魔法少女リリカルなのは ~最強のお人好しと黒き羽~
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第二十九話 黒鐘を知る日
小伊坂 黒鐘の経歴に関して、既に多くの情報が出ている。
だがそれは様々な人物から出ているため、バラバラな情報になっているため、管理局が集めた情報や黒鐘本人の記憶と照らし合わせて話す。
小伊坂 黒鐘。
新暦55年の4月15日、第14管理内世界『プリエスタ・トゥ・ノルト』の東国/プライマヴェーラで生まれた。
父母と五つ年が上の姉が一人の四人で暮らしていた。
両親は元管理局職員だったが、黒鐘の姉/小伊坂 海嶺を出産したこと期に母は退職して家庭に身を置き、父も最前線からは退き、事務職に就くことで家族との時間を優先した。
黒鐘の両親は特別な教育を施さず、子供達には自由な日々を過ごさせていたが、生活の中で海嶺がその才能を開花させた。
海嶺は一歳二ヶ月で言語の発声に成功し、二歳になる頃には魔法術式の理解に成功するほどの高い知能を有していた。
三歳になる頃には魔法の発動に成功し、そこから海嶺はデバイスのメカニズムについて解析することに熱中し、四歳になる頃には自作のデバイスを何個も設計した。
彼女が作り上げたデバイスは、幼児が作るおもちゃの規模には収まらず、実戦運用可能レベルのクオリティの性能を出すことが可能で、当時の管理局研究者が海嶺の才能を高く買っていた。
海嶺がなぜそこまで高い知能を有しているのか、研究職員はその好奇心から海嶺本人の身体を研究対象として見るようなる。
海嶺自身、自分の持つ才能が今後誰かの役に立てばと思い、研究の対象にされることを受け入れようとしていたが、ある出来事を期に変わることとなる。
――――小伊坂 黒鐘が産まれたのだ。
弟が産まれ、自分は姉になった。
自分にできた、自分より小さな家族の存在は、海嶺の心を一変させた。
今まで、誰かの役に立つためにデバイスを作り、魔法を研究していた海嶺は、弟の黒鐘の面倒を見ているうちに『弟のための魔法』を研究するようになったのだ。
誰かのためじゃない。
たった一人の弟のために、魔法とデバイスを研究する。
そうして海嶺は姉として黒鐘を支えつつ、将来の彼を支えるためのデバイスを作り続けた。
デバイス作りは難航し、黒鐘が現在使用する『天黒羽』が生まれるまでにいくつものデバイスが制作された。
天黒羽の姉妹機であるレイジング・ハートもその時に作られたものであり、当初は黒鐘が使うためのデバイスとして作られ、しかしその性能と黒鐘の相性を比べた結果として彼の手に渡ることはなかった。
黒鐘に託すためのデバイスは、黒鐘が物心がついて四歳を迎えた時に渡された。
――――ここから視点は黒鐘側に変わる。
小伊坂 黒鐘は海嶺と違って天才として生まれることはなく、どこにでもいる普通の男の子として生まれた。
両親が面倒を見る時間よりも、姉の海嶺と過ごす時間が多く、日常生活のほとんどを海嶺の側で過ごした。
その影響か、海嶺も黒鐘もお互いに対してとても甘い性格になってしまい、子供らしいイタズラややんちゃなことも二人で一緒にしてしまい、怒られる時ですら一緒だった。
二人は、二人で一つの存在なんだと思えるほど一緒にいて、互いを愛し合っていた。
変化は四歳と半年を迎えた頃に、黒鐘が見せたあることがきっかけだった。
それは何気ない、子供の無邪気で何となくの行為だっただろう。
ある日、両親共に家を空けており、海嶺と黒鐘の二人で留守番をしていたときのこと。
夕飯まで時間があったが、お腹を空かせた海嶺を見た黒鐘は、四歳にも関わらず一人で調理を始めたのだ。
もちろんそれを海嶺は止めたし、包丁や火を使う作業だから危険だと警告もした。
しかし黒鐘は海嶺の警告を無視して調理を始め、そして完成させた。
料理を少しでもやったことがあれば誰でも作れるカレーライスだったが、それを作り上げた黒鐘に海嶺は大層驚いたらしい。
それもそうだ。
黒鐘はその時まで料理はおろか、包丁を握ったこともない素人だったのだ。
調理器具の使い方、火の使い方、材料の種類や切り方、お米の研ぎ方や炊き方。
大人からすれば単純なことで、子供からしたら複雑で危険なそれを、彼は当たり前のように、慣れたようにこなしてみせたのだから海嶺は驚きを隠せなかっただろう。
お皿に盛って食べて見ると、母ほどは劣っていたが、食べるには十分な味付けに仕上がっていた。
驚愕の中、海嶺はなぜ作れたのか聞いたところ、黒鐘は、
「お姉ちゃんが大好きだから!」
と無邪気に答えるが、それはもちろん理由になってないので(だけど嬉しすぎて照れた)再度聞く。
「カレーなんて作ったことないでしょ?」
