Unoffici@l Glory
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1st season
6th night
前書き
深刻なネタ切れ←
ある日の昼下がり。ショルダーバッグを斜め掛けにした一人の青年が、「ゴシップハンター」の営むショップを訪れた。彼はオーナーである「ゴシップハンター」と話し込む。
「Dの遺産……確かによく聞く噂です。こっちとしてもまぁ、興味本位で調べてはいますが、まだ姿も見せてないという以上、何もわからないというのが現状出せる答えですね」
「……そうですか」
「亡くなられたご友人のこともある以上、気になるのはわかります。ですがその上で個人的に言わせて頂くと、モータースポーツに手を出すつもりがないなら、あまりこの件には首を突っ込まないほうがいいと思いますよ」
「……ご忠告、どうも。また来ます」
「ええ、またお願いします」
情報が得られなかった青年は、静かにショップを後にする。彼の友人は「Dの遺産」を求めて次々と帰らぬ人となった。そのほとんどが首都高の上での自損事故であり、出会うためにスピードを求めた結果と言われている。
「どいつもこいつも、何も知りやしない……俺が、車に乗るしかないのか……?」
しかし、彼は車で亡くなった友人達を何人も見送っている。それゆえに彼自身は決して、モータースポーツに関わることはしないと、見送った式にて誓いを立てている。
「いや、それだけはダメだ……俺は、あの世界には踏み込まない」
その誓いを破るときが来るのか、それは彼のみぞ知る。
その青年を見送った「ゴシップハンター」は、休憩コーナーで一服していた。
「若いねぇ……彼も」
「さっきのお客さんですか?」
「ああ、そうだな」
その隣には、経理を担当している青年が座っている。
「私には……わからない世界です」
「ならこれだけは覚えておけ。モータースポーツに関していえば、死はいつだって隣にいる。特に『ここ』みてぇな、いつ何が起こるかわかりゃしねぇところじゃな」
「そんな世界になんでいるのか……働いてる私ですが、理解ができません」
「そりゃそうだろうな。お前さんが向き合ってるのは客じゃねぇ、仕事だ」
「それは……」
「ただ書類の山とパソコンとにらめっこして数字とケンカしてるだけじゃ、何もわかりゃしねぇよ」
「……確かに、そうでしょうね」
暗い顔を落とす彼だが、「ゴシップハンター」はカラカラと笑い飛ばす。
「なぁに、事務員とか受付なんてぇのは、そういう奴の方がいい。金の話は、ドライな人間の方が向いてる。現場で客と一緒にバカになるなんてのは技術屋の仕事だ」
「……」
「矢面に立つのは俺たちの仕事だ。金の管理はそれが得意な奴に金払って任せる」
その夜。以前横羽線で「若き老兵」に敗北を喫した赤き跳馬F40は、空港中央から湾岸線を上っているところであった。みなとみらいエリアで使いきれなかった溢れるほどのパワーをいかんなく発揮し、エンジンが甲高い叫び声をあげる。
「あの35R、今度見かけたら必ず叩き落してやるからな……ん?」
しかし、鼻息荒く飛ばす男の後ろから、黄色い稲妻が襲い掛かる。新進気鋭のショップ、「ガレージ・フェイト」が手を入れたR8 FSIだ。
「丁度いい。こいつを食い散らして景気付けといくか!」
F40はアクセルをさらに踏み込み、最高速勝負に持ち込んだ。急激なトルクに耐え切れず、暴れるマシンを抑え込む。
「ふーん……車はそれなりにやってるみたいだね。だけど……」
R8のドライバーであり、「ガレージ・フェイト」の社長でもある「金色の不死鳥」は、F40からつかず離れずの距離にいつつ、何かを仕掛ける様子もなく、ただ観察するかのように静かに追い回す。
「そんな骨董品を走らせてあの『D』に挑むには、ちょっと走りが荒すぎるんじゃないかな……っとお兄さん思うんだけどねぇ」
しかし、展開そのものは静かとは言えど、スピード領域は疑うことなくトップギア高回転、280キロ台での最高速バトル。一般車を避けていく中で、F40の挙動がユラユラとブレはじめる。
「まぁ安心しな。決してアンタが下手なわけじゃないさ。そんな車をこんな領域でちゃんと走らせれるだけたいしたもんだ。ただまぁ……」
その様子を見た不死鳥は、パスするためにラインを変え、さらにアクセルを踏みつける。エンジンが甲高い遠吠えを上げ、揺らめくF40の前に空気の壁すらないかのようにスルスルと出ていった。
「……相手と運が悪かったんだよ、アンタは」
