普通だった少年の憑依&転移転生物語
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【ハリー・ポッター】編
198 決勝の後に
SIDE ロナルド・ランスロー・ウィーズリー
ブルガリア対アイルランドの試合はアイルランドがブルガリアを下すと云う形で幕が降りた。最終的なスコアは〝170対160〟だった。
……アイルランドの選手がブルガリア選手よりも何倍も強かったので、クラムがスニッチを捕まえて終わらせたと云う内容だ。……おおよそ下馬評通りの試合内容だったと云える。
スニッチを取ったとしても敗北が確定している状況下でスニッチを取ったクラムを誰もが讃えた。あれ以上試合を続けていたとしてもアイルランドのチェイサーが更に得点を重ねるのが判っていての英断だったのだから…。
(……まるで量産機とワンオフ機の違いを見せられた様な試合内容だったよな)
〝この後〟何が起こるのかを識っている俺は気を張ったまま、いつでも動けるようにしつつそんな事を考えながら先の試合の熱を冷まさずに余韻に浸る。
俺自身も今日の試合の熱に年甲斐も無く充てられていて、無性にクィディッチがしたくなっていた。
(……〝今年度〟は無理だから──まぁ、〝来年度〟に期待だな)
父さん、ビル、チャーリー、パーシー、バグマンさん、クラウチ氏が会話の端々に浮かべていた言葉からすると、今年【ホグワーツ魔法魔術学校】で盛大な〝催しモノ〟が開かれるのは容易に想像出来る。
恐らくはその〝催しモノ〟で今年のクィディッチは全てナシになるだろう。
……ちなみに俺は、ウッドのポジションを継いでキーパーとなる予定だ。既に新しいキャプテンとなったアンジェリーナとも顔合わせは済んでいる。
閑話休題。
〝来年度〟の事を考えていると、失念していた事を思い出す。
(……て待てよ? 〝来年〟って事は──げっ、〝アレ〟が来るのかよ…)
鬼に笑われるかもしれないが、今からでも憂鬱になる。さっきまで試合の余韻に浸れていたと云うのに、今ではちっともクィディッチへの熱情が沸かなかった。
……そして、そんな俺の悪感情が呼び水となった──と考えたら傲岸不遜が過ぎているかもしれないがアイルランドを応援していたサポーターの間に未だ燻っていた熱に怪事をつける連中が現れる。
(……っ、来たか…っ)
最初は小さな裂帛だった。そしてその叫び声は連鎖していき──あっという間にて1つの音の爆弾となった。
さすがに今も眠りこけているフレッドとジョージを起こそうとしたその時、寝室の扉を勢いよく開かれる。扉を開けたのは父さんだった。
「父さん、何があった?」
「ロン──は起きていたようだね。でも話は後だ。……フレッド、ジョージ! 緊急事態だ!」
「……んあー…? 親父…?」
「ったく…。どうしたんだよ…」
血相を変えた父さん。何事かと訊いてみるも取り合ってくれず、フレッドとジョージに声を掛ける。幸いにして直ぐに起きるフレッドとジョージ。
「三人とも上着を羽織って──速く」
フレッドとジョージも父さんの血相から某かを感じたのか、父さんの指示通りにパジャマの上からだが上着を羽織る。当然俺もだ。……そして父さんに促されるままテントの外に出てみれば、そこには〝阿鼻叫喚〟と云う言葉一番当てはまりそうな惨状が広がっていた。
そんな状況下だ。俺は少しでも情報を集めようと、すかさず気配を探る。するとキャンプ場の方向から何十と云う気配が一つの塊となってやってくるのが判る。……中には、皆まで言うまいが──〝知っている気配〟も混じっている。
父さんはアニー達を起こしに行ってそれをフレッドとジョージと待っていると、ふと視界の端で重力に逆らって空に上昇していくいくつかの物体を目にする。
「……ちっ…」
その物体はよく見れば人間なのが判り──更によくよく見れば知っている人物なのが判った。ロバーツさんだった。空中に魔法で浮かばされているロバーツさんを見て思わず舌打ちをする。
……ロバーツさんは家族連れだったようで、ロバーツさんの妻と思しき女性が魔法使い集団の一人の魔法により空中ひっくりかえされ、女性は〝めくり下がった〟スカートをおさえる。その様子を見て爆笑する魔法使い集団。……どう見ても悪趣味だとしか云えない。
フレッドとジョージも俺と同様の気持ちなのか、顔をしかめている。
辺りはテントが燃やされたりしていて、その火で漸く下手人共の顏を確認出来た。……とは云っても皆髑髏の仮面を着けていて、個人個人の顔は判らなかったが…。
もう一度仮面の魔法使いの集団の悪趣味な行いに対して悪態を吐こうとしたその時、父さんがアニー達女子組を連れながら合流してくる。
「私は魔法省に加勢する。……お前たちは森の方へ逃げるんだ──判ったね? 良いかい、必ず固まって行動するんだ。バラバラになるなよ」