聞きたかったことを問うと、再び彼は当たり前のように、そして無邪気に答えた。
「お母さんが作ってるところ見てたらわかるよ?」
「――――っ!?」
その回答によって海嶺は、黒鐘が持つ才能に気づくことになり、そしてそれをもとにデバイス――――現在のアマネが作られることになった。
見ただけでそれを再現できる力――――模倣――――こそ、小伊坂 黒鐘が持つ才能だったのだ。
それから黒鐘は多くのことを経験し、模倣していくことで成長していった。
その中から黒鐘が興味を示したのは、父と同じ魔導師としての道だった。
魔法を使うこと、魔法を用いて戦うこと。
黒鐘はそれに興味を示してから戦い方を父、魔法の使い方を海嶺から模倣するようになる。
母からは家事を模倣することで、一人でも生活できる技術を身につけたが、模倣だけでは完璧にならない料理だけは完璧にはならなかった。
しかし魔導師としての吸収力は目を張る物があり、将来有望な黒鐘の姿を見た父は、ある道場へ黒鐘を預けることにした。
それが逢沢 雪鳴と逢沢 柚那の実家がある第54管理内世界『クレアスペアーレ』・中央国/ドゥーブリズだった。
ドゥーブリズでの日々は逢沢姉妹の話しの通り、逢沢姉妹の父であり、道場の師範を務めていた逢沢 剣征に剣術を教わっていた。
逢沢姉妹が知らないこととして――――その時には海嶺が完成させたデバイス/天黒羽(姉と同じアマネと呼ばれる)を受け取っており、しかしまだ思うように扱えなかったため、剣術を学びつつアマネを使いこなせるようになろうと言う父の思惑があった。
黒鐘が開花させた『模倣』と言う能力は、細かく言えば相手の動作でどの筋肉や神経が、どの程度の力加減やバランスで動いているのかを目で見て理解し、自らの身体で再現する能力。
逆に言えば、黒鐘の身体で再現できない動きは、理解できても再現できないと言う弱点があったことを黒鐘は剣征のもとで知る。
弱点克服のために努力しつつ、剣征の娘である雪鳴と柚那の二人との交流を深めていったことは、逢沢姉妹の話しからも分かることである。
彼の戦闘スタイルの基礎はこの道場で培ったものであることは、本人も語っていた。
それから半年が経過し、黒鐘は実家に帰省し、久しぶりの家族との時間を過ごす。
――――その日の夜、小伊坂 黒鐘の人生を一変させる事件が起こった。
黒鐘の両親が魔導師の襲撃を受けて死亡。
海嶺と黒鐘が意識不明の状態で発見された。
事件の詳細について、管理局が得た情報は極めて少ない。
犯人の数や目的、海嶺や黒鐘が意識不明で発見され、黒鐘だけが意識を取り戻せた理由など、様々なことが不明。
唯一、意識を取り戻した黒鐘すら、当時の記憶が曖昧で事件直後の出来事を何一つ覚えていなかった。
医師からの話では、事件のことをショックが強すぎたあまり、本能的に思い出さないようにしようと記憶を封じ込めている可能性があるらしく、事件は現在も謎の多く残したまま捜査が続いている。
真実は一つも明らかにならず、家族を一夜にして失った黒鐘は、両親の親戚関係にあったリンディ・ハラオウンのもとで過ごすことになった。
新たな家族との生活は、しかしリンディとクロノ共に忙しい身であったため、家族として一緒に過ごす時間というのは少なかった。
家族というよりは、お友達の家にお泊りしている程度の気分で、自分の部屋を用意してもらってもどこか落ち着かなかった。
居場所がない。
そう思って、喪失感から抜け出せなかった黒鐘は、両親のお墓参りに行ったとき、ある人と出会った。
一人の女の子だった。
黒鐘と同い年くらいの女の子は、黒鐘の両親の訃報を聞いてお墓参りに来てくれたのだという。
どういう関係かと黒鐘が問うと、少女は懐かしむようにこう話したそうだ。
「わたくしがお母様のお腹にいた、産まれる前のことなのですが、魔法犯罪者に人質に取られてしまった時、あなたのお父様に助けていただいたとお聞きしたものですから」
それは黒鐘が知らない、父の物語。
管理局で優秀な魔導師として活躍していた父が助けた人の娘。
彼女の存在は、黒鐘にとって衝撃的なことで、同時にあることに気づかされることだった。
――――誰かの為に生きた人は、色んな人から想ってもらえる。
そして、そんな想いは語り継がれて、本人が亡くなっても生き続けるのだと知った。
「お母様の分も込めて、感謝いたします。 本当に、ありがとうございました」
深々と頭を下げる彼女を見て、黒鐘の中に小さな決意が生まれた。
自分は生きてる。
それは家族の犠牲の上にあるものなのか、それとも誰かの想いなのか、それは分からない。
だけど、自分にできることがあって、それをしないのは、亡くなった家族が喜ばないことだ。
目の前にいる少女も、命の恩人が亡くなって悲しくなっても、前を向いて生きている。
ならば自分は?
