グランドソード~巨剣使いの青年~
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第4章
1節―変わった世界―
”申し子”と封印する者
今、この世界の現状を一言で言うならば“災厄”だろう。
別世界―ソウヤからしてみれば元の世界―から異邦人がこの世界へと出現。
それと同時期に発生した『軍勢の期』。
3年という期間発生し続ける『軍勢の期』を何とか凌ぎ、異邦人たちと共に魔王を倒したところまでは良かった。
疲弊しながら、多くの犠牲を出しながらもその勝利は多くの人に希望を与え――
――また、異邦人はこれで帰れると安堵する。
安堵、歓喜、希望。
それらに満たされる人々を嘲笑うかのように、“ソレ”は唐突に現れた。
「おめでとう諸君。ゲームクリアだ、素晴らしいよ」
異様なほど現れた“ソレ”は美しく、醜い。
その造形は、何世紀に一人の天才が生涯をかけて作ったように美しい。
その笑みは、生きる全ての生物に灯る闇を表しているかのように醜い。
美しさと醜さが両立しているアンバランスさに目にした人々は困惑し、行動を行うことが出来ないでいた。
「そう、ゲームはクリアだ。存外に楽しめたよ、だから…ここでENDだ」
そう言って、その男は姿を消す。
まるでこれで自分の言いたいことが終わったかのように。
――そして、“災厄”が始まる。
唐突に降りかかる巨光を放つ一筋。
それはとある人には“流星”に、とある人には世界を裂く“斬撃”にも見えた。
光。
まるで太陽を近くで発生させたかのように、巨大な光は地面に墜ちると共に発行する。
圧倒的な光量、熱量に周辺にいた人々は跡形もなく消し飛んだ。
一瞬で、この世界の地図は塗り替えられる。
6つある大陸全てに巨大な穴が数か所、空いたのだ。
そうして始まるのは、天使たちの拷問と一方的な虐殺。
強力な強さを持つはずの異邦人がいとも簡単に殺された。
魔王を打倒した『勇者』である人物は、天使に立ち向かい何とか打倒するも深い傷を負ってしまう。
そして、最強であると謳われた『均等破壊』のソウヤはいつの間にか姿を消していた。
希望が次々に絶たれ、人々は嘆く。
「この世界には、希望などなかったのだ」
天使の虐殺が一気に加速しようとしたその時、その運命に逆らおうと立ち上がる姿があった。
その者達は、剣を、杖を、弓を掲げこう言う。
顔を上げろ、諦めるな、立ち上がれ――
――戦えと。
迫りくる天使たちに対抗するべく、その姿を現したのは5人の女性。
『雷神の申し子』エレン。
『音速の奏者』ルリ。
『幻実魔導使』レーヌ。
『狂い纏う鬼炎』ナミル。
『光輝なる流星』エミア。
異邦人ではなく、この世界の住民でありながら“鎖”を優に超す力を持っていた彼女らは、天使を撃退していく。
それが、今の現状の全てだった。
「――と、なるのです。ご質問はありますか?」
「あぁ、結構な」
ソウヤはそう言って笑うと、エミアはどうぞと言わんばかりにニッコリ笑う。
この様子からエミアは説明が少し苦手なのだろう、とソウヤは察した。
自分から話すより、質問を答えていくほうが説明ベタには非常にありがたいものである。
「まず、今は天使が出現してからどれくらい経っている?」
「3ヶ月になるのです」
3ヶ月。
存外長くもあり、短くもある。
だが、天使が無抵抗の人々をもし虐殺していくだけなら2ヶ月も保たないはずだ。
「エレンやエミアが天使に対抗しだしたのは?」
「えっと…2ヶ月、半前だと思うのです」
細かく期間を言う理由はなんだろうか、とソウヤは思う。
だが、それは聞くよりも早くエミアが答えてくれた。
「天使が来てからの最初の半月は『勇者』様も抗えず、当然“まだ”その時力を得ていなかった私はどちらかというと逃げる法を選んでいたのです」
何もしなかった、そういうのは軽薄だろう。
逆に一人でも多く生き残らせようと足掻く姿が、ソウヤの目に聡明に映った。