既に300キロを超えていながら、なおも圧倒的な加速力の差を見せ付ける。R8のバックミラーからF40の姿が見る見るうちに消えていった。その彼こそが、現在湾岸線最速と謡われる存在である。
「最高速の世界は甘くないってことさ。出てこい……『Dの遺産』……」
同じ時間帯。C1内回りをロータスエリーゼSCが走りこんでいる。「ゴシップハンター」のショップに出入りしている青年だ。
「この車じゃあ、あの最高速エリアは無理だ……あのオッサン、ここで誰に勝てって言ってたっけ……?」
江戸橋を過ぎた所、その遥か後ろから、ものすごい勢いで一台の車が青年を追い越していった。
「うっそだろ……なんだよ今の……っ!?」
呆気にとられている彼をもう一台の車が追い越していく。バトルの最中といったところか。
「こっちなんて見てねぇってわけか……せめてその面だけでも拝ませてもらおうか!」
青年もさらにペースを上げ、二台の後ろに張り付く。その二台は、いつぞやのバトルで決着のつかなかったインプレッサ22BとランエボⅤだった。
「野郎、ここで会ったが100年目ってなぁ!」
一瞬ひるんだ青年だったが、ギアを上げて気合を入れなおす。距離が開かないうちに、進入からクリアまでの速度差が一番少ないメリットを生かし、二台とのバトルに持ち込む。
「C1(ココ)でやるってんなら、俺も混ぜてもらおうか!あの時ズルズル引っ張っちまったが、今日はきっちりケリつけさせてもらうぜ!」
エボⅤとインプはいつも通り二台でC1に繰り出し、一周して流れを確認した二台がペースを上げていくと、すぐに後ろからエリーゼSCが襲い掛かって来た。
「いつぞやのエリーゼか……あの時は結局ガス欠寸前までもつれ込んだからな。今度こそ決めておさらばだ!」
しかし、どれだけ速く振り切ろうと少しでもアクセルを長く開けても、高速区間がほとんど存在しないC1においては、車体の軽さを武器に高いコーナリングスピードを維持しながら走れるエリーゼを完全に振り切ることはほぼ不可能。必然として三つ巴のバトルとなる。
「……このままじゃジリ貧ってわけか、仕方ねぇ!」
赤坂ストレートでも振り切れず、先行していたエボⅤの青年が芝公園から外側にラインを振る。芝浦から横羽線に入るルートだ。
「ここから先はスピードレンジが上がるぜ……ついてこれっか!?」
横羽線は湾岸線ほどではないとはいえ高速区間。しかし、スピードが上がった車に襲い掛かるバンピーな路面と、幾度となく待ち受ける細かいコーナーが主体となる。青年の乗るエリーゼのような旋回性能の高いミッドシップマシンからすると、予期せぬタイミングで姿勢を崩され、スピンを誘発しかねない。しかし彼は、そんなことなど気にせず同じスピードで飛び込んでいく。
「上等じゃねぇか……こいつで行けるところまで行ってやるさ!」
彼のエリーゼは、「ゴシップハンター」の手により、C1で速く走れて安定するセッティングに変更されている。彼はとある雑誌に載せられていた、ストリート仕様のMR-Sを参考にしたとのこと。その雑誌の企画では、タイムにおいては加速力に勝るハイパワー4WDマシンを圧倒していた。
「いずれ、もっととんでもねぇバケモンに乗らなきゃ、Dには近づけない。ならこれくらいのスピードレンジで引いちゃいられねぇ!」
ギアを上げ、マシンに鞭を打つ。その体に遅い来る、圧倒的な横の揺さぶりに耐えながら。
しばらくもつれ込み、ポジションを入れ替えながらも決着をつけきれないまま羽田トンネルを超えると、三台とも追い越した覚えのない車が追い付いてきた。
「なんだ……?」
最後尾にいたエリーゼの青年が気付いた時には、既に迫りくる赤い影。つい先ほど、湾岸線でアウディR8に置いて行かれたF40だ。
「うっそだろ……このペースについてくるか!?」
F40はもはやなりふり構わずエリーゼに襲い掛かる。4台が絡むバトルロイヤルへと変わっていく。
「その車はクラス違いだと思うんだがな……ただ、この荒れたエリアでその車、踏めるのか?」
そして、絡まれたことを前に知らせるべく、パッシングをする。それに気づいた二台は、自然とさらにペースを上げていく。
「うっそだろ!?4WDって、ここからさらに踏めるのかよ……」
わずかに遅れだすエリーゼの青年は、暴れるマシンを抑えきれず、ペースを落としてF40に譲る。
「……やっぱ、230km以上のバトルは、こいつじゃ無理か……」
その青年の表情は、悔しさのあまり歪んでいた。
後書き
お待たせしました←
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