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グランドソード~巨剣使いの青年~

作者:清弥
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第4章
3節―刹那の憩い―
  競い合うということ

 
前書き
※ここまでが小説家になろう様にて、投稿させてもらっている部分です。
 次話は明日の0時に予約しております。 

 
 次の日、朝起きたソウヤの目に映ったのは何でもない部屋だった。
 昨日の夜にルリの願いによって耳掻きを受けていたことまで覚えていたのだが、それからの記憶が全くない。

 ―…ルリ、はいないか。

 かなり耳掻きが気持ちよかったため、多分寝てしまったのだろうとソウヤは検討付ける。
 しっかりベッドで寝かせてくれたルリに、ソウヤは後でお礼言っとかないとな…と思いながらベッドから出た。

 そうして、2日目…最期の休暇はスタートする。

 いつも通り朝食を摂り使用人に言われた場所へ、朝っぱらで町にも人が少ない時間帯でそんな時に指名したのは誰なのかと思いながらソウヤは向かう。
 とはいっても、殆ど向かう場所で誰かは分かっていたのだが。

「――よう、ソウヤ」
「やっぱりお前か、ナミル」

 そこまで待っていたのは、ソウヤの想像通りナミルだった。
 向かった先は兵士の訓練場、ルビもレーヌもそんなところを選ぶタイプではないことをソウヤは知っている。

 やりたいことも、ナミルの服装を見ればすぐに理解できるものだった。
 訓練用の大剣と軽鎧を装備し、準備万全といった風で待ち構えているのだからわかりやすい。

「とりあえず、お前のやりたいことはわかったな」
「あぁ、でももう少し待ってくれ」

 ナミルは、今すぐにでも始めようと訓練用の装備を取りに行こうとしたソウヤを引き留める。
 その意図が分からず、ソウヤは首をかしげた。

「…ごめ、ん。遅れ……た」
「ルリ…?」
「おう。すまないな、こんな朝早くに呼びつけちまって」

 ソウヤの背中から声があげられ、聞き知った声にソウヤは振り向く。
 そこに居たのはルビだった。

「なんでルビも呼んだんだ?」
「あぁ、簡単なことさ」

 ナミルがルビに視線を合わせ、「頼むぜ」と一言。
 それに頷いたルビはナミルとソウヤの間に立つと、魔力を込めてスキルを放った。
 スキルが発動した瞬間、自身の体が一気に重たくなるのをソウヤは感じる。

 ―“すべて拒否する力(人間)”で突破できなくもないが…あぁ、なるほど。

「…お前のしたいことがやっと理解できた」

 ルビが放ったのは結界術(エルデル)の空間バージョンだ。
 粘膜同士を重ねることで行う強力な封印を、簡略化しその範囲を拡大化したのだろう。
 その分、この封印を解くのは簡単になっているが今は関係ないのだ。

「俺と、身体能力、装備を諸々全て均等にした上で勝負したいのか」
「あぁ、当たりだ」

 そう言ってナミルは獰猛な笑みを見せる。
 確かにステータス、スキル、装備の差がないのなら勝負する者の技術のみで図ることが出来るだろう。
 ソウヤは確かめる意味も持って、ステータスを表示する。

 ―ステータスは全部、平均的な冒険者レベルにまで落ちている。スキルは戦士固定、サブスキルも剣術以外は使用不能…か。

 というか、ここまで細かく封印指定が出来るとは聞いていなかったとソウヤは苦笑を浮かべた。
 だがそちらの方が好都合でやりやすい。

「じゃあやろう、俺もお前とこういう勝負がしたかった」
「考えることは同じって奴だな…!」

 そうして、ソウヤとナミルの平均実力での勝負が決定した。




「ん、両者…構え」
「――――」
「――――」

 ナミルとソウヤの対決。
 その言葉に惹かれる者は多く、観戦者は多かった。
 特に実力を平均冒険者と同レベルにまで落とした状態だから、周りに被害が出ないので余計に…である。

 ナミルが持つのは身の丈ほどもある大剣。
 ソウヤが持つのは使い勝手が良い片手剣。
 互いに自身が最も得意とする武器を持って、今勝負は始まろうとしていた。

「始めッ…!」

 誰もが目を疑う。
 自分たちが今見ているのは、本当に身体能力を平均冒険者レベルまで落とした上での戦いなのか…と。

 周りの人々の中で、ソウヤとナミルの動きを追えた者は殆どいなかった。
 それほどまでにソウヤとナミルの動きは人外染みていたのである。

「ふッ…!」
「ッ…!」

 息を吐きながら、あるいは息を鋭く吸いながら2人は剣戟を交える。

 ソウヤが放つのは右からの薙ぎ払い。
 本来、そこまで威力を出せるはずもない片手剣は、誰も聞いたことが無いような甲高い音で空を裂きナミルへ向かう。
 それに反応したナミルは自ら持つ大剣の“グリップ”で薙ぎ払いを受け止めると、握る右手を逆手持ちにして捻ることでソウヤに刃を振るった。

