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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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最終章
1節―超常決戦―
  誰の記憶にも止まらない物語

「――おはようございます、皆さん」

 2日。
 たったそれだけの、本当に一瞬の憩いを与えられたソウヤ達。
 それぞれがこの短い間に、語ることは語り伝えたいことは伝え、やりたいことをやりきった。

 3日目、故に今日が始まる。
 会議室に集まるのは、これから世界を救う英雄たち。

 『均等破壊(バランスブレイカー)』ソウヤ。
 『雷神の申し子(イクスゼウス・イニルガ)』エレン。
 『音速之奏者(クェスト・アーマメト)』ルリ。
 『幻実魔導使(シュレオ・リローレン)』レーヌ。
 『狂い纏う鬼炎(エングラファイ・ドルガ)』ナミル。
 『光輝なる流星(ラフォッツ・チャルター)』エミア。
 『叡智之魔王(ロールス・キング)』ルビ。
 『異界之戦士(トリップ・ソール)』ミハル。

 7柱の神に愛され、力を譲渡された7人の“申し子”達。
 幾度の苦難に立ち向かい、神さえ殺す力を持ったソウヤ。
 この世界でその名を知らぬ者は居らず、神や天使でさえ脅威と見なす英雄だ。

 その面子を前に、ライトは臆することなく言葉を発する。

「2日間という短い間でしたが、少しでも英気を養えたのなら…この休暇にも意味があったのだと思えて頂けたのなら幸いです」

 エレンは“どんな逆境でも立ち上がる民がいる”ことを教えてくれた。
 深春には“送れなかった青春”を味わらせてくれた。
 エミアは“人や自然の美しさ”を再確認させてくれた。
 ルリは自分を“癒し”て、“甘え”させてくれた。
 ナミルには“人と競い合う楽しさ”を知らしめてくれた。
 ルビに“強くなる人の意志”を感じさせてくれた。
 レーヌは“自身の道は間違っていない”のだと背中を押してくれた。

 ―あぁ、感謝してばっかだな。

 短く、それでも何よりも大切な時間をくれた仲間達に、ソウヤはもう一度内心で感謝を贈る。

「準備は整いました。世界神(ウィレスクラ)は今日の明朝、神界へと通じる穴を開けたことを確認」

 現在の状況を説明していくライトは「ただ…」と言葉を濁らせた。
 思ったより芳しくないのだろうか、と弱気になりかけたソウヤは拳を握りしめることで気合いを入れ直す。

「神界への穴…“神門”と呼称させていただきますが、“神門”の前に約5万もの天使の軍勢を確認しました」
「――――」

 天使の軍勢5万、それに現世界神(ウィレスクラ)側の神。
 対するこちら側の戦力はソウヤを含め8人のみだ。
 最低5万対8人、どう足掻いても絶望しうる数字だろう。

 けれど――

「なんだ、それだけか」

 ――それで止まるのであれば、もとより“英雄”にはなっていない。

 ソウヤが発した言葉に、仲間達は頬を緩める。
 最も重い役割を背負っている彼がそう言うのだ、自分達もそれに続かず何とするのか。

「安心しろ、ライト。俺は…いや、俺“達”はそんな程度じゃやられない」

 これは世界神にとっての遊戯。
 全力で潰そうと思えば幾らでもソウヤ達は潰されるだろう。
 だがこれは遊戯だ、つまりこの5万の軍勢はいわゆる前座と考えるのが妥当だ。

 不敵な笑みを浮かべるソウヤに、ライトはため息をつくと両肩を上げて「参ったよ」と笑う。

「そうだね、君たちに常識は通用しなかったみたいだ」
「当たり前だろ」

 だって、何度も魔族を壊滅してきたのだから。
 だって、これまで天使を倒してきたのだから。
 だって、これから神をも倒しに行くのだから。

 そんなのが“常識に当てはまるはずがない”。

「俺はバランスブレイカー、世界の規則(ルール)を破壊する者だ」

 初めは妖精の中では偉業を成し遂げたから、名付けられた。
 次に妖精では到底成しえないことを行ったから恐れられた。
 そして人間になって、この世界のルールから解き放たれた。

 最後に行うのは、神の常識を覆すこと。
 こんな馬鹿げたことは中々ありえないだろう。
 だからぶち壊しに行くのだ、「大丈夫だろう」と上から目線の“世界神の常識”を。

 故に彼は名乗るのだ。
誇張でもなく、無謀でもなく、奮い立つわけでもない。
本当に彼が『常識を破壊する者(バランスブレイカー)』だから、そう名乗る。

「安心しろ、全部まとめて俺達が片付けてきてやる」

 ソウヤが『常識を破壊する者』ならば、彼と戦いを共にした仲間達もまた『常識を破壊する者』だ。
 妖精ならざる力を持ち、勇者を圧倒した天使でさえ打ち倒す。

 だから安心しろと、負けるはずがないとソウヤはライトに笑う。

「――あぁ、安心したよ。ソウヤ」

 ライトは心の底から彼の英雄っぽさに笑うと、城門前に集合する時刻を告げ一旦に解散したのだった。




「これから、君たちは世界を救いに行く。そうだろ?」

 解散しエレン達がそれぞれ最後の準備に戻った後、会議室にはソウヤとライトのみが残っていた。

 表情が暗いライトから発せられる問いに、ソウヤは至極真面目な顔で「あぁ」と答える。

「それが“俺が後悔しない道”だ」
「――――」

 溜まりに溜まったストレス、それと対面し乗り越えたソウヤを突き動かすのは“後悔したくない”という想い。
 “後悔したくない”から戦い続ける。
 “後悔したくない”から世界を救う。