父さんそう言い残して、既に成人しているビルとチャーリー、パーシーを連れ立って仮面の軍団へと杖を構えながら向かっていった。
「いこう」
「ああ」
フレッドとジョージはジニーの手を引き──〝よく知った気配〟がある森の方へと向かう。三人にはアニー、ハーマイオニーの順で続き、殿は暗黙の了解で俺が務めた。
他にも森へ逃げる避難者も沢山居たので先方のフレッド、ジョージとはぐれない様にしながら付いていくこと幾ばくか。俺達一行は森の中に足を踏み入れることに成功する。
フレッドとジョージを先導に、少しでもキャンプ場から離れようと森の奥へ進んでいく。すると、ほどなくして〝よく知った気配〟がある場所に行き当たる。
……偶然か必然か、ここはロバーツさん一家の惨状が見える位置である。気配の主はきっとここら辺からロバーツさん一家の──マグルの醜態を観察していたのだろう。
(こいつもまた悪趣味だよな…)
あまりの幼稚さに舌を巻きたくなる。……しかし〝時に金なり〟と云う様に現状では〝そいつ〟にかまけている時間なんて無い。木の陰に隠れているのが丸判りな〝そいつ〟の脇を通り過ぎようとして…
――「“木よ動け(モビリアーブス)”」
小声だったが、〝そいつ〟が隠れている木の近くを通ろうとした時、木の陰からそう呪文が呟かれたのを俺ははっきりと聞いた。……俺の足元の木の幹が不自然に──〝まるで俺の足を引っ掻けようと〟動いたのを辛うじて確認出来た。
……ここで木の幹に足を引っ掻ければ〝そいつ〟はきっと〝まぁ、そのデカ足じゃ無理だろうね〟とでも宣いながら、鬼の首を獲ったかごとく顔を見せるだろう。
しかし…
(……まぁ、無意味かつ無駄な努力なんですけどねー)
「よっ」
どうって事は無く普通に飛び越えてやる。すると、「ちっ」と木の陰から舌打ちが聞こえたが無視。或いはシカト。またはスルー。
そんなこんなで〝よく知った〟気配の近くを6人で通りすぎ、更に森の奥へと向かう。……向かおうとしたその時、横がけから声を掛けられる。
……〝フランス語〟で。
――「〝待って!〟」
咄嗟に俺達は止まる。俺は〝待って!〟と言われたからで、他の5人は聞きなれない言語で話しかけられたからだと推測。……俺達を止めたのは巻き毛が特徴的な少女で、その少女は一人ぼっちだった。
(……大方、保護者とはぐれたのか…)
「〝貴方達、私と同い年くらいよね? 私、マクシーム先生とはぐれてしまったの。マクシーム先生、どこか知らない?〟」
(〝マクシーム先生〟──って事は〝ボーバトン〟の生徒か。……仕方ない、か…)
「〝……付いてこい。もっと人の居る場所に行こう〟」
世の中には200以上もの〝言語〟を使える人物も居るので、別に俺がフランス語を話せてもおかしくはないと──俺もまた少女へと〝フランス語〟で話しかける。
「〝貴方、祖国の言葉を話せるの? もしかしてボーバトンの生徒?〟」
「〝いや、俺達はホグワーツ生だ〟」
少女は驚く。そして5人もまた驚いていて、その驚愕を代弁するかの様にハーマイオニーが訊いてきた。
「ロン、フランス語(?)を話せたの?」
「〝習ってて良かった、スピーラーニング〟ってな」
「ぶふっ!?」
諧謔を混ぜながフランス語を話せる理由について語ってやれば、アニーが吹き出す。スピードーニングについて聞き覚えのなかったらしい4人──名も知らない少女を含めると5人はアニーを胡乱な目付きで見る。
……俺の諧謔により吹き出させられたアニーはじとり、とした目付きで俺を睨めつけるが、〝精神修養がなっとらん〟とばかりにスルーする。……それに、フランス語は実際にスードラーニングで習得したのだから仕方ない。
少女を加えて7人となった俺達一行は更に森の奥へと足を進める。幾分か道なりに進んでいるとハーマイオニーが「待って」と皆を制止させる。〝その存在〟に気付いたのだ。
――「駄目です! あたしは〝ここからお動きになります〟!」
「あれ──ウィンキーよね…?」
「だろうな」
「……でも様子が変だわ」
ハーマイオニーが言った様に、ウィンキーは変だった。……もちろん敬語もそうだが──それに以上におかしかったのはウィンキーの挙動だ。……〝客観的に見たら〟形容はしづらく──ウィンキーは、〝まるで誰かに掴まれていて、その誰かに抗っているよう〟だった。
「あのクラウチさんって人、ウィンキーを虐待しているのよ──っ!」
「……行こう」
ハーマイオニーはクラウチ氏に対して憤慨しているようだったが状況が状況だ。森の外からの轟音で現状を理解したのか、アニーの言葉に従う。
……その瞳の奥に〝何か〟を決意した様な光を秘めながら…。
SIDE END
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