両親の死、眠り姫となった姉。
事件のこと、生き残った自分。
まだ、分からないことが沢山ある。
明らかにしないといけないはずだ。
自分のために。
そして、誰もが納得するために。
――――両親の死を。
小伊坂 黒鐘は後、管理局の嘱託魔導師として、様々な事件に関わっていくことになる。
全ては自分の身に起きた事件の真相を知るため。
犯人を見つけるために、彼は魔導師としての道を進みだした。
*****
「――――つぅのが坊主の身に起こったことだ」
「そう、だったんですか……」
言葉に詰まったのは、お話しの重さからなのか、ずっと黙っていたせいなのか分からない。
だけど、私達のいるこの空間は、言葉にならないような重苦しさが立ち込めていて、頭がぼぉっとして浮遊感を覚える。
それはまるで、ここが現実じゃないんじゃないかって思うような、そんな感じ。
病室に響く電子機器の機械音だけが、ここが現実だと思い知らせてくれる。
「黒鐘がご両親を亡くしているのは聞いてた。 ……けど、改めて詳しく聞くと」
「辛いか?」
雪鳴さんの言葉を先回りしたケイジさんの問いに、雪鳴さんは首を左右に振って答えた。
「聞けて嬉しかった。 黒鐘のこと、もっと知ることができたから」
「ほぉ……。 坊主の知られたくない、坊主の思い出したくないことでもか?」
「だからこそ、知って良かった」
そういって雪鳴さんは、眠っている小伊坂君の顔を見て、優しく微笑んだ。
「黒鐘を独りにしないで済むから」
そうだ。
私も、同じことを思った。
小伊坂君は、独りでずっと抱えてた。
恵まれてない、何もかもが足りてない。
なのに誰にも何も求めなくて、求めるものは自力で。
独りで抱えるのは強さかもしれないけど、独りになるのってやっぱり寂しいことだと思う。
でも、私達は小伊坂君の抱えているものを知った。
彼の抱える『核』を理解した。
なら、もう他人じゃない。
小伊坂君が抱えているものを、支えてあげられる。
……ううん、支えたい。
「ケイジさん」
「なんだ?」
「私達、ジュエルシードの捜査に参加できる許可を、リンディさんからもらったんです」
「……ほ、ほぉ。 そ、それで?」
……なんで急に動揺したんだろう?
――――そもそも小伊坂君とケイジさんが戦ったのが、ジュエルシード捜査の参加権をかけたものにも関わらず、別サイドで許可をもらってたから、この戦いって実は無駄だったんじゃ……っていう動揺だということに気づいたのは、小伊坂君が目覚めたあとの話しだった。
「小伊坂君が目覚めたら、また無茶をしちゃうと思うんです。 だから、早く見つけたいんです」
「……で?」
「……お願います。 手伝ってください!」
私は立ち上がって、深々と頭を下げた。
ワガママを言ってるのは分かってる。
だけど、小伊坂君のことを考えると、ジュエルシードは早く見つけないといけない。
そのためには、一人でも多くの協力が必要だと思う。
私は命令ができるほど偉くないから、こうして頭を下げることしかできない。
「……あのよ」
「は、はい」
「俺がいつ、手伝わないって言った?」
「へ?」
呆れ混じりの言葉に、私は顔を上げてケイジさんの顔を見ると、やっぱり呆れた表情で後頭部を掻いていた。
そしてため息混じりに、私と、雪鳴さんと柚那ちゃんを見た。
「可愛いお嬢ちゃんが頭を下げてんだ。 ここで断っちゃ、男じゃねぇわな」
「……ありがとうございます!」
「……ったく、坊主も隅に置けねぇな」
こうして私は、私たちは、ジュエルシード捜索に本格的に関わることになった。
小伊坂君の負担を減らすために頑張ろうと、改めて決意したのだった。
後書き
読んでいただきありがとうございました、IKAです。
さて、久しぶりの後書きなのですが、何をお話したいかといいますと――――。
――――すみませんでした。
謝りたいことは多々あります。
ストーリーが進んでないこととか、戦闘が少ないとかなのですが、何より今回謝罪したいのが。
お気づきでしょうか?
病室でのお話が始まってから、とあるキャラが登場していないことに。
――――ユーノ・スクライア、死す。
いや死んでませんけどね!? 完全に忘れてた、書き忘れてたんですけどね!?
原作キャラを薄くしないようにしようと思っていたのですが、うまくいかないですね……。
ここまでできちゃうと修正するのも大変なので、一旦この件は保留にして、ある程度話しがまとまってから修正したいと考えていますので何卒よろしくお願いいたします。
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