「ですが、逃げるのにも限度があり追い込まれようとしていた時、ギルティア様が表れたのです」
「ギルティアが…?」
神聖森の守護者として動くギルティアに、そんなことが出来るのだろうかとソウヤは頭を捻る。
「ギルティア様は迫る天使を一掃した後、私を見てこう言いました」
抗うのなら、『試練』を行え。
なにに抗うというのか。
どうやって現れたのか。
『試練』とは何なのか。
それは、ギルティアが言うまでもなくエミアは理解した。
「そうして、私は『試練』を受け“森神の偽力”を手にして、今までこの首都を守り抜いてきたのです」
エレンさんやレーヌさんも同じように『試練』を受け今、天使と対抗しているのです。
そう締めくくったエミアは、テーブルに置いてある紅茶を一口優雅に飲み込む。
言い切った風な雰囲気を出されても正直ソウヤにはわからないことだらけだ。
『試練』。
“森神の偽力”。
まずこの単語が何かわからない。
「エミア、『試練』って何だ?何に対して、何を行うために、どんな方法で、どんな力を得たのかはっきり言ってくれ」
「――――?」
エミアはしばらくソウヤの質問の意味を理解できないように首を傾げ、しばらくしてから何かに思い至ったように手を叩く。
「異世界人であるソウヤさんは知らないのですね、“勇者伝説”を」
「“勇者伝説”?」
聞きなれぬ言葉が重なり、ソウヤは更に頭を悩ませてしまう。
それを見たエミアは言い聞かせるように言葉を並べ始めた。
わたしたちにでた、くろいかいぶつ。
とてもこわい、かいぶつ。
こわさにふるえていたひとびとは、かみにいのりました。
「どうか、たすけてください」と。
そのいのりはかみにつうじ、ひとりのせいねんがあらわれました。
『ゆうしゃ』です。
かがやくつるぎをかかげ、かれはかいぶつにたちむかいました。
しかし
かいぶつはつよく、ゆうしゃも、くせんしてしまいます。
「ゆうしゃさま、どうかわたしたちのちからを、おつかいください」
そこであらわれたのは、
かみの『しれん』にうちかった“もうしご”たちでした。
かのじょたちと、ゆうしゃはちからをあわせ、
くろいかいぶつをふういんしました。
こうして、せかいにへいおんがおとずれたのです。
「めでたしめでたし」
「――――」
“勇者伝説”。
それは童話なのはかわりないだろう。
――ただ、それが事実な点を除いて。
「つまり、黒い怪物は魔王ってことか?」
「はい、そうなるのです」
そして、それに対抗するのは『勇者』と『申し子』達。
激闘の果て、彼らは魔王を封印することに成功した。
ならば、この『試練』に打ち勝った『申し子』というのはつまり――
「――エミアたちのこと、か」
「はい。先ほどの話通り、魔王を封印するため『試練』に選ばれた彼女たちはそれに打ち勝ち、“神の偽力”を手にしたのです」
“神の偽力”。
その名の通り、疑似的な神の力…と思えばいいのだろう。
『試練』とはそれを授かるための行動、と考えるのが妥当だ。
「つまり、話の流れからすると」
ソウヤはそこまで言いかけるとエミアに視線を向ける。
彼女はそれに気付くと、小さく頷いた。
「私を含め、エレンさん達は『試練』を受けた上で打ち勝ち、『申し子』となったのです」
それを聞いたソウヤは、ギルティアの言葉を思い出す。
―エレンやルリ達は必ず封印する者となるじゃろう―
―こういう、意味だったのか。
『試練』に打ち勝つ。
それはきっと、生半可なことでは成し遂げられないことだ。
だが、それに打ち勝ったエレン達には天使と並べられる力を…“神の偽力”を備えている。
そんな存在ほど、封印する者に適した人物はいない。
「クソッ…!」
ギルティアの言っていた言葉の意味、それを理解できたソウヤは苛立ちを抑えられなかった。
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