴びせるだけで殺せるのでなかろうかと云う視線の鋭さも。
閑話休題。
「今日はここまで。各自、恥をかかない程度には練習しておくこと、判りましたか? ……ああ、ウィーズリーとポッターは連絡があります。残りなさい」
一人で勝手にトラウマを掘り起こしていると、いつの間にかダンスのレッスンは終わっていて、〝さぁ戻ろう〟と云う時、俺とアニーはマクゴナガル先生に呼び止められる。
そして他の生徒が出払った頃、マクゴナガル先生は俺とアニーを呼び止めた理由を話し始めた。
「ウィーズリー、ポッター、貴方がた二人を呼び止めたのは他でもありません、クリスマスのダンスパーティーの件についてです」
(あー、確かそんな話だったな)
懐かしむ俺をよそにマクゴナガル先生の話は続く。
「ダンスパーティーでは〝対抗試合〟の代表選手が一番最初に踊る決まりになっていて、本来なら参加は自由なのですが、貴方がたの参加は強制されています。なので、貴方がたは必ずダンスパーティーのパートナーを見繕っておくこと」
確か、そう通達されるのはクリスマスのダンスパーティー直前だったと思ったが、よくよく考えればあり得ないことだった。……それは良いとして、珍しくマクゴナガル先生の瞳に茶目っ気と云うか揶揄が混じっている事に気づいた。
「……とは云っても、お二人からしたら要らぬ世話かもしれませんがね。……さぁ、次の授業にお行きなさい」
俺とアニーはマクゴナガル先生が冗談を言った事に、目を見合わせたのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
その日の夜、訓練で先に寝てしまったハーマイオニーとネビルだったが、俺とアニーは〝別荘〟の浜辺を歩いていた。
「………」
「………」
最初のうちは〝卵〟についてだったりと会話に事欠かなかったが、マクゴナガル先生のところから離れて以来、俺とアニーの間を、時折沈黙が支配する様になっていた。……理由は大体判っている。多分アニーもまた判っているだろう。
気まずいと云えば、確かに気まずい。だって、俺の予想が正しければこれから互いに口にするのは拒絶の言葉なのだから。
だが…
(……まぁこういう時は〝男〟からだろうな、普通)
去年度から大概いつも一緒にいる四人の中の俺とアニー、もう二人のうちの少女の事を思い出して、意を決しその場で止まる。アニーも俺が立ち止まった位置から数歩進んだところで止まり、身体ごとこちらを向く。
「アニー」
「判ってるよ」
「そうか」
「うん」
アニーは、まるで俺から〝そう〟口にされるのを待っていたかの様で、俺が全てを口にする前に即答する。この時点で俺がハーマイオニーと──アニーがネビルとダンスパーティーに向かう事が決まった。
……まだ、アニーには〝記憶〟を渡してないが、どっちにしろ想い想われてもう十年弱。余計な言葉は要らないのである。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
瞬く間にクリスマスがやって来た。ダンスパーティーは20時から開催されるので、気合いの入った女子生徒なんかは三時間近くも前からドレスアップに勤しんでいる。
アニーは軽いメイクだけで良かったと判断したのか1時間半かそこらで談話室に降りて来たが、〝意外〟と云ったらハーマイオニーに失礼かもしれないが──ハーマイオニーは〝気合いの入った女子生徒〟にカテゴライズされていた。
……ちなみに俺の格好は、もはや〝嫌がらせで渡されたのでは〟と云う──件のローブではなく、“赤龍皇帝の道化の外套(ブーステッド・ディバイディング・ツインギア・クラウンコート)”みたいにところどころに龍の意匠が散りばめられているローブとなっている。
流石に元のままで行くアレだったので〝別荘〟で特訓の合間に仕立て直させてもらったのだ。
(やっと来たか)
アニーやネビルと歓談したり、フレッドとジョージなどからの服に関しての賛辞を適当に受けたりしていると、女子の寮からハーマイオニーの気配が降りてくるのが判る。
そしてハーマイオニーが姿を現した。
「素敵…」
「ハーマイオニー、なの…?」
「うわぁ、似合ってるよハーマイオニー!」
「うん、綺麗だよ、ハーマイオニー」