 攻撃を止め、攻撃する手順をほぼ同時に行われたソウヤは、咄嗟に片手剣を持つ手を離し体の半軸をずらして避けた。
 目の前を通り抜けようとする大剣を尻目に、そのままソウヤは体を回転させながら裏手をナミルの頭の後ろに向けて放つ。

 それを何故かは知らないが感知したナミル。
 すぐさましゃがむことでその裏手を回避し、そのまま逆手で“片手”持ちの大剣を勢いのまま後ろにいるソウヤに突こうとした。

 勢いそのまま、ソウヤは流れるように裏手を放った方の逆の手でナミルの頭を掴むと、それを使ってナミルの上を飛び越す。
 落下しかけている片手剣もその時にしっかりキャッチして、ソウヤは一旦ナミルから離れた。

「――ふぅ」
「――はぁ」

 同時に溜め息をついたソウヤとナミルは、下ろした刃をもう一度構えるが…動かない。

「楽しいな、ソウヤ」
「…あぁ、戦いを楽しいと思ったのは……久しぶりだ」

 ソウヤにとって、戦いとは命の奪い合いである。
 常に戦いが終われば誰かの命は失われ、それを糧に自分は生き残ってきた。
 だからこそ戦う中に“楽しい”という感情は浮かんでこない、背負うものが“呪い”であり背負うことが“宿命”なのだから。

 けれど、今は違う。
 刹那気を抜けば、負けてしまう…そんな状況であるというのにソウヤは楽しかった。
 きっとそれはこの戦いが命の奪い合いではなく“勝負”だから、“力の競い合い”だったから。

 ソウヤとナミル、両者が少し頬を緩めて笑った瞬間――

「らぁッ…!」
「はぁッ…!」

 ――剣戟は再開される。

 これは命の奪い合いではなく、ただの遊戯だ。
 これはソウヤとナミルの、真剣な競い合いだ。
 故に両者は笑い、両者は真面目に剣撃を放ちあう。

 三振りするごとにその集中は増す。
 二振りするごとにその速度は増す。
 一振りするごとにその正確は増す。

 それは最早、ただの人外レベルの戦いになっていた。
 誰にも視線を追うことはできない、誰にもこの戦いの詳細を理解できない。

 だがそれでいい。
 この勝負は決して観客の為ではない。
 この戦いは2人の為だけに行われる。

「――――」
「――――」

 集中度が増す。
 速度が上がる。
 極小の穴に糸を通すような、正確な剣捌きが起こる。

 手、腕、脚、足、胴、頭、目、耳…使えるモノは全て使い切り、ただ一撃を相手に入れることに専念。
 その手で攻撃を、その腕で逸らし、その脚で動き、その足で止まり、その胴で向きを変え、その頭で考え、その目で騙し、その耳で把握する。

 一が十に、十が百に、百が千に。
 少しずつ軌跡は増え少しずつ音が遠くなり――

「…俺の、勝ちだ」
「…あぁ、俺の負けだ」

 ――永遠かと思われる戦いはその幕を下ろす。

 手に持つ片手剣をナミルの首筋へ宛がうのはソウヤ。
 手に持っていたはずの大剣を地面に突き刺されたのはナミル。
 勝敗は、ソウヤの勝ちだった。

 静寂が空間を占める。
 見ていた観客は着いていけず、ただ唐突に終わる戦いに呆然とするしかない。

「ん、勝者…ソウ、ヤ」

 ようやく、ルビがそう宣告することで観客たちは状況を把握し始める。
 勝ったのはソウヤで、負けたのはナミルなのだ…と。

「う、うおおおおおおおお!」
「すげええええ!」

 身体能力は並の冒険者。
 けれどその体で起こされた戦いは、あまりにも人外染みて観客は「すごい」としか言う言葉が見つからない。

 それでも勝った者には祝福を、負けた者には応援をするのが礼儀だ。
 観客は、せめてそれだけでも守りたいのかソウヤとナミルを全力の声で歓声を上げて見せる。

 大量の拍手、大量の歓声の中でソウヤは剣を下ろすと、ナミルに向けて手を差し伸べた。

「ありがとうナミル、お前のおかげで戦いを久しぶりに楽しめた」
「あぁ、こちらこそありがとな、ソウヤ。…まだまだお前は遠いって理解して、鈍ってた根性叩き直せた」

 硬い握手を結ぶ2人。
 その握手に合わせて、収まりかけていた歓声や拍手がまた大きくなり出す。

 ――しばらく、その嵐のような音は消え去ることは無かった。 
 

 
後書き
――本来、”競い合うということ”は楽しむことである。 
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