 それは、常識人であるライトにとってとても――

「――歪だね、ソウヤ」

 元より人は後悔する生き物だ。
 “後で悔いる”という手段で人は常に過去を反省し、それを常に前へと進む力としている。
 だから、まず“後悔したくない”なんていうのは“人として間違っている”。

 それは幼い子供が持つ夢と同意だろう。
 幼い子供が“正義の味方”に憧れるように、今のソウヤは“後悔しない”という未来に憧れた。
 きっとその先に待つのは為し得なかった現実のみ。

 幼い子供が成長し、倫理観を学ぶ段階で“正義の味方などありえない”と知るように、ソウヤの想いもいつかは潰える。
 そして、その瞬間がこの戦いで起こる可能性が最も高い。
 “世界神に敗北する”という事実によって、ソウヤの“後悔したくない”という想いが潰れるのだ。

 故に、ライトは歪だとソウヤに今言う。
 これが“現実を事前に知る”最後のチャンスなのだから。

「昔さ、俺は1つの話が大嫌いだった」
「――――?」

 唐突に語られるのは、ソウヤが“蒼也”であった昔の話だ。

 幼い蒼也は1つの本に出会う。
 その本は展開が非常に王道で、当時幼かった蒼也にとって憧れるような内容だった。
 けれど、その本は“幸せな終わり(ハッピーエンド)”ではなかったのである。

 ヒロインが生きる人全ての業を背負い死に、主人公も黒幕との勝負に差し違え死んでしまう。
 酷い終わり方を見て、ソウヤは当時とても怒った。
 中々あそこまで怒るのも珍しいと思えるレベルの大激怒だったらしい。

「…だから俺は、その時から“ご都合主義”の話が好きになった」

 死にかけた主人公が運よく覚醒するとか、その場面で新しい仲間が出来るとか。
 最初から主人公がとても強いから、仲間が誰も死ななくて済むっていう話とか。
 敵であったキャラが主人公を気に入って仲間になって、助けてくれる展開とか。

 ご都合主義は面白くない?
 ハッピーエンドはつまらない?
 もう少し残酷にしてくれ?
 王道はもう飽きた?

 王道結構、ご都合主義万歳、仲間が死ななない話最高。
 だって、最終的には“みんな幸せな終わり(ハッピーエンド)”だ。

「俺は今を“良い”と思う」
「…どうして?仲間じゃなくても誰かは死んだ。君だって何度も代償を払って力を得てきた。何よりこの世界は“残酷”だ」

 確かに、この世界は人が死にすぎた。
 確かに、自分は欲しくも無い力の代償を払ってきた。
 確かに、現実は思っていた以上に残酷だった。

 ――けど、まだ遅くない。

「俺は救うよ、“全部”を」
「――――」

 終わり良ければ全てよし。

 死ななくても良かった人を、この世界に出来た無数の傷を、人々を護る為に自らの身を捧げようとする仲間を。
 ソウヤは全てを救う気なのだ。

「……俺も、準備してくるよ」
「――ソウヤ、最後に1ついいかい?」

 立ち去ろうとしたソウヤに、ライトは最後に問う。

「“誰も、君がしたことだって理解してない”のに、救うのか?」

 ソウヤが世界神を倒したところで、この世界の人々はとっくに世界が救われたのだと思っている。
 故にその努力が、その戦いが報われることはない。
 人とは報酬を得るために努力する…そんな生物であり、ソウヤ達が為そうとしているのはその真逆だ。

 けれどソウヤはその問いに対して、鼻で笑って見せた。

「だって、世界を救わなきゃ“俺が後悔する”だろう?」

 そう言い残して、ソウヤは今度こそ扉を開け会議室から姿を消す。

 その後ろ姿を見送って、1人会議室に残ったライトはため息をつく。
 ソウヤの言っていることは、確かに筋は通っている。
 “後悔したくない”という基本理念から動いているのも、ライトには理解できた。

 それでも納得できないこともある。

 だって彼は“欲しくも無い力の代償”を払ってきたと、そう言った。
 なら、それが意味することは――

「ソウヤ、君は“欲しい力の代償”は快く受け取るのかい…?」




 こうして最期の戦いが幕を上げる。
 “世界神”と“人”の、決して在り得るはずも無かった戦い。
 神話をも覆す、そんな超常の戦いだ。

 神が望むのは“ただ遊ぶこと(遊戯)”。
 人が望むのは“幸せな終わり(ハッピーエンド)”。

 これは誰の記憶にも止まることのない、世界を救う反逆の物語である。 
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