ハーマイオニーが登場した同時に、談話室に居たパーバティ、ラベンダー、ネビル、アニーがハーマイオニーに惜しみ無い称賛を送る。確かにハーマイオニーは見違えるほど綺麗にはなったが、俺はハーマイオニーの〝変化〟にも驚いていた。
「ハーマイオニー、まるで俺の好みに誂えたみたいだ」
「ありがとう、ロン」
はにかむハーマイオニーは可愛らしかったが、〝変化〟に言及しておく。
「……それに、少々言い辛いんだが、その──歯がいくらか小さくなってないか?」
「ええ。アニーに〝縮小呪文〟を掛けてもらったの。……ほら──私達って一番最初に踊る事になっているでしょう?」
「なるほど」
何にしろトップバッターと云うものは目立つ。納得だ。しかしハーマイオニーまだそわそわ、ちらちらと俺を見ていて、ふとハーマイオニーの〝歯〟について、触れはすれど、まだ何も言ってなかったのを思い出した。
「まぁ、その──前よりハーマイオニーに似合ってるんじゃないか」
「あ、ありがとう…」
(……慣れないもんだな…)
内心で溜め息。実質的な年齢は300を優に超えているのだろうが、未だに〝娘〟や〝妹〟などの庇護下に置いている女性を除けば、浮いた言葉を掛けるのは得意ではない。
……つまり、俺にとってハーマイオニーは〝庇護下に置いていない女性〟と云う事になる。
「………」
「………」
どことなく青臭いこの雰囲気は、アニーが咳払いするまで続くのだった。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
ハーマイオニー狙いらしいクラムの嫉妬の視線をセドリックを盾にしたりといろいろあったが、おおよそ恙無くハーマイオニーをリード出来、それからようやっと人心地を着けた。
そして酒精やらを冷ます為にハーマイオニーとそこらを歩いていると、かなり気まずい場面に出てしまった。……具体的にはハグリッドとマダム・マクシームの逢瀬の場面。
(どうバックレたものか…。……あれ? 〝あいつ〟は?)
気まずくて仕方ない状況を、どの様に切り抜けるべきかと思考を回していると、〝ここに居るはずの人物〟の姿が見えない事に気付く。
――“人現れよ(ホメムナ・リベリオ)”
(……“透明マント”や〝目くらまし呪文〟じゃないらしいな、少なくとも)
“透明マント”や〝目くらまし呪文〟で〝ここに居るはずの人物〟──リータ・スキータが隠れていると思い、炙り出して嫌味4つ5つを浴びせてやろうと〝探査呪文〟呪文を使ってはみるものの、うんともすんとも言わない。
……これまでの経験から、汎用版の“透明マント”は、〝探査呪文〟を弾けない事は確かなので、今のリータ・スキータは“透明マント”や〝目くらまし呪文〟以外の方法で姿を潜めているという事になる。
「どうしたの、ロン?」
「ちょっくら〝ハエ退治〟でもしようかと思ったんだが…」
「……〝あれ〟がここに居るの?」
「まぁな。……さっきの〝探査呪文〟でも尻尾は出さなかったがな…」
ハーマイオニーがいきなり杖を抜いた俺に〝何事か〟と訊いてきて、俺の暗喩に眉を顰める。……当然、と云うのか、ハーマイオニーもリータ・スキータを蛇蝎が如しと嫌っている。
(ふむ…。……ん…?)
そんなハーマイオニーから目を逸らし、リータ・スキータが居るはずの箇所を注視していると、一匹のコガネムシを見つけた。
今日はクリスマス──冬なのにだ。 大して詳しくないが、コガネムシは暖かい時期に活動する昆虫なはず。
……今、この場所にそぐわない存在が、ハグリッドとマダム・マクシームの逢瀬と云う〝如何にも〟な場面。そしてここ居る、その〝如何にも〟を好みそうな存在(リータ・スキータ)。もう後は連想ゲームの要領で言葉のパズルを完成させていけは良いだけだ。
「……ハエじゃなくてコガネムシだったわけだ──“石になれ(ペトリフィカス・トタルス)”」
リータ・スキータは未登録〝動物もどき(アニメーガス)〟である事が確定したその次の瞬間には俺の〝全身金縛り呪文〟がコガネムシ(リータ・スキータ)を貫いていた。
こうして──期せずしてだが、俺はリータ・スキータの弱味を握る事に成功したのだった。
SIDE END
後書き
皆さんよいお年